中耳炎とは──
繰り返す・長引く耳の炎症と、体質から整えるアプローチ
抗菌薬で治ったはずなのに、風邪をひくとまた耳が痛くなる。液体がたまって、聞こえが気になる。そうした経過を前に、不安を感じているご家族は少なくありません。
中耳炎は、鼻・のど・耳がつながった領域の病気です。急性の感染は医療で確実に治療し、そのうえで「かかりやすい体質」にも手を打てる余地があります。
西洋医学の診断と治療を土台に、漢方・鍼灸で体質の側から支える方法を、タナココは一人ひとりに合わせて考えます。
最終更新日:2026年10月31日
中耳炎の理解と、繰り返す体質へのアプローチ
中耳炎とは何か
中耳炎は、鼓膜の奥にある中耳(鼓室)に起こる炎症の総称です。耳の痛みと発熱で始まる「急性中耳炎」、痛みはないのに中耳に液体がたまる「滲出性中耳炎」、鼓膜に穿孔があり耳だれが続く「慢性中耳炎」に大きく分かれ、それぞれ症状も治療の考え方も異なります。
子どもに多い病気です。日本の疫学の解説では、3歳までに50〜71%の小児が急性中耳炎を一度は経験するとされています。子どもの耳管(中耳と鼻の奥をつなぐ管)は短く水平に近いため、鼻の奥の細菌やウイルスが中耳に入りやすく、成熟するのは7歳頃とされています。大人の中耳炎もあり、風邪の後や飛行機・潜水の後、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に続いて起こることがあります。
多くは適切な治療で治りますが、一部の子どもは年に何度も繰り返し、耳のなかに液体が長くたまり、聞こえにくさが続くことがあります。この「繰り返す」「長引く」という経過が、中耳炎の本当の悩みどころです。
中耳炎の種類と診断基準
日本では、日本耳科学会などが「小児急性中耳炎診療ガイドライン(2024年版)」と「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン(2022年版)」を発行しています。診断では、鼓膜を実際に見る視診(耳鏡検査)が中心です。
1)急性中耳炎(AOM)
診断のポイント
- 急に始まった中耳の炎症で、耳痛・発熱・耳だれ(耳漏)が主な症状
- 鼓膜の発赤・膨隆(ふくらみ)・混濁、中耳の貯留液などを耳鏡で確認する
- 年齢・症状・鼓膜所見を点数化し、軽症・中等症・重症に分類して治療を決める
- 2歳未満で耳痛と発熱がある場合は、中等症以上として扱われる
主な原因菌
- 肺炎球菌とインフルエンザ菌が二大原因菌
- 多くは風邪などの上気道感染のあとに起こる
- 薬が効きにくい耐性菌の増加が、日本で難治化が進んだ背景にある
2)滲出性中耳炎(OME)
診断のポイント
- 鼓膜に穿孔がなく、中耳に液体がたまっているが、急性の炎症症状(発熱・耳痛)はない
- 鼓膜の陥凹(へこみ)、色の変化、動きの悪さを耳鏡で確認する
- ティンパノメトリー(中耳の圧と鼓膜の動きを測る検査)でB型・C型を示すことが多い
特徴
- 聞こえにくさ・耳が詰まった感じが中心で、痛みがないため気づかれにくい
- ガイドラインの解説では、小児の約半数に難聴がみられるとされる
- 3か月以内に自然に治ることが多い一方、長引く場合は治療を検討する
3)慢性中耳炎・反復性中耳炎
慢性化膿性中耳炎
- 鼓膜に穿孔があり、耳だれが続く、または繰り返す状態
- 急性中耳炎が十分に治りきらなかった後に起こることがあり、聞こえの低下を伴う
反復性中耳炎
- 「6か月に3回以上」または「1年に4回以上」の急性中耳炎を繰り返す状態
- このような子どもは「中耳炎にかかりやすい子(otitis-prone)」とも呼ばれ、小児の約5〜10%とされる
症状:年齢と種類で変わる耳のサイン
症状は年齢と中耳炎の種類で異なります。言葉で伝えられない乳幼児では、周囲の気づきが診断の手がかりになります。
乳幼児
発熱、機嫌が悪い、夜泣き、耳を触る・引っ張る、母乳やミルクの飲みが悪い。風邪の後に急に不機嫌になったときは、耳も確認します。
