片頭痛に伴う嗅覚過敏(osmophobia)とは──
診断での位置づけ・メカニズムと、体質から整えるアプローチ
香水・たばこ・料理・洗剤などのにおいで、頭痛や吐き気が強まる。においを避けるために、外出や仕事の予定を変えている。そのような状態は、片頭痛に伴う嗅覚過敏(osmophobia)の可能性があります。
2025年のメタ解析では、片頭痛のある方の約半数(47.8%)に認められると報告されています。気のせいや神経質さの問題ではなく、片頭痛の症状として研究が進んでいる領域です。
このページでは、診断基準での位置づけ、メカニズム、現在の治療と限界を整理したうえで、漢方・鍼灸による体質面からのサポートを説明します。片頭痛の発作が起こりにくい状態をつくり、においに左右される場面を減らしていけるよう、タナココは一人ひとりの状態に向き合います。
最終更新日:2026年11月7日
片頭痛に伴う嗅覚過敏の理解と体質へのアプローチ
嗅覚過敏(osmophobia)とは:においに対する不快感が強まり、頭痛・吐き気の悪化や発作の誘発につながる状態。片頭痛に伴う症状のひとつです。
頻度:2025年のメタ解析(58研究・22,299人)で、片頭痛のある方の47.8%に認められると報告されています。
診断での位置づけ:国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準には含まれていません。感度は低いものの特異度が高く、緊張型頭痛との鑑別に役立つ可能性が指摘されています。
メカニズム:においの刺激が三叉神経血管系と脳の嗅覚処理領域に作用する経路が想定されています。完全には解明されていません。
現在の治療:嗅覚過敏に特化した標準治療は現時点では確立しておらず、片頭痛の治療(急性期治療・予防療法・生活指導)が中心です。
漢方・鍼灸:片頭痛の発作頻度に対する鍼治療の研究(コクランレビュー2016)があります。嗅覚過敏そのものを対象とした大規模試験はまだありません。
片頭痛に伴う嗅覚過敏(osmophobia)とは何か
嗅覚過敏(osmophobia、オスモフォビア)とは、通常は気にならない程度のにおい、あるいはにおい全般に対して、不快感が強まり、頭痛や吐き気が悪化する状態を指します。片頭痛の発作中に多く、発作の前(予兆期)や、発作のない時期にもみられる方がいます。
名称に「phobia」とありますが、不安症の一種ではなく、においの感覚に対する過敏性(感覚過敏)を指す用語です。気のせいや神経質さの問題ではなく、脳の感覚処理に関わる片頭痛の症状のひとつとして研究されています。
片頭痛の診断基準には、光過敏と音過敏が含まれています。一方、嗅覚過敏は診断基準に含まれていないため、診察で尋ねられないことがあり、ご本人も「片頭痛とは別の体質」と考えて申告しない場合があります。2025年のメタ解析(Briggsら)は、嗅覚過敏を「片頭痛の重要な構成要素でありながら、見過ごされやすい症状」と結論づけています。
片頭痛の発作が始まる前に嗅覚過敏が先に現れ、そのときに感じたにおいを「発作の原因」と受け取る場合があるとされています。においが実際に発作を誘発する場合と、予兆として嗅覚過敏が出ている場合は、区別が難しいことがあります。頭痛ダイアリーに、においに気づいた時刻と頭痛の始まりを記録すると、診察時の判断材料になります。
診断基準と嗅覚過敏の位置づけ
診断は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に基づきます。嗅覚過敏だけで診断する仕組みはなく、片頭痛そのものを診断する過程で、付随症状として確認されます。
1)片頭痛の診断基準(ICHD-3)
前兆のない片頭痛
- A.以下のB〜Dを満たす発作が5回以上
- B.頭痛発作が4〜72時間持続(未治療または治療が無効の場合。18歳未満は2〜72時間)
- C.次の4つのうち2つ以上:片側性/拍動性/中等度〜重度の痛み/日常的な動作(歩行・階段昇降など)で悪化、またはそのために動作を避ける
