複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは
診断基準・原因・治療の現状と、漢方・鍼灸でできること
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、骨折・捻挫・手術などのあと、傷が治る時期を過ぎても、手足に強い痛み、腫れ、皮膚の変化、動かしにくさが続く病気です。
痛みは気のせいや性格の問題ではなく、神経・免疫・血流・脳の働きの変化が関わる身体の病気として、研究が進んでいます。診断は、症状と診察の所見をもとに、国際的な診断基準(Budapest基準)で行います。
このページでは、診断基準、症状、発症のメカニズム、現在の治療とその限界を、2025〜2026年の研究も含めて整理します。そのうえで、中医学の見方と、漢方・鍼灸でタナココが取り組むことをご説明します。
最終更新日:2026年11月3日
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の理解と、漢方・鍼灸によるサポート
CRPSとは:外傷や手術のあと、手足の一部で、強い痛み・腫れ・皮膚の色や温度の変化・動かしにくさが続く病気です。
診断:問診と診察で、国際的なBudapest基準を用いて行います。この病気だけを確定できる血液検査や画像検査はありません。
経過:発症後の最初の約6か月で改善が進む方が多く、12か月の時点でBudapest基準を満たす方は、研究により14〜27%と報告されています。一方で、痛みや動かしにくさが残る方も多くいます。
現在の治療:中心はリハビリテーション(運動療法)で、薬物療法や神経ブロックなどを組み合わせます。ただし、効果を示す質の高い研究は少なく、2023年のCochraneの総説も、多くの治療でエビデンスが不足していると結論しています。
漢方・鍼灸:CRPSを対象とした質の高い大規模試験はまだ限られています。脳卒中後の肩手症候群(CRPS I型に相当)では、リハビリに鍼灸を加えると痛みと上肢機能が改善したとするメタアナリシスが2025年に報告されています。
タナココ:医療機関での診断と治療を土台に、漢方・鍼灸を併用するかたちで、体質面から改善を支えます。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは何か
複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome、以下CRPS)は、骨折、捻挫、手術、ギプス固定などのあとに、元のケガの程度から予想されるより強く、長く続く痛みが、手足の一部に生じる慢性の疼痛疾患です。痛みに加えて、腫れ、皮膚の色や温度の変化、汗のかき方の変化、関節の動かしにくさ、筋力の低下、皮膚や骨の萎縮などが現れることがあります。
以前は、神経の明らかな損傷がないものを「反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)」、神経損傷を伴うものを「カウザルギー」と呼んでいました。現在は、神経損傷がないものをCRPS I型、あるものをCRPS II型と分類します。近年は、慢性一次性疼痛(それ自体が病気として扱われる慢性の痛み)の一つとして位置づけられています。
日本ペインクリニック学会の診療指針は、CRPSを「一つの疾患というより、複数の機序が関わる病態」と位置づけています。そのため、病期や症状に応じて、治療を一人ひとり組み立てることが勧められています。
CRPSの痛みは、周囲に理解されにくいことがあります。しかし、腫れ、皮膚の色の変化、温度の左右差など、診察で確認できる所見があります。同じ診療指針では、不安や怒りなどの心理的な要因は症状に影響するものの、発症や維持の原因であるという根拠はないと整理されています。CRPSは、気のせいや性格の問題ではありません。
発症頻度は、報告により年間10万人あたり約5〜26人とされています。診断や治療に慣れた医療機関が限られるため、診断までに時間がかかる方もいます。ケガや手術のあとに痛み・腫れ・皮膚の変化が続く場合は、痛みの専門外来などでご相談ください。
診断基準:Budapest基準と国内の判定指標
CRPSの診断は、問診と診察による臨床診断です。この病気だけを確定できる血液検査や画像検査は、現時点ではありません。そのため、国際的には「Budapest基準(ブダペスト基準)」が共通の診断基準として使われています。日本では、これに加えて、厚生労働省研究班の「判定指標」が診療の目安にされています。
