月経前症候群(PMS)とは──
診断・原因・治療の現状と、体質から整える漢方・鍼灸
月経前になると、気分の落ち込みやいらだち、むくみ、頭痛、強い眠気が毎月くり返し現れる。これは性格や気合いの問題ではなく、月経周期に伴うホルモン変動に対する脳と体の反応として、医学的に研究されている状態です。
診断基準と標準治療を踏まえたうえで、中医学の考え方に基づく漢方・鍼灸で体質を整え、毎月の症状を軽くすることを目指して、タナココは一人ひとりに取り組みます。
最終更新日:2026年11月5日
月経前症候群(PMS)の理解と体質へのアプローチ
- PMSは、月経前3〜10日の黄体期に続く心身の症状で、月経が始まると軽くなるか消えます。
- 精神症状が強く生活に支障が出るものは、PMDD(月経前不快気分障害)と呼ばれます。
- 診断は症状の時期と周期性で行い、2周期の症状日誌が推奨されます。
- SSRI、ドロスピレノン配合ピル、認知行動療法など、効果が確認されている治療があります。
- 漢方・鍼灸は、体質(証)に合わせて用いる補完的な選択肢です。研究は増えていますが、質の高い試験はまだ限られています。
月経前症候群(PMS)とは何か
月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)とは、月経前3〜10日の黄体期に続く精神的・身体的症状で、月経の開始とともに軽くなるか消える状態です。(日本産科婦人科学会 用語集/同「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」2025年)精神症状が強いものはPMDD(月経前不快気分障害)、既存の病気が月経前に悪化するものは月経前増悪(PME)として区別され、近年は月経前の不調全体をPMDsと総称します。(ISPMD 第4回コンセンサス 2016年)
有病率は高く、軽度を含めると80〜90%の女性が何らかの症状を経験します。そのうちPMSと診断されるのは20〜30%、PMDDは1.2〜6.4%と報告されています。(日本産科婦人科学会 2025年)日本人女性1,187名の調査では、95%が何らかの月経前症状を自覚し、中等度から重度のPMSは5.3%、PMDDは1.2%でした。(Takeda ら, Arch Womens Ment Health 2006年)世界のメタ解析では、地域住民を対象に前方視的記録で確認したPMDDの有病率は1.6%でした。(Reilly ら, J Affect Disord 2024年)
PMSの診断基準
診断は問診が中心で、症状が出る時期、消える時期、周期性と再現性を確認します。日本産科婦人科学会は、PMSにACOG(米国産婦人科学会)の基準、PMDDに米国精神医学会のDSM-5-TRの基準を用いています。2014年版ACOG基準にあった「月経5日前に1つ以上の症状」という記載は、2023年のACOGガイドライン(No.7)にはなく、PMSの診断基準として確定したものは現時点でありません。(日本産科婦人科学会 2025年/ACOG Clinical Practice Guideline No.7 2023年)
PMDDの診断基準(DSM-5-TR)
- 過去1年のほとんどの月経周期で、月経前の最終週に、下記11項目のうち5項目以上があり、月経開始後数日で改善し、月経後1週間で軽微または消失する。
- 5項目のうち1項目以上は、感情の不安定、いらだち・怒り、抑うつ気分、不安・緊張のいずれか。
- その他の項目:活動への興味の低下、集中困難、倦怠感、食欲の変化、過眠または不眠、圧倒される感覚、身体症状(乳房の張り、関節・筋肉痛、腹部膨満感、体重増加)。
- 仕事・学業・対人関係に支障があり、他の精神疾患の悪化だけでは説明できない。
- 毎日の記録(前方視的記録)で、少なくとも2周期にわたり確認する(暫定診断は確認前でも可能)。
症状日誌には、世界的にDRSPが用いられ、日本語版も作成されています。市販のアプリや簡単なメモでも構いません。(日本産科婦人科学会 2025年)鑑別すべき状態には、糖尿病・喘息・てんかん・頭痛・うつ病などの月経前増悪、更年期障害、思春期では起立性調節障害や機能性消化管疾患などがあります。
症状:身体・精神・生活への影響
身体症状
乳房の張り・痛み、下腹部の膨満感、むくみ、頭痛、疲労感、腰痛、関節・筋肉痛。
精神症状
気分の変動、いらだち・怒り、抑うつ気分、不安・緊張、涙もろさ、集中力の低下。
生活への影響
仕事・学業の能率低下、対人関係の摩擦、活動への意欲低下、睡眠や食欲の変化。
思春期でも発症し、日本の思春期女性の約7割が月経前に何らかの症状を自覚しています。(日本産科婦人科学会 2025年)
発症のメカニズム
発症の仕組みは完全には解明されていませんが、次の点が研究されています。
