多嚢胞性卵巣症候群

 こんにちは、相模原タナココ漢方薬局・鍼灸接骨院です。

 

妊活相談で多い 多嚢胞性卵巣症候群  (たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)」。

「PCOS(ピーコス)」という呼ばれ方をすることもあります

 


この PCOS ですが、

  ★ 西洋医学的にどういう病態なのか

  ★ 中医学(東洋医学)ではどう治療するのか

について書いてみたいと思います。

 

◆ 多嚢胞性卵巣症候群 (以下「PCOS」)とは

PCOSでは

 ・卵胞の成熟障害
 ・排卵障害

がおこります。女性の5〜8%の割合で見られるといわれています。

ヒトの卵巣では、月経の終わり頃から1つの卵胞(卵子を守っている「袋」のようなもの)が発育します。卵胞は20mmぐらいの大きさまで大きくなると卵巣と卵胞を破って卵子が卵管に向けて飛び出します。これが「排卵」です。

 

通常、1周期につき1つの卵胞が発育します。そしてこれを生まれてくるときにすでに蓄えられていた卵がなくなるまで繰り返します。

一方、PCOSでは、卵巣内の卵胞が成熟できずに、また卵巣の外側が硬くなり排卵できずに、卵巣に溜まっていきます。

超音波(エコー)検査では、卵巣内に発育しきれない小さい卵胞が、連なって見えます。真珠のネックレスのように見えるため「ネックレスサイン」と呼ばれています。

月経周期が長くなり、排卵しにくくなるため妊娠もしにくくなります。

 

 

◆ PCOS の原因

はっきりとした原因はわかっていませんが、ホルモンの分泌異常と肥満が関係していると考えられています。

 


 ▶︎ ホルモンの分泌異常 ◀︎

PCOSでは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が過剰になり、その影響で黄体化ホルモン(LH)が増えます。

黄体ホルモンは卵胞に作用すると男性ホルモン(アンドロゲン)を作ります。男性ホルモンが増えると、卵胞の発育が妨げられたり、卵巣の外側の白膜が厚くなって、排卵しにくくなります。

 


 ▶︎ 肥満 ◀︎

肥満の影響で、体内の血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなります。この状態を「インスリン抵抗性」といいますが、インスリンが効きにくくなったのを補うために、インスリンの分泌を増やして「高インスリン血症」になります。

「高インスリン血症」になると、黄体化ホルモン(LH)への感受性が高くなり、結果として、男性ホルモン(アンドロゲン)が増えて、PCOSになります。


結果としては、ホルモンの分泌異常と同じ状況になりますが、ホルモンの分泌異常に肥満が加わるとより PCOS は悪化します。


日本人の場合「男性ホルモン高値」の方はあまり多くないとされ、男性化兆候がみられる割合は少ないようです。


アメリカでは「男性ホルモン高値」の PCOS が多いため肥満、多毛などの男性化兆候の割合が日本より多いです。また、アメリカではPCOSは不妊の最も多い原因となっています。

PCOSは人種によってその臨床像が異なることも知られています。

 

病態としては PCOS は

▶︎ 肥満型PCOS:インスリン抵抗性の関与が大きい=男性ホルモン高値型

▶︎ 非肥満型PCOS:インスリン抵抗性の関与が小さい=ホルモンの泌異常型=高LH型

に分けられます。

 


◆ PCOS の診断基準

PCOS の診断基準は

①  月経異常

②  多嚢胞卵巣(PCO)

   卵巣に2~9mmの小さな卵胞が10個以上

③  ホルモン異常

  ▶︎  男性ホルモン値が高値 

    または

  ▶︎ 黄体化ホルモン(LH)基礎値が高値 かつ

   卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値が正常

を診断基準としています。

このほか、診断基準にはありませんが、アンチミューラリアンホルモン(=抗ミュラー管ホルモン:AMH)が高くなる傾向にあります。


AMH:卵胞数を反映するため「卵巣年齢」をあらわす数値として用いられています。

 PCOS と PCO は「文字」が似ているため、紛らわしいのですが、PCOは「多嚢胞性卵巣」のことで、PCOSの診断基準の1つとしての「卵巣の状態」のことです。

症候群としていう場合は「PCOS」

多嚢胞の卵巣の状態を指す場合「PCO」と言います。

相談を受けていると多いのが、

「PCOSっぽい」、「PCOS傾向」

と病院で説明を受けるケースです。

この場合、診断基準は満たさないけど、「PCO」や、それに近い個数の小卵胞が見られているケースでそういう説明をすることがあるようです。

PCOSの診断基準を厳密には満たさないものの、排卵障害も疑われるし、ホルモン値はそこまでではないものの、AMHが明らかに高くて、小卵胞がみられているという感じです。混乱する方も多いです。

わかりにくいですね・・・。

 


◆ PCOS の西洋医学的な治療

体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)の場合、大きく育っても、採卵をすれば良いのですが、一般不妊治療の場合は、双子以上になるのを避けなければならないので、たくさん育てるわけにもいきません。

双子も1人に比べたらハイリスクですし、三つ子以上になると母児ともにリスクは上昇します。


一般不妊治療の場合では、PCOS では卵を育てるのがとても難し場合が多く、周期によって薬が効くケースと効かないケースがあったりと PCOS の卵巣はかなりデリケートです。


PCOS の西洋医学的な治療は多岐にわたります。

排卵誘発剤(内服、注射)がまず行われます。内服ではクロミフェン、シクロフェニル、レトロゾール がありますが、クロミフェン がまず使われることが多く、服用することで半数以上が排卵可能になると言われています。クロミフェン などの薬の単独投与で効果がみられない場合、プレドニゾロン を併用したり、プロラクチンが高い場合は ブロモクリプチン 、カベルゴリン を併用することもあります。

