剥離性炎症性腟炎(DIV)とは──
診断のポイントと、体質から整えるアプローチ
黄色いおりものが長く続く。腟がひりひりして痛む。性交のたびに痛みが出る。カンジダや細菌性腟症の治療を受けても症状が変わらず、検査でも原因がはっきりしない——そのような経過の背景に、剥離性炎症性腟炎(DIV)があることがあります。
DIVは、腟の粘膜に非感染性の炎症が続く病気です。診断には腟分泌物の顕微鏡検査が重要で、頻度の低い病気であるため、診断までに時間がかかる方も少なくありません。
このページでは、診断基準・症状・発症の仕組み・現在の治療とその課題を、海外の研究報告をもとに整理します。そのうえで、婦人科での治療と並行して、漢方・鍼灸によって体質の面から回復を支える方法をご説明します。
最終更新日:2026年11月2日
剥離性炎症性腟炎(DIV)の理解と体質へのアプローチ
剥離性炎症性腟炎(DIV)とは何か
剥離性炎症性腟炎(Desquamative Inflammatory Vaginitis、以下DIV)は、腟の粘膜に炎症が続き、黄色から黄緑色の膿のようなおりものが増え、腟のひりつきや灼熱感、性交痛などが起こる慢性の腟炎です。「剥離性」という名称は、腟の表面の細胞が剥がれ落ちやすくなり、その下にある未熟な細胞(傍基底細胞)が分泌物の中に多くみられることに由来します。
カンジダ腟炎・細菌性腟症・トリコモナス腟炎は、特定の病原体や菌のバランスの乱れが主な原因となる腟炎です。これに対しDIVは、感染症とは考えられていない、非感染性の炎症性腟炎として扱われています(UpToDate、2025年2月更新)。そのため、カンジダや細菌性腟症の治療を受けても症状が変わらず、経過が長引く方がいます。
- DIVは、腟粘膜の慢性的な炎症です。主な症状は、黄色〜黄緑色のおりもの、腟のひりつき・灼熱感、性交痛です。
- 診断は、腟のpH測定・顕微鏡検査・他の腟炎の除外によって行います。培養検査だけでは診断が決まりません。
- 原因は特定されていません。免疫の関与、腟内細菌叢の変化、エストロゲンの低下などが関係すると考えられています。
- 治療は、腟内へのクリンダマイシンまたはステロイドが中心です。多くの方で症状が軽くなる一方、治療をやめると再燃することが多い病気です。
- 中医学では帯下病の範囲で体質の偏りを整理し、婦人科の治療と並行して、再燃しにくい状態を支える漢方・鍼灸を行います。
名称の歴史をたどると、1965年にGrayとBarnesが「desquamative inflammatory vaginitis」という名称を用い、1968年にGardnerが症例を整理し、1994年にSobelが51例の報告(American Journal of Obstetrics and Gynecology)で臨床像と治療への反応をまとめました。その後も報告は限られており、2013年8月時点の英語論文は29本にとどまるとされています(Reichman & Sobel、2014年)。
頻度が低く、医療者にも十分に知られていないため、正しい診断がつくまでに月単位から年単位の時間がかかる方がいます(Vieira-Baptistaら、2023年)。
Dondersらが2002年に定義した好気性腟炎(Aerobic Vaginitis、AV)は、乳酸桿菌が減り、大腸菌やレンサ球菌などの好気性菌が優勢になって炎症が起こる状態です。そのうち最も重い型がDIVに相当する、とみなす考え方があります。一方で、AV/DIVは国際的に統一された疾患概念として確立しているわけではない、という指摘もあります(Vieira-Baptistaら、2023年)。
なお、「腟」は「膣」と書かれることもあります。医学用語としては「腟」が用いられるため、このページでは「腟」で表記します。
診断基準と鑑別が必要な病気
DIVには、国際的に統一された診断基準はありません。報告の多いSobelらの定義(2011年、Obstetrics & Gynecology)と、その後の総説(Reichman & Sobel、2014年)をもとに、次の要素を組み合わせて診断します。診断は、他の腟炎を除外して行う「除外診断」です。
