子宮腺筋症とは──
診断・治療の現状と、体質から整える漢方・鍼灸のアプローチ
「毎月の生理痛が、年々強くなっている」「経血量が増え、貧血や疲れが続いている」「子宮腺筋症と言われたが、この先どうなるのか分からない」。
子宮腺筋症は、子宮の筋層に子宮内膜に似た組織が入り込み、子宮が厚く大きくなる病気です。強い月経痛や経血量の増加は、病気の仕組みから説明できる症状であり、我慢が足りないために起こるものではありません。
西洋医学の診断と治療を土台に、血の滞り・冷え・気血の不足といった体質面を、漢方・鍼灸で整えるアプローチを、タナココは一人ひとりの状態に合わせて提案します。症状が軽くなり、毎月の生活を取り戻せるよう、最後まで責任を持って取り組みます。
最終更新日:2026年11月3日
子宮腺筋症の理解と体質へのアプローチ
子宮腺筋症とは何か
子宮腺筋症(Adenomyosis)は、子宮内膜に似た組織(内膜の腺組織と間質)が子宮の筋層の中に入り込み、周囲の筋層が厚くなることで、子宮が大きく硬くなる良性の疾患です。病変が子宮の一部に限られる「限局型」(腺筋腫と呼ばれることもあります)と、子宮全体に広がる「びまん型」があります。
子宮内膜症と同じように、エストロゲン(女性ホルモン)の影響を受けて進行します。月経のたびに症状が強くなる経過をたどる方が多く、30〜40歳代で診断されることが多い病気です。画像検査の進歩により、より若い年代でも見つかるようになっています(Vannuccini と Petraglia、F1000Research、2019年)。
症状の強さは、病変の大きさと必ずしも一致しません。また、子宮腺筋症のある方の約3人に1人は症状がないとされています(同報告)。一方で、強い月経痛や経血量の増加が長く続いても、「生理痛は誰にでもある」「年齢のせい」と受け止められ、病気として評価されないまま過ごしている方もいます。子宮腺筋症は、国際産婦人科連合(FIGO)の異常子宮出血の原因分類(PALM-COEIN)でも原因の一つとして独立して位置づけられており、近年は「見過ごされやすい、異常子宮出血と骨盤痛の原因」として再認識されています(EBioMedicine、2025年)。
| 疾患 | 病変のある場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 子宮腺筋症 | 子宮の筋層の中 | 内膜に似た組織が筋層に入り込み、境界のはっきりしない筋層の肥厚をつくる。強い月経痛・過多月経が目立つ |
| 子宮内膜症 | 卵巣・腹膜など子宮の外 | 卵巣にできると「チョコレート嚢胞」と呼ばれる。月経痛・慢性骨盤痛・不妊の原因になる |
| 子宮筋腫 | 子宮の筋層(筋肉の良性腫瘍) | 境界が比較的はっきりした腫瘤。過多月経や圧迫症状の原因になる |
子宮腺筋症は子宮筋腫や子宮内膜症と併存することがあり、診察や画像検査だけでは区別しにくい場合もあります。症状が子宮腺筋症によるものか、併存する疾患によるものかを、画像検査を含めて評価することが治療方針を考えるうえで大切です。
診断基準と検査
子宮腺筋症の確定診断は、本来は摘出した子宮の病理検査(顕微鏡での確認)によります。ただし現在は、手術をせずに、問診・内診・経腟超音波検査・MRI検査を組み合わせて臨床的に診断することが一般的です。画像所見の用語や判定の整理は進んでいますが、診断基準として統一されたものはまだなく、検査者間の一致も十分ではないとされています(Vannuccini と Petraglia、2019年。MUSA所見の再現性に関する2025年の報告)。
病理診断の基準も一つではありません。内膜の腺・間質が、内膜と筋層の境界から何mm以上離れた位置にあるかで判定され、報告によって2.5mmや4mmなどが用いられています。少なくとも9種類の病理診断基準が使われてきたとされ(Upson と Missmer、Seminars in Reproductive Medicine、2020年)、有病率の報告に大きな幅が出る一因になっています。
1)問診・内診・血液検査
- 問診: 月経痛の強さと経過、経血量(ナプキンの交換間隔、血の塊の有無)、不正出血、性交痛、慢性的な骨盤の痛み、妊娠希望の有無を確認します。
- 内診: 子宮の大きさ・硬さ・圧痛・動きやすさを確認します。
- 血液検査: 貧血(ヘモグロビン、フェリチンなど)を評価します。CA125が参考として測定されることがありますが、子宮腺筋症に特異的な検査ではありません。