学童期・成人
強い耳の痛み、発熱、耳だれ、耳が詰まった感じ、聞こえにくさ。痛みが急に軽くなって耳だれが出るのは、鼓膜が自然に破れて膿が出たときに見られます。
滲出性中耳炎
呼びかけに反応しない、テレビの音が大きい、聞き返しが多い。痛みがなく、保育・学校生活で気づかれることもあります。
耳の後ろの赤み・腫れ(急性乳突蜂巣炎の可能性があり、診断された場合は入院治療が行われます)、ぐったりして反応が乏しい、激しい頭痛や嘔吐、顔の動きの左右差がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
有病率と経過の特徴
中耳炎は多くの子どもが通る病気です。経過のなかで、治療の難しさが出てくる場面があります。
| 項目 | 目安 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 急性中耳炎の経験 | 3歳までに約50〜71%(日本の疫学解説) | 先進国の別の報告では、就学前に約80%とされる |
| 反復性中耳炎 | 小児の約5〜10% | 6か月に3回以上、または1年に4回以上が目安 |
| 滲出性中耳炎 | 3か月以内に自然治癒することが多い | 難聴が続く、鼓膜が変化する場合は治療を検討 |
| 難治化の背景 | 1990年代以降、耐性菌が増加 | 抗菌薬の適正使用で肺炎球菌の耐性は減ったが、インフルエンザ菌のBLNARは増加が続いたと報告 |
発症のメカニズム
中耳炎は「耳の病気」である前に、「鼻・のど・耳がつながった一連の領域」の病気です。起こる流れを、原因をさかのぼって整理します。
① 鼻・のどの感染:風邪などで鼻の奥(上咽頭)に炎症が起き、肺炎球菌・インフルエンザ菌が増えます。アデノイドは、この細菌のたまり場になりうると考えられています(病原体貯留説)。
② 耳管の換気・排出の低下:鼻の炎症で耳管がむくむと、中耳の換気と分泌物の排出ができなくなります。子どもは耳管が短く水平に近く、未熟なため、ここがとくに弱い部分です。
③ 中耳の炎症と貯留液:菌が耳管をさかのぼって中耳に入り、粘膜が腫れ、膿や液体がたまります。急性なら痛みと発熱、液体が残れば滲出性中耳炎になります。
④ 長引く・繰り返す理由:2025年の総説は、細菌が膜状の集合体(バイオフィルム)をつくると、免疫から逃れやすく抗菌薬にも耐えやすくなり、急性中耳炎が反復・慢性の状態に移行しうると整理しています。
⑤ 背景の要因:免疫の未熟さ、集団保育での感染機会、鼻副鼻腔炎・アレルギー、受動喫煙、家族歴などが重なります。小児の滲出性中耳炎では、周辺(鼻副鼻腔・上咽頭)の炎症が関与していることが多いとされます。
現在の治療とその課題
急性中耳炎の治療
日本のガイドラインは、重症度に応じた治療を基本とします。軽症では鎮痛を中心に経過をみることが検討され、中等症以上ではアモキシシリンが第一選択薬です。インフルエンザ菌が関与する場合はセフェム系などが考慮され、鼓膜の膨隆が強く痛みや発熱が高度な場合は鼓膜切開も検討されます。2024年版では、肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の根拠の強化や、一部抗菌薬の用量・選択の見直しが行われました。日本では、PCVの導入後に、小児の鼓膜チューブ挿入術が減ったとの報告もあります(2022年)。
滲出性中耳炎の治療
3か月以内に自然に治ることが多いため、まず経過観察が行われます。鼻・副鼻腔の治療や、去痰薬などの保存治療を併用することがあります。保存治療で難聴が続く場合や、鼓膜の陥凹・癒着・菲薄化などの変化が出てきた場合は、鼓膜換気チューブ留置術が検討されます。
抗菌薬は「その回の感染」への治療です。2023年のコクラン・レビューでは、抗菌薬は24時間後の痛みを減らさず(RR 0.89)、2〜3日後の痛みを約3割減らす(RR 0.71、治療必要数20)一方で、再発は減らしませんでした(RR 0.94)。副作用(嘔吐・下痢・発疹など)は、14人に1人の割合で増えるとされています。