診断の条件
- 症状:おりもの、性交痛、かゆみ、灼熱感、刺激感のいずれかがある
- 所見:腟粘膜に炎症(発赤、点状出血、びらんなど)がある
- 腟pHが4.5を超える
- 顕微鏡検査で 傍基底細胞と白血球が増加 している(白血球が上皮細胞より多い)
- トリコモナス・カンジダ・細菌性腟症などの感染がない
顕微鏡検査の特徴
- 乳酸桿菌(腟内を酸性に保つ菌)が少ない、またはみられない
- 球菌(ときに連鎖状)が優勢である
- 傍基底細胞(腟の深い層の未熟な細胞)が目立つ。閉経前の方でもみられる
- 白血球が多く、活性化した「毒性白血球」が目立つ
- 細菌性腟症でみられるクルー細胞はみられない
診断に使われる検査
① 腟pHの測定: 4.5を超えます。5以上になることが多く、7〜8に達する場合もあります。
② 湿式顕微鏡検査(ウェットマウント): 採取した腟分泌物を生理食塩水で薄めて観察します。診断の中心になる検査で、位相差顕微鏡を用いることが望ましいとされています(Vieira-Baptistaら、2023年)。
③ 核酸増幅検査(NAAT): 重症が疑われる場合は、顕微鏡でトリコモナスが見つからなくても、核酸増幅検査でトリコモナスを除外することが勧められています。淋菌・クラミジアの検査も、必要に応じて行われます。
④ 培養検査: 感染と単なる保菌を区別できず、治療方針の決定にも役立たないため、DIVの診断には勧められていません(Vieira-Baptistaら、2023年)。
⑤ 組織検査(生検): DIVでは非特異的な所見にとどまることが多く、通常は必要ありません。扁平苔癬など他の病気が疑われる場合に検討されます。
鑑別が必要な病気
| 病気 | DIVとの違い | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 細菌性腟症 | 炎症細胞が少なく、クルー細胞がみられる。アミン臭(魚のような臭い)が陽性になることが多い | 顕微鏡検査、アミン臭テスト |
| カンジダ腟炎 | 酵母や菌糸がみられ、腟pHは通常4.5以下 | 顕微鏡検査、培養 |
| トリコモナス腟炎 | 腟壁の点状出血などDIVに似た所見を示す。トリコモナス原虫が検出される。ニトロイミダゾール系の薬が効く(DIVでは効かない) | 顕微鏡検査、核酸増幅検査 |
| 淋菌・クラミジア感染 | 子宮頸管炎が主体で、腟分泌物の白血球が増えることがある | 核酸増幅検査 |
| 萎縮性腟炎 | 閉経後・授乳中などのエストロゲン低下で起こる。顕微鏡所見はDIVと似るが、エストロゲンの腟内投与で改善することが多い | 病歴、治療への反応 |
| 腟扁平苔癬 | 粘膜のびらんや癒着を伴い、口腔など他の粘膜にも病変がみられることがある | 診察、必要に応じて生検 |
| 化学的・アレルギー性腟炎、A群レンサ球菌による腟炎 | まれな原因。洗浄剤や製品の使用歴、培養で判断する | 問診、培養 |
症状と所見が他の腟炎と似ていること、診断に顕微鏡検査と除外診断が必要なこと、そして病気自体が十分に知られていないことが、診断が遅れる主な理由です。顕微鏡検査が使えない場合には、病歴、診察所見、病原体検査の陰性、治療への反応を組み合わせて診断する方法も提案されています(Bradford & Fischer、2010年)。
症状:おりもの・痛み・生活への影響
症状の種類と程度には個人差があります。おりものの変化が主な方もいれば、性交痛や腟の痛みが中心の方もいます。
おりもの・腟の症状
黄色〜黄緑色で膿のようなおりものが、量が多い状態で続く。悪臭は目立たないことが多い。腟や外陰部のひりつき・灼熱感・刺激感。かゆみ。腟の粘膜が薄く乾燥してみえることもある。
痛み・出血
性交痛。排尿時の痛み。腟の入口(腟前庭)の痛みや発赤。少量の出血。
生活・心理面への影響
性交痛のために、性生活やパートナーとの関係に影響が及ぶことがある。症状が長引くことで、下着や日常動作での不快感、睡眠の質の低下、先が見えない不安につながる方もいる。
腟壁の発赤、点状出血、びらん、黄色の分泌物がみられます。子宮頸部や腟前庭にも炎症が及ぶことがあり、重症例では腟の上部や子宮頸部の表面に、剥離や出血がみられます(Vieira-Baptistaら、2023年)。