1)Budapest基準(国際疼痛学会)
| 項目 | 内容(A〜Dをすべて満たす) |
|---|---|
| A | 原因となった出来事に不釣り合いな、持続する痛みがある |
| B(症状) | 患者さんの訴えとして、下の4つの分類のうち3つ以上で、1つ以上の症状がある |
| C(徴候) | 診察のときに、下の4つの分類のうち2つ以上で、1つ以上の徴候が確認できる |
| D | ほかの診断では、症状と徴候を説明できない |
感覚
- 訴え:触れたときの過敏、軽い刺激でも痛む(アロディニア)
- 診察:痛覚過敏、アロディニアの確認
血管運動
- 訴え:皮膚温の左右差、皮膚の色の変化
- 診察:皮膚温の左右差、皮膚の色の変化・左右差の確認
発汗運動/浮腫
- 訴え:腫れ、汗のかき方の変化・左右差
- 診察:腫れ、汗のかき方の変化・左右差の確認
運動/栄養
- 訴え:動かせる範囲の低下、力が入りにくい、ふるえ、筋肉のこわばり(ジストニア)、毛・爪・皮膚の変化
- 診察:可動域の低下、筋力低下、ふるえ、ジストニア、毛・爪・皮膚の変化の確認
臨床用のBudapest基準は、2010年の検証研究(CRPS I型113人、CRPS以外の神経障害性疼痛47人)で、感度0.99、特異度0.68と報告されています。診断を見逃しにくい一方で、他の病気をCRPSと判断する可能性が残るため、D項目(他の診断の除外)が重要になります。研究用の基準は、B(症状)を4つすべての分類で満たす必要があり、特異度は0.79でした。
2021年のバレンシア合意(国際疼痛学会の専門家会議)では、基準の文言は変えずに、運用上の曖昧さが整理されました。たとえば、症状が複数の肢に広がった場合は肢ごとに基準を当てはめること、かつて基準を満たし、現在は一部の特徴が軽快している方を「一部の特徴が寛解したCRPS」に分類することが示されました。2025年には、米国インターベンショナル疼痛医学会(ASIPP)が、慢性期のCRPSに関するガイドラインを公表しています。
2)日本の判定指標(厚生労働省研究班)
日本では、2008年に厚生労働省研究班が「CRPS判定指標」を作成しました。診断基準ではなく「判定指標」とされているのは、CRPSが単一の疾患ではなく、複数の病態の集まりと考えられているためです。
| 臨床用 | 研究用 | |
|---|---|---|
| 自覚症状(病気のいずれかの時期に) | 下の5項目のうち2項目以上 | 下の5項目のうち3項目以上 |
| 他覚所見(診察時) | 下の5項目のうち2項目以上 | 下の5項目のうち3項目以上 |
| 感度・特異度 | 感度82.6%、特異度78.8% | 感度59%、特異度91.8% |
① 萎縮性変化:皮膚・爪・毛のいずれかの変化
② 関節可動域の制限
③ 痛み:自覚症状では、持続性または不釣り合いな痛み、しびれたような・針で刺すような痛み、知覚過敏。他覚所見では、アロディニア(触刺激や熱刺激による)または痛覚過敏(ピンプリックによる)
④ 発汗の亢進または低下
⑤ 浮腫(腫れ)
臨床用は、治療方針の決定や、専門医療機関への紹介を判断する目的で作られました。研究用は、均一な患者群を対象にする臨床研究のためのものです。この指標は、補償や訴訟の判断、重症度の判定には使いません。
3)診断の進め方
① 問診:受傷や手術の経過、痛みの性質、腫れ・皮膚の色・汗の変化、動かしにくさ、治療歴を確認します。
② 診察:腫れ、皮膚の色や温度の左右差、発汗、関節の動き、筋力、触刺激への反応(アロディニア)を確認します。
③ 他の原因の除外:骨折の未治癒、神経の圧迫、血流の障害、感染、関節炎などが残っていないかを確認します。ギプス固定中に腫れや痛みが強くなった場合は、ただちに固定の確認・調整が必要です。
④ 補助的な検査:X線や骨シンチグラフィなどは、骨の変化の確認や他の病気の除外に用いられます。これらだけでCRPSと確定することはできません。
⑤ 経過の確認:病期によって症状が変わるため、診察を重ねながら評価します。
急に腫れて熱を持つ、発熱を伴う、赤みが急速に広がる、片方のふくらはぎだけが腫れて痛む、といった場合は、感染や血栓などの可能性があります。CRPSかどうかにかかわらず、早急に医療機関を受診してください。
症状:痛みだけでなく、皮膚・血流・動きにも現れます
CRPSの症状は、痛みに加えて、皮膚、血流、汗、筋肉、関節、骨に及びます。痛みの範囲は、特定の神経や皮膚の支配領域に一致しないことが特徴です。症状の現れ方や強さには、個人差があります。
