慢性胃炎とは──
診断・治療の全体像と、胃の体質から整えるアプローチ
「胃カメラで見てもらったのに、胃もたれが続く」「萎縮性胃炎と言われて、この先が不安」——その悩みには、きちんとした理由があります。
慢性胃炎は、粘膜の状態と、胃の動き・自律神経・体質が重なって症状が出る疾患です。除菌や胃薬だけでは整いきらない部分があることは、診療の現場でも課題とされています。
西洋医学の診断と治療を土台に、漢方・鍼灸で脾胃の働きを整えるアプローチで、タナココは一人ひとりの回復に向き合います。
最終更新日:2026年10月31日
慢性胃炎の理解と体質へのアプローチ
慢性胃炎とは何か
慢性胃炎とは、胃の粘膜に炎症が長く続いている状態の総称です。「胃炎」という言葉は本来、胃粘膜に生じた炎症性・反応性の変化を、内視鏡や病理検査(組織の顕微鏡検査)で捉えたものを指します。胃もたれや胃痛といった症状の有無ではなく、粘膜の状態で診断される病名です。
国際的な分類であるUpdated Sydney System(改訂シドニー分類)では、慢性胃炎を「非萎縮性胃炎」と「萎縮性胃炎」に大きく分けます。萎縮性胃炎は、胃の粘膜で胃液をつくる腺が減り、粘膜が薄くなった状態です。最も多い原因はヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染で、そのほかに、自己免疫、解熱鎮痛薬(NSAIDs)、胆汁の逆流、飲酒・喫煙などが関わります。
慢性胃炎は、「ただの胃もたれ」と軽く扱われることもあれば、「胃がんになるのでは」と強い不安につながることもあります。どちらも半分は正しく、半分は不正確です。多くの方は適切な管理で落ち着いて過ごせますが、萎縮や腸上皮化生が進んだ粘膜は胃がんのリスクが高いため、定期的な内視鏡検査が重要になります。正確な状態を知り、必要な医療を受けたうえで、症状と体質に向き合うことが大切です。
慢性胃炎があっても症状がない方は少なくありません。反対に、症状が強いのに内視鏡では大きな異常が見つからない方もいます。後者は「機能性ディスペプシア(FD)」と呼ばれ、慢性胃炎との関係は日本消化器病学会のガイドラインでも取り上げられています。胃の状態を調べる検査と、症状に向き合う治療は、分けて考える必要があります。
慢性胃炎の診断基準と検査
慢性胃炎には、症状だけで診断する基準はありません。診断は、内視鏡検査、病理組織検査、ピロリ菌の感染診断を組み合わせて行います。
1)内視鏡と病理による診断
内視鏡による診断(胃炎の京都分類)
- 2014年に発表された、内視鏡所見にもとづく胃炎の分類。19の胃炎所見を定義し、ピロリ菌の感染状態との関係を整理した
- ピロリ菌の感染状態を「未感染・現感染・既感染(除菌後を含む)」に分け、萎縮・腸上皮化生・びまん性発赤・地図状発赤などの所見を総合的に評価する
- 胃がんのリスクを評価する目的にも用いられる
病理組織による診断(Updated Sydney System)
- 胃粘膜の組織を採取し、炎症の程度・活動性・萎縮・腸上皮化生・ピロリ菌の有無を評価する
- 慢性胃炎を非萎縮性胃炎と萎縮性胃炎に分類する
- 萎縮の範囲と程度を病期(OLGA・OLGIM)として評価する方法があり、胃がんのリスクを見積もるために用いられる
2)ピロリ菌検査の方法
| 検査 | わかること | 注意点 |
|---|---|---|
| 尿素呼気試験・便中抗原検査・PCR検査 | 胃の中に今、菌がいるか(現感染) | 胃酸分泌抑制薬や抗菌薬を服用中は結果が偽陰性になることがあるため、検査前の休薬の要否を主治医に確認する |
| 血清抗体検査 | 免疫反応の有無(過去の感染も反映する) | 抗体陽性は現感染を意味するとは限らないため、2024年のガイドラインは、この結果だけで除菌治療を開始しないことを推奨している |