- D.頭痛中に、悪心・嘔吐、または光過敏と音過敏の両方の少なくとも一方
- E.ほかのICHD-3の診断で説明できない
前兆のある片頭痛・慢性片頭痛
- 前兆のある片頭痛:視覚・感覚・言語などの、完全に回復する前兆が2回以上の発作で認められる
- 慢性片頭痛:頭痛が月15日以上、3か月を超えて続き、そのうち月8日以上が片頭痛の特徴を満たす(または片頭痛と考えられ、トリプタンなどが有効)
- 嗅覚過敏は、いずれの診断基準にも含まれていない
2)嗅覚過敏の位置づけ
嗅覚過敏は、ICHD-3の診断基準には含まれていません。臨床では、片頭痛の付随症状として確認されます。複数の研究で、嗅覚過敏は感度が低く(片頭痛の方すべてにみられるわけではない)、特異度が高い(みられた場合は片頭痛である可能性が高い)症状と報告されています。2025年の総説(片頭痛患者の嗅覚異常に関するナラティブレビュー)は、緊張型頭痛との鑑別に有用であり、今後の診断基準への組み入れを検討すべきだと述べています。
緊張型頭痛の方にも、一定の割合で嗅覚過敏がみられたとする報告があります。診断は、頭痛の持続時間・性質・随伴症状・経過を総合して行います。
3)嗅覚の変化は嗅覚過敏だけではありません
片頭痛では、次のような嗅覚の変化が報告されています。
| 名称 | 状態 | 補足 |
|---|---|---|
| 嗅覚過敏(osmophobia) | においへの不快感・嫌悪、頭痛や吐き気の悪化 | 片頭痛で多く報告される。発作中に多い |
| 嗅覚亢進(hyperosmia) | においを通常より強く感じる | 発作頻度が高く、においで誘発される発作が多い傾向が報告されている |
| 幻臭(phantosmia) | 実際にはないにおいを感じる | 前兆に関連して現れることがある |
| 嗅覚低下・脱失 | においを感じにくい、または感じない | 片頭痛でもみられるが、副鼻腔疾患や感染後などの確認も必要 |
4)先に医療機関での確認が必要な頭痛
次のような場合は、片頭痛と決めずに、先に医療機関(脳神経内科・脳神経外科・頭痛外来など)で確認することが重要です。
- 突然発症した、これまでに経験のない激しい頭痛
- 麻痺・しびれ・ろれつが回らない・意識がはっきりしないなどの神経症状を伴う
- 発熱や首のこわばりを伴う
- 50歳以降に初めて起きた頭痛、または頭痛の性質・頻度が急に変わった
- においを感じにくくなる、実際にはないにおいを感じるといった症状が、新たに出現した
症状:においが生活に及ぼす影響
嗅覚過敏のある方では、においのために行動や予定を変えていることが少なくありません。症状の現れ方には個人差があります。
においに関する症状
- 香水・たばこの煙・食べ物・洗剤・排気などのにおいで、不快感や頭痛の悪化、吐き気が生じる
- においが片頭痛発作の誘因になる(メタ解析で40.1%。主な誘因は香水)
- 発作の前(予兆期)、発作中、発作のない時期のいずれにも現れうる
- 加熱式たばこの煙やにおいで、不快感・吐き気・頭痛が出やすい(国内研究の報告)
併存しやすい症状
- 悪心(嗅覚過敏のある方は、ない方より伴いやすい)
- 光過敏、前兆(同様に伴いやすい)
- 不安・抑うつ(嗅覚過敏のある方で多いとする報告)
- においを予測して外出や人との場を避ける、緊張が続く
通勤電車、職場の香り、食事の支度、買い物、美容室、家族との外食など、においに出会う場面は日常に多くあります。回避が続くと、行動範囲や人付き合いが狭まり、においを予測すること自体が緊張や不安を高める場合もあります。
片頭痛のある方では、においを感じ取る力(嗅覚閾値)が、むしろ高め(感じにくい)と報告する研究もあります(Gossrauら2022年の論文でも引用)。鼻の感度が上がるというより、においの情報を脳が処理する過程が変化している可能性が示唆されています。
有病率と日本の現状
嗅覚過敏は、片頭痛のある方の約半数にみられる症状です。報告によって幅があるため、代表的な数値を整理します。
| 対象・指標 | 数値の目安 | 出典・特記事項 |