痛みと感覚の変化
焼けるような、刺すような持続する痛み。軽く触れる、衣服や風が当たるといった刺激でも痛む(アロディニア)。通常は軽い痛みの刺激を、強く感じる(痛覚過敏)。しびれたような感覚。
皮膚・血流・腫れの変化
腫れ(浮腫)。皮膚の色の変化(赤み、紫色、白っぽさ)。皮膚温の左右差(熱い、または冷たい)。汗が増える、または減る。皮膚・爪・毛の変化。
動き・筋肉・骨の変化
関節が動かしにくい、可動域の低下。力が入りにくい(筋力低下)。ふるえ、筋肉のこわばり(ジストニア)。骨が薄くなる変化(骨萎縮)。手足を使う動作が難しくなる。
発症してから間もない時期は、熱感、赤み、腫れなど、炎症に似た症状が目立つことがあります。時間が経つと、炎症の所見は弱まり、皮膚が冷たく感じられる、皮膚の変化や関節の拘縮が目立つ、といった傾向がみられることがあります。ただし、病期の進み方には個人差が大きく、日本の診療指針でも、病態は症例ごと、罹病期間ごとに変化するとされています。症状が他の肢に広がることもあり、その場合は肢ごとに診断基準を当てはめます。痛みが長く続くことで、睡眠の乱れ、不安、気分の落ち込みなど、生活面への影響が加わることもあります。
発症の頻度と、経過の見通し
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 発症頻度 | 年間10万人あたり約5〜26人の報告 | 研究や地域により幅があります |
| 性別 | 女性に多く、男性の2〜3倍とされます | 年齢は幅広く、若年成人から中高年まで |
| 誘因 | 骨折、捻挫、手術、ギプス固定などの外傷のあと。約10%は誘因がはっきりしません | 脳卒中のあと(肩手症候群)や心筋梗塞のあとにも生じます |
| 好発部位 | 手・手首、足・足首など、四肢の末梢 | 日本の判定指標は、四肢に生じた方を対象に作られています |
| リスク要因 | 女性(特に閉経後)、橈骨遠位端骨折(手首の骨折)や足関節の脱臼骨折・関節内骨折、受傷初期の強い痛み | 関連が弱いとされるもの:不動化(動かさない期間)、心理社会的因子、骨シンチグラフィの陽性 |
| 経過 | 最初の約6か月で改善が大きく、その後は横ばいになる傾向(前向き研究)。12か月の時点でBudapest基準を満たす方は、研究により14〜27% | 診断基準の種類で数字は異なり、従来のIASP(Orlando)基準では、12か月の時点で約3分の2が引き続き基準を満たした研究もあります。12か月以降も、痛みや運動機能の障害が51〜89%の方に残っていたとする系統的レビューがあります |
脳卒中のあとの肩手症候群は、CRPS I型に相当し、脳卒中後の12〜49%に生じるとされています。
上の数字は、「多くの方で、時間とともに改善が進む」ことと、「症状が残る方も少なくない」ことの、両方を示しています。Pain誌(2026年)に掲載された、欧州8施設の早期CRPS(発症から1年以内)の成人251人を1年間追った前向き観察研究では、改善の大部分は最初の3か月に起こり、その後は横ばいになりました。痛みの強さそのものは、1年後の経過を予測する明確な因子ではなく、初期の日常生活への支障の大きさ、四肢の運動の異常(ジストニアなど)、不安、睡眠障害などが関わっていました。身体面と心理社会面の両方が、経過に関わると考えられています。日本ペインクリニック学会の診療指針は、CRPSでは早期の介入が重要であり、治療目標は痛みの緩和よりも機能の回復に置くとしています。
発症のメカニズム
CRPSの原因は、完全には解明されていません。2024年にFrontiers in Pain Researchに掲載された総説は、CRPSを、炎症や免疫などの要因が複雑に関わって生じる全身性の病気と位置づけています。各要因の寄与は、患者さんごとに異なり、同じ患者さんの中でも時間とともに変わりうるとされています。主なものを以下に示します。
1)炎症と神経ペプチド
ケガのあと、傷ついた組織の周囲で神経から神経ペプチド(サブスタンスP、CGRPなど)が放出されます。これらは血管を広げ、血管の透過性を高めて、腫れや熱感を生じさせます(神経原性炎症)。皮膚の角化細胞や免疫細胞からは、TNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが放出されます。通常はケガが治るとともに収まるはずの炎症が、CRPSでは過剰に、または長引いて続くと考えられています。