- ホルモン変動への感受性:エストロゲン・プロゲステロンの変動の大きさは、症状のある人もない人も同様です。症状のある人は、その変化への感受性が高いと考えられています。(ACOG 2023年)
- アロプレグナノロンとGABA-A受容体:黄体期に増えるプロゲステロンの代謝物アロプレグナノロンは、脳の抑制系であるGABA-A受容体に作用します。PMDDでは、この変動に受容体が十分に適応できないことが背景にあるとする仮説が有力です。(Br J Psychiatry 2025年のレビュー/Transl Psychiatry 2025年の研究)
- セロトニン系:SSRIは、うつ病と異なり服用開始日から効果が現れ、黄体期のみの服用でも有効です。この点から、セロトニン系の関与が示唆されています。(日本産科婦人科学会 2025年)
- その他:遺伝的要因、心理社会的ストレスも影響し、炎症や脳の情動回路との関連も検討されています。
スウェーデンの全国コホート研究では、PMDと診断された女性は、その後に精神疾患と診断されるリスクが約2倍で、精神疾患のある女性がPMDを発症するリスクも約2倍でした。(Zhou ら, JAMA Network Open 2026年)月経前の不調は、心の健康の面からも見守る価値があります。
現在の治療とその限界
PMS・PMDDの治療は、症状日誌と疾病教育を土台に、重症度に応じて薬物療法を組み合わせます。(日本産科婦人科学会 2025年/ACOG 2023年)
| 治療 | 位置づけ・根拠 | 留意点 |
|---|---|---|
| 生活指導・運動・食事 | 睡眠・食事・運動・ストレス管理を指導。運動は症状改善の報告があるが、質は限られる。ACOGは運動・カルシウム(1,000〜1,200mg/日)を条件付きで推奨 | 明確なエビデンスは乏しい |
| 認知行動療法(CBT) | ACOG・日本産科婦人科学会が推奨。PMDDでfluoxetineと同等の効果、持続性はCBTが優れたとの報告(Hunter 2002年) | 日本では実施施設が少ない |
| SSRI | 中等症〜重症の第一選択(欧米)。プラセボに対しSMD −0.57(Cochrane 2024年)。黄体期のみ、または連続で服用 | 日本ではPMS・PMDDは保険適用外。嘔気・眠気など。24歳以下は自殺関連行動に注意 |
| ドロスピレノン配合ピル | 排卵を抑制。SMD −0.41、生産性や対人関係も改善(Cochrane 2023年) | プラセボ効果が大きい。禁忌がある。PMS病名では保険適用外 |
| GnRHアナログ | 難治例に限り検討(SMD −1.19) | 骨量減少、更年期様症状。日本ではadd-back療法の保険適用なし(2024年時点) |
| 利尿薬・鎮痛薬 | 浮腫に利尿薬、頭痛・腹痛にNSAIDs・アセトアミノフェン。フロセミド等は月経前緊張症に保険適用 | 対症療法が中心。電解質異常に注意 |
| 漢方・サプリメント | 当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸・抑肝散など。ビタミンB6・カルシウム・亜鉛・チェストベリーも検討 | 漢方は「血の道症」等の病名で処方。標準治療ほどの確かな根拠はない |
- 保険適用の制約:一部の利尿薬を除き、ほとんどの薬剤がPMS・PMDDの病名では保険適用外です。
- 効果の個人差:プラセボ効果が大きく、すべての方に十分な効果があるわけではありません。副作用、禁忌、妊娠希望により選べない場合もあります。
- 新薬の開発も途上:GABA-A受容体に関わるsepranoloneの第2相試験では、プラセボ効果が大きく、事前に設定した統計解析では効果を明確に区別できませんでした。(Bäckström ら, Psychoneuroendocrinology 2021年)
- 体質・生活全体の調整:冷え、むくみ、胃腸、睡眠、ストレスへの対応は、薬だけでは難しい面があります。
中医学からみたPMS
中医学では、PMSを「月経前後諸証(げっけいぜんごしょしょう)」の範疇として捉えます。月経前に気血の流れが変化するときに、体質の偏りが症状として現れると考えます。中心になるのは、感情や気の巡りを調節する「肝(かん)の疏泄(そせつ)」、気血を生み出す「脾(ひ)」、成長と生殖を支える「腎(じん)」、血と精神活動に関わる「心(しん)」のバランスです。
脈診・舌診・腹診・問診による弁証(べんしょう)で体質を見立てる点が、診断名を軸にする西洋医学との違いです。同じPMSでも、いらだちが強い方、むくみと倦怠感が強い方、冷えが強い方では、整える方向が異なります。
| 証(体質のパターン) | 主な様子 | 漢方の例 | 鍼灸の例 |
|---|---|---|---|
| 肝気鬱結 | いらだち、胸や脇腹の張り、乳房の張り、ため息 | 逍遙散・加味逍遙散・四逆散・抑肝散 | 太衝・合谷・三陰交 |