|---|---|---|
| 片頭痛のある方の嗅覚過敏 | 47.8%(95%信頼区間 42.0〜53.6%) | Briggsら 2025年メタ解析(58研究・22,299人) |
| 報告ごとの幅 | 発作中25.1〜86%、発作間欠期24〜53.3% | 2025年の総説(片頭痛患者の嗅覚異常に関するナラティブレビュー)。調査方法や対象により大きく異なる |
| 性別 | 女性65.7%、男性48.1% | 同メタ解析。信頼区間が広く、解釈は慎重に |
| においが発作の誘因 | 40.1%(95%信頼区間 32.7〜47.8%) | 同メタ解析。主な誘因は香水 |
| 時期別 | 予兆期38.1%、発作中61.9%、発作間欠期31.9% | Gossrauら 2022年(Journal of Headache and Pain)。片頭痛患者113人の横断研究 |
| 日本の片頭痛 | 15歳以上の8.4%(約840万人と推計) | Sakai & Igarashi, Cephalalgia 1997。女性12.9%、男性3.6% |
国内の全国調査では、片頭痛のある方の約7割が、頭痛で医療機関を受診した経験がないと報告されています。症状を相談しないまま過ごしている方が多い可能性があります。日本人を対象とした嗅覚過敏の大規模な有病率調査は限られていますが、国内のインターネット調査(石井ら、日本禁煙学会雑誌 2022年。頭痛のある20〜40代の627人、うち片頭痛163人)でも、嗅覚過敏のある片頭痛の方は、加熱式たばこの煙やにおいで頭痛を生じやすいと報告されています。
発症のメカニズム
嗅覚過敏のメカニズムは、完全には解明されていません。現在、次の要素が関わると考えられています。
1)においの刺激が三叉神経を介して片頭痛の経路に作用する
においの成分の多くは、嗅神経だけでなく、鼻粘膜にある三叉神経(顔の感覚を伝える神経)も刺激します。鼻粘膜のTRPA1という受容体を介して三叉神経血管系が活性化し、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経ペプチドの放出につながる経路が想定されています。CGRPは片頭痛の痛みの発生に深く関わる物質で、現在の予防薬の標的にもなっています。
2)脳におけるにおいの処理の変化
片頭痛のある方では、においの刺激に対して、扁桃体・島皮質・梨状皮質・脳幹(橋)などの活動が高まることが、画像研究で報告されています(Gossrauら2023年、J Headache Pain での整理による)。嗅覚過敏のある方で、においの情報の最初の中継点である嗅球の体積が小さいとするMRI研究もあります(2025年の総説による)。いずれも少数例の研究が中心で、原因か結果かは確定していません。
3)中枢性感作と、罹病期間・生活支障度との関連
2022年のGossrauらの研究では、片頭痛の罹病期間が長い方、生活支障度(MIDAS)が高い方で、嗅覚過敏が多くみられました。発作のない時期にも嗅覚過敏がある方は、罹病期間が長い傾向がありました(中央値28.5年と20年)。片頭痛の負担が積み重なるなかで、感覚刺激への反応が高まる「感作」が進む可能性が示唆されています。ただし、横断研究であり、因果関係は示されていません。
4)前兆・悪心との関連
前兆の基盤とされる皮質拡延性抑制(CSD)が、梨状皮質など嗅覚に関わる領域に及ぶ可能性が指摘されています。2025年のメタ解析では、嗅覚過敏のある方は、光過敏(オッズ比1.45)、前兆(同1.66)、悪心(同1.73)を伴いやすく、音過敏との関連は認められませんでした。
① においの成分が鼻に入る:嗅神経と、鼻粘膜の三叉神経の両方が刺激される。
② 三叉神経血管系の活性化:TRPA1などを介して、CGRPなどの神経ペプチドの放出が促されると想定されている。
③ 脳での処理:扁桃体・島皮質・梨状皮質・脳幹など、においと不快感・痛み・悪心に関わる領域が反応しやすくなる。