次のような場合は、DIV以外の病気(骨盤内炎症性疾患、性感染症、腫瘍性の病気など)が隠れている可能性があるため、まず婦人科で診察と検査を受けてください。
- 発熱や下腹部痛を伴う
- 性交後や閉経後に出血がある
- 悪臭の強いおりものがある
- 妊娠中、または妊娠の可能性がある
- 市販のカンジダ治療薬を使っても症状が変わらない、または繰り返す
頻度と経過
DIVは頻度の低い病気で、正確な患者数は分かっていません。専門外来の報告を中心に、次のような数字が示されています。
| 項目 | 報告されている数字 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 外陰腟症状の専門外来での割合 | 0.8〜4.3% | 専門外来を受診した方の割合で、一般の方の頻度ではない(受診者の偏りを含む)。Sobelらの報告では3,000例中130例(4.3%) |
| 好発年齢 | 平均48.6歳(Sobelら、2011年) | 約半数が閉経後。更年期前後に多いが、どの年代でも起こり得る |
| 治療への反応 | 3週間以内に症状が軽減した方が86% | Sobelらの98例の解析(クリンダマイシンまたはヒドロコルチゾンの腟内投与) |
| 再燃 | 6週間以内に約3分の1、26週間以内に43.4% | 治療を中止した後の再燃 |
| 1年後の経過 | 治癒と判断された方は26% | 維持療法の必要性が高い病気であることを示す数字 |
| 診断までの期間 | 月単位〜年単位 | 診断が遅れやすく、その間に他の腟炎の治療を繰り返す方がいる |
初期治療で多くの方が改善することは確かです。一方で、治療を中止すると再燃しやすく、維持療法や誘因の見直しが必要になる方が多いことも報告されています。「良くなっても、やめると戻る」という経過は、DIVでは珍しくありません。
長期にわたって炎症が続くと、腟の癒着や狭窄を生じる方がいるとされています(Oates、1990年)。早めの診断と治療が大切です。また、細菌性腟症とDIVは、いずれも骨盤内炎症性疾患のリスクを高めると報告されています(Paavonen & Brunham、2018年)。
DIVは、閉経や卵巣機能の低下などでエストロゲンが少ない状態の方に、発症・再発しやすいとされています(Merck Manual Professional Edition、2026年7月)。一方で、閉経前や卵巣機能が保たれている方にも起こります。エストロゲンの腟内投与は、閉経後の方で寛解を保つために補助的に用いられることがありますが、DIVに対する追加の効果は十分には示されていません(Sobelら、1994年/Vieira-Baptistaら、2023年)。
発症のメカニズム
DIVの原因は、現時点で特定されていません。免疫、腟内細菌叢、ホルモン、粘膜の脆弱性が重なって起こる、多因子の病態と考えられています。
1)免疫の関与
抗菌薬だけでは改善が不十分なことがある一方、クリンダマイシン(抗菌作用に加えて抗炎症作用をもつ)やステロイドなどの抗炎症治療によく反応することから、DIVは免疫が関わる炎症と考えられています(Reichman & Sobel、2014年)。
腟分泌液では、炎症に関わるIL-1βやIL-6が増えていることが報告されています(Dondersら、2002年)。また、自己免疫疾患との併存も報告されています。Sobelらの報告では甲状腺疾患の既往が23%、Songらの報告ではDIV 33例のうち約3割に免疫機能の異常(甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病など)がみられました(2022年)。クローン病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(リツキシマブ治療中)に伴うDIVの症例報告もあります。
一部のDIVは、扁平苔癬など粘膜の自己免疫性疾患の一つの現れ方ではないか、という見方もあります(Edwards & Friedrich、1988年/Murphy、2004年)。