- 他の疾患との区別: 子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮体がん、子宮肉腫など、症状が似る疾患を除外する必要があります。
2)経腟超音波検査(MUSA分類)
経腟超音波検査は、最初に行われる画像検査です。2015年に国際的な専門家グループ(MUSA:Morphological Uterus Sonographic Assessment)が所見の用語を整理し(Van den Bosch ら、Ultrasound in Obstetrics & Gynecology、2015年)、2022年にHarmsenらが定義を改訂しました(Ultrasound in Obstetrics & Gynecology、2022年)。この改訂で、所見は「直接所見」と「間接所見」に分類されています。
直接所見(内膜組織が筋層内にあることを示す)
- 筋層内の嚢胞
- 高エコーの島状の病変
- 内膜直下の高エコーの線状・点状の構造(subendometrial lines and buds)
間接所見(筋層の変化を反映する)
- 球状に腫大した子宮
- 筋層の非対称な肥厚
- 扇状の音響陰影
- 病変内の血流
- 接合部ゾーンの不整・途絶
接合部ゾーンとは、子宮内膜のすぐ外側にある筋層の内層のことです。この評価には、3D超音波の使用が推奨されています。
3)MRI検査
診断の目安(T2強調像)
- 接合部ゾーンの厚さが12mmを超える(最も広く使われている基準)
- 筋層内の点状・線状の高信号(異所性の内膜組織や出血を反映)
- 境界が不明瞭な低信号の筋層肥厚(筋腫は境界が明瞭)
MRIで確認できること
- 子宮筋腫との区別
- 限局型・びまん型の範囲
- 卵巣の子宮内膜症(チョコレート嚢胞)の合併
- 悪性疾患(子宮肉腫など)との鑑別
接合部ゾーンの厚さは月経周期やホルモン環境で変動するため、数値の基準だけで判断することには注意が必要とされています(Harmsen ら、Ultrasound in Obstetrics & Gynecology、2023年)。MRIの前向き研究(Tellum ら、European Radiology、2019年)でも、12mmという基準の感度・特異度はともに50%台で、接合部ゾーンの不整や途絶のほうが診断に有用でした。2025年のナラティブレビュー(12研究)では、経腟超音波の感度・特異度は平均で約79%・約71%、MRIは約65%・約88%と報告されています(Gallo ら、Gynecology and Pelvic Medicine、2025年)。同レビューは、経腟超音波を第一選択の画像検査として位置づけています。MUSAの所見は、検査者間の一致が中等度にとどまるとの報告もあります(2025年)。このため、超音波検査で異常がないと言われても子宮腺筋症が否定されるわけではありません。症状が続く場合は、MRIを含めた再評価について主治医に相談することが勧められます。
症状:痛み・出血・妊娠・生活への影響
子宮腺筋症の症状は、月経困難症(月経痛)と過多月経が中心です。症状の程度には個人差が大きく、日常生活に支障がない方から、毎月数日間は動けない方までいます。
月経・出血に関する症状
過多月経(夜用ナプキンを昼にも使う、血の塊が出る)。月経期間の延長。不正出血。出血量が多い状態が続くことによる貧血(疲れやすさ・動悸・息切れ・立ちくらみ)。
痛みに関する症状
月経困難症(年々強くなる、鎮痛薬が効きにくい)。慢性的な骨盤の痛み・腰痛。性交痛。下腹部の圧迫感・張り。
妊娠・生活への影響
不妊、流産、妊娠中の合併症との関連。仕事・学業・家庭の予定が立てにくい。気分の落ち込みを伴うこともあります。
子宮腺筋症の病変は、閉経してエストロゲンが低下すると縮小し、月経過多や月経痛は消失することが一般的です。一方、閉経までに長い期間がある方にとって、それまで症状を我慢し続けることは現実的ではありません。症状がある間の生活の質を保つことが、治療の目的になります。
有病率と日本の現状
子宮腺筋症の正確な有病率は、診断方法によって大きく異なるため、まだ分かっていません。かつては子宮を摘出した後の病理検査でしか診断できなかったため、手術を受けた方の集団に偏った数値が中心でした。
| 対象 | 有病率の目安 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 婦人科外来を受診した女性(経腟超音波で評価) | 20.9%(985人中206人) | 症状のある女性が対象のため、一般の女性より高い可能性があります(Naftalin ら、Human Reproduction、2012年) |
