純粋自律神経不全症(PAF)と漢方・鍼灸

純粋自律神経不全症(純粋型自律神経不全症・PAF)とは|診断・症状・最新研究と漢方・鍼灸によるサポート|相模原 タナココ
純粋自律神経不全症・PAF × 漢方・鍼灸 / 相模原 タナココ

純粋自律神経不全症(PAF)とは──
診断・最新研究と、体質から支えるアプローチ

立ち上がるたびにふらつく。失神しそうで外出が不安になる。検査を受けても原因がはっきりしない。そのような状態が続いていないでしょうか。

純粋自律神経不全症(純粋型自律神経不全症とも表記されます)はまれな病気ですが、症状の出方を丁寧に確認し、生活・薬・体質面のサポートを組み合わせることで、日々の過ごしやすさを広げていくことができます。

西洋医学の診断と治療を土台に、漢方・鍼灸でできる限りのことをお手伝いします。

最終更新日:2026年11月7日

純粋自律神経不全症(PAF)の理解と体質へのアプローチ

この記事の要点

PAFとは:脳や脊髄の症状を伴わず、末梢の自律神経が障害される、まれな成人発症の疾患です。主な症状は起立性低血圧です。

経過:一部の方は、のちにパーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症へ移行します(2026年のメタ解析で約30%)。PAFの状態が長く続く方もいます。

治療:根治療法は確立されておらず、生活指導と薬で症状を和らげます。

漢方・鍼灸:PAFを対象とした臨床試験は確認できていません。現在の治療を土台に、体質面を補完的に支えます。

1

純粋自律神経不全症(PAF)とは何か

純粋自律神経不全症(Pure Autonomic Failure、以下PAF)は、脳や脊髄の症状を伴わずに、末梢の自律神経が障害される成人発症の疾患です。かつては特発性起立性低血圧やブラッドベリー・エッグルストン症候群と呼ばれていました。主な症状は、立ち上がったときに血圧が下がる起立性低血圧です(MSDマニュアル プロフェッショナル版)。

PAFは、α-シヌクレインというたんぱく質が神経に蓄積する「シヌクレイノパチー」の一つで、パーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症(MSA)と同じ仲間です。PAFでは障害が末梢の自律神経(節後ニューロン)にとどまり、MSAのような脳の病変を伴わない点が異なります。

「純粋」と診断するための目安:

発症初期の自律神経障害だけでは、のちにパーキンソン病やMSAなどが明らかになる場合と区別できません。このため、運動症状や認知症状を伴わない状態が5年程度続くことが、PAFと診断する目安とされています(Baschieri ら、Frontiers in Neurology 2017)。
2

診断の考え方と検査

PAFの診断は、他の原因を除外しながら進めます。起立性低血圧は、立位または60度以上のヘッドアップティルトから3分以内に、収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下することと定義されています(Freeman ら、Clinical Autonomic Research 2011 コンセンサス声明)。薬剤性・脱水・心疾患・内分泌疾患・糖尿病性神経障害などを確認したうえで、自律神経機能検査で神経原性かどうかを判断します。

PAFの診断で確認する要件

① 神経原性の起立性低血圧があること(上記の定義を満たし、心拍数の増加が乏しい)。
② 薬剤性・脱水・心疾患・糖尿病性神経障害・免疫性自律神経ニューロパチーなど、他の原因が除外されていること。
③ パーキンソン症状・小脳症状・認知機能障害など、中枢神経の症状がないこと。
④ ③の状態が5年程度続いていること(Baschieri ら、Frontiers in Neurology 2017)。
⑤ 支持する検査所見:血漿ノルアドレナリン低値、MIBG心筋シンチグラフィの集積低下、皮膚生検でのリン酸化α-シヌクレイン検出。

これらを組み合わせて、神経内科などで総合的に判断します。

検査わかること
起立試験・ヘッドアップティルト血圧の下がり方と、心拍数が増えるかどうか。神経原性では心拍数の増加が乏しいことが多い
血漿ノルアドレナリンPAFでは臥位で100pg/mL未満となり、立位でも上昇しにくい(MSDマニュアル)
MIBG心筋シンチグラフィ心臓の交感神経の障害を評価する。パーキンソン病やPAFでは集積が低下し、MSAでは保たれることが多い(Orimo ら、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002)
皮膚生検(リン酸化α-シヌクレイン)JAMA 2024のSyn-One研究では、PAFと臨床診断された22例すべてで検出された(対照群は3.3%)。PAFの症例数は少なく、診断への応用には今後の検証が必要です。日本での実施状況は医療機関にご確認ください(Gibbons ら、JAMA 2024)

