めまいとは──
種類ごとの診断基準と、体質から整えるアプローチ
めまいは、原因によって治療の方法が大きく異なる症状です。検査で異常が見つからないと言われても、つらさが続いている方は少なくありません。
このページでは、診断基準・発症の仕組み・現在の治療とその限界を整理したうえで、中医学の見方と、漢方・鍼灸でできるサポートを説明します。
最終更新日:2026年11月3日
めまいの理解と、体質へのアプローチ
めまいとは何か
めまいは症状の名前であり、病名ではありません。国際的な前庭症状の分類は、自分や周囲が動く感覚がある回転性めまい(vertigo)と、動く感覚はなく、体の向きや安定がつかみにくい浮動性めまい・ふらつき(dizziness)などに分けています(Bárány Society、2009年)。立ちくらみも、起立時に起こるめまいとして扱われます。
めまいは、原因によって治療が大きく異なります。そのため、まず「どのタイプのめまいか」を、持続時間・きっかけ・随伴症状から見分けることが診断の出発点になります。
ドイツの一般住民調査(成人4,869人)では、過去1年間にめまいを経験した人は22.9%、内耳・前庭に由来するめまいは4.9%でした(Neuhauser ら、Arch Intern Med 2008)。前庭由来のめまいでは、41%が病欠をとり、40%が日常活動を中断していました(同研究)。女性は男性の約2〜3倍、高齢者は若年者の約3倍多いとされます(Neuhauser & Lempert、Semin Neurol 2009)。
主な原因疾患と診断基準
めまいの原因は多岐にわたります。代表的な疾患の診断基準の要点を整理します。
| 疾患 | 診断の要点 | 特徴 |
|---|---|---|
| 良性発作性頭位めまい症(BPPV) | 特定の頭の位置(寝返り・起床・上を向く)で誘発される回転性または動揺性のめまいが、通常1分以内に治まる。頭位変換眼振検査(Dix-Hallpike法など)で特徴的な眼振を確認する(Bárány Society 2015/日本めまい平衡医学会 2017/AAO-HNSF 2017) | 末梢性めまいで最も頻度が高い。成人の生涯有病率は2.4%(von Brevern ら、JNNP 2007) |
| メニエール病 | 誘因なくめまい発作を反復(10分程度〜数時間)、発作に伴い難聴・耳鳴・耳閉感が変動、聴力検査で感音難聴を確認。造影MRIで内リンパ水腫を認めれば確定診断例(日本めまい平衡医学会 2017)。国際基準(Bárány 2015)は発作20分〜12時間 | 内リンパ水腫が病態とされる。ストレス・過労・睡眠不足が発作に影響する |
| 前庭性片頭痛 | 5分〜72時間続くめまい発作が5回以上、片頭痛の現在または既往、発作の50%以上で片頭痛の特徴(頭痛・光や音への過敏・視覚性前兆)があり、他の疾患で説明できない(Bárány Society/国際頭痛学会 2012、2022年改訂) | 一般人口の1〜3%と推計(Vasireddy ら、BMC Neurol 2025)。頭痛がないこともある |
| 持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD) | めまい・不安定感・非回転性のめまいがほぼ毎日3か月以上続き、立位・動き・視覚刺激で悪化する。内耳疾患や心理的ストレスなどがきっかけになる(Bárány Society 2017) | ICD-11に収載された慢性の機能性めまい。検査で異常が出にくい |
| 中枢・循環器など | 脳梗塞・脳出血・不整脈・起立性低血圧・貧血・薬剤など。救急外来のめまいの4〜6%が脳血管障害とされる(Newman-Toker ら、Acad Emerg Med 2013) | 立ちくらみ中心なら起立性調節障害の可能性も |
症状と、すぐに受診が必要なめまい
