月経不順とは──
診断の目安と、体質から整えるアプローチ
毎月の周期の乱れを、「よくあること」と言われてそのままにしていないでしょうか。
月経不順には、診断基準があり、原因によって対応が異なります。西洋医学の診断と治療を土台に、漢方・鍼灸で体質面を整える方法をまとめました。
最終更新日:2026年11月5日
月経不順の理解と体質へのアプローチ
月経不順とは何か(診断基準)
月経不順は、月経周期や出血日数が正常範囲から外れる状態です。月経痛が強く日常生活に支障が出る状態は月経困難症と呼ばれます。どちらも毎月繰り返すため、原因の確認と対応が必要です。
| 項目 | 目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 正常な月経 | 周期25〜38日(変動6日以内)/出血3〜7日/経血量20〜140mL | 日本産科婦人科学会の定義です。周期は月経初日から次の月経の前日までを数えます。 |
| 頻発・稀発月経 | 周期24日以内/39日以上 | 排卵の乱れ、ストレス、体重変化、甲状腺や卵巣の疾患などが背景になります。 |
| 無月経 | 続発性:既存の月経が3か月以上停止/原発性:満18歳で初経がない | まず妊娠の可能性を確認します。 |
| 月経困難症 | 月経期間中に月経に伴って生じる病的症状 | 問診に加え、内診・超音波・MRIで器質的疾患を調べます。異常がなければ機能性、子宮内膜症・子宮筋腫・子宮腺筋症などが原因なら器質性と診断します。 |
米国産婦人科学会(ACOG)の見解(2015年)では、思春期の周期の90%は21〜45日で、初経後3年目には60〜80%が21〜34日に落ち着きます。初経後数年の不規則さは異常とは限りません。同見解は、月経周期を血圧や脈拍と同様の「バイタルサイン」として評価することを勧めています。また、看護師79,505名を追跡したBMJ(2020年)の研究では、常に周期が不規則な女性で早期死亡のハザード比が1.18〜1.39と報告されています。これは関連を示す観察研究であり、原因を示すものではありません。
症状と受診の目安
症状の現れ方は人によって異なります。月経痛は月経の最初の数日に強まりやすく、周期の乱れは出血の量や日数の変化を伴うことがあります。
月経痛
下腹部痛・腰痛。機能性は初経から6〜12か月ほどで始まることが多く、月経開始前後から数日に痛みが強まります。
周期・出血の乱れ
周期が短い・長い、数か月来ない、出血量が多い・少ない、出血が8日以上続く。排卵の有無が分かりにくくなります。
随伴症状
頭痛・嘔気・下痢・腹部膨満感・倦怠感・食欲不振・イライラ・憂うつ。
①3か月以上月経がない ②周期が24日以内、または39日以上の状態が続く ③痛みが年々強くなる、鎮痛薬が効かない、月経以外の時期にも痛む ④出血量が多い、8日以上続く ⑤妊娠の可能性がある、または妊娠を希望している。これらに当てはまる場合は、まず原因の確認を優先してください。
有病率と社会的影響
月経痛・月経不順は頻度が高く、仕事や学業にも影響します。主な数値は次のとおりです。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 原発性月経困難症の経験 | 生殖年齢の女性の最大で約4分の3 | Cochraneレビュー(2016年) |
| 月経痛の有病率 | 研究により45〜90%と幅がある | Kho&Shields、JAMA(2020年) |
| PCOS | 生殖年齢の女性の5〜15% | 日本の総説(2026年) |
| 月経随伴症状による経済損失(総額) | 年間約6,828億円(試算) | Tanakaら(2013年) |
月経痛は「体質だから」と我慢されやすい一方で、治療や体質面の支援を受けられる状態です。我慢を前提にせず、早めに原因を確認することが大切です。
発症のメカニズム
月経痛(機能性月経困難症)
子宮内膜で産生されるプロスタグランジンが子宮平滑筋を過度に収縮させ、血管の攣縮によって子宮筋が虚血になることが原因と考えられています。器質性では、子宮内膜症・子宮腺筋症・子宮筋腫が痛みの背景にあります。
月経不順
月経周期は、視床下部・下垂体・卵巣のホルモン調節によって保たれています。ストレス、睡眠不足、急な体重変化、過度な運動などでこの調節が乱れると、排卵が不安定になり周期が変動します。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)はアンドロゲン過剰とインスリン抵抗性を中心とし、生殖年齢の女性の5〜15%に認められます。日本産科婦人科学会の診断基準(2024年)は、月経周期異常・卵巣所見・内分泌異常の3項目で構成され、抗ミュラー管ホルモン(AMH)や多毛が新たに加わりました。思春期は月経異常や多嚢胞性卵巣所見が正常でもみられるため、「PCOS疑い」として経過を見ることが勧められています。
現在の治療とその限界
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(2020年版)では、鎮痛薬(NSAIDs)・低用量ピル(LEP)・LNG-IUS(ミレーナ®)が推奨レベルB、鎮痙薬と漢方薬が推奨レベルCとされています。