| 生殖補助医療(ART)を受ける女性 | 約20〜25% | Vannuccini と Petraglia、2019年。MUSAの直接所見に限ると約1割とする報告もあり(Alson ら、Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica、2024年)、診断基準によって数値が変わります |
| 子宮摘出標本の病理診断 | 報告により約10〜60% | 病理診断基準や対象となった女性の背景によって大きく変わります(Upson と Missmer、2020年などのレビュー) |
| 子宮腺筋症のある女性全体 | 約3人に1人が無症状 | 症状がなければ、必ずしも治療は必要ありません |
日本では、晩婚化や初産年齢の上昇により、妊娠を希望する年代で子宮腺筋症と診断される方が増えており、治療方針の選択が難しくなっています。治療面では、ジエノゲストに「子宮腺筋症に伴う疼痛の改善」の効能があり、子宮腺筋症の専門外来を設ける医療機関もあります。
発症のメカニズム
子宮腺筋症の原因は完全には解明されておらず、一つの仮説だけでは説明できない、複数の仕組みが関与する疾患と考えられています。主な仮説は次のとおりです。
1)子宮内膜基底層の陥入(組織の損傷と修復:TIAR)
子宮内膜と筋層の境界は、月経時の子宮の収縮や、分娩・子宮の手術などで繰り返し負荷を受けます。この部位が傷つくと、修復の過程で局所的にエストロゲンが産生され、内膜の基底層が筋層の中へ入り込む、という考え方です(Leyendecker らが提唱)。経産、子宮の手術歴との関連が指摘されているのは、この仮説に沿うものです。なお、帝王切開との関連については、報告が一致していません。
2)化生・幹細胞
筋層の中に残ったミュラー管由来の組織や、逆流した月経血に含まれる成体幹細胞が、筋層内で内膜に似た組織へ分化するという仮説です。陥入説と化生説は、現在も主要な仮説として並び立っています(Frontiers in Cell and Developmental Biology、2025年のレビュー)。
3)ホルモン環境・上皮間葉転換・遺伝子変異
子宮腺筋症の病変では、局所でのエストロゲンの産生が高まり、プロゲステロンが働きにくい状態(プロゲステロン抵抗性)が生じているとされます。また、上皮間葉転換(EMT)と呼ばれる、細胞が移動・浸潤しやすい性質へ変化する過程が関与すると考えられています。
東京大学などの研究グループが、子宮腺筋症70人・192検体の遺伝子を解析しました(Inoue ら、Nature Communications、2019年)。26人(37.1%)でがん関連遺伝子KRASの変異が見つかり、病変が複数の細胞集団からなる「多クローン性」の疾患であることが示されました。KRAS変異は、子宮内膜症の併存、プロゲステロン受容体の発現低下と関連しており、培養細胞の実験では、変異によりジエノゲストの増殖抑制効果が弱まりました。子宮腺筋症と子宮内膜症が併存しやすい理由と、黄体ホルモン製剤が効きにくい方がいる理由の手がかりとして注目されています。
4)炎症・神経血管新生・線維化
病変の周囲では、慢性的な炎症、神経線維の増加、新しい血管の形成、組織の線維化が起こるとされ、月経痛、異常な出血、不妊といった症状の背景になると考えられています。近年は、単一細胞解析などによる細胞レベルの研究や、血管新生を抑えるアプローチのマウスでの研究(Harmsen ら、Angiogenesis、2025年)も進められていますが、いずれも治療として確立した段階ではありません。
① 内膜に似た組織が筋層内に存在する: 月経周期ごとのホルモン変化に反応して増殖します。
② 筋層内で出血・炎症が起こる: 病変の周囲に炎症や神経線維の増加が生じます。
③ 周囲の筋層が反応して厚くなる: 子宮が大きく硬くなり、子宮の収縮の仕方も変わります。
④ 痛みと出血量が増える: 月経のたびに症状が強くなり、出血量の増加により貧血を伴うことがあります。
関連する因子として、経産、子宮の手術歴・子宮内の操作、乳がん治療で用いられるタモキシフェンの使用などが挙げられています。これらは関連が指摘されている因子であり、原因が特定できるわけではありません。
現在の治療とその課題