2)腟内細菌叢の変化
DIVでは、腟内を酸性に保つ乳酸桿菌が減り、B群レンサ球菌・大腸菌・黄色ブドウ球菌などが優勢になる傾向があります(Sobel、1994年/Vieira-Baptistaら、2023年)。
ただし、これらの菌が原因なのか、炎症の結果として増えているのかは分かっていません。好気性腟炎の腟内細菌叢を詳しく調べた研究では、炎症が起きた環境に二次的に増えている可能性が指摘されています(Oerlemansら、2020年)。このため、乳酸菌製剤(プロバイオティクス)は、変化した腟内環境では定着しにくく、有用とは限らないとも考察されています(Vieira-Baptistaら、2023年)。
3)エストロゲンの低下と粘膜の脆弱性
閉経後や卵巣機能不全など、エストロゲンが少ない状態では、腟の上皮が薄くなり、炎症を起こしやすくなります。DIVが閉経前後に多いことと一致します。一方で、卵巣機能が保たれている方にも発症し、顕微鏡所見が萎縮性腟炎と似ていても、エストロゲンの腟内投与だけでは改善しにくいとされることから、ホルモン以外の要因も関わると考えられています(Gardner、1968年/Oates、1990年)。
4)誘因・背景因子
Bradford & Fischerの101例では、56%で誘因が特定され、最も多かったのは下痢(16%)と、長期・高用量の抗菌薬の点滴(15%)でした(2010年)。免疫抑制療法は3%でした。
米国の腟炎専門外来での症例対照研究では、DIVの方に、細菌性腟症・カンジダ腟炎・骨盤内炎症性疾患の既往などが多いことが示されています(Newbernら、2002年)。ただし、これは関連を示すもので、原因を示すものではありません。
※以下は、現在の知見から整理した仮説であり、確立した機序ではありません。
① 誘因: 抗菌薬の使用、下痢、エストロゲンの低下、免疫の変化などをきっかけに、腟粘膜のバリア機能が弱くなる。
② 腟内環境の変化: 乳酸桿菌が減り、腟pHが上がる。
③ 炎症の強まり: IL-1β・IL-6などの炎症に関わる物質が増え、白血球が集まる。表面の細胞が剥がれ、傍基底細胞が分泌物の中に現れる。
④ 悪循環: 炎症と細菌叢の変化が互いに維持し合い、症状が長引く。
⑤ 再燃: 抗炎症治療で炎症が鎮まっても、背景にある粘膜・免疫・腟内環境の状態が残っていると、再び炎症が起こりやすい。
現在の治療とその課題
診断が確定した場合の治療は、腟内への抗炎症治療が中心です。ただし、DIVに対する無作為化比較試験はなく、治療は症例報告や後ろ向きの研究に基づいています(Reichman & Sobel、2014年)。標準化された治療指針は確立していません。
海外で報告されている主な治療
| 治療 | 概要 | 特徴・留意点 |
|---|---|---|
| 2%クリンダマイシン腟内クリーム | 就寝前に腟内へ。1〜3週間の報告(Paavonen & Brunham、2018年)や、4〜6週間の記載(Merck Manual、2026年)がある | 抗菌作用に加えて抗炎症作用をもつ。Sobelの51例の報告(1994年)では、95%を超える方で症状が改善した |
| ヒドロコルチゾンの腟内投与 | 就寝前に腟内へ。3〜6週間程度の報告がある | 抗炎症作用をもつ。クリンダマイシンとほぼ同等の成績が報告されている(Reichman & Sobel、2014年) |
| クロベタゾール(強力なステロイド)の腟内製剤 | 1週間程度の報告がある | 用いる医師もいるが、使用期間の根拠は十分ではない |
| 腟内エストロゲン | 週2回程度 | 閉経後など、エストロゲンが少ない状態を伴う場合に併用される。DIVに対する追加の効果は十分には示されていない |
| 維持療法 | 改善後に頻度を減らし、週1〜2回を2〜6か月続ける報告がある | 再燃を抑えるために行われる |
| フルコナゾール(内服) | 週1回 | カンジダ腟炎になりやすい方の維持療法として併用される(Paavonen & Brunham、2018年) |
実際の薬剤・用量・期間は、診察所見や顕微鏡所見をみて、医師が判断します。薬を自己判断で調整・中止することは避けてください。