クロミフェン などの内服薬で効果がない場合は、ゴナドトロピン療法(注射)や併用が試みられます。この治療法の場合、時々、多数の卵胞が一度に成長、排卵し、多胎妊娠や、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

卵胞の状態を見て少しずつ量を調整しながら様子を見ます。PCOS では刺激に感受性の高い小さな卵胞が多数あるため「匙加減」が重要です。

OHSS は予防以上の管理はなく、卵巣刺激前に OHSS のリスクを理解しておくことが重要です。OHSS は若年(35歳以下)、やせ型、胞状卵胞が多い、AMH が高い、OHSS の既往がある、血中E2が高い(≧3000 pg/ml)などがあるとリスクが高くなるとされています。


肥満型 PCOS の場合は、ダイエット するだけで改善することもありますので、肥満型PCOSの場合は、まずダイエットが試みられます。それでも難しい場合は、ダイエット+インスリン抵抗性改善剤(メトホルミンなど)を加えます。

PCOS については根本治療が

これら以外には、カウフマン療法、低用量ピルなどが試されることがあります。

 


薬を使った治療以外に、腹腔鏡手術もあります。

 腹腔鏡下にレーザーで卵巣に小さい穴をたくさんあける「卵巣多孔術(LOD)」があります。

日本産婦人科医会 15.日帰り腹腔鏡下手術②より引用

手術により薬への感受性が回復したり、ホルモン値が正常化したり、高い割合で自然排卵が期待できる方法です。

しかし効果は半年~1年ほどと限定的で、しばらくするともとの状態に戻ります。


この方法は高い効果があることはわかっているものの、なぜ効果が出るのかよくわかっていないことや、効果の予測が難しかったり、インスリン抵抗性の改善効果はないことなどの注意点もあります。

 


PCOSの中医治療について

さて、前置きが長かったのですが、続いて中医学的方法について見て見たいと思います。

PCOS は中医学的には、基礎には「腎虚(じんきょ)」があり、それに「脾虚(ひきょ)」「痰飲(たんいん)」「肝鬱(かんうつ)」「瘀血(おけつ)」など様々な要因が複雑に絡み合った病態と考えられています。

 


まずは、大元になる「腎虚(じんきょ)」についてです。

「腎」は五臓のひとつで「精(せい)」を蔵し、生殖を主る場所、天癸(てんき)の源です。《傳青主女科》に『経水は諸腎より出る』と述べられています。

精とは人体を生成する基本物質のことをいい、精子と卵子に由来す、天癸とは男女の性機能の成熟と衰竭の指標で、成長・発育をうながし、月経や妊娠を維持する物質のことをいいます。

腎の機能が低下すると、気・血・水の滞りが生じ、気滞、痰飲、瘀血が生じ、これらが、衝任脈(月経の関係する経絡)・胞宮(子宮)を阻害して PCOS を引き起こします。

治療は腎の機能を補い、生理周期や排卵への土台作りをします。

 


次に「脾虚(ひきょ)」についてです。

五臓の中で、消化吸収に重要な「脾」の働きが低下した状態です。脾の働きが低下すると、消化吸収が十分に行えず、体内の気血(エネルギーや栄養)が不足します。そのため排卵の機能も低下し、PCOS に繋がります。

治療は脾の機能を補い、排卵する力を強めるために、体力や気力を補っていきます。

また、脾の機能が低下すると、脾の機能である「運化(うんか:水液の代謝)」の働きも低下するため、体内の水分に滞りが生じ「痰飲(たんいん)」になります。

「痰飲」は停滞するする性質を持つ水分で、これが卵巣周囲に停滞すると排卵がスムーズに行われなくなります。


治療は、痰飲の原因となる「脾」の機能低下を改善し、「痰飲」を除去し、排卵しやすい環境、体質をつくっていきます。

 

 

次に「肝鬱(かんうつ)」です。

五臓のうち「肝」の「疏泄(そせつ)」の働きが低下し、特に気の滞りが生じた状態です。疏泄とは「通じさせて発散する」という意味で、自律神経系の調節に近い働きがあります。

ストレスをうまくコントロールできない状態が続くと、疏泄の働きが低下し「肝鬱」となり「気」の停滞、つまり「気滞」となります。「気」はエネルギーですのでそれが滞ると、排卵がスムーズにいかず、PCOS につながります。

治療は、肝の働きをサポートしつつ、気の流れを回復させ、排卵しやすくなるようにします。

 


最後に「瘀血(おけつ)」です。

「瘀血」は血の流れの滞りのことをいい、様々な原因により起こります。「気滞」「気虚」「冷え」などが関係しますが、卵巣の周辺で「瘀血」が生じると排卵しにくくなります。

治療は血の巡りを促進したり、原因の臓腑を治療する処方も合わせて行います。

 


一つひとつに分解すると上記のようになりますが、実態はこれらが複雑に組み合わさって PCOS は起こっていますので、処方も状況、状態によって微調整が必要になります。

 


漢方は、単に「排卵障害を改善する」という考えで治療するのではありません。

上記のような中医学的な認識を元に、一人ひとりの体質や症状に合わせて処方を考え、健康な状態をつくりあげていく過程で、結果的に排卵障害をできるようになるという方法で治療にあたります。

このようなアプローチでの治療は、飲む方はもちろんのこと、妊娠した際には、赤ちゃんの病気になりにくい体づくりにも役立ちます。

自分に合った漢方を上手に取り入れて、PCOS をはじめとした不妊の改善に役立てていただければ幸いです。


治療に漢方を取り入れていみたいという方はご相談ください。

 

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