CRPSの患者さんでは、神経ペプチド(サブスタンスP、CGRP)の血中濃度が、健常な方より高いと報告されています。また、皮膚のTNF-αが、外傷のあと数か月にわたって高い状態が続いたとする報告があります。
2)末梢と中枢の感作
炎症が続くと、痛みを感じる末梢の神経(侵害受容器)が過敏になります(末梢感作)。その刺激が脊髄や脳に伝わり続けると、脊髄や脳の痛みを処理する回路そのものが過敏になります(中枢感作)。動物の研究では、脊髄のミクログリア(グリア細胞の一種)の活性化が示されており、急性期にはミクログリア、慢性期にはアストロサイトが関わる可能性が示唆されています。軽い刺激でも痛む、傷が治っても痛みが続く、といった症状の背景にあります。
3)自律神経と血流の変化
CRPSでは、交感神経系の働きの変化が関わると考えられています。末梢のアドレナリン受容体が代償的に増えることで、血中のカテコールアミン(ノルアドレナリンなど)に対する感受性が高まり、血管の収縮や拡張の調節が乱れるとされています。皮膚の温度や色の変化、発汗の異常は、この自律神経と血流の調節の変化と関連すると考えられています。
4)免疫(自己免疫)の関与
重症で長引くCRPSの患者さんから取り出したIgG抗体を、後ろ足を損傷したマウスに移すと、CRPSの特徴の一部が再現されたとする研究があります。これらから、一部の患者さんでは自己免疫が関わる可能性が指摘されています。ただし、動物での結果であり、自己免疫が主な原因と確定したわけではありません。現在も研究が続いています。
5)脳の変化
CRPSの患者さんでは、画像研究で、脳の一部の領域に変化がみられる可能性が報告されています。たとえば、背側島皮質などで灰白質の体積が減少し、別の領域では増加していたとする報告があります。いずれも「可能性がある」という段階の知見です。痛みが続くなかで、脳が体の感覚や動きを処理する仕組みが変化する(不適応的な可塑性)と考えられています。ミラーセラピーなどのリハビリテーションの方法は、こうした脳の変化に働きかけることを狙ったものです。
6)心理社会的要因との関係
日本の診療指針では、心理社会的な要因がCRPSの発症や維持の原因であるという根拠はないとされています。一方で、不安、怒り、抑うつなどの感情が、痛みの強さや治療への取り組みに影響し、CRPSと相互に作用することは広く認識されています。痛みがつらい時期ほど、気持ちの面への配慮が回復を支えます。
① 外傷・手術・固定:組織の損傷や、不動化(動かさない状態)が起こる。
② 炎症の増強:神経ペプチドや炎症性サイトカインが放出され、腫れ・熱感・痛みが生じる。
③ 末梢感作:痛みを感じる神経が過敏になる。
④ 中枢感作・脳の変化:脊髄や脳の痛みの処理が変化し、傷が治っても痛みが続く。
⑤ 自律神経・血流の変化:皮膚の温度や色、発汗に変化が現れる。
⑥ 症状の持続:痛み、腫れ、皮膚の変化、動かしにくさが続き、使わない期間が長くなるほど、拘縮や筋力低下が進みやすくなる。
これは複数の仕組みを整理した流れで、すべての方が同じ順序をたどるわけではありません。
現在の治療とその限界
日本ペインクリニック学会の診療指針では、CRPSの治療目標は、痛みの緩和よりも機能の回復に置かれています。運動療法が治療の根幹で、その補助として、物理療法、薬物療法、心理療法、神経ブロック、侵襲的治療が、病態に合わせて組み合わされます。
リハビリテーション
- 物理療法:運動療法の前に、温熱、温冷交代浴、低出力レーザーなどで、痛みの緩和や筋肉の緩みを図ります。
- 運動療法:自動運動と他動運動があり、痛みを誘発しにくい方法で、段階的に進めます。運動療法と内服治療の併用は、内服治療のみより鎮痛効果が得られるとされています。アロディニアや痛覚過敏が強い場合は、患部から離れた場所の運動や、自動運動のみから始めることもあります。
- 段階的運動イメージ訓練(GMI)・ミラーセラピー:左右の識別訓練、運動のイメージ、鏡を使った訓練を段階的に行います。CRPS I型で痛みの軽減と機能の改善を示した報告がある一方、多施設の検討では効果がなかったとする報告もあります。
薬物療法・神経ブロック・その他
| 治療 | 位置づけ | 注意点・限界 |
|---|---|---|
| ステロイド(内服・局所) | 熱感や腫れなど炎症が目立つ急性期に検討されます。2025年の系統的レビューでも、短期的な痛みの軽減と機能改善が、特に早期や脳卒中後で示されています | 効果は短期的な報告が中心です。浮腫が改善すれば中止します |