④ 感作の進行:発作の繰り返しなどにより、感覚刺激に対する反応が高まり、においで症状が出やすくなる可能性がある。
⑤ 症状の発現:においへの不快感、悪心、頭痛の悪化、発作の誘発が生じる。
現在の治療とその課題
嗅覚過敏を単独の標的とした標準治療は、現時点では確立していません。治療の基本は、片頭痛の治療(急性期治療・予防療法・生活指導)です。『頭痛の診療ガイドライン2021』(日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会)に沿って、発作を減らし、発作時の症状を抑えることを目標とします。
非薬物療法(生活指導)
- 誘因の把握:頭痛ダイアリーに、頭痛・においの場面・睡眠・月経・天候・食事を記録し、傾向を確認する。
- 睡眠・食事のリズム:就寝・起床時刻を一定にし、欠食を避ける。
- においの環境調整:職場や家庭で、香りの強い製品(香水・柔軟剤・芳香剤)の見直しと換気を行う。回避しすぎると行動範囲が狭まるため、無理のない範囲で調整する。
- 発作時の対処:暗く静かで、においの少ない場所で休む。
- 運動・ストレス管理:無理のない範囲で継続する。
薬物療法
国内の承認状況は、2026年11月時点の情報です。
| 薬剤 | 作用機序 | 主な対象・注意点 |
|---|---|---|
| トリプタン系薬剤 | セロトニン受容体(5-HT1B/1D)に作用し、血管収縮とCGRPなどの放出抑制を介して発作を抑える | 発作時に使用。血管収縮作用があるため、虚血性心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧などでは使用できない。使いすぎによる薬剤の使用過多による頭痛(MOH)に注意 |
| NSAIDs・アセトアミノフェン | 痛みと炎症を抑える | 軽度〜中等度の発作に使用。服用日数が多いとMOHの原因になる |
| 制吐薬 | 悪心・嘔吐を和らげる | においや発作による悪心が強い場合に併用される |
| ジタン系薬剤(ラスミジタン) | セロトニン5-HT1F受容体に作用する。血管収縮作用を持たない | 発作時に使用。眠気・めまいなどに注意 |
| 予防薬(ロメリジン・プロプラノロール・バルプロ酸・アミトリプチリンなど) | 発作の頻度・程度を減らす | 発作が多い、生活への支障が大きい場合に検討。薬剤ごとに副作用・禁忌(気管支喘息、妊娠可能年齢の女性、眠気など)に注意 |
| CGRP関連抗体薬(エレヌマブ・ガルカネズマブ・フレマネズマブ) | CGRPまたはその受容体の働きを阻害する | 2021年から国内で使用可能。注射薬で、投与条件が定められている |
| 経口CGRP受容体拮抗薬(リメゲパント・アトゲパント) | CGRPの受容体を選択的に阻害する内服薬 | リメゲパントは2025年に承認され、急性期治療と発症抑制の両方に使用される。アトゲパントは2026年2月に承認され、発症抑制に1日1回使用される。使用条件や費用は医師にご確認ください |
| 漢方薬(呉茱萸湯・五苓散・釣藤散など) | 水の滞りや気の巡り、冷えなどの体質面を整える(中医学的な捉え方) | 医療用エキス製剤は、頭痛などの症状に保険適用がある(嗅覚過敏単独の病名適応ではありません) |
心理的サポート
片頭痛は不安・抑うつと併存しやすく、嗅覚過敏のある方では特に多いとする報告があります。リラクセーション・認知行動療法・バイオフィードバックなどが、必要に応じて検討されます。
薬物療法だけでカバーしきれない部分
嗅覚過敏を狙った治療の検証が限られていること:CGRP抗体薬の実臨床研究(Alpuenteら、Cephalalgia 2023年、158人)では、反応のあった方で、光過敏・音過敏・前兆の日数が、頭痛日数より大きな割合で減少したと報告されています。一方、嗅覚過敏を主要評価とした大規模な検証は限られています。Krymchantowskiら(Cureus、2025年)の、反復性片頭痛63人を対象とした単施設の非盲検研究では、フレマネズマブまたはガルカネズマブの投与後、発作時に強い嗅覚過敏のある方で月間頭痛日数の減少が大きかったとされていますが、少数例の結果であり、確立した知見ではありません。