ペプシノゲン検査(胃粘膜の萎縮の程度の目安となる血液検査)を、ピロリ抗体検査と組み合わせることもあります。いずれの検査も、結果の解釈は医師の判断が必要です。
症状:食後の不調から全身の疲れまで
慢性胃炎の症状は、まったく自覚のない方から、日常生活に支障が出る方まで幅があります。症状の種類は機能性ディスペプシアと重なります。
食後・上腹部の症状
胃もたれ・胃の膨満感・少し食べただけで満腹になる(早期飽満感)・食欲低下・吐き気・げっぷ。食後に症状が出やすい。
痛み・灼熱感
みぞおちの痛み・灼熱感・胸やけ・空腹時や食後のしくしくする痛み。冷たいものや脂っこいもの、辛いもので悪化することがある。
全身・心身への影響
疲れやすさ・体重の減少・睡眠の質の低下・不安感・便通の乱れ。胃の不調が長く続くことで、食事や外出への不安が強くなることもある。
黒い便、血を吐く、飲み込みにくさ、原因のわからない体重減少、貧血を指摘された、強い痛みが続く。中高年になって初めて胃の症状が出た場合や、胃がんの家族歴がある場合も、内視鏡検査をおすすめします。漢方・鍼灸は、こうした検査で重大な病気が否定されたうえで、あるいは医療と並行してご利用いただくものです。
日本の現状:ピロリ菌時代の変化と、残された課題
日本では2013年に、ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり、検査と除菌が広く行われるようになりました。感染者は減少傾向にあり、近年は未感染の方や除菌後の方の胃炎への対応が課題とされています。胃炎の京都分類では、感染状態ごとに特徴的な内視鏡所見が整理されています。
| ピロリ菌の感染状態 | 特徴的な内視鏡所見 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 未感染 | RAC(集合細静脈の規則的な配列) | 胃粘膜が健康な状態の目印とされる所見 |
| 現感染 | びまん性発赤 | 除菌の対象となる。長く続くと萎縮・腸上皮化生が進むことがある |
| 既感染(除菌後) | 地図状発赤 | 除菌後も萎縮や腸上皮化生が残り、定期的な経過観察が必要になる |
2025年に発表された総説(Digestion誌)は、除菌後に見つかる胃がんが、もともと萎縮や腸上皮化生のある粘膜から発生しやすいこと、除菌後の胃がんは内視鏡で見つけにくい特徴があり、萎縮や腸上皮化生の範囲に応じた長期の経過観察が必要であることを報告しています。「除菌したから安心」ではなく、「除菌したうえで、胃の状態を見守り続ける」ことが、今の標準的な考え方です。
発症のメカニズム
慢性胃炎は、粘膜の炎症が続くことで、時間をかけて粘膜の構造が変わっていく疾患です。症状の出方には、粘膜の炎症だけでなく、胃の動きや知覚、ストレスも関わります。
1)ピロリ菌感染と炎症
ピロリ菌は胃の粘液の中で生き続け、粘膜に炎症を起こします。感染が続くと炎症が慢性化し、「ピロリ菌感染胃炎」(ピロリ菌の感染による組織学的な慢性胃炎)となります。多くの慢性胃炎の背景にこの感染があります。
2)萎縮・腸上皮化生への進行
慢性的な炎症が長く続くと、胃の腺が減って粘膜が薄くなる「萎縮」が進み、さらに、胃の粘膜が腸のような粘膜に置き換わる「腸上皮化生」が起こります。その先に、異形成を経て腸型の胃がんが発生するという段階的な経過(Correaのカスケード)が知られています。ただし、萎縮や腸上皮化生は「高リスクの粘膜」の目印であり、必ずがんになるわけではありません。
3)ピロリ菌以外の要因
解熱鎮痛薬(NSAIDs)の長期使用、胆汁の逆流、飲酒・喫煙、自己免疫による胃炎(自己免疫性胃炎)なども、胃粘膜の炎症の原因になります。ピロリ菌の感染がない方の慢性胃炎では、こうした要因を丁寧に確認します。
4)胃の運動・知覚と自律神経