| NSAIDs | 炎症の関与が考えられる急性期に検討されます | 無効とする報告もあり、効果がなければ中止します |
| ビスホスホネート製剤 | 骨萎縮を伴う、比較的早期のCRPS I型で有効性を示す報告が複数あります。発症4か月以内のI型で、ネリドロネートの有効性を示したランダム化試験があります | エビデンスの水準は高くありません |
| ガバペンチン・プレガバリン・三環系抗うつ薬 | 神経障害の存在が疑われる場合に検討されます | CRPSに対するエビデンスは乏しく、ガバペンチンも有効性の報告はあるものの証拠は弱い。中枢神経系の副作用に注意が必要です |
| オピオイド | トラマドールを除き、使用は勧められていません | CRPSでの効果の報告がほとんどなく、長期使用の副作用が懸念されます |
| ケタミン | 治療抵抗性のCRPSで、有効の報告があります | 2026年のメタ解析(21研究・605人、うちランダム化試験3)では、14日以内の最初の評価で痛みが平均3.6点低下しましたが、効果は早期に強く、経過とともに弱まる傾向があり、多くの研究でバイアスのリスクが中〜高とされています |
| 神経ブロック | 交感神経ブロック、硬膜外ブロック、末梢神経ブロックなどが、リハビリと併用して行われます | 質の高いランダム化試験が少なく、エビデンスは十分に確立されていません。効果を見ながら継続か中止かを決めます |
| 脊髄刺激療法 | 有効とする報告が複数あります。2024年12月の系統的レビュー(ランダム化試験のみ)でも、脊髄刺激と脊髄後根神経節刺激で有意な痛みの軽減が示されています | 長期の追跡では効果が弱まる報告があり、デバイスに関連する合併症にも注意が必要です |
| 心理療法 | 認知行動療法、リラクセーション、バイオフィードバックなどが検討されます | CRPSに限ったランダム化試験はほとんどありません |
最近の研究としては、2026年に、脳卒中後のCRPSを対象としたランダム化比較試験が報告されました。通常のリハビリに、圧迫を用いた物理療法(コントラスト圧迫療法)を加えると、腫れと動作時の痛みが短期的に改善しました。一方で、神経障害性の痛み、機能、運動の回復には差がありませんでした。経頭蓋磁気刺激、脳深部刺激、カンナビノイドなどの臨床試験も進められており、新しい選択肢の研究は続いています。
治療の限界
エビデンスの不足:2023年のCochraneの総説(系統的レビューの総説)は、成人のCRPSの治療の多くで、利益とリスクを示す質の高いエビデンスが著しく不足していると結論しています。複数の治療が同時に行われるため、個々の治療の効果を検証しにくいことも背景にあります。
客観的な検査がないこと:診断が臨床基準に頼るため、診断までに時間がかかることがあります。治療の効果を測る客観的な指標も限られています。
効果が一時的、または弱まる治療があること:ケタミンや脊髄刺激療法のように、効果が経過とともに弱まる報告のある治療があります。
病態の個人差:病態が患者さんごと、時期ごとに異なるため、同じ治療がすべての方に合うわけではありません。
運動療法を進めにくいこと:治療の根幹である運動療法は、痛みや、痛みへの恐れのために、進めにくいことがあります。痛みを和らげながら、運動に取り組める状態をつくることが課題です。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
CRPSに対する西洋医学と中医学のアプローチの違いを整理します。両者は対立するものではなく、診断と治療の土台を西洋医学に置き、体質面のサポートを中医学で補う、という組み合わせが現実的です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 炎症、神経の感作、自律神経の変化、免疫、脳の変化などの病態を、診察や研究データで評価する | 気・血・水の巡りの滞り(瘀血・水滞・気滞)や、冷え、気血の不足といった体質の偏りとして、全体像を把握する |
| 治療の目標 | 機能の回復、痛みの軽減、腫れや拘縮の改善 | 巡りを整え、痛みを和らげ、リハビリに取り組みやすい体の状態をつくる。冷え・腫れ・睡眠・不安など、周辺の症状も同時に整える |
| 主な手段 | 運動療法、薬物療法、神経ブロック、脊髄刺激療法、心理療法 | 弁証に基づく漢方処方、鍼灸(患部の状態に応じて、離れたツボや温熱刺激も用いる) |