| 治療 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| NSAIDs | プロスタグランジンの合成を抑える。痛みが出てからの頓用で不十分な場合は、月経開始時または直前からの定時内服を行います。 | 消化器症状に注意。従来の治療で効果が不十分な方が20〜25%あるとされます(Cochrane 2008年)。 |
| LEP・ジエノゲスト | 機能性・器質性に用いる。連続投与で毎月の消退出血を避けられます。 | 不正出血が頻度の高い副作用です。血栓症のリスクがあります。妊娠を希望する時期は使用できません。 |
| 器質性への治療 | LEP、ジエノゲスト、LNG-IUS、GnRHアナログ、手術。 | 子宮筋腫・子宮腺筋症の過多月経では、GnRHアナログも選択肢になります。 |
| 月経不順 | 妊娠・ホルモン値・甲状腺の確認。挙児希望がなければホルモン療法、希望があれば排卵誘発(PCOSではレトロゾールが第一選択、2025年治療指針)。 | 肥満を伴うPCOSは減量が基本で、5〜10%の減量で70〜80%の症例の月経異常が改善するとされます。 |
服用中の効果が中心であること:鎮痛薬やホルモン薬は、服用中の症状を抑える性質が中心です。ホルモン薬の中止後の持続効果については、十分なデータが多くありません。
検査で異常がない場合:機能性月経困難症や周期の軽度の乱れでは、「異常なし」と言われても症状が続くことがあります。
併用・継続のしにくさ:副作用への不安、妊娠希望との両立、服薬への抵抗感から、治療を続けにくい方もいます。体質面を支える漢方・鍼灸は、これらを補う選択肢の一つです。
西洋医学と中医学の考え方の違い
| 観点 | 西洋医学 | 中医学 |
|---|---|---|
| 診断の視点 | 器質的疾患の除外、ホルモン値・画像検査による疾患の特定 | 体質、周期の経過、冷え、脈診・舌診・腹診による弁証 |
| 月経痛への働きかけ | プロスタグランジン合成の抑制、排卵・内膜増殖の抑制 | 気血の巡り・冷え・不足を整え、周期の時期に合わせて方針を調整 |
| 月経不順への働きかけ | 原因疾患の治療、ホルモン療法、排卵誘発 | 肝・脾・腎の働きと気血から周期の乱れを捉え、体質面を整える |
| 強み | 診断の確実性、器質性疾患への対応、鎮痛の速さ | 個別性、冷え・疲れ・睡眠・気分など全身の症状を併せて扱える点 |
| 留意点 | 服用中の効果が中心。副作用や妊娠希望との両立 | 研究の質に限界。器質的疾患の除外は西洋医学が必要 |
診断と器質的疾患の確認は婦人科で行い、そのうえで体質面を中医学で支える併用が現実的です。タナココは婦人科の治療を前提に、補う形で関わります。
中医学からの病態分析
中医学では、月経を「腎・肝・脾」の働きと「気・血」の巡りの総合的な結果として捉えます。脈診・舌診・腹診・問診による弁証で体質の偏りを把握し、周期の時期(月経期・月経後・排卵期・月経前)に合わせて方針を調整できる点が特徴です。月経痛・月経不順でよく見られる証は次のとおりです。
ストレスや緊張で気血の巡りが滞る型。下腹部の張り、刺すような痛み、経血の塊、月経前の乳房の張り。桂枝茯苓丸・加味逍遙散などが検討されます。
冷えで巡りが滞る型。温めると楽になる痛み、手足の冷え、経血の色が暗い。当帰四逆加呉茱萸生姜湯・当帰建中湯・温経湯などが検討されます。
気血が不足する型。月経後半〜終了後の鈍い痛み、経血量が少ない、疲れやすい、立ちくらみ。当帰芍薬散・四物湯系が中心です。
腎の働きが弱い型。周期が乱れる・長い、腰のだるさ、冷え。年齢や体質に応じて補腎の処方が検討されます。
ストレスで肝の気が滞る型。周期が前後する、イライラ、胸の張り、月経前の不調。加味逍遙散などが検討されます。
余分な水分が滞る型。周期が長い・月経が来にくい、むくみ、体が重い。体質に応じて水の巡りを整える処方が検討されます。
当帰・芍薬・川芎・茯苓・白朮(蒼朮)・沢瀉の6生薬からなり、古典『金匱要略』に婦人の腹痛に用いる処方として記載があります。血を養い水の滞りをさばくという働きから、冷え・むくみ・立ちくらみ・疲れやすさを伴う月経不順に用いられます。当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・加味逍遙散は、婦人科領域で広く使われる代表的な漢方薬です。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
月経痛(原発性月経困難症)
- 鍼灸:Cochraneレビュー(Smithら、2016年)は、鍼・指圧の有効性を判断する十分な根拠はないと結論しました。その後、Shenら(J Pain Res、2025年)の14件のランダム化比較試験(970名)の解析では、NSAIDsや無治療との比較で治療終了後3周期まで痛みの軽減が示されましたが、偽鍼との優位性は示されず、根拠の確実性は低いと評価されています。2024年の非薬物療法のネットワークメタアナリシス(33研究)では、運動と鍼が短期的に有効な可能性があるとされました。