十分な反応が得られない方がいること:同研究では、6か月後に頭痛日数が50%以上減った方は44%(69/158人)でした。
使用できない・続けにくい場合:禁忌、副作用、妊娠の希望、費用、注射の負担などにより、薬剤の選択肢が限られる方がいます。
薬の使いすぎの問題:急性期治療薬の服用日数が増えると、MOHのリスクが高まります。
発作のない時期の困りごと:においに対する予期不安や行動の制限は、発作時に使う薬だけではカバーしにくい面があります。
体の背景への働きかけ:睡眠・胃腸・冷え・月経・肩や首の緊張など、発作が起こりやすくなる背景は、薬物療法とは別の手段で整える必要があります。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
片頭痛に伴う嗅覚過敏に対する、西洋医学と中医学のアプローチの違いを整理します。両者は対立するものではなく、それぞれの強みを活かして組み合わせることで、より包括的なサポートが可能です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 三叉神経血管系・CGRP・脳の感覚処理・中枢性感作という生理学的な仕組みで評価 | 気・血・水の巡りと、肝・脾・腎などの偏りとして、頭痛・吐き気・においへの過敏・冷え・月経・睡眠を含めて全体で把握する |
| 治療の目標 | 発作の頻度・強さ・持続時間の低減、生活支障度の改善 | 発作が起こりにくい体質への調整、随伴症状(吐き気・頭重・肩や首の緊張)の緩和を目指す |
| 主な治療手段 | 急性期治療薬・予防薬・CGRP関連抗体薬・生活指導・心理的サポート | 弁証に基づく漢方処方(呉茱萸湯・半夏白朮天麻湯・釣藤散・五苓散など)、鍼灸(百会・風池・太衝など)、養生指導 |
| 長所 | 発作時の対応力、明確な診断基準、大規模試験による根拠、新薬の登場 | 冷え・胃腸・月経・睡眠・肩こりなどにも同時に対応できる、薬物療法と併用しやすい、鍼治療では薬物療法より有害事象が少なかったとの報告がある(コクランレビュー2016) |
| 限界・課題 | 嗅覚過敏を標的とした治療が確立していない、効果に個人差、副作用・使用条件の制約 | 嗅覚過敏を主要評価とした大規模試験がない、効果に個人差、変化の確認に数か月を要することが多い、研究の質にばらつきがある |
中医学からの病態分析
中医学では、片頭痛は「頭痛」「偏頭痛(偏頭風)」などの範疇で捉えられてきました。においへの過敏は、独立した病名として定められた症状ではないため、頭痛の性質・随伴症状・体質・誘因を、脈診・舌診・腹診・問診で総合的に把握し(弁証〔べんしょう〕)、偏りのある部分を整えます。片頭痛でよく見られる証(体質のパターン)は次のとおりです。
ストレス・緊張・睡眠不足により、「肝」の陽気が上に偏った状態。拍動性の痛み、いらいら、目の充血、耳鳴り、肩こり、においや光・音への敏感さが目立つ。釣藤散などが検討される。
気の流れが滞った状態。月経前や緊張した時期に悪化し、ため息、胸脇部の張り、食欲の波を伴う。加味逍遙散・柴胡桂枝湯・抑肝散などが検討される。
余分な水分が体内に滞った状態。頭重感、めまい、吐き気があり、雨や気圧の変化で悪化し、胃腸が弱い傾向がある。半夏白朮天麻湯・五苓散・苓桂朮甘湯などが検討される。
体の内側の冷えを背景に、頭頂部や側頭部の痛み、吐き気、よだれ、手足の冷えを伴う状態。呉茱萸湯が代表的な処方として検討される。
疲れやすく、食欲が出にくく、においで吐き気を催しやすい状態。発作後の疲労が強い。補中益気湯・六君子湯・桂枝人参湯・十全大補湯などが検討される。
血の巡りが滞った状態。刺すような固定した痛み、月経痛、舌の暗紫色などがみられる。桂枝茯苓丸・当帰芍薬散などが検討される。