回転性めまいには、吐き気・嘔吐・冷や汗を伴うことが多くあります。ほかに、耳鳴・難聴・耳閉感(メニエール病など)、頭痛・光や音への過敏(前庭性片頭痛)、ふらつき・不安・睡眠の乱れ(PPPDなど)、動悸や立ちくらみ(循環の問題)が組み合わさります。
突然の激しい頭痛/ろれつが回らない・物が二重に見える・顔や手足のしびれや麻痺/立てない・歩けない/意識が遠のく・胸の痛み/突然の聴力低下。
これらがない場合も、初めてのめまいは、耳鼻咽喉科または神経内科で原因を確認してください。
発症のメカニズム
平衡感覚は、内耳(前庭)・視覚・足裏や関節の感覚を、脳幹と小脳が統合して保たれています。これらの情報が食い違うとめまいが生じます。
- BPPV:内耳の耳石が半規管に入り込み、頭の位置が変わると内リンパが動いて誘発される。
- メニエール病:内耳の内リンパが増える内リンパ水腫が病態とされ、造影MRIで確認できる場合がある。
- 前庭性片頭痛:片頭痛に関連する神経の過敏性が関わる。CGRPが前庭核の感作に関与する可能性が、動物モデルで報告されている。
- PPPD:前庭情報より視覚・体性感覚を優先する情報処理の偏りが考えられている。急性のめまいや不安がきっかけになる。
現在の治療とその限界
| 疾患 | 標準的な治療 | 限界・課題 |
|---|---|---|
| BPPV | 耳石置換法(Epley法など)が強く推奨され、前庭抑制薬は推奨されない(AAO-HNSF 2017/日本めまい平衡医学会 BPPV診療ガイドライン 2023年版) | 自然に軽快する例もある(3か月で最大約半数)一方、再発は約1割〜約半数と報告に幅がある。高血圧・高血糖・片頭痛・不安・血中ビタミンD値との関連が報告されている(Pan ら、Front Neurol 2025) |
| メニエール病 | 発作期は安静・制吐薬・抗不安薬、間欠期は生活指導・浸透圧利尿薬・抗めまい薬・内耳循環改善薬・ビタミンB12・漢方薬。難治例は中耳加圧治療(2018年保険適用)や外科治療 | ベタヒスチンは長期試験(BEMED、221人・9か月)で発作回数がプラセボと差なし。全群で発作は減少し、自然経過とプラセボ反応の影響が大きい(Adrion ら、BMJ 2016) |
| 前庭性片頭痛 | 片頭痛予防薬(プロプラノロール・バルプロ酸・ベンラファキシン・フルナリジン、CGRP抗体など) | 2025年のネットワークメタ解析(RCT 5件・419人)では全薬剤が発作を減らしたが、確実性は多くが低〜非常に低。プラセボ反応も30〜48%と大きい(Vasireddy ら、BMC Neurol 2025) |
| PPPD | 前庭リハビリ・認知行動療法・SSRI | 2025年のメタ解析(RCT 22件・1,764人)でSSRIと前庭リハビリの併用が有利だったが、認知行動療法などは確実性が不明。標準治療は確立の途上(Zheng ら、Front Psychiatry 2025) |
| 一側の前庭障害全般 | 前庭リハビリテーション | RCT 39件・2,441人の検討で、安全で有効との中等度〜強いエビデンス(Cochrane、McDonnell & Hillier 2015) |
薬だけでは届きにくい部分:薬は発作や症状を抑える役割が中心です。睡眠・ストレス・過労といった、発作に影響する要因や、体質面までを調整する手段は限られます。また、診断名が同じでも経過や反応に個人差が大きく、再発や慢性化への不安が残る方が少なくありません。
中医学からのめまい(眩暈)の分析
中医学ではめまいを「眩暈(げんうん)」と呼びます。古典『素問』には「諸風掉眩、皆属於肝」とあり、後世には「無風不作眩・無痰不作眩・無虚不作眩」(風・痰・虚が要点)と伝えられてきました。脈診・舌診・腹診・問診で体質(証)を見立て、処方や鍼灸の方針を決めます。