| 長所 | 診断基準が明確。急性期の炎症や強い痛みへの対応力がある。機能回復のためのリハビリの体系がある | 症状の全体像を見て調整できる。リハビリや薬物療法と併用しやすい。刺激量や処方を細かく調整できる |
| 限界・課題 | 多くの治療でエビデンスが不足している。効果が一時的な治療がある。病態の個人差が大きい | CRPSを対象とした質の高い大規模試験が限られている。個人差が大きい。診断と除外診断は医療機関で行う必要がある |
中医学から見たCRPS
「複合性局所疼痛症候群」という病名は、現代医学の分類で、中医学にそのままの名称はありません。しかし、中医学は、痛み、腫れ、冷え、皮膚の色の変化、筋肉や皮膚の萎縮といった症状を、長い臨床の歴史のなかで「痺証(ひしょう)」「痛証」などとして捉え、体質に合わせた対応を発展させてきました。
中医学には、気・血・水の巡りが滞ると痛みが生じる(不通則痛)という考え方があります。CRPSでは、外傷のあとに発症することが多く、腫れや皮膚の色の変化、冷え、慢性化に伴う萎縮が現れます。これらを、血の滞り(瘀血)、水の滞り(水滞)、冷え(寒凝・陽虚)、気の滞り(気滞)、気血の不足、腎の衰え(腎虚)といった観点から整理します。脈診・舌診・腹診・問診による総合分析(弁証)で、その方の体質のパターンを見立てて、処方と施術の方針を決めます。
外傷や手術のあとの血の流れの滞り。刺すような固定した痛み、皮膚の暗い色や色調不良、夜間に強い痛み、舌の下の静脈の怒張や舌の暗紫色が目安になる。桂枝茯苓丸、疎経活血湯、治打撲一方、便秘を伴う場合は通導散などが検討される。
体の水分の巡りの停滞。腫れ・むくみ、重だるさ、湿度や雨の日の悪化、関節の腫れが目立つ。防已黄耆湯、五苓散、当帰芍薬散などが検討される。水滞は気血の異常に起因するため、気剤や駆瘀血剤を併用することもある。
患肢の冷え、寒さや冬の悪化、温めると楽になる、皮膚の色が白っぽい・紫がかる。慢性期にみられやすい。当帰四逆加呉茱萸生姜湯、苓姜朮甘湯などが検討される。冷えが強い場合は、附子(ぶし)を含む真武湯なども検討される。
痛みへの緊張、ストレス、睡眠不足で悪化する。筋肉のこわばり、ふるえ、いらだち、不安を伴う。四逆散、抑肝散、加味逍遙散、半夏厚朴湯などが検討される。
経過が長く、疲れやすい、食欲がない、顔色が優れない、筋肉や皮膚が痩せてくる。補気養血を目的に、十全大補湯、補中益気湯、当帰芍薬散や四物湯を含む処方などが検討される。
慢性的な経過で、腰や膝の弱り、骨の脆さ、冷え、夜間の頻尿を伴う。中医学では、骨や関節の状態を腎と関連づける。牛車腎気丸、八味地黄丸などが検討される。
| 時期の目安 | 体表の特徴 | 中医学的な整理と方向性 |
|---|---|---|
| 発症して間もない時期 | 熱感、赤み、腫れ、強い痛み、触れられない | 瘀血と水滞が中心。血と水の巡りを整える方向。患部への刺激は控えめにする |
| 慢性期 | 冷え、皮膚の変化、関節の拘縮、筋肉の萎縮、疲れやすさ | 寒凝・陽虚、気血両虚、腎虚が加わりやすい。温めて気血を補う方向 |
上の表と型は、中医学的な整理の一例です。実際には、瘀血と水滞に冷えが重なるなど、複数が組み合わさることが多く、時期によっても変わります。ここに挙げた処方は、日本の臨床で痛みに対して用いられてきたもので、効果を保証するものではありません。処方の選択と用量は、年齢、体格、体質、症状、服薬状況に応じて個別に判断します。附子や甘草を含む処方は、症状や併用薬に応じた確認が必要です。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
脳卒中後の肩手症候群(CRPS I型に相当)への鍼灸
脳卒中後の肩手症候群は、CRPS I型に相当します。2025年にFrontiers in Neurologyに報告されたメタアナリシス(47研究、4,129人)では、通常のリハビリに鍼を併用した群で、上肢のFugl-Meyer評価(運動機能)が平均9.50点、痛みのVASが平均1.49点、リハビリのみの群より改善していました。有害事象の発生に有意な差はありませんでした。同じ2025年に、鍼灸(灸を含む)とリハビリの併用を評価したメタアナリシスも報告されています。ただし、対象は脳卒中後の方で、外傷後のCRPSにそのまま当てはまるとは限りません。
CRPS全体を対象としたレビュー