日本では、DIVを効能とする承認薬はなく、日本産科婦人科学会の「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023」の感染症の項にも、DIVの独立した項目はありません。海外で報告されている腟内製剤は保険適用外となる場合があり、治療の選択や用いる薬剤は医療機関によって異なります。
薬物療法と並行して行われること
- 顕微鏡検査による診断の確定と、他の腟炎・性感染症の除外
- 誘因の見直し(抗菌薬の使用歴、下痢、腟内の洗浄や刺激の強い製品の使用など)
- 併存する自己免疫疾患・甲状腺疾患の確認(かかりつけ医・専門医との連携)
- 閉経期以降の方では、ホルモン状態の評価と、腟内エストロゲンの検討
- 性交痛への対応(無理をしない、パートナーと状況を共有する、必要に応じて医師へ相談する)
現在の治療が抱える課題
根拠の限界: DIVに対する無作為化比較試験はなく、治療法の優劣や最適な期間は確立していません。
症状を鎮める治療であること: クリンダマイシンやステロイドは、炎症を鎮める治療です。改善後も、背景にある粘膜・免疫・腟内環境の状態が変わらなければ、中止後に再燃することがあります。
再燃の多さ: 約3分の1が6週間以内に、43.4%が26週間以内に再燃し、1年後に治癒と判断された方は26%でした(Sobelら、2011年)。維持療法が必要になる方が多くいます。
治療の継続に伴う課題: カンジダ腟炎になりやすい方では、維持療法にフルコナゾールを併用する方法が報告されています(Paavonen & Brunham、2018年)。治療を長く続けるうえで、副作用や合併症の確認が必要です。
診断の遅れ: 診断がつくまでの間に、抗真菌薬・抗菌薬・消毒薬などを繰り返し使っても改善しない方がいます(Vieira-Baptistaら、2023年)。
日本での治療の選択肢: 使える薬剤が限られる場合があり、治療の選択肢が医療機関によって異なります。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
DIVに対する西洋医学と中医学のアプローチの違いを整理します。両者は対立するものではなく、それぞれの強みを活かして組み合わせることで、より包括的なサポートが可能です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 免疫が関わる粘膜の炎症、腟内細菌叢の変化、エストロゲンの低下、粘膜バリアの脆弱性という観点で評価 | 湿・熱・陰虚・脾虚・肝の気の滞りなど、体質の偏りとして包括的に把握する(帯下病の枠組み) |
| 治療の目標 | 炎症を鎮めて症状を軽減し、再燃を抑える | 熱や湿の偏りを整え、粘膜を潤し支える力(気・血・陰)を補い、再燃しにくい状態を目指す |
| 主な治療手段 | クリンダマイシン・ステロイド・エストロゲンの腟内投与、維持療法、フルコナゾール(カンジダ合併予防) | 弁証に基づく漢方処方(竜胆瀉肝湯・加味逍遙散・知柏地黄丸・完帯湯・補中益気湯など)、鍼灸(三陰交・関元・陰陵泉・太衝など)、養生指導 |
| 長所 | 炎症への対応力、診断基準と検査法の整理 | 睡眠・消化・冷えやほてり・ストレスなど全身の状態を同時に整えられる。婦人科の治療と並行しやすい |
| 限界・課題 | 無作為化比較試験がない・再燃が多い・背景の体質面には働きかけにくい・日本では治療の選択肢が限られる | DIVを対象とした臨床試験がない・個人差が大きい・変化が現れるまでに時間がかかる場合がある・強い炎症の急性期は婦人科の治療が優先される |
中医学からのDIV病態分析
中医学では、おりものの異常を「帯下病(たいげびょう)」として古くから診てきました。『金匱要略』の婦人雑病篇にも帯下に関する記載があり、以後、帯下病は婦人科の中心的な病証として体系化されています。DIVという病名は中医学にはありませんが、黄色いおりもの、外陰や腟の灼熱感とかゆみ、性交時の痛みといった症状の現れ方から、帯下病(帯下過多)・陰痒(外陰のかゆみ)・陰痛の枠組みで、体質の偏りを分析できます。
