異常子宮出血(AUB)とは──
原因の見極めと、体質から整えるアプローチ
月経が長引く。量が多くて外出が不安になる。周期がばらばらで予定が立てられない。そうした出血の悩みは、我慢して済ませるものではありません。
AUBは原因によって治療の方針が変わります。まず婦人科で原因を調べ、そのうえで、出血・貧血・周期の乱れを体質の面から整えていく道があります。
出血を減らすこと、貧血を防ぐこと、周期を整えること。この三つを目標に、タナココは西洋医学の診断と治療を土台として、漢方と鍼灸でできる限りのことをします。
最終更新日:2026年11月2日
異常子宮出血(AUB)の理解と体質へのアプローチ
異常子宮出血(AUB)とは何か
異常子宮出血(Abnormal Uterine Bleeding、以下AUB)とは、妊娠していない生殖年齢の女性で、子宮体部からの出血が正常な月経の範囲(周期・日数・量)から外れている状態の総称です。国際産婦人科連合(FIGO)が2018年に改訂した定義(Munroら、Int J Gynaecol Obstet 2018)に基づき、世界共通の用語として使われています。国内では、18〜45歳の非妊娠時の子宮体部からの異常出血として整理されています(石川博士、2023年の解説)。
以前は「機能性子宮出血」「過多月経」「不正出血」などの言葉が使われていました。FIGOはこれらを整理し、現在は出血の症状(量・周期・日数)と、その原因を分けて表現します。
原因は、子宮筋腫やポリープのような子宮の形の異常から、排卵の乱れ、血液の固まりにくさ、薬の影響まで幅があります。原因によって治療が変わるため、最初に婦人科で原因を調べることが大切です。このページの漢方・鍼灸の内容は、その診断と治療を土台にした補完的なサポートについて述べています。
診断基準とPALM-COEIN分類
FIGOのAUB System 1は、月経の「周期の頻度」「出血の日数」「規則性」「量」の4項目で正常と異常を整理します(Munroら、2018年)。
| 項目 | 正常の目安 | 異常の呼び方 |
|---|---|---|
| 周期の頻度 | 24〜38日 | 24日未満は頻発月経、38日を超えると稀発月経 |
| 出血の日数 | 8日以内 | 8日を超えると過長月経 |
| 周期の規則性 | 12か月間の周期の変動が小さい | 変動が大きいと不規則 |
| 出血の量 | 本人の生活に支障がない量 | 支障が出る量は過多月経(HMB) |
従来は80mLを超える出血を過多の目安としていましたが、現在は本人が感じる生活への支障で判断します。月経と月経の間の出血(月経間期出血)もAUBに含まれます。過去6か月のうち大半で異常が続くものを慢性AUB、緊急の対応が必要な大量出血を急性AUBと区別します。
原因を分類するPALM-COEIN
原因の分類(FIGO AUB System 2)は、頭文字をとってPALM-COEIN(パーム・コイン)と呼ばれます。
P:ポリープ(Polyp)、A:子宮腺筋症(Adenomyosis)、L:子宮筋腫(Leiomyoma)、M:悪性腫瘍・子宮内膜増殖症(Malignancy and hyperplasia)。超音波や子宮鏡、組織検査で確認します。
C:凝固異常(Coagulopathy)、O:排卵障害(Ovulatory dysfunction)、E:子宮内膜局所の異常(Endometrial)、I:医原性・薬剤性(Iatrogenic)、N:その他(Not otherwise classified。帝王切開瘢痕部の異常など)。
診察・検査の流れ
基本の確認
- 月経の周期・日数・量、出血の時期、服用中の薬、本人と家族の出血傾向を聞き取る
- 妊娠の可能性を確認する
- 血液検査で貧血と鉄の状態、必要に応じて凝固機能やホルモンを調べる
画像・組織の評価
- 超音波検査で筋腫・腺筋症・ポリープを確認する
- 必要に応じて子宮鏡や子宮内膜の組織検査を行う
- 英国のNICE NG88(2018年)は、不規則な出血が続く場合、肥満やPCOSがあり稀発で多量の出血がある場合、タモキシフェン服用中の場合に、子宮内膜の評価を優先するよう示している
症状と有病率
出血の症状
月経量が多い、日数が長い、周期が短い・長い、周期がばらつく、月経と月経の間に出血する。塊が出る、夜用ナプキンでも間に合わないといった訴えも、過多月経の目安になります。
貧血と全身症状
出血が続くと鉄欠乏性貧血になりやすく、動悸・息切れ・倦怠感・立ちくらみ・顔色の悪さが現れます。疲れやすさの原因が貧血だったという例は少なくありません。
生活と気持ちへの影響
外出や仕事の予定が立てにくい、夜も眠りにくい、いつ出血するか分からない不安が続く。生活の質への影響が大きいため、NICEは血液の量より生活の質の改善を目標にするよう示しています。
FIGOの2018年の報告では、AUBは生殖年齢の女性の約3〜30%にみられるとされ、調査によって幅があります。英国のデータでは、過多月経が婦人科受診の約2割を占めるという報告もあります。原因別では、中国のガイドライン(2018年)が排卵障害による出血をAUBの約半数としています。