初期の診断が難しいため、経過中に神経内科で定期的に診察を受け、運動症状・認知症状・睡眠中の異常行動(レム睡眠行動障害)の有無を確認することが大切です。

3

症状

血圧に関する症状

立ちくらみ、めまい、目の前が暗くなる、失神。食後・朝方・暑い環境で強まりやすい。横になると血圧が高くなる臥位高血圧を伴うことがある。

その他の自律神経症状

発汗の低下と暑さに弱い、便秘、排尿のしづらさや尿失禁、男性の勃起障害、口や目の乾燥、瞳孔の異常。

睡眠・日常生活

レム睡眠行動障害がみられることがある。転倒への不安から活動量が減り、体力低下や外出の制限につながることがある。

4

頻度と経過(最新研究)

PAFは非常にまれな疾患で、正確な患者数は分かっていません。2026年のJAMA Neurologyのメタ解析(9つの研究、900例)では、発症時の平均年齢は63.1歳、男性が63.8%でした(Virameteekul ら、JAMA Neurology 2026)。

研究結果
Kaufmann ら(Annals of Neurology 2017)米国の前向き研究。74例を追跡し、4年以内に34%が他のシヌクレイノパチーへ移行(レビー小体型認知症13例・パーキンソン病6例・MSA6例)
Koay ら(Annals of Clinical and Translational Neurology 2025)194例のうち、最終評価で74%がPAFのまま、26%が移行(レビー小体病32例・MSA18例)
Virameteekul ら(JAMA Neurology 2026)900例のメタ解析。移行は100人年あたり5.09例(年約5%)で、約30%が平均6.4年の間に中枢のシヌクレイノパチーへ。レム睡眠行動障害と軽微な運動症状が予測因子。MSAへの移行は早期に多い
Mabuchi ら(名古屋大学、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2005)PAF 8例とMSA 22例を7年以上追跡。PAFはMSAに比べて機能低下が緩やかで、予後が良好(少数例の研究)

移行するかどうかには個人差があり、PAFの状態が長く続く方もいます。近年は、瞳孔検査・血漿ノルアドレナリン・皮膚の検査などの組み合わせで、移行しやすさを見分ける研究が進んでいます。

5

発症のメカニズム

立ち上がると、血液が下半身に移動します。健康な状態では、交感神経の末端からノルアドレナリンが放出されて血管が縮み、血圧が保たれます。PAFでは、α-シヌクレインの蓄積によって末梢の交感神経(節後ニューロン)が減少し、ノルアドレナリンの放出が不足します。その結果、立位で血管が十分に縮まず、脳への血流が不足して立ちくらみや失神が生じます(American Journal of Hypertension 2021 の総説)。

同じ仕組みで、横になっているときは血圧が下がりにくく、臥位高血圧が生じることもあります。起立性低血圧と臥位高血圧の両方に配慮が必要になる点が、治療を難しくする理由です。

6

現在の治療とその限界

治療は症状を和らげる対症療法が中心です。目標は、立っていても正常血圧を保つことではなく、立位時の症状を減らし、立っていられる時間と日常動作を広げることとされています(Figueroa ら、Cleveland Clinic Journal of Medicine 2010)。

非薬物療法

  • 水分・塩分の摂取増加(量は主治医と相談)。約480mLの水を5分以内に飲むと血圧が一時的に上がることが示されており、立ち上がる前や食後の対策として用いられる(Jordan ら、Circulation 2000/Shannon ら、American Journal of Medicine 2002)
  • 腹帯・弾性ストッキングによる下半身への血液貯留の予防
  • ベッドの頭側を約10cm挙上して就寝(夜間多尿と臥位高血圧の軽減)(MSDマニュアル)
  • ゆっくりした起立、食事の少量分割、暑熱環境や飲酒の回避