中医学の基本的な考え方では、帯下は「湿」と深く関わります。湿が下半身(下焦)に流れ込み、帯脈と任脈の働きが乱れることで、おりものの異常が起こると考えます(中国の「帯下病(阴道炎)中医診療方案」でも、病機の中心は、湿邪が任脈・帯脈に影響することとされています)。湿に熱が加わると、黄色く粘るおりものや灼熱感が現れやすく、湿に虚(脾・腎・陰血の不足)が加わると、慢性化と再発が起こりやすくなります。
脈診・舌診・腹診・問診の総合分析(弁証〔べんしょう〕)によって、その方の体質の偏りを把握し、処方と施術の方針を決定します。DIVの症状の現れ方から検討される証の例は、次のとおりです。
湿と熱が下半身にこもった状態。黄色く粘り気のある膿性のおりもの、外陰や腟の灼熱感とかゆみ、尿の色が濃い、排尿時の不快感、口の苦み、舌苔が黄色く厚い、といった特徴がみられる。腟粘膜の点状出血が目立つ場合は、血の熱(血熱)や血の滞り(瘀血)も合わせて分析する。竜胆瀉肝湯・黄連解毒湯などが検討される。炎症が活発な時期に中心となる型。
古典では、肝の経絡(足厥陰肝経)が陰部を巡るとされる。ストレス・疲労・睡眠不足などで肝の気が滞り、熱を帯びると、陰部の症状として現れると考える。イライラ、胸や脇腹の張り、月経前の悪化、口の苦みを伴う。症状がストレスや月経周期で変動する方に。加味逍遙散・竜胆瀉肝湯などが検討される。
体を潤す陰液が不足し、そこに湿が残った状態。腟や外陰の灼熱感と乾燥感が同時にあり、おりものは少ない、または黄色〜赤みを帯びる。ほてり、口の渇き、寝汗、不眠、腰のだるさを伴う。舌は赤く、苔が少ない。閉経期以降の方や、炎症が長引いて消耗した方にみられやすい。知柏地黄丸・六味丸などが検討される。
脾(消化・水分代謝の機能)の働きが弱く、湿が体内に溜まりやすい状態。慢性化して再発を繰り返す。おりものは白〜淡黄色で量が多く、疲れやすい、食欲が落ちる、軟便、むくみ、舌が大きく歯の跡がつく、といった特徴がみられる。完帯湯・当帰芍薬散・補中益気湯などが検討される。
気(エネルギー)と血(栄養物質)が不足し、粘膜を養い守る力が低下した状態。症状が長く続き、顔色が冴えない、めまい、動悸、乾燥、疲れやすさ、睡眠の質の低下を伴う。十全大補湯・帰脾湯・当帰芍薬散などが検討される。
急性期の強い炎症では、まず熱と湿をさばく(標を治す)ことを優先します。落ち着いてからは、再燃の土台になる脾・腎・陰血・気の不足を補う(本を治す)という順で整えます。古典の「急なるときはその標を治し、緩なるときはその本を治す」という考え方に基づきます。多くの方では複数の証が重なるため、時期によって処方を調整します。腟内治療(クリンダマイシン・ステロイドなど)が行われている間も、その治療を妨げない範囲で、体質面の整えを進められます。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
好気性腟炎・腟炎を対象とした中医学の研究
DIVと連続した病態とみなされることのある好気性腟炎(AV)や、腟炎全般を対象とした研究が、主に中国で報告されています。苦参(クララ)由来のアルカロイドのゲルを好気性腟炎に用いた研究(Wangら、2017年、Journal of Traditional Chinese Medicine)、竜胆瀉肝湯を西洋薬と併用した腟炎の比較研究(Cui、2018年)、好気性腟炎と細菌性腟症を合併した80例で、クリンダマイシンに中薬の発泡坐剤(複方芙蓉泡騰栓)を併用すると乳酸桿菌が増え、病原菌が減ったとする研究(2026年のレビュー、Liら、MicrobiologyOpenで紹介)などがあります。
これらは主に中国国内の研究で、外用製剤の研究が含まれます。DIVでの検証ではなく、同じ製剤を日本で使えるわけでもありません。腟炎に対する中医学の研究が広がっていることを示す報告として、参考にとどめるのが適切です。
閉経後の腟の萎縮・炎症に対する漢方薬