治療は、症状(痛み・出血量)の程度、年齢、妊娠希望の有無、病変の範囲を考慮して選択します。症状がない場合は、経過観察が基本です。
薬物療法
- 鎮痛薬(NSAIDsなど): 月経痛に対する基本の治療です。痛みが強くなるにつれて、効きにくくなる方がいます。
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP): 月経困難症に用いられます。痛みには一定の効果がありますが、経血量や子宮の大きさへの効果は限定的とされます(2026年のレビュー)。まれに血栓症のリスクがあります。
- ジエノゲスト: 日本では「子宮腺筋症に伴う疼痛の改善」の効能があります。日本で行われた第3相試験(Osuga ら、Fertility and Sterility、2017年、67人、16週間)では、ジエノゲスト1日2mgでプラセボより痛みの指標が有意に低下し、長期投与の試験(Osuga ら、Journal of Obstetrics and Gynaecology Research、2017年、130人、52週間)でも痛みの改善が続きました。最も多い副作用は不正出血です。
- 子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS): 子宮内に装着し、局所でホルモンを放出して、過多月経や月経痛の軽減を図ります。
- GnRHアナログ(偽閉経療法): 卵巣の働きを一時的に抑え、子宮の縮小と症状の軽減を図ります。ほてりや骨密度の低下といった低エストロゲンの症状があり、日本の添付文書では、子宮内膜症・子宮筋腫に対する使用は6か月を超えて行わないことが原則とされています。経口のGnRH拮抗薬(レルゴリクスなど)も、子宮腺筋症で子宮容積の縮小や症状の改善を示す報告がありますが、2026年のレビューでは、根拠は2つの比較試験の事後解析と小規模な観察研究が中心で、質の高い比較試験は限られると整理されています。
手術・子宮温存治療
- 子宮全摘術: 根治が得られる治療です。妊娠はできなくなります(EBioMedicine、2025年)。
- 腺筋症病巣除去術: 妊娠を希望する方に行われる子宮温存手術です。妊娠例の報告をまとめた系統的レビュー(Tan ら、Journal of Minimally Invasive Gynecology、2018年)では、びまん型の手術後の妊娠44例中3例(6.8%)で子宮破裂が報告されています。
- 子宮動脈塞栓術(UAE)・熱凝固(HIFUなど): 子宮を温存する治療です。子宮温存治療42研究のメタ解析(Liu ら、Obstetrics & Gynecology、2023年)では、症状の再発率は全体で15.2%、病巣除去術12.6%、UAE 29.5%、熱凝固10.0%でした。
妊娠・不妊への影響
子宮腺筋症のある方では、体外受精などの生殖補助医療後の臨床妊娠率が低く(オッズ比0.69)、流産率が高い(オッズ比2.17)ことが、17の観察研究のメタ解析で示されています。妊娠した場合も、早産、妊娠高血圧腎症、帝王切開、産後の出血などのリスクが高いと報告されています(Nirgianakis ら、Reproductive BioMedicine Online、2021年)。同様の結果は、Younes と Tulandi のメタ解析(Fertility and Sterility、2017年)でも報告されています。これらは観察研究が中心ですが、妊娠前の十分な説明と、妊娠中の慎重な経過観察が勧められています。
- 症状を抑える治療が中心です:薬物療法は、中止すると症状が戻りやすく、長期の継続が必要になることがあります。
- 副作用で続けにくい場合があります:ジエノゲストでは、副作用による治療の中止が多いとの報告があります(2026年のレビュー)。
- 使えない場合があります:ジエノゲストは、子宮体部の最大径が10cm以上、筋層の最大厚が4cm以上、ヘモグロビン値が8.0g/dL未満の場合に別の治療を検討することとされています。また、効能は「疼痛の改善」であり、病巣を小さくする効果は検証されていません。
- 妊娠希望との両立が難しい場合があります:ホルモン療法中は妊娠できず、手術には再発や妊娠時の子宮破裂のリスクがあります。
- 根治できる方法は子宮全摘術に限られます:子宮を残す場合は、症状を長期にコントロールしていく治療になります。