症状の背景には、胃酸分泌の異常、胃の動き(運動)の低下、胃の感覚の過敏さ、ストレスなどが複合的に関わると考えられています。自律神経は胃の動きや血流を調節しているため、睡眠不足や緊張が続くと、粘膜に大きな変化がなくても胃もたれや痛みが出やすくなります。
① 感染・刺激:ピロリ菌の感染、薬剤、胆汁の逆流などが胃粘膜に負担をかける。
② 炎症:粘膜に炎症が起こり、慢性化する(非萎縮性胃炎)。
③ 萎縮:炎症が長く続き、胃の腺が減って粘膜が薄くなる(萎縮性胃炎)。
④ 腸上皮化生:粘膜が腸のような粘膜に置き換わる。胃がんの高リスク粘膜とされる。
⑤ 経過観察:原因の治療に加え、定期的な内視鏡検査で状態を見守ることが重要になる。
現在の治療とその課題
慢性胃炎の治療は、原因の除去、症状の緩和、胃がんの早期発見のための経過観察の3つを柱に進められます。
原因の除去(ピロリ菌の除菌)
ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療が基本です。2024年10月に改訂された日本ヘリコバクター学会のガイドライン(第5版)では、1次除菌として、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)にアモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤を7日間服用する方法を推奨しています。除菌は、胃がんの予防という点でも重要です。2025年にFront Microbiol誌に発表された、ランダム化比較試験16件(約1万5千人)をまとめたメタ解析(Fu ら)では、除菌によって胃がんのリスクが全体で約45%低下し(相対リスク0.55)、異形成のある方で0.51、腸上皮化生のある方で0.61と、前がん状態のある方でも低下が示されました。
症状を和らげる薬
症状に対しては、胃酸分泌抑制薬、粘膜保護薬、胃の動きを改善する薬(アコチアミドなど)が用いられます。機能性ディスペプシアに対する日本消化器病学会のガイドライン(2021年)では、酸分泌抑制薬、アコチアミド、漢方薬の六君子湯が、エビデンスの高い第一選択薬として挙げられています。
生活の見直しと定期的な内視鏡検査
食べ過ぎや脂っこい食事を控える、よく噛んでゆっくり食べる、禁煙、飲酒を控える、睡眠を確保する、といった生活の見直しも、症状の軽減に役立ちます。萎縮や腸上皮化生がある場合は、胃がんの早期発見のために、主治医の指示に沿った間隔で内視鏡検査を受けます。
現在の治療でカバーしきれない部分
症状と粘膜の状態が一致しない:除菌で炎症が落ち着いても、胃もたれや痛みなどの症状が残る方がいます。症状には、胃の運動、知覚の過敏さ、ストレスなど別の要因が関わるためです。
萎縮・腸上皮化生を元に戻す治療が確立していない:除菌によって胃がんのリスクは下がりますが、すでに進んだ萎縮や腸上皮化生は残ることが多く、これらを改善させる専用の薬は、現在のところ確立されていません。
除菌後もリスクが残る:除菌後に発見される胃がんは、内視鏡での発見が難しいことがあり、長期の経過観察が必要になります。
症状を支える薬であること:胃酸分泌抑制薬などは症状を和らげる薬で、体質面そのものを変える薬ではありません。中止後に症状が戻る方もいます。
ピロリ菌のない胃炎への対応:感染のない方の慢性胃炎では、除菌という原因治療が使えないため、症状への対応と生活面の調整が中心になります。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
慢性胃炎に対する西洋医学と中医学の考え方の違いを整理します。両者は対立するものではなく、それぞれの強みを活かして組み合わせることで、より包括的なサポートが可能です。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 内視鏡・病理による粘膜の炎症・萎縮・腸上皮化生と、ピロリ菌感染の有無で評価 | 胃脘痛(いかんつう)・痞満(ひまん)などの症状のパターンと、脾胃の働き・気血の巡り・水分代謝・冷えと熱の偏りから、体質として把握する |