閉経後の萎縮性腟炎に対する、東アジアの漢方薬の無作為化比較試験を集めた系統的レビュー(2019年)では、26件の試験(計3,162例)のうち23件で、治療群が対照群より有効と報告されました。10件の試験で、再発率が対照群より低いことも示されました。有害事象を調べた12件の試験では、重い副作用の報告はありませんでした。ただし、26件のうち21件は中医学と西洋医学を併用した研究で、試験の規模や方法にもばらつきがあるため、結果は慎重に解釈する必要があります。
鍼灸:外陰痛・性交痛に関する研究
外陰痛(外陰部の慢性的な痛みで、性交痛を伴うことの多い病気)は、DIVの外陰・腟前庭の痛みや性交痛と、症状が重なる部分があります。この領域では、鍼の臨床試験が行われています。
- Schlaegerらの待機群比較パイロット試験(2015年): 36例を対象に、5週間で10回の鍼治療を行った群と、待機群を比較し、鍼治療群で外陰部の痛みと性交痛の有意な軽減が報告されました。
- Schlaegerらの二重盲検ランダム化比較試験(2025年、Journal of Pain): 89例を対象に、実際に刺入する鍼と、皮膚に触れるだけのプラセボ針を比較しました。どちらの群でも外陰部の痛みが軽減し、治療終了時点の群間差は有意ではありませんでした。一方、治療に反応した方では、実鍼群のほうが改善が長く続き、プラセボ群の反応者は、12週間の経過中に痛みがもとの水準に戻るリスクが2.72倍でした。
- 2024年のメタ解析: 外陰痛に対するリハビリ的介入の無作為化比較試験を統合した解析で、鍼のサブグループにおいて、痛みの有意な軽減が示されました。
鍼灸の研究は、外陰痛・性交痛の領域で進みつつあります。DIVを対象とした臨床試験は、今後の課題です。
日本の漢方薬についての補足
竜胆瀉肝湯は、一般用医薬品の効能・効果に、体力中等度以上で下腹部に熱感や痛みがある方の排尿痛・残尿感・尿のにごり・こしけ(おりもの)・頻尿が含まれる処方です。ただし、これは腟炎の症状への一般的な効能であり、DIVを対象とした効能ではありません。山梔子(さんしし)を含む処方(竜胆瀉肝湯・黄連解毒湯・加味逍遙散・温清飲など)は、長期間の服用で腸間膜静脈硬化症があらわれることがあるため、経過を確認しながら用います。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
治療の土台は、婦人科での診断と治療です。タナココの漢方・鍼灸は、その治療を置き換えるものではなく、並行して、再燃しにくい体の状態を目指すためのサポートです。
タナココの漢方では、「炎症の勢い(湿熱)を鎮め、粘膜を支える力(気・血・陰・脾)を整えることで、再燃しにくい状態を目指す」ことを目的とします。弁証に基づき、次のような方向性で処方を選択します。
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう): 下腹部の熱感、黄色いおりもの、排尿時の不快感など、湿熱が目立つ時期に。比較的体力のある方に用い、胃腸が弱い方や冷えが強い方には慎重に用います。
加味逍遙散(かみしょうようさん): ストレス・疲労・月経周期で症状が変動する、肝鬱化熱のタイプに。イライラ、のぼせ、更年期の不安定さを伴う方に。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・温清飲(うんせいいん): 強い炎症やのぼせがある時期に、短期間、体質を見ながら用います。
知柏地黄丸(ちばくじおうがん)・六味丸(ろくみがん): 閉経期以降の、灼熱感と乾燥感、ほてり、寝汗を伴う陰虚夾湿のタイプに。体を潤す陰液を補います。
完帯湯(かんたいとう)・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん): 慢性化して再発を繰り返す、脾虚湿困のタイプに。脾の働きを助けて湿をさばきます。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)・十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)・帰脾湯(きひとう): 症状が長引いて消耗した、気血両虚のタイプに。粘膜を養い守る力を支えます。