薬物療法

薬剤特徴・注意
ミドドリン(メトリジン)日本の適応は本態性低血圧・起立性低血圧。添付文書には臥位血圧の上昇に注意する旨があり、臥位高血圧が続く場合は中止する
ドロキシドパ(ドプス)日本の適応は、パーキンソン病のすくみ足・立ちくらみ、シャイ・ドレーガー症候群・家族性アミロイドポリニューロパチーの起立性低血圧など。PAFは病名として含まれていない
フルドロコルチゾン体液量を増やす目的で、ときに用いられる。臥位高血圧や電解質に注意
治療の限界:

起立時の血圧を上げる治療は、臥位高血圧を強めやすいという難しさがあります。新薬の開発も続いていますが、PAF・MSA・パーキンソン病を対象にした第3相REDWOOD試験は全体として主要評価項目に届かず、MSAを対象としたCYPRESS試験も2026年に主要評価項目を達成しませんでした(Theravance Biopharma 発表)。根治を目指せる治療は、現時点では確立されていません。
7

西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較

両者は対立するものではなく、役割を分けて組み合わせます。

観点西洋医学中医学
病態の捉え方末梢交感神経の障害とノルアドレナリン不足気・血・陽気の不足と水の滞りとして、全身の体質を包括的に把握
目標立位症状の軽減、失神・転倒の予防体力・消化機能・冷えなどを整え、日常生活の幅を支える
手段生活指導、昇圧薬、神経内科での経過観察弁証に基づく漢方、鍼灸、養生指導
限界根治療法がない。臥位高血圧との両立が難しいPAFを対象とした臨床試験がない。個人差が大きい
8

中医学からのPAF病態分析

中医学では、PAFのような「立つと気が遠くなる」状態を、気(エネルギー)を持ち上げる力の低下(中気下陥)や、温める力・栄養の不足、水の滞りとして捉えます。中国では、パーキンソン病に伴う起立性低血圧を「正虚・中陥・邪滞」の枠組みで弁証する名老中医の経験が報告されています(張允嶺ら、上海中医薬雑誌 2026)。中医学の用語では、正虚は体の力の不足、中陥は気が下に落ちること、邪滞は滞りを指します。脈診・舌診・腹診・問診から体質(証)を見立てます。

中気下陥(脾気虚)

消化機能が弱く、気を持ち上げる力が不足した状態。立ちくらみ、倦怠感、食欲不振、朝の動き出しにくさ。補中益気湯などを検討。

脾腎陽虚

体を温める力が低下した状態。強い冷え、むくみ、下痢傾向、頻尿。真武湯などを検討(附子を含むため血圧と体質の確認が必要)。

気血両虚

気と血がともに不足した状態。顔色が悪い、動悸、疲れやすい、息切れ。人参養栄湯・十全大補湯などを検討。

痰飲(水の滞り)

余分な水が頭や胃腸に停滞した状態。頭重感、めまい、胃のもたれ。半夏白朮天麻湯・苓桂朮甘湯・五苓散などを検討。

9

漢方・鍼灸に関する研究報告の現状

研究の現状:

PAFを対象とした漢方・鍼灸の臨床試験は、今回調べた範囲では確認できませんでした。「効く」と断定できる段階ではなく、以下は周辺領域の報告です。

起立性低血圧に対する漢方

日本東洋医学雑誌には、遷延する起立性低血圧を呈した急性自律神経ニューロパチーの1例で、苓桂朮甘湯の投与により末梢血管抵抗が上昇して血圧が上がったとする報告(1994年)や、片頭痛・心臓神経症・うっ血性心不全・透析時低血圧を伴う起立性低血圧の4例でも末梢血管抵抗の上昇が確認され、先行する末梢自律神経障害の1例と合わせて、血管収縮を介した作用が示唆された報告(1999年)があります。いずれも少数例の報告で、効果を確立するものではありません。糖尿病に伴う起立性低血圧に対しては、五苓散のプラセボ対照クロスオーバー試験(10例、Nakamura ら 2000年)があり、立位での血圧低下が小さく、めまいの訴えも少なかったとされています(Takayama ら、Frontiers in Nutrition 2020 の総説)。

鍼灸と自律神経症状

パーキンソン病に伴う自律神経症状への鍼灸については、2024年にMedical Acupunctureに総説(Gao ら)が出ています。慢性の重度機能性便秘では、電気鍼の大規模ランダム化比較試験(1,075例)で排便回数の増加が示されました(Liu ら、Annals of Internal Medicine 2016)。これはPAFに伴う便秘そのものを対象とした試験ではありません。