2024年に公表された、CRPSの治療に関する系統的レビュー(Current Physical Medicine and Rehabilitation Reports)では、鍼灸について、偽鍼との比較で痛みの強さに差がなかった研究がある一方、電気鍼で痛みと機能が改善したとする研究も紹介されています。結果は研究ごとに異なり、限定的に読む必要があります。このレビューは、理学療法、作業療法、ミラーセラピー、鍼灸、TENS(経皮的電気神経刺激)などの保存的治療から始めることを勧めています。
慢性の痛み全般に対する鍼灸・漢方
CRPSを対象とした研究ではありませんが、非特異的な筋骨格系の痛み、変形性関節症、慢性頭痛、肩の痛みを対象とした個人患者データのメタアナリシス(Vickers、2018年)では、鍼は、偽鍼よりも、無治療よりも、痛みを軽減していました。偽鍼との差は小さく、無治療との差は大きいと報告されています。また、治療効果の低下は、1年の時点で約15%にとどまりました。日本の「慢性疼痛診療ガイドライン」(2021年)では、鍼灸は「施術することを弱く推奨する」とされ、漢方治療も「弱く推奨」の評価です。これらは慢性の痛み全般の結果で、CRPSにそのまま当てはまるとは限りません。
基礎研究:ツボと神経・免疫の関係
2021年にNature誌に報告されたマウスの研究では、後ろ脚の足三里(ST36)への低強度の電気刺激が、迷走神経と副腎を介した抗炎症の経路を働かせること、この経路に、深部の筋膜を支配する感覚神経(PROKR2陽性)が関わることが示されました。腹部の天枢(ST25)では同様の反応が得られず、ツボの場所による違いに神経解剖学的な根拠がある可能性が示されています。CRPSを対象とした研究ではありませんが、炎症と神経の関わりが病態にあるCRPSを考えるうえで、参考になる知見です。
漢方・鍼灸の臨床報告(症例報告)
- 日本(漢方):日本ペインクリニック学会誌に、帯状疱疹関連痛にCRPSを併発した症例の報告があります。硬膜外ブロックとミロガバリンに防已黄耆湯を併用して腫れや熱感が改善し、舌の下の静脈の怒張から瘀血と判断して桂枝茯苓丸を追加したところ、痛みは数値評価(NRS)で1以下となり、色調不良も改善して、ゴルフや散歩を再開できるまで回復したと報告されています。
- 韓国(鍼灸・漢方):2023年のWorld Journal of Clinical Casesに、左下肢のCRPSの35歳女性の報告があります。車椅子で来院した方に、鍼、灸、薬鍼、煎じ薬を約20回行い(通常の医療との併用)、痛みのVASが7点低下し、腫れと皮膚の変色が徐々に改善しました。5か月後の電話での確認では、さらに改善がみられました。
- 米国(頭皮鍼):傷病を負った兵士のCRPS 2人に頭皮鍼を行い、痛みの緩和と、機能・感覚の回復がみられたとする症例報告があります。
いずれも少数の症例報告で、効果を確立するものではありません。また、日本のCRPSの専門書にも「CRPSに対する漢方治療の実際」という章があるなど、漢方が臨床の現場で用いられてきたことがうかがえます。
進行中の研究
脳卒中後のCRPSを対象とした鍼灸の試験が、複数計画されています。北京中医医院では、火鍼と毫鍼(通常の鍼)を比較するパイロットのランダム化試験が2023年に始まりました。2025年には、経絡理論に基づく鍼(Yuan-Luo Da-Jie-Jing法)と経頭蓋磁気刺激を組み合わせた、3群のランダム化試験(各群42人)の計画が公表されています。電気鍼の試験もカイロ大学で登録されています。CRPSに対する鍼灸の研究は、計画や登録が続いています。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
CRPSは時間のかかる病気ですが、早い時期に改善が進む方が多いこと、慢性期でも機能を高める取り組みがあること、新しい研究が続いていることは、事実です。タナココは、CRPSの改善を目指して、漢方と鍼灸でできることを一つずつ確かめながら、最後まで取り組みます。診断と治療を行う医療機関での診療を土台に、体質面から改善を支えます。
タナココの漢方では、瘀血・水滞・冷え・気滞・気血の不足・腎虚といった体質の偏りを、脈診・舌診・腹診・問診で見立て、痛みを和らげ、リハビリに取り組みやすい体の状態を整えることを目指します。腫れが目立つ時期、冷えが強い時期、睡眠や気持ちの面の負担が大きい時期など、状態に合わせて処方を選びます。
主な処方の方向性:血の滞りには桂枝茯苓丸・疎経活血湯、水の滞りには防已黄耆湯・五苓散、冷えには当帰四逆加呉茱萸生姜湯・苓姜朮甘湯、気の滞りには四逆散・抑肝散、気血の不足には十全大補湯・補中益気湯などを、単独ではなく組み合わせて検討します。