- 体質面は標準治療の対象になりにくい点があります:冷え、疲れやすさ、貧血傾向、睡眠やストレスの影響といった、全身の状態への対応は、標準治療の範囲外になりやすい部分です。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
子宮腺筋症に対する西洋医学と中医学のアプローチの違いを整理します。両者は対立するものではなく、それぞれの強みを活かして組み合わせることで、より多面的なサポートが可能です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 子宮筋層内の内膜様組織、エストロゲン依存性、プロゲステロン抵抗性、炎症などを、画像や検査で評価する | 血の滞り(瘀血)を中心に、気の滞り・冷え・気虚・腎虚・痰湿などが重なった体質の偏りとして把握する |
| 治療の目標 | 痛みと出血量の軽減、子宮の縮小、妊孕性の維持 | 血の巡りを整え、冷え・疲れ・貧血傾向などの全身状態を改善し、月経周期に合わせて症状の出方を軽くする |
| 主な治療手段 | 鎮痛薬・LEP・ジエノゲスト・LNG-IUS・GnRHアナログ・手術 | 弁証に基づく漢方処方(桂枝茯苓丸・当帰芍薬散・温経湯・補中益気湯・帰脾湯など)、鍼灸(三陰交・関元・次髎など)、養生指導 |
| 長所 | 診断基準と画像評価が確立している。病巣への直接的な作用と、効果の検証が進んでいる | 全身状態を同時に評価できる。ホルモン療法と併用しやすい。月経周期に合わせて調整できる。体質面を継続的に支えられる |
| 限界・課題 | 中止後に症状が戻りやすい。副作用で続けにくい場合がある。妊娠希望との両立が難しい場合がある | 子宮腺筋症を対象とした質の高い比較試験が限られる。病巣を縮小する効果は確立していない。個人差が大きい |
中医学からの子宮腺筋症の病態分析
中医学では、子宮腺筋症を「痛経(月経痛)」「月経過多」「癥瘕(ちょうか:下腹部のしこり)」「不孕(不妊)」などの範疇で捉えます。中心となる病態は「瘀血(おけつ)」、つまり血の滞りです。「通ずれば則ち痛まず、通ぜざれば則ち痛む」という考え方があり、気や血の流れが滞った部位に痛みが生じるとされます。
実際には、瘀血だけでなく、気の滞り、冷え、気虚、腎虚、痰湿などが重なっており、その組み合わせは人によって異なります。脈診・舌診・腹診・問診の総合分析(弁証〔べんしょう〕)によって体質の偏りを把握し、処方や鍼灸の方針を決めます。子宮腺筋症でよく見られる証(体質のパターン)は次のとおりです。
気の流れが滞り、血の巡りも悪くなった状態。月経前から下腹部の張りや刺すような痛みがあり、経血に塊が混じります。胸や脇の張り、いらいら、ストレスで悪化するといった特徴を伴います。舌に紫がかった色や斑点が見られることがあります。桂枝茯苓丸・加味逍遙散などが検討され、のぼせや便秘を伴う場合は桃核承気湯が検討されます。
冷えによって血の巡りが悪くなった状態。下腹部や腰の冷え、温めると痛みが和らぐ、経血が暗い色で塊がある、手足の冷えが目立ちます。温経湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・当帰建中湯などが検討されます。
気の不足により、血を保持する働きと巡らせる働きが弱まった状態。経血量が多い、出血が長引く、貧血傾向、疲れやすい、息切れがするといった症状が重なります。補中益気湯・帰脾湯・芎帰膠艾湯・十全大補湯などが検討されます。
体の根本的なエネルギーを蓄える「腎」の働きが低下し、瘀血を伴う状態。慢性的な疲れ、腰のだるさ、夜間の頻尿、不妊を伴うことがあります。八味地黄丸・六味丸などの腎を補う処方を、血の滞りを除く処方と組み合わせて検討します。
余分な水分(痰湿)が滞り、瘀血と絡み合った状態。体が重い、むくむ、下腹部が張る、おりものが多いといった症状が見られます。当帰芍薬散・桂枝茯苓丸などが検討されます。
血(栄養物質)が不足した状態。顔色が白っぽい、めまい、動悸、爪が割れやすい、月経後に鈍い痛みが続くといった症状が見られます。当帰芍薬散・四物湯・十全大補湯などが検討されます。
桂枝茯苓丸は、桂皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮の5つの生薬からなる漢方処方で、血の滞りを除く「駆瘀血剤」の代表的な処方です。桃仁・牡丹皮・芍薬が瘀血に働き、茯苓が余分な水の滞りをさばくとされます。体力が中等度以上で、のぼせがあり、下腹部に抵抗や圧痛がある方に用いられます。体力が低下していて、冷え・めまい・むくみを伴う月経困難には、当帰芍薬散が選ばれることがあります。いずれも、月経困難症に対して日本の保険診療で用いられる処方です。なお、経血量が多い時期は、血の滞りを除くだけでなく、出血を止める働きを持つ処方を選ぶなど、時期と症状に応じて使い分けます。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