10

タナココにおける漢方・鍼灸のサポート

漢方薬による体質面のサポート

気・血・陽気の土台を整え、消化機能・冷え・疲労感など、日常生活の質に関わる部分を支えることを目的に、弁証に基づいて処方を選びます。

補中益気湯:気を補い持ち上げる処方。倦怠感・胃腸の弱さが目立つ場合に。
半夏白朮天麻湯:胃腸が弱く、めまいや頭重感がある場合に。
苓桂朮甘湯:立ちくらみ・動悸と水の滞りがある場合に。
真武湯:冷えとむくみが強い場合に。

甘草を含む処方や麻黄・附子を含む処方は、血圧・電解質への影響があり、臥位高血圧がある方では特に慎重な判断が必要です。薬剤師が現在の処方薬との相互作用を確認し、主治医の診療内容に合わせて選びます。

鍼灸による自律神経・循環面のサポート

百会(頭部)、足三里(脚)、関元・気海(下腹部)、三陰交(脚)、内関(前腕)などを、体質と症状に合わせて選びます。起立性低血圧のある方には、施術前後の姿勢変化に注意し、起き上がりはゆっくり、必要に応じて介助しながら進めます。臥位高血圧がある場合は、体位にも配慮します。

タナココは、神経内科などで受けている診断・治療を土台に、それを補う形で漢方・鍼灸を考えます。お薬手帳や検査結果をお持ちいただければ、内容を確認したうえでご提案します。

11

よくある質問(FAQ)

Q純粋自律神経不全症(PAF)は治りますか?
PAFは神経細胞の変性を背景とする進行性の疾患で、現時点で根治を目指せる治療は確立されていません。一方で、立ちくらみ・失神などの症状は、生活の工夫と薬で軽くできることが多く、経過も人によって大きく異なります。日本の少数例(8例)の追跡研究では、PAFの経過は多系統萎縮症より緩やかとされています。漢方・鍼灸は、これらの治療を補う体質面のサポートとして取り入れることができます。
QPAFと多系統萎縮症(MSA)は何が違いますか?
PAFは主に末梢の自律神経(節後ニューロン)が障害され、脳や脊髄の症状を伴いません。MSAは脳の病変を伴い、パーキンソン症状や小脳失調が加わります。発症初期は区別が難しく、PAFと診断された方の一部は経過中にMSAなどへ移行するため、定期的な神経内科の診察が重要です。
QPAFに漢方・鍼灸は有効ですか?
PAFを対象とした漢方・鍼灸の臨床試験は確認できておらず、有効と断定できる段階ではありません。自律神経ニューロパチーによる起立性低血圧に苓桂朮甘湯を用いた症例報告などがあり、体質に合わせた補完的な選択肢として検討されています。現在の治療を続けたまま、主治医と情報を共有して併用します。
Q昇圧薬を使っていますが、漢方と併用できますか?
併用できる場合が多いですが、甘草・麻黄・附子を含む処方は血圧や電解質に影響し、臥位高血圧を悪化させる可能性があります。薬剤師が処方内容を確認したうえで、主治医と連携して選択します。昇圧薬の自己判断での中止はおすすめしません。
Qどの診療科を受診すればよいですか?
立ちくらみや失神が続く場合は、まず神経内科・循環器内科・自律神経外来などで、起立試験などの検査と、薬剤性や脱水など他の原因の確認を受けてください。漢方・鍼灸のご相談は、その診断と並行して可能です。
ご注意:このページは一般的な情報提供を目的としており、診断や治療に代わるものではありません。立ちくらみや失神が続く場合は、医療機関を受診してください。

純粋自律神経不全症──できることを、一つずつ積み重ねていきます

立ちくらみや失神への不安、外出や家事の制限、この先の経過への心配。PAFは、ご本人にもご家族にも大きな負担がかかる病気です。

根治を目指せる治療がまだない病気だからこそ、症状を軽くすること、安全に動ける場面を増やすこと、体力と消化機能を保つことに、できる限りの手を尽くしたいと考えています。薬剤師・鍼灸師・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、お一人おひとりに合った方法を探します。

まずは現在の症状と治療の状況をお聞かせください。変えられる点がないか、最後まで一緒に探し、取り組みます。

〒252-0244 神奈川県相模原市中央区田名2126-1

TEL: 042-813-3444 受付 9:00〜19:00(火〜土)