- 漢方:Cochraneレビュー(Zhuら、2008年)は、中薬が月経痛に有望な根拠を示すものの試験の質が低いと報告しました。当帰芍薬散の4件のランダム化比較試験を解析したMaturitas誌(2016年)の系統的レビューでは、鎮痛薬に対する有効率の比が1.31で、プラセボ対照の試験でも痛みの軽減が示されています。温経湯と鍼灸の併用を検討した2025年のメタアナリシス(Zhaoら、Front Med、11試験・1,024名)では、NSAIDsに対する有効率の比が1.24でしたが、根拠の確実性は低〜中等度で、著者自身が過大な解釈を避けるよう述べています。
月経不順(PCOSに伴う稀発月経)
- Cochraneレビューの2025年版(Zhangら)では、鍼と偽鍼の間で、排卵・出産・月経の回復に明確な差は示されませんでした。月経間隔の日数は12週後に短縮した可能性があるものの根拠は非常に不確実で、有害事象は鍼でおそらく多いと評価されています。
- 2026年のパイロットRCT(Liら、Int J Womens Health、60名)では、16週間の鍼(約40回)の併用で月経頻度と周期日数が改善し、重い有害事象はありませんでしたが、32週時点では効果が維持されず、非盲検の予備的研究と位置づけられています。
経穴(ツボ)への刺激に関する研究では、関元・三陰交・気海・地機・帰来・次髎・天枢・合谷・太衝などが用いられています。鍼の有害事象は、主に皮下出血などの軽いものが報告されています。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、周期・痛みの出る時期・冷え・経血の状態・脈診・舌診・腹診をもとに、弁証に基づいて処方を選びます。主な方向性は次のとおりです。
当帰芍薬散:冷え・むくみ・立ちくらみ・疲れやすさがあり、血の不足と水の滞りが重なる体質に。
桂枝茯苓丸:体力が比較的あり、下腹部の張り・のぼせ・肩こりがある瘀血の体質に。
加味逍遙散:イライラ・不安・のぼせなど月経前の不調が目立つ体質に。
温経湯:手足のほてりと唇の乾きがあり、月経不順を伴う体質に。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯・当帰建中湯:冷えが強く、冷えると下腹部が痛む体質に。
芍薬甘草湯:強い急な痛みに頓用で用いられます。平滑筋の収縮を抑える作用に加え、プロスタグランジン産生の抑制作用も報告されています。
処方は体質・年齢・服薬状況に応じて個別に決めます。甘草を含む処方の重なりや現在の処方薬との相互作用は、薬剤師が確認します。妊娠中・妊娠の可能性がある場合は、処方によって注意が必要なため必ずお伝えください。
下腹部・腰仙部・下肢の経穴(関元・気海・三陰交・次髎など)を中心に、体質に合わせて選択します。冷えの型には灸で温める施術を組み合わせます。研究には月経の3〜7日前から開始する方法を採用したものがあるため、周期に合わせた通院時期もご相談します。初回は反応を確認しながら丁寧に進めますので、鍼灸がはじめての方もご相談ください。
タナココでは、婦人科での診断・処方内容をお聞きしたうえで、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸の方針を立てます。ホルモン薬や鎮痛薬を自己判断で中止することはお勧めしません。月経痛・周期・経血の記録をもとに、数周期ごとに方針を見直します。
日常生活でできること
- 記録する:月経初日、周期日数、痛みの強さ、経血の状態、使用した鎮痛薬を記録します。受診時と体質評価の両方に役立ちます。
- 冷やさない:冷えると痛みが強まる方は、下腹部と腰を冷やさないようにします。
- 運動する:2024年のネットワークメタアナリシスで、運動が短期的に月経痛を軽減する可能性が示されています。
- 睡眠と食事を整える:極端な食事制限や急な体重減少は周期の乱れにつながることがあります。
- 鎮痛薬は用法を守る:効果が不十分な場合は、そのままにせず婦人科にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
月経周期は何日なら正常ですか?
低用量ピル(LEP)やジエノゲストを使用中でも、漢方・鍼灸は併用できますか?
漢方・鍼灸は月経不順に有効ですか?
改善までどれくらいかかりますか?
思春期(中高生)でも相談できますか?
生理が3か月来ません。鍼灸や漢方で整えられますか?
妊娠を考えています。月経不順はいつ相談すべきですか?
月経不順──「毎月のことだから」と我慢し続けない選択肢があります
月経痛や周期の乱れは、原因を確認し、体質と周期の経過を丁寧に見ていくことで、対応の方向が定まっていきます。婦人科での診断や治療を土台に、漢方と鍼灸でできることを、最後まで一緒に検討します。
「痛み止めが効かなくなってきた」「周期が安定せず不安」「ホルモン薬以外の方法も知りたい」「妊娠を考え始めた」──どのような状況でも、まず現状をお聞きします。薬剤師・鍼灸師・不妊カウンセラー・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った方針をご提案します。
記録をもとに方針を見直しながら、改善を目指して、方針の調整を続けます。まずはご相談ください。