一般に、初経から数年の間と閉経に近づく時期は、排卵が安定しにくく、周期や出血量が乱れやすい時期です。この時期の出血でも、まず原因の評価を受けたうえで、体質面の整え方を考える価値があります。
発症のメカニズム
1)排卵障害(AUB-O)
視床下部・下垂体・卵巣の連携が乱れ(多嚢胞性卵巣症候群など)、排卵が起こらないと、黄体ホルモン(プロゲステロン)が十分に分泌されません。子宮内膜が増殖したまま整って剝がれず、不規則に崩れて、出血が長引いたり多量になったりします。
2)子宮内膜局所の異常(AUB-E)
排卵があるのに出血が多い場合、内膜での止血や修復の仕組みに偏りがあると考えられています。血管の新生や修復に関わる因子のバランスが関係するとされ、子宮内膜の生理から月経異常を整理した総説(Jainら、Nat Rev Endocrinol 2022)に詳しくまとめられています。
3)構造的な原因(PALM)
子宮筋腫は内膜の表面積の増加や静脈の拡張を通じて、子宮腺筋症は子宮筋の収縮力の低下と慢性的な炎症を通じて、ポリープは表面のもろさと血管の構造を通じて、出血を増やすと考えられています。筋腫はAUBの原因として最も多い構造的疾患とされています(石川博士、2025年)。
4)凝固異常(AUB-C)
初経のころから月経が多い場合は、von Willebrand病などの血液の固まりにくさを調べます。思春期の過多月経の原因を調べたメタアナリシス(Comishenら、J Thromb Haemost 2025)でも、凝固異常が重要な原因として整理されています。ホルモン薬、子宮内システム、抗凝固薬などの薬剤が出血を起こす場合は、医原性(AUB-I)に分類されます。
現在の治療とその限界
治療は、原因、出血の強さ、妊娠の希望によって決まります。日本では「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2026」が現行版で、2023年版でも器質性疾患のない慢性・急性のAUBに対する薬物療法が独立した項目として扱われています。英国NICE NG88(2018年)は、原因が特定されない場合や小さな筋腫、子宮腺筋症が疑われる場合に、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)を最初の選択肢とし、使えない場合にトラネキサム酸、NSAIDs、複合ホルモン薬、周期的な黄体ホルモンを挙げています。
| 治療 | わかっている効果 | 限界・注意点 |
|---|---|---|
| LNG-IUS | Cochraneレビュー(25件のRCT、2,511人)で、他の薬物療法より過多月経とQOLの改善が大きい可能性が示されている | 挿入の処置が必要で、出血パターンの変化が最初の数周期、6か月を超えて続くことがある。妊娠希望の間は使えない |
| トラネキサム酸・NSAIDs | 月経中の服用で出血量を減らす | 月経のたびの服用が必要。血栓症の既往がある場合、トラネキサム酸は使えない。NSAIDsは胃腸への負担がある |
| ホルモン薬(複合ホルモン薬・黄体ホルモン) | 周期を整え、出血量を減らす | 服用の継続が必要。体質によっては使えない。中止後に再燃することがある。妊娠希望との両立が課題 |
| GnRH製剤(筋腫が原因の場合) | 月経を止め、筋腫を縮小させる | 長期の投与で骨密度が低下する。粘膜下筋腫では投与中に大量出血をきたすことがある(石川博士、2025年) |
| 手術・内膜アブレーションなど | 原因病変や薬で改善しない出血に有効 | 妊娠への影響や身体への負担があり、適応を慎重に判断する |
出血が続くと貧血になるため、鉄剤による治療も並行して行います。薬は使用中に効果が現れる性質のものが多く、再燃、長期の継続のしにくさ、副作用が、現場での課題として挙げられています(Zhangら、Int J Womens Health 2026)。薬を続けながら、自分の体質そのものを整えたいと考える方が、漢方・鍼灸を探されるのはこのためです。
中医学からのAUB病態分析
中医学では、AUBに近い状態を「崩漏(ほうろう)」「月経過多」「経間期出血」などと捉えます。出血が急に多量になる状態を崩、少量でだらだら続く状態を漏と呼びます。根本には、月経を司る衝脈・任脈が不安定になり、血を蔵め統べる力が弱まった状態(衝任不固)があると考えます。
脾の働きが弱く、気が血を統べる力が不足した状態。色の薄い出血がだらだら続く、または突然量が増える。疲れやすさ、食欲の低下、息切れ、顔色の悪さを伴う。
生殖と成長を支える腎の力が不足した状態。周期の乱れ、腰のだるさ、のぼせ、寝汗を伴う。思春期や更年期に近い時期の排卵の乱れに重なりやすい。
体に熱がこもり、血が勢いづいて外に出る状態。鮮やかな赤い色で量が多く、口の渇き、のぼせ、いらいらを伴う。