| 治療の目標 | 炎症の原因の除去、症状の緩和、胃がんの早期発見 | 脾胃の働きを整え、胃の動き・食欲・消化力・自律神経の調整力を高め、症状が出にくい体質をつくる |
| 主な治療手段 | ピロリ除菌・酸分泌抑制薬・粘膜保護薬・消化管運動改善薬・定期的な内視鏡検査 | 弁証に基づく漢方処方(六君子湯・半夏瀉心湯・安中散・柴胡桂枝湯など)・鍼灸(中脘・足三里・内関など)・食養生 |
| 長所 | 原因治療(除菌)の確かな効果・診断基準が明確・胃がんの早期発見ができる | 体質全体への働きかけ・食事や睡眠など日常の養生と組み合わせやすい・症状と心身の両面にアプローチできる |
| 限界・課題 | 萎縮・腸上皮化生を戻す治療が未確立・除菌後も症状が残る方がいる | 個人差が大きい・大規模で質の高い比較試験が限られる・定期的な内視鏡検査の代わりにはならない |
中医学からの慢性胃炎の病態分析
中医学では、慢性胃炎の症状を「胃脘痛」(みぞおちの痛み)、「痞満」(胃のつかえ・膨満感)、「嘈雑」(胸やけ・胃のむかつき)などの範疇で捉え、胃と脾(消化吸収とエネルギー生成を担う働き)の失調として分析します。
脈診・舌診・腹診・問診を総合する弁証(べんしょう)で体質のパターンを把握し、処方や鍼灸の方針を決めます。中国で行われた慢性萎縮性胃炎の証候研究では、脾胃湿熱・肝胃不和・脾胃虚弱・胃陰不足の4つが代表的な型として抽出されています。次のとおり、慢性胃炎でよく見られる証を示します。
脾胃の働きが弱く、温める力(陽気)も不足した状態。みぞおちのしくしくした痛み、温めたり食べたりすると楽になる、疲れやすい、軟便、冷えが目立つ。黄耆建中湯・人参湯・安中散などが検討される。
消化の力(脾気)が不足し、余分な水分(痰湿)が滞る状態。食後のもたれ、食欲低下、膨満感、軟便、全身のだるさ。六君子湯・補中益気湯などが検討される。やせ型で食欲が落ちやすい方に多い。
ストレスや緊張で気の流れが滞り、胃の働きに影響する状態。張った痛み、げっぷ、胸脇部の張り、ストレスで悪化する。柴胡桂枝湯・四逆散・半夏厚朴湯などが検討される。
湿と熱が胃腸にこもった状態。胸やけ、口の苦さ・粘り、舌苔が黄色く厚い、食後の不快感。半夏瀉心湯・黄連湯などが検討される。脂っこいもの、甘いもの、飲酒の影響が大きい方に。
胃を潤す津液(陰液)が不足した状態。胃の灼熱感、口の渇き、空腹でも食べられない、便が硬い。麦門冬湯などの潤す処方が検討される。長引く胃炎や加齢に伴って見られる。
長く続く不調で、血の巡りが滞った状態。痛む場所が決まっている、刺すような痛み、舌の色が暗い。長期経過の萎縮性胃炎で考慮される。活血の考え方を加えた処方が検討される。
六君子湯は、人参・白朮・茯苓・甘草・半夏・陳皮・大棗・生姜からなり、中医学では「健脾益気・燥湿化痰」(脾の働きを助けて余分な水分をさばく)の処方です。日本では、胃もたれや食欲不振に対して広く用いられ、機能性ディスペプシアのガイドラインでも推奨されています。半夏瀉心湯は、冷えと熱が同居する「寒熱錯雑」のみぞおちのつかえ・胸やけ・下痢傾向に用いられる処方です。同じ「胃の不調」でも、体質によって使う処方は異なるため、弁証による見極めが重要です。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
慢性胃炎に対する漢方・鍼灸の研究は、近年、質の高い試験が増えつつある段階です。一方で、まだ「確実に効く」と言い切れる状況ではありません。