呉茱萸湯は、呉茱萸・人参・生姜・大棗の4生薬からなる処方です。古典『傷寒論』には、吐き気、よだれ、頭痛がそろう病態に用いるという記載があり、中医学では「温中散寒・降逆止嘔」(体の内側を温め、上に突き上げる気を降ろして吐き気を止める)という働きを持つとされます。現代の日本の臨床でも、冷えやすく吐き気を伴う片頭痛・習慣性頭痛に用いられ、医療用エキス製剤の効能には、製剤により表記は異なりますが、偏頭痛・頭痛・頭痛に伴う吐き気などが含まれます。嗅覚過敏への効果を直接示した研究は確認できていません。また、のぼせや熱感が強い体質では合わないことがあるため、弁証による見極めが重要です。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
鍼灸:コクランレビュー(Lindeら、2016年)
反復性片頭痛の予防に対する鍼治療を検討したコクランレビュー(22試験・4,985人)では、鍼治療を追加した群は、発作時の治療のみ、または通常ケアのみの群より頭痛の頻度が減少しました(頻度が半分以下になった割合は41%対17%)。偽鍼(シャム鍼)との比較でも、差は小さいものの統計学的に有意な頻度の減少がみられました(半減した割合は50%対41%)。予防薬との比較では、3か月時点で半減した割合が57%対46%、6か月時点で59%対54%で、少なくとも同程度の効果が示唆され、有害事象の報告は鍼治療のほうが少ない結果でした。レビューは、6回以上の施術を行う鍼治療が、片頭痛のある方にとって有用な選択肢になりうると結論づけています。1年を超える長期の研究は不足しています。
国内ガイドラインでの位置づけ
『頭痛の診療ガイドライン2021』には、片頭痛や緊張型頭痛の急性期治療・予防療法における鍼治療に関する事項が掲載されました。漢方薬については、呉茱萸湯・桂枝人参湯・釣藤散・葛根湯・五苓散などが、頭痛治療の選択肢として取り上げられています。
2025年の最新のメタ解析
2025年には、鍼治療による片頭痛予防を検討したメタ解析が2つ報告されています。Pistoiaら(European Journal of Neurology)は、標準的な薬物治療との比較で、片頭痛日数と痛みの強さに統計学的な有意差は認められず、鎮痛薬の使用量の減少とQOLの改善がみられたとして、補助的な治療として支持されると結論づけました。Liuら(Journal of Pain Research、19試験・2,296人)は、薬物療法との比較で、発作頻度と痛みの強さの低下が大きかったと報告する一方、研究間のばらつきが大きく、エビデンスの質は中〜低であるため、質の高い試験が必要としています。Pistoiaらは、研究プロトコルのばらつきと、偽鍼を用いた試験の難しさを、Liuらは、研究間のばらつきと方法上の限界を、それぞれ課題として挙げています。
漢方薬の片頭痛予防
経口の漢方薬による反復性片頭痛の予防を検討した2020年のメタ解析(35試験・2,840人)では、フルナリジンとの比較で、発作頻度の減少が報告されています。ただし、比較対象はフルナリジンであり、プラセボとの比較ではないため、解釈には注意が必要です。呉茱萸湯については、寒・瘀の証にあたる片頭痛の方を対象とした、改良呉茱萸湯顆粒の二重盲検プラセボ対照試験(Chinese Journal of Integrative Medicine、2018年)で、8週時点の痛みの強さに差がみられた一方、発作日数・発作回数・鎮痛薬使用量では有意差は認められませんでした。慢性片頭痛モデルのラットを用いた実験では、セロトニンの調節を介して痛覚過敏を和らげる可能性が報告されています(Phytomedicine、2021年)。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココでは、片頭痛の発作が起こりにくい体の状態を整えることを軸に、においに左右される場面を減らしていくことを目指して、漢方・鍼灸を組み合わせます。
弁証に基づき、体質と頭痛のタイプに合わせて処方を選びます。代表的な処方の例は次のとおりです。