痰濁中阻・水滞
頭が重い、吐き気、胃腸が弱い、むくみ、天候で悪化する。
半夏白朮天麻湯・苓桂朮甘湯・五苓散・沢瀉湯など。水滞という見方は、内リンパ水腫を病態とするメニエール病の理解と通じる面があると、学会誌でも紹介されています。
気血両虚
動くと悪化する、疲れで誘発される、顔色が白い、動悸・不眠を伴う。
補中益気湯・帰脾湯・十全大補湯など。
肝陽上亢・肝風
頭痛、いらだち、耳鳴、肩こり。ストレスで悪化する(片頭痛を伴う型に多い)。
釣藤散(中年以降の慢性的な頭痛・肩こり・めまいに用いられる)・抑肝散・呉茱萸湯など。
腎精不足
耳鳴、腰や膝のだるさ、物忘れ。加齢とともに現れやすいと捉える。
八味地黄丸・六味丸など。
処方は上記の例に限らず、体質・症状・服薬状況により個別に決めます。
鍼灸では、百会・風池・完骨・翳風・内関・足三里・豊隆・太衝・三陰交などを、体質と症状に合わせて選び、頸肩部の緊張にも対応します。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
漢方
- メニエール病164人の後方視的解析で、五苓散を用いた群はめまい回数が2・6・12か月で減少しました。聴力は変化せず、プラセボ対照試験が必要とされています(Koda、Cureus 2025)。
- BPPVの48人で、苓桂朮甘湯をBrandt-Daroff法に併用したところ、眼振の消失時間には差がなく、自覚症状と治療の継続率が高まりました(Goto ら、Cureus 2025)。
- PPPDに対する半夏白朮天麻湯は、補助療法として有効性が示唆されました(後方視的パイロット研究)(Miwa & Kanemaru、World J Clin Cases 2022)。
鍼灸
- メニエール病を対象とした6件のRCTのメタ解析で、めまい・耳鳴・耳閉感・難聴の改善が示唆されました。試験数は限られます(Tang & Chen、Front Med 2024)。
- 頸性めまいでは、66件のRCT(5,797人)のネットワークメタ解析で、電気鍼と手技の併用などが良好な順位でした。ただしDHI(めまいの障害度)の根拠は乏しいとされています(Front Neurol 2026)。鍼灸と西洋薬の併用を7件のRCT(714人)で検討したメタ解析もあります(Syst Rev 2025)。
- 前庭性片頭痛に対する鍼のRCT(ベンラファキシン対照)の研究計画が公表されています(Front Neurol 2021)。
回復の見通しと、タナココのサポート
めまいの経過は疾患ごとに異なりますが、改善を示すデータがあります。
- BPPV:耳石置換法が強く推奨されている治療で、自然に軽快する例もあります。
- メニエール病:510人の追跡で、発作の頻度は経過とともに減り、多くが発作のない時期に至りました。1年間発作がなかった人の約70%は、翌年も発作がありませんでした(Perez-Garrigues ら、2008)。
- 前庭機能の低下:前庭リハビリで症状と機能の改善が期待できます。
- 前庭性片頭痛・PPPD:予防薬、リハビリ、心理療法の組み合わせで改善する報告があります。
漢方:弁証に基づき、半夏白朮天麻湯・苓桂朮甘湯・五苓散・釣藤散・補中益気湯・帰脾湯などから選びます。薬剤師が、現在の処方薬との重なりを確認します(甘草を含む処方では、血圧や血清カリウム値に留意が必要です)。
鍼灸:細い鍼を使い、お体の反応を確認しながら進めます。鍼灸が初めての方、お子さまも、まずご相談ください。
タナココでは、医療機関での診断と治療を前提に、それと並行する形で漢方・鍼灸を考えます。回復には、診断・治療・生活の調整・体質面のサポートの積み重ねが必要です。そのうち体質面については、体質の偏りを見極め、改善に向けてできることを最後まで尽くします。経過を定期的に確認し、変化に合わせて処方と施術を調整し続けます。