子宮腺筋症を対象とした漢方・鍼灸の研究は、質の高い大規模な比較試験が限られているのが現状です。「病巣を確実に小さくする」と言い切れる段階ではありませんが、補助的な治療としての可能性を示す報告は積み重なっています。
子宮腺筋症を対象とした漢方・鍼灸の比較試験は、症例数が小さいもの、盲検化が難しいもの、評価方法が研究ごとに異なるものが多く、結果の確実性は高くありません。また、中国で行われた研究の多くは、煎じ薬や中成薬を用いており、日本で使われるエキス製剤とは処方や用量が異なります。以下の報告は、その前提で参考にしてください。
漢方(中薬)とLNG-IUSの併用に関するメタ解析
Huang らは、LNG-IUSに中薬を併用した群とLNG-IUS単独の群を比較したランダム化比較試験20件(2114人)をまとめたメタ解析を報告しました(European Journal of Integrative Medicine、2026年)。併用群では、痛みの指標(VAS)が平均1.44低下、月経血量の指標(PBAC)が平均13.00低下、子宮容積が平均10.23低下し、有害事象の発生率も低い(リスク比0.53)という結果でした。中国の臨床では、漢方が子宮腺筋症の治療に広く用いられていますが、有効性の根拠は十分ではないとされてきました(Huang らのシステマティックレビュー計画、Medicine、2020年)。ただし、個々の試験の質は低〜非常に低いものが多く、結果の確実性は「低い」または「非常に低い」と評価されており、著者らも慎重な解釈を求めています。
HIFU後の漢方に関するメタ解析
高密度焦点式超音波(HIFU)による治療の後に漢方を併用した群と、HIFUのみの群を比べたメタ解析(Pharmaceuticals、2025年)では、併用群で子宮容積(平均11.84低下)、血中のCA125やエストラジオールの値、月経血量の指標が低下しました。ただし、子宮容積や月経血量の指標では、エビデンスの確実性は「低い」と評価されています。
鍼灸に関する研究
子宮腺筋症の月経困難に対する鍼治療と、イブプロフェン徐放カプセルを比較した40人のランダム化比較試験(Tian ら、2021年)があります。治療終了時点では鍼群の痛みの指標が明確には優っていませんでしたが、治療終了後2周期の追跡では、鍼群で痛み・月経量・症状・生活の質の指標がイブプロフェン群より低い(良好)結果でした。小規模な試験であり、結果の確実性は限られます。子宮腺筋症に対する鍼灸のまとまった比較試験は少なく、今後の研究の蓄積が待たれる分野です。
近縁疾患(子宮内膜症)の報告
子宮内膜症に伴う痛みについては、漢方のランダム化比較試験11件(1401人)のメタ解析(2025年)で、月経痛と性交痛の指標が低下した一方、骨盤痛では有意な差が示されませんでした。研究間のばらつきが大きく、結果は慎重に解釈する必要があります。月経痛に対しては、日本でも当帰芍薬散や桂枝茯苓丸などが保険診療で用いられています。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
子宮腺筋症は、画像検査による診断と、貧血や子宮の大きさの評価が必要な疾患です。タナココでは、婦人科での診断と治療を土台に、体質面を支える形で漢方・鍼灸をご提案します。診断を受けていない方は、まず婦人科の受診をお勧めします。
次のような場合は、漢方・鍼灸の前に医療機関での評価が必要です:経血量が急に増えた、動悸・息切れ・立ちくらみなど貧血が疑われる、激しい腹痛がある、閉経後に出血がある、子宮が急に大きくなったと言われた。
タナココの漢方では、血の滞りを除き、冷えや気血の不足を整えることで、痛みと出血量の軽減、疲れやすさの改善を目指します。弁証に基づいて処方を選び、月経周期に合わせて重点を調整します。
月経前〜月経中: 痛みと出血量を見ながら、血の滞りを除く、冷えを温める、出血量が多い場合は止血を考慮する、といった方針で調整します。
月経後: 出血で消耗した気血を補い、貧血傾向や疲れやすさに対応します。
桂枝茯苓丸: 体力が中等度以上で、下腹部に抵抗・圧痛があり、のぼせを伴う気滞血瘀・瘀血の体質に。