呉茱萸湯(ごしゅゆとう):冷えやすく、吐き気やよだれを伴う頭痛に。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):胃腸が弱く、頭重・めまい・吐き気があり、天気で悪化する頭痛に。
五苓散(ごれいさん):水の滞りがあり、むくみ・口の渇き・吐き気・気圧による頭痛に。
釣藤散(ちょうとうさん):緊張・のぼせ・朝の頭痛、肩こりを伴う頭痛に。
桂枝人参湯(けいしにんじんとう):胃腸が弱く、冷えを伴う頭痛に。
加味逍遙散(かみしょうようさん)・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):月経に関連して悪化する頭痛に、気血の状態に応じて。
これらは単独ではなく、弁証に基づいて組み合わせます。処方と用量は、年齢・体格・体質・症状・服薬状況に応じて個別に判断します。甘草を含む処方の重複や、現在の処方薬との相互作用は、薬剤師が確認します。
気・血・水の巡りと、自律神経・肩頸部の緊張を整える目的で、体質に合わせて経穴(ツボ)を選びます。片頭痛でよく用いられる経穴の例は次のとおりです。
百会(ひゃくえ):頭頂部。頭重感・のぼせ・自律神経の調整に。
風池(ふうち):後頭部から首筋。片頭痛に伴いやすい肩や首の緊張に。
太陽(たいよう):こめかみ付近。側頭部の痛みに。
合谷(ごうこく)・太衝(たいしょう):手と足にあり、気の巡りを整え、ストレスに関わる不調に。
足三里(あしさんり):脾胃の働きを補い、胃腸の弱さや疲労に。
内関(ないかん):吐き気・胸のつかえに。
迎香(げいこう):小鼻の脇。鼻まわりの緊張や、においの不調に。
コクランレビューに含まれた22試験は、いずれも6回以上の施術を行っていることから、タナココでは当面の目安として6回前後を設定し、頭痛ダイアリーで発作の回数・強さ・においへの反応の変化を確認しながら、施術内容を調整します。「鍼灸ははじめて」という方も、反応を確認しながら丁寧に進めますので、ご相談ください。
現在、頭痛外来・脳神経内科などで治療を受けている方は、その治療を続けたまま、併用できる形で漢方・鍼灸をご提案します。トリプタン系薬剤や予防薬を自己判断で中止することは推奨しません。併用していることは、主治医にもお伝えください。また、前述の「先に医療機関での確認が必要な頭痛」に当てはまる場合は、医療機関の受診をお勧めします。
「においのために予定を変えることが増えた」「薬は使っているが発作の回数が減らない」「薬の副作用や妊娠の希望で、使える薬が限られている」「体質の面からも整えたい」——どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
片頭痛でにおいに敏感になるのは、気のせいですか?
においに敏感なだけで、片頭痛と診断できますか?
嗅覚過敏は治りますか?
においを避けるだけでは、よくないのですか?
漢方・鍼灸は、嗅覚過敏に有効ですか?
トリプタンやCGRP関連の薬を使っていますが、漢方・鍼灸と併用できますか?
どのような頭痛なら、先に病院へ行くべきですか?
改善までどれくらいかかりますか?
片頭痛に伴う嗅覚過敏──「においだから仕方がない」で終わらせない選択肢があります
通勤電車、職場、買い物、家族の食事の支度。においのために、行動や予定を変えている方は少なくありません。嗅覚過敏は、片頭痛に伴う症状として研究が進んでおり、片頭痛の治療と体質面の調整を組み合わせて取り組むことができます。
タナココでは、片頭痛の発作が起こりにくい体の状態をつくることを目標に、漢方と鍼灸を通じて、できる限りのことをします。頭痛ダイアリーで変化を確認しながら、処方と施術を調整し、においに左右される場面を減らしていくことを目指します。
現在、頭痛外来や脳神経内科で治療を受けている方は、その治療を続けたまま併用できる形をご提案します。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
変えていける部分があります。まずは、現在の状況をお聞かせください。