萎縮性胃炎に対する研究の多くは中国で行われた試験で、特定の処方を対象としています。日本人を対象とした大規模な試験は限られます。中国の慢性胃炎のコンセンサス(2017年、上海)でも、中医薬は、エビデンスの質が低いことから条件付きの推奨とされています。また、鍼灸の試験は盲検化(どちらが本物かわからなくする設計)が難しく、研究の質にばらつきがあります。以下は、その前提で現状を整理したものです。
萎縮性胃炎を対象とした最新の二重盲検試験
2025年にFront Pharmacol誌に発表されたElian Granuleの試験(Jia ら)は、中国の12施設で行われた多施設共同の二重盲検プラセボ対照試験です。ピロリ菌陰性で萎縮・腸上皮化生の病期がII〜III期の慢性萎縮性胃炎239例を、24週間追跡しました。萎縮と腸上皮化生の改善率はいずれも漢方薬群がプラセボ群を上回ったと報告されています。消化不良症状の点数やQOLも改善し、重い有害事象は報告されていません。一方で、この試験には解釈上の注意点も指摘されており、結果は慎重に受け止める必要があります。
2026年にPharmacological Research誌に発表されたQilianxiaopi煎剤(WW-1)の試験は、慢性萎縮性胃炎を対象とした多施設共同の二重盲検・プラセボ対照試験です。胃体部の萎縮が、投与終了時・観察終了時ともにプラセボ群より改善し(オッズ比1.74・1.75)、腸上皮化生とOLGAの病期も改善、有害事象は両群で同程度でした。著者らは、これを補完的な選択肢となりうる結果としています。
また、半夏瀉心湯については、慢性萎縮性胃炎を対象とした26件のランダム化比較試験(1,985例)をまとめたシステマティックレビュー(Cao ら、PLoS ONE 2020)で、有効とする結果が報告されています。いずれも中国の研究であり、日本で用いる製剤や用量とは異なる点に留意が必要です。
六君子湯と機能性ディスペプシア
六君子湯は、日本で臨床研究が進んでいる胃の漢方薬のひとつです。247例を対象とした多施設共同の二重盲検ランダム化比較試験(Suzuki ら、2014年、Neurogastroenterol Motil)では、8週間の服用で、みぞおちの痛みが改善し(p=0.04)、食後の膨満感も改善する傾向(p=0.06)がみられました。ピロリ菌未感染の方では効果が小さい可能性も示されています。また、DREAM試験(Tominaga ら、2018年、同誌)では、不安を伴う機能性ディスペプシアで、胃の症状と不安がともに改善することが報告されました。基礎研究では、胃の排出能や適応性弛緩の改善、内臓知覚過敏の抑制、食欲に関わるホルモン(グレリン)の分泌促進などの作用が検討されています。
鍼灸に関する研究
慢性萎縮性胃炎に対する鍼灸のネットワークメタ解析(Wang 2024、Zhongguo Quanke Yixue)は、26件の試験(2,068例)をまとめ、鍼、温鍼、埋線、穴位注射や西洋薬との併用など5つの手法が、通常の西洋薬に比べて有効率で上回ったと報告しています。2025年のレビュー(He 2025、Diseases誌)では、足三里(ST36)・中脘(CV12)・梁門(ST21)がよく用いられる経穴で、粘膜修復・腸内細菌叢・炎症への作用が検討されていること、一方で大規模な多施設試験が必要であることが述べられています。
機能性ディスペプシアの食後愁訴症候群を対象とした試験(Fu 2024、Chinese Medicine)では、鍼治療によって症状・血中グレリン・自律神経の指標が改善したと報告されています。ただし、機能性ディスペプシアに対する鍼の過去のメタ解析(2016年)では、多くの試験の質が低いと評価されており、質の高い追加研究が待たれる分野です。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、「脾胃の働きを整え、胃の動き・消化力・自律神経の調整力を高めることで、胃が本来の力を発揮しやすい状態をつくる」ことを目的とします。弁証に基づき、次のような方向性を中心に処方を選びます。