血の巡りの停滞と、ストレスによる気の滞り。暗い色や塊を伴う出血、下腹部の痛み、ストレスでの悪化が目立つ。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
AUBに対する漢方・鍼灸の研究は、小規模なものが中心です。確認できた主な報告を、結果が分かれている点も含めてお伝えします。
- 鍼灸(中国、2019年):Zhangらが、排卵障害によるAUB(脾虚証)の60例を対象に、月経周期の時期に合わせた鍼治療と、薬による人工周期療法を比較したランダム化比較試験を報告しました(Zhongguo Zhen Jiu 2019)。症状スコアの改善は、両群で同程度でした。
- 鍼灸(イラン、2022〜2024年実施):マシュハド医科大学が、ホルモン治療に鍼治療を12回加えた群(19例)と加えない群(19例)を比較しました。治療後3か月・6か月の周期・出血日数・量に差は認められず、著者らは鍼の効果を支持する強い根拠は得られなかったと結論しています。
- 漢方(中薬):2026年のZhangらの総説(Int J Womens Health 2026)は、AUBに対する中薬の研究の多くが基礎研究であり、PALM-COEINの区分ごとの確かな臨床試験は不足していると整理しています。一方で、排卵障害や閉経周辺期の出血で、症状の改善を示す小規模な臨床報告があることも示しています。2021年の系統的レビュー(中絶後の出血に対する宮血寧カプセル、16件のRCT)では、出血量と日数の短縮が示されたものの、エビデンスの確実性は低いとされました。
標準治療に置き換えられるだけの十分な臨床証拠は、まだ揃っていません。標準治療を土台に、体質面を整える補完的な選択肢として位置づけるのが妥当です。同時に、周期に合わせた鍼治療が薬物療法と同程度の改善を示した報告があることは、試す価値のある選択肢のひとつと考えられます。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、出血を抑えること、血を補い貧血になりにくい体をつくること、周期を整えることを目的に、弁証に基づいて処方を選びます。方向性の例は次のとおりです。
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう):『金匱要略』に収載された、血を補いながら出血を抑える処方。冷えがあり、出血で貧血傾向になる体質に検討します。医療用の保険上の効能は痔出血で、月経関連では体質に応じて用います。甘草を含むため、血圧やカリウム値に注意します。
帰脾湯・加味帰脾湯:脾気虚に、不安や不眠が重なる体質に。気を補い、血を統べる力を支える。
当帰芍薬散:血虚と水の滞りがあり、冷え・むくみ・立ちくらみを伴う体質に。
温経湯:下腹部の冷えと乾燥、周期の乱れが目立つ体質に。
加味逍遙散・桂枝茯苓丸:更年期に近い時期ののぼせやいらいら、血の滞り(瘀血)が目立つ体質に。
服用中の薬との相互作用は、薬剤師資格を持つ担当者が確認します。
鍼灸では、脾胃・腎・衝任を整えることを軸に、三陰交・足三里・関元・気海などを用います。古典から出血に用いられてきた隠白(いんぱく)への灸も、体質に応じて検討します。月経周期のどの時期かを見ながら、刺激の強さと施術のタイミングを調整します。
出血量が多いときや、ふらつき・動悸があるときは、施術より先に医療機関の受診をお勧めします。
- 婦人科での診断、検査結果(ヘモグロビン値など)、服用中の薬を確認する
- 基礎体温と出血の記録(日数・量・色・塊)をつけていただく
- 弁証を行い、漢方と鍼灸の方針を決める
- 2〜3周期を一区切りに、出血・周期・貧血の数値を見直す
- 主治医との治療が円滑に進むよう、必要な情報をお伝えする
よくある質問(FAQ)
不正出血や月経が長引くとき、どのくらい様子を見てよいですか?
漢方や鍼灸だけでAUBは治りますか?
ホルモン治療や鉄剤を使っていますが、漢方・鍼灸を併用できますか?
どのくらいで変化が分かりますか?
中高生の娘の月経が重く、長引いています。相談できますか?
貧血も気になります。漢方で補えますか?
異常子宮出血──「体質だから」「そのうち落ち着く」で終わらせない選択肢があります
出血が続くと、体力も、気持ちの余裕も削られていきます。それは我慢の問題ではなく、原因があって起きている体の変化です。原因を調べ、必要な治療を受けながら、体質の側からも整えていくことができます。
出血量を減らしていくこと。貧血になりにくい体をつくること。周期の乱れを少しずつ整えること。そのために、漢方と鍼灸を通じて、できる限りのことをしたいと考えています。
「ホルモン治療を続けているが、やめると戻ってしまう」「検査では大きな異常がないと言われたが、出血が続いている」「薬以外の選択肢も知りたい」「子どもの月経の重さが心配」。どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
一歩ずつで構いません。変わっていくための選択肢があることを、まず知っていただければと思います。