繰り返すほど、薬が効きにくくなる心配があります。オランダの追跡調査(2009年)では、幼児期にアモキシシリンで治療した群のほうが、プラセボ群より3年半の間に急性中耳炎を再発した割合が高い結果(63%対43%)でした。
鼓膜換気チューブは有効な一方、鼓膜の菲薄化、穿孔の残存、鼓膜の石灰化などの合併症や後遺症を伴うことがある侵襲的な治療です。
「かかりやすさ」そのものへの手立てが少ないことが、最大の課題です。ワクチン、環境の調整、手術のほかに、体質の側から支える選択肢が求められています。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
両者は対立するものではありません。急性の感染や強い症状は西洋医学が得意とする領域で、「繰り返す・長引く」体質の側面は中医学が力を発揮しうる領域です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 原因菌・耳管機能・中耳粘膜の炎症・貯留液として評価 | 風邪(外邪)の侵入、水の滞り(痰湿)、熱のこもり、気血の不足など、体質と状態の組み合わせとして把握 |
| 治療の目標 | 感染の制圧、痛み・発熱の緩和、聴力の維持 | 急性期の症状を和らげ、そのうえで「かかりにくい体」を育て、再発・遷延の悪循環を断つ |
| 主な手段 | 抗菌薬、鎮痛薬、鼓膜切開、鼓膜換気チューブ | 漢方薬、鍼灸(小児は小児鍼・お灸)、生活・食事の養生 |
| 得意な場面 | 急性期の感染、重症例、手術が必要な難聴の持続 | 反復する、液体が抜けにくい、風邪をひくたび耳に来る、体力・胃腸が弱い |
中医学からの中耳炎の病態分析
中医学では、滲出性中耳炎は「耳脹(じちょう)」「耳閉(じへい)」、化膿性の中耳炎は「膿耳(のうじ)」の範疇で捉えます。脈診・舌診・腹診・問診を総合する弁証(べんしょう)で体質を見極め、方針を決めます。中国の文献97編を分析した2024年の報告では、滲出性中耳炎は「風・湿・虚・瘀(おけつ)」が病機の中心で、証は風邪外襲型・脾虚湿困型・肝胆湿熱型・気血瘀阻型が主とされています。
風邪(外邪)が侵入して耳管の通りを妨げた状態。鼻づまり・鼻水・耳の詰まり・軽い発熱を伴う。解表(外邪を発散させる)の考え方で、葛根湯・小青竜湯などが検討される。
熱と湿が耳にこもった状態。強い耳痛・発熱・黄色い耳だれ・いらだちが目立つ。清熱利湿の考え方で、小柴胡湯系・柴胡清肝湯・排膿散及湯などが検討される。
脾(消化・水分代謝)の働きが弱く、余分な水(湿・痰)が耳にたまる。液体が抜けにくい、胃腸が弱い、疲れやすい、舌が腫れぼったい。子どもは脾が未熟とされ、とくに多い型。健脾利湿の考え方で、五苓散・柴苓湯・半夏白朮天麻湯などが検討される。
炎症が長引き、気血の巡りが滞った状態。聞こえにくさが長く続く、鼓膜の変化を伴う。行気活血の考え方を取り入れる。
体力・免疫の土台が弱く、風邪のたびに中耳炎を繰り返す。顔色がすぐれない、食が細い、疲れやすい。補気養血の考え方で、十全大補湯・補中益気湯・小建中湯などが検討される。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
中耳炎に対する漢方・鍼灸の研究は、反復性中耳炎での漢方に限って、日本発の無作為化比較試験があります。一方で、鍼灸などは質の高い研究が少なく、現時点で効果が確立しているとはいえません。
十全大補湯の反復性中耳炎への無作為化比較試験(日本・2017年)
金沢大学などの研究班による試験で、結果は「Auris Nasus Larynx」誌(2017年)に報告されました。対象は、中耳炎にかかりやすい生後6〜48か月の小児で、全国26の耳鼻咽喉科施設が参加しました。ガイドラインに沿った通常治療に加えて、十全大補湯を1日2回、3か月間内服した群と、通常治療のみの群を比較しています。87人が登録され、13人が途中で脱落しました。1か月あたりの急性中耳炎の回数は、十全大補湯群で0.61回、通常治療群で1.07回で、約57%の減少でした(P=0.005)。鼻かぜの回数と抗菌薬の投与期間も有意に減りました。