当帰芍薬散: 体力が低下していて、冷え・めまい・むくみを伴い、血の不足と水の滞りがある体質に。
加味逍遙散: ストレスで悪化し、いらいらや気分の波、のぼせを伴う気滞の体質に。
温経湯・当帰建中湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯: 下腹部や手足の冷えが強く、温めると楽になる寒凝血瘀の体質に。
補中益気湯・帰脾湯・芎帰膠艾湯・十全大補湯: 経血量が多く、貧血傾向や疲れが目立つ気虚・血虚の体質に。
芍薬甘草湯: 月経痛の急な強い痛みに対して、症状に合わせて頓服で用いることがあります。
これらは単独ではなく、弁証に基づいて組み合わせます。処方の選択・用量は、年齢・体格・体質・出血の状態・服薬状況に応じて個別に判断します。ホルモン剤(ジエノゲスト・LEPなど)を使用中の方、血液をサラサラにする薬を服用中の方、妊娠を希望している方には、薬剤師が現在の処方薬との相互作用や、甘草を含む処方の重複を確認します。
鍼灸では、気・血の巡りと冷えに対応する経穴(けいけつ:ツボ)への刺激を通じて、下腹部・骨盤内の循環の改善と、月経痛や腰の痛みの軽減を目指します。子宮腺筋症に対してよく用いられる経穴の例は次のとおりです。
三陰交(さんいんこう): 脾・肝・腎の3つの経絡が交わるツボ。血の巡りの調整、冷えの改善、月経痛の軽減に。
関元(かんげん)・気海(きかい)・中極(ちゅうきょく): 下腹部に位置し、根本的なエネルギーを蓄える部位。冷えが強い型には、灸による温める刺激を併用します。
次髎(じりょう): 仙骨部のツボ。骨盤内の循環と月経痛に。
血海(けっかい): 血の滞りを除くツボ。
太衝(たいしょう): ストレスによる気の滞りを整えるツボ。
足三里(あしさんり): 気血を補う代表的なツボ。疲れやすさや貧血傾向に。
施術は、体質・証・月経周期の時期・現在の症状に合わせて経穴を選択します。月経痛が強い時期に合わせた通院もご相談いただけます。初回はお体の反応を確認しながら丁寧に進めますので、「鍼灸ははじめて」という方も、まずご相談ください。
タナココでは、現在の治療(婦人科での診断、処方薬の内容、不妊治療の予定)をお聞きしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸の方針を考えます。冷えを避ける、入浴や睡眠を整える、鉄分やたんぱく質を含む食事を意識する、といった日常の養生についても、体質に合わせてお伝えします。
「ホルモン剤の副作用で続けにくい」「薬をやめると症状が戻る」「手術を勧められているが迷っている」「妊娠を希望しながら、痛みと出血にも困っている」。どの段階でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・不妊カウンセラー・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
子宮腺筋症は自然に治りますか?
子宮腺筋症と診断されました。必ず治療が必要ですか?
漢方・鍼灸で子宮腺筋症は小さくなりますか?
ジエノゲストやピルを使っています。漢方・鍼灸と併用できますか?
妊娠を希望しています。子宮腺筋症があっても妊娠できますか?
子宮腺筋症と子宮内膜症、子宮筋腫の違いは何ですか?
経血量が多く、貧血と言われました。漢方で対応できますか?
子宮腺筋症はがんになりますか?
改善までどれくらいかかりますか?
子宮腺筋症──「年齢のせい」「体質だから」と我慢し続けなくてよい選択肢があります
毎月の痛みや出血量のために、予定を立てにくい、仕事や家事を休まざるを得ない。その状態には原因があり、医療による治療と、体質を整える中医学のアプローチを組み合わせることで、症状を軽くできる余地があります。
血の滞りを除くこと。冷えと気血の不足を補うこと。月経周期に合わせて整えていくこと。そのために、漢方と鍼灸でできることを一つずつ確認し、症状が軽くなるまで調整を続けます。
「ホルモン剤の副作用で続けにくい」「薬をやめると症状が戻る」「手術を勧められているが迷っている」「妊娠を希望しながら、痛みと出血にも困っている」。どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・不妊カウンセラー・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
症状が軽くなる方向に進むための選択肢があることを、まずお伝えしたいと思います。