処方は体質と時期に応じて調整します。山梔子を含む処方は長期連用を避けて経過を確認し、甘草を含む処方が重なる場合は血圧・電解質に留意します。タナココでは、薬剤師資格を持つ担当者が、現在使用している腟内製剤・内服薬との関係を確認したうえで、並行できる形で処方をご提案します。
鍼灸では、下腹部・腰仙部・下肢の経穴(ツボ)を中心に、骨盤内の巡りと、自律神経・睡眠・ストレスの影響を整えます。弁証に基づき、次のような経穴を組み合わせます。
三陰交(さんいんこう): 脾・肝・腎の経絡が交わる、婦人科の基本となる経穴。
関元(かんげん)・中極(ちゅうきょく)・帰来(きらい): 下腹部の経穴。下焦の気血と水の巡りを整える。
陰陵泉(いんりょうせん): 脾の経絡の経穴。余分な湿をさばく。
太衝(たいしょう): 肝の気の巡りを整え、ストレスによる緊張を和らげる。
血海(けっかい)・次髎(じりょう): 血の巡りと、骨盤内の血流を整える。
太谿(たいけい)・足三里(あしさんり): 腎陰を補い、脾胃の働きを支える。
お灸は、冷えや脾虚が目立つ方には温める目的で用います。熱感・灼熱感が強い時期(湿熱・陰虚)には、お灸を控えるか、部位を限って慎重に行います。施術する経穴は、下腹部・腰仙部・下肢が中心です。
腟内の洗浄や刺激を避ける: 腟内の洗浄、刺激の強い洗浄剤、香料の入った製品は、腟上皮の剥がれやすさに影響し得るため、避けてください。外陰部は低刺激のもので、やさしく洗う程度にとどめます。
睡眠と疲労のケア: 睡眠不足や疲労が重なると、症状が強まる方がいます。中医学では、肝の気の滞りや陰液の消耗につながると考えます。
食事の見直し: 中医学では、辛いもの・脂っこいもの・甘いもの・アルコールの摂りすぎは、「湿熱」を生みやすいと考えます。症状が強い時期は、控えめにすることをお勧めします。
経過の記録: おりものの量・色、ひりつき、性交痛、再燃のきっかけ(抗菌薬の使用後、下痢、疲労など)を記録しておくと、婦人科での診察にも、漢方・鍼灸の方針決定にも役立ちます。
・婦人科でDIVの診断を受け、腟内治療で改善したが、中止すると再燃する
・治療を続けているが、ひりつきや性交痛が残っている
・閉経後で、腟の炎症や乾燥が続いている
・疲れや睡眠不足、ストレスが重なると、症状が悪化する
・カンジダや細菌性腟症の治療を繰り返しているが、変わらない(まず婦人科で顕微鏡検査を含む再評価を受けたうえで、並行して体質を整えたい)
よくある質問(FAQ)
剥離性炎症性腟炎(DIV)とは、どのような病気ですか?
DIVは性感染症ですか?パートナーにうつりますか?
カンジダや細菌性腟症の治療を続けても治りません。DIVの可能性はありますか?
DIVは完治しますか?再発しますか?
漢方・鍼灸はDIVに有効ですか?
腟内のクリンダマイシンやステロイドを使っています。漢方・鍼灸と併用できますか?
閉経後でもDIVになりますか?
日常生活で気をつけることはありますか?
デリケートな部位の症状なので、話しにくいです。鍼灸も不安です。
改善までどれくらいかかりますか?
剥離性炎症性腟炎(DIV)──「原因が分からない」「また再燃した」で終わらせない選択肢があります
「どこで調べても原因が分からない」「治療すると良くなるが、やめるとまた戻る」——その経過には、病名と仕組みがあります。DIVは、腟の粘膜に炎症が続く病気で、診断と治療によって、多くの方が症状の軽減を得ています。再燃しやすい病気であることも分かっていますが、維持療法と背景の見直しによって、症状のない期間を長くしていくことは、取り組む目標にできます。
炎症の勢いを鎮めること。粘膜を支える気・血・陰の土台を整えること。睡眠・消化・ストレスなど、再燃のきっかけになり得る部分を同時に整えること——そのために、漢方と鍼灸を通じてできる限りのことをしたいと考えています。
「腟内治療を中止すると再燃する」「治療を続けているが性交痛が残っている」「閉経後の腟の炎症が続いている」「婦人科の治療と並行して、体質から整えたい」——どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
症状のない日常に近づけるよう、最後まで一緒に取り組みます。まずは現在の経過をお聞かせください。