六君子湯:食後のもたれ、食欲低下、膨満感があり、やせ型で疲れやすい(脾気虚+痰湿)タイプに。
安中散(あんちゅうさん):冷えると痛む、みぞおちの痛みや胸やけがある、胃腸が弱い(脾胃虚寒)タイプに。
半夏瀉心湯:みぞおちのつかえ、胸やけ、ゲップ、下痢傾向があり、冷えと熱が同居するタイプに。
柴胡桂枝湯・四逆散:ストレスや緊張で胃の不調が悪化する(肝胃不和)タイプに。
補中益気湯・黄耆建中湯:疲れやすさが強く、食欲と体力が落ちている(気虚・脾胃虚寒)タイプに。
麦門冬湯:胃の灼熱感や口の渇きがあり、潤い不足(胃陰不足)が目立つタイプに。
これらは単独ではなく、弁証に基づいて組み合わせます。処方の選択・用量は、年齢・体質・症状・服薬状況に応じて個別に判断します。甘草を含む処方が重なる場合の血圧・電解質への影響や、現在の処方薬との相互作用は、薬剤師が確認します。
鍼灸では、胃腸の働きを支える経穴への刺激を通じて、胃の動き、食欲、自律神経の調整を目指します。よく用いられる経穴の例は次のとおりです。
中脘(ちゅうかん):みぞおちの下に位置し、胃の働きを整える代表的なツボ。胃もたれ・膨満感・食欲低下に。
足三里(あしさんり):脾胃の機能を補い、気血を増やす代表的なツボ。胃腸の働きの低下、疲れやすさに。
内関(ないかん):吐き気・みぞおちの不快感・動悸・緊張の調整に。
天枢(てんすう)・梁門(りょうもん):お腹の張りや胃の重さ、便通の乱れに。
太衝(たいしょう)・公孫(こうそん):ストレスで胃の不調が悪化する方、食欲の波がある方に。
施術は体質・証・症状に合わせて経穴を選びます。髪の毛ほどの細い鍼を用い、刺激は軽い段階から始めます。お灸は温かさを感じる程度から行いますので、「鍼灸ははじめて」という方も、まずご相談ください。
タナココでは、現在受けている医療(内視鏡検査の結果・ピロリ菌の除菌の有無・処方薬の内容)をお聞きしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸のアプローチを考えます。「まず病院に行くべきか迷っている」という段階でも、情報収集のご相談から歓迎します。
「除菌したのに胃の調子が戻らない」「萎縮性胃炎と言われて、この先が不安」「胃薬を飲み続けているが、根本的に変わっていない」「食事を楽しめなくなった」——どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
慢性胃炎は治りますか?
慢性胃炎と機能性ディスペプシア(FD)はどう違いますか?
ピロリ菌を除菌したのに、胃の不調が続きます。
萎縮性胃炎や腸上皮化生は、漢方で改善しますか?
漢方・鍼灸は、胃薬や除菌治療と併用できますか?
すぐに医療機関を受診したほうがよい症状はありますか?
鍼灸は胃の不調にも効果がありますか? 痛くないですか?
改善までどれくらいかかりますか?
慢性胃炎──「胃薬を飲み続けるしかない」で終わらせない選択肢があります
「除菌したのに胃の調子が戻らない」「萎縮性胃炎と言われて、胃がんが心配」「食事を楽しめない」——胃の不調は、毎日の食事と暮らしに関わるため、長く続くほど心身の負担が大きくなります。
胃の状態を正確に知ること、必要な医療を受けること。そのうえで、脾胃の働きを整え、胃の動きと自律神経の調整力を高めていくことに、漢方と鍼灸を通じてできる限りのことをしたいと考えています。萎縮や腸上皮化生を対象とした研究も、確実に前へ進んでいます。
どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った提案をいたします。内視鏡検査の結果や、お薬手帳をお持ちいただけると、より具体的にご相談できます。
一歩ずつでいい。回復を目指して、いっしょに取り組める選択肢があることを、まず知っていただければと思います。