| 肝鬱化火 | 怒りっぽい、のぼせ、頭痛、不眠 | 加味逍遙散 | 太衝・行間 |
| 肝鬱脾虚 | 張りに加え、食欲低下、軟便、むくみ、倦怠感 | 逍遙散・当帰芍薬散・抑肝散加陳皮半夏 | 足三里・三陰交・太衝 |
| 心脾両虚 | 不安、不眠、動悸、疲れやすい、食欲不振 | 帰脾湯・加味帰脾湯 | 神門・内関・足三里 |
| 脾腎陽虚(水滞) | 冷え、むくみ、下痢、腰のだるさ | 真武湯・苓桂朮甘湯・当帰芍薬散 | 関元・気海・足三里 |
| 気滞血瘀 | 下腹部の張りや痛み、冷えのぼせ、経血に塊 | 桂枝茯苓丸・当帰芍薬散 | 三陰交・太衝 |
| 肝腎陰虚 | ほてり、口の渇き、めまい、乾燥 | 六味丸・杞菊地黄丸 | 太渓・三陰交 |
上の対応は考え方の一例で、実際には複数の証が重なるため、弁証に基づいて組み合わせます。漢方薬を処方する日本の産婦人科医が用いる処方は、加味逍遙散(73.6%)、当帰芍薬散(53.3%)、抑肝散(51.5%)、桂枝茯苓丸(36.5%)の順でした。(Yoshimi ら 2023年)中医学の肝に関わる証を再現したPMDDモデルラットで、アロプレグナノロンとGABA-A受容体の働きを調べた基礎研究も報告されています。(Aging 2023年)
漢方・鍼灸の研究の現状と、タナココのサポート
- 加味逍遙丸:中国8施設で144名を無作為化した二重盲検プラセボ対照試験(3周期、肝鬱脾虚血熱の証のPMS)。黄体期のDRSPスコアの改善がプラセボより大きく、有害事象に差はありませんでした。(Li ら, J Tradit Chin Med 2024年)
- 加味逍遙散(日本):PMDDに対する非盲検の予備試験で有効性が報告されています。(Yamada & Kanba, Psychiatry Clin Neurosci 2007年)
- 鍼:10件のRCTを含むメタ解析で、8件の統合結果は対照全体より有効でした(RR 1.55)。ただし、バイアスのリスクが高い試験が多く含まれます。(Kim ら, BJOG 2011年)2018年のCochraneレビューは、試験の質の問題から結論を出せないとしつつ、1件の試験(67名)で偽鍼との比較で気分関連症状が軽くなる可能性を示しました。(Armour ら 2018年)ACOGは鍼を条件付きで推奨しています(低いエビデンス)。(ACOG 2023年)
- 最新のネットワークメタ解析:21件のRCT、1,818名の解析で、鍼は通常の西洋薬より有効率が高く(RR 1.45、3件のRCT)、有害事象は皮下血腫など軽微でした。ただし質の高い試験が必要と結論されています。(Xie ら, Front Psychiatry 2026年)
タナココの進め方
初回:月経周期、症状日誌、現在の治療(SSRI・ピルなど)を伺い、脈診・舌診・腹診で弁証します。
漢方:弁証に基づき、加味逍遙散・当帰芍薬散・抑肝散・桂枝茯苓丸・帰脾湯などから、年齢・体質・症状・服薬状況に合わせて選びます。甘草による偽アルドステロン症、加味逍遙散に含まれる山梔子の長期使用、セントジョーンズワートなどとの相互作用は、薬剤師が確認します。
鍼灸:三陰交・太衝・合谷・内関・神門・関元・気海などから、証に合わせて選びます。鍼灸のPMS研究では、三陰交・太衝・関元が多く用いられています。
経過の確認:3周期を一区切りに症状日誌で変化を確認し、反応が乏しい場合は処方・施術を見直します。症状が強い場合は、産婦人科・精神科への受診もお勧めします。
よくある質問(FAQ)
PMSは病気ですか。気の持ちようではありませんか。
PMSとPMDDの違いは何ですか。
漢方や鍼灸はPMSに効果がありますか。
ピルやSSRIを使っています。漢方・鍼灸と併用できますか。
どのくらいで変化を感じますか。年齢とともに軽くなりますか。
病院を受診する目安を教えてください。
月経前の不調を「毎月のこと」で終わらせない選択肢があります
月経前の不調は、性格や我慢の問題ではなく、診断と治療の方法がある状態です。効果が確認されている治療があり、妊娠中は基本的に症状が消え、年齢とともに軽くなることも知られています。回復を目指せる状態だからこそ、毎月の不調をそのままにしないでほしいと考えています。
タナココでは、症状日誌と弁証をもとに、漢方と鍼灸で体質の偏りを整える方針を立て、3周期ごとに結果を確認しながら、処方と施術を見直し続けます。反応が乏しいときは理由を一緒に考え、医療機関との連携も含めて次の方法を検討します。症状を軽くし、月経前の1〜2週間を取り戻すことを目標に、できる限りのことをします。
「ピルやSSRIを使っているが十分ではない」「薬はできるだけ避けたい」「漢方・鍼灸は初めて」——どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から提案します。