この試験は非盲検(どちらの群かが分かる設計)で、規模も小さく、著者らも今後の二重盲検試験での確認が必要としています。ただし、漢方薬で反復性中耳炎の予防を示した初めての報告であり、日本の2018年版ガイドラインにも「反復性中耳炎に漢方薬は有効か」という項目が設けられました。
漢方全般・鍼灸の研究
2024年には、小児中耳炎に対する生薬治療の無作為化試験を整理した文献レビューが報告され、十全大補湯は反復性中耳炎で有意な効果を示したと紹介されています。また、日本の耳科領域の漢方をまとめた2024年の総説は、漢方が抗菌薬の不適切な使用を減らす可能性にも触れています。鍼灸については、補完療法を整理した2016年の系統的総説で検討対象に含まれていますが、中耳炎に対する大規模で質の高い試験は少なく、小児滲出性中耳炎へのレーザー鍼の比較試験などが進められている段階です。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
風邪の初期・急性期の補助:葛根湯(悪寒・首肩のこわばり)、小青竜湯(水のような鼻水・くしゃみ)、小柴胡湯系や排膿散及湯(熱や膿が目立つとき)を、抗菌薬や鎮痛薬と並行して検討します。
液体が抜けにくいとき:五苓散・柴苓湯(水の滞りをさばく)、半夏白朮天麻湯(胃腸が弱く、頭が重い)、葛根湯加川芎辛夷や荊芥連翹湯(鼻・副鼻腔の炎症が強い)。
繰り返す体質を育てるとき:十全大補湯・補中益気湯(体力と免疫の土台を補う)、小建中湯(虚弱で腹痛もある子ども)。
麻黄を含む処方は動悸・不眠・食欲低下に、甘草を含む処方は重なると血圧・電解質に影響しうるため、薬剤師が年齢・体重・服薬状況を確認して用量を決めます。
耳の周囲(耳門・聴宮・聴会・翳風)で局所の巡りを促し、全身では風池・合谷・外関(外邪と鼻・耳の通り)、足三里・陰陵泉・豊隆(脾を整え水をさばく)、太衝(肝の気の巡り)などを、体質に合わせて選びます。乳幼児から学童期は、刺さない小児鍼や温かいお灸で、負担の少ない刺激から始めます。
タナココは、耳鼻咽喉科や小児科での診断・治療を土台に、それと並行できる形で漢方・鍼灸を考えます。急性期の強い痛みや発熱、耳の後ろの腫れは、まず医療機関の受診を優先してください。抗菌薬や点耳薬を自己判断で中止することは勧めません。
「抗菌薬を飲んでも、また繰り返す」「液体が抜けず、聞こえが気になる」「手術を勧められているが、その前にできることを知りたい」——どのような状況でも、現状をうかがうことから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から提案します。
よくある質問(FAQ)
中耳炎は自然に治りますか?
抗菌薬で治ったのに、なぜ中耳炎を繰り返すのですか?
滲出性中耳炎で、すぐに手術(鼓膜チューブ)は必要ですか?
中耳炎に漢方・鍼灸は有効ですか?
病院の治療と併用できますか?
何歳から受けられますか?どのくらいで変化しますか?
中耳炎──「また繰り返す」を、そのままにしない選択肢があります
急性の感染は、耳鼻咽喉科での治療が土台です。そのうえで、風邪のたびに耳に来る、液体が抜けにくい、薬の回数が増えていく、という状態には、体質の側からできることがあります。
漢方で体力と水の巡りを整え、鍼灸で耳と全身の巡りを促す。日本で行われた研究でも、漢方を加えた群で中耳炎の回数が減っていました。確実とは言えませんが、試してみる価値のある選択肢だと考えています。
お子さんの耳が良くなるように、できる限りのことをします。まずは、これまでの経過と、今困っていることをお聞かせください。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から提案します。