薬剤師が、現在の処方薬、持病、妊娠の有無を確認します。甘草による血圧・電解質・むくみへの影響、附子を含む処方の使い方、抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の場合の注意点などを、あらかじめ確認したうえでご提案します。服用中の薬を、自己判断で中止しないでください。
鍼灸では、痛みを和らげ、血流や筋緊張、睡眠の状態を整えることで、リハビリテーションに取り組みやすい状態をつくることを目指します。治療の中心は運動療法ですので、鍼灸は、それを支える位置づけで行います。
アロディニア・痛覚過敏が強い時期:患部に直接触れる刺激は避け、離れた部位、反対側、体幹のツボから、弱い刺激で始めます。体の反応を見ながら、刺激の部位と量を段階的に調整します。
状態が落ち着いてきた時期:患部の周囲の圧痛点や、経絡上のツボを加えます。冷えが強いタイプでは、お灸などの温熱刺激も検討します。熱感や腫れが強い時期のお灸は控えます。
用いるツボの例:足三里(気血を補い、全身を調整する)、三陰交(血の巡りや冷えの調整)、合谷・曲池・外関(上肢の痛みや緊張)、太衝(気の巡りを整え、緊張を緩める)、陽陵泉(下肢の筋や関節)。症状や体質に合わせて選びます。
変化が小さい時期でも見逃さないように、次の項目を記録して、定期的に見直します。
記録する項目:痛みの強さ(数値評価)、腫れ、皮膚の色・温度、関節の動く範囲、睡眠、日常の活動量、気分の状態。
見直し:数か月単位で経過を確認し、変化が停滞している場合は、体質の見立て、処方、施術の内容を見直します。
連携:ご本人の同意のもとで、主治医やリハビリ担当者と情報を共有します。診断がついていない段階では、先に医療機関の受診をご案内します。
ご相談の流れ
① 現状のお話を伺います:受傷や手術の経過、診断名、現在の治療、服薬、痛みや腫れ、皮膚の状態、睡眠、生活で困っていることを伺います。
② 体質を見立てます:脈診・舌診・腹診などで、体質のパターンを確認します。
③ 方針をご提案します:漢方・鍼灸の方針と、通院の目安、医療機関との連携の方法をご説明します。
④ 経過を記録し、見直します:変化を確認しながら、処方と施術を調整します。
「診断を受けて治療中だが、痛みが残っている」「リハビリを進めたいが、痛みで続けにくい」「病院の治療に加えて、できることを探したい」「診断がつくまでの間、何をすればよいか知りたい」。どのような段階でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理面の両方から、一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは、どのような病気ですか?
CRPSは治りますか?
CRPSの診断基準を教えてください。
CRPSは何科を受診すればよいですか?
CRPSの原因は何ですか?気のせいや心の病気ではないのですか?
漢方・鍼灸はCRPSに効きますか?
病院の治療と併用できますか?
触れられるだけで痛い(アロディニア)のですが、鍼灸は受けられますか?
どのくらい通えばよいですか?
発症から時間が経っていても相談できますか?
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の改善に向けて、取り組める選択肢があります
CRPSは、診断がつくまでに時間がかかったり、痛みが周囲に理解されにくかったりして、つらい思いをされている方が多い病気です。痛みは気のせいではなく、神経・免疫・血流・脳の働きの変化が関わる病気として、研究が進んでいます。
経過には個人差がありますが、発症後の早い時期に改善が進む方が多いこと、慢性期でも機能の向上を目指した治療が行われていること、2025〜2026年にも新しい研究が報告されていることは、事実です。
漢方と鍼灸は、CRPSを対象とした大規模な研究がまだ少ないため、「必ず効く」とは申し上げません。そのうえで、血の滞り、水の滞り、冷え、気血の不足といった体質面の偏りを整え、痛みを和らげて、リハビリに取り組みやすい状態をつくることを、私たちは目標にしています。
病院での治療を続けながらの併用も、診断を受ける前のご相談も可能です。評価と記録を重ねながら、改善につながる点を一つずつ確かめ、経過が進まない時期には見立てを見直します。CRPSの改善に向けて、漢方と鍼灸でできることを、最後まで検討し続けます。まずは、今の状態をお聞かせください。
