眼精疲労とは──
原因・診断・治療の全体像と、体質から整えるアプローチ
目を休ませても疲れが取れない。目の奥の痛み、頭痛、肩こりが毎日続く。眼精疲労は、こうした状態が休息や睡眠をとっても回復しない場合を指します。
原因は目そのものだけではなく、ピント調節、瞬きの減少、首肩の緊張、睡眠、ストレスなどが重なっていることが多くあります。一つずつ確認して対応することで、症状が軽くなる余地があります。
眼科での原因の確認と治療を土台に、中医学の視点から体質を整える漢方・鍼灸で、タナココは症状が改善するまで経過を見ながら取り組みます。
最終更新日:2026年11月3日
眼精疲労の理解と体質へのアプローチ
眼精疲労とは何か
眼精疲労とは、目を使う作業を続けることで、目の痛み・かすみ・充血などの眼症状と、頭痛・肩こり・全身のだるさなどの全身症状が現れ、休息や睡眠をとっても十分に回復しない状態をいいます。一晩の休息で回復する一時的な「眼疲労(疲れ目)」とは区別されます。
近年の主な背景は、パソコンやスマートフォンなど画面を見る時間の増加です。国際的には「デジタルアイストレイン(DES)」「コンピュータビジョン症候群」と呼ばれ、2023年のTFOS Lifestyle報告(Wolffsohnら、The Ocular Surface)は、DESを「デジタル画面の視聴に特異的に関連して、繰り返す眼症状や所見が生じる、または悪化すること」と定義しています。
原因は、①ピント調節や屈折の問題(遠視・乱視・老視、合わない眼鏡)、②眼球を動かす筋肉の負担(斜位など)、③ドライアイなどの眼の病気、④全身の病気や心理的な要因、⑤照明・画面・姿勢などの環境、に大きく分けられます。複数が重なっていることが多い点が特徴です。
眼精疲労の症状が重い、または長引く場合は、緑内障や白内障などの病気、眼鏡やコンタクトレンズの度数の不一致が背景にあることがあります。原因となる病気が見つかれば、その治療が優先されます。漢方・鍼灸は、眼科での確認を前提に、体質面を支える選択肢としてご利用ください。
診断の考え方と受診の目安
眼精疲労には、国際的に統一された診断基準はありません。TFOS 2023報告でも、合意された定義・診断基準がないことが有病率の幅(最大97%)につながっていること、瞬目数やフリッカー値の変化は診断指標として確立していないことが指摘されています。実際の診療では、症状の聞き取りと、原因となる状態の確認・除外が中心になります。
眼科で行われる主な確認
- 問診(画面の使用時間・距離、眼鏡やコンタクトの使用状況)
- 屈折検査・矯正視力の測定
- 眼位・調節・輻湊(寄り目)の評価
- 涙液や角結膜の状態の確認(ドライアイ)
- 必要に応じた眼圧・眼底の検査
早めの眼科受診をおすすめする症状
- 激しい眼の痛みに頭痛・吐き気を伴う
- 急な視力低下や視野の欠け
- 突然、物が二重に見える
- 片目だけに強い症状がある
- 数週間以上続き、日常生活に支障がある
症状:目・全身・生活への影響
眼精疲労の症状は目の周囲にとどまらず、全身と生活の質に及びます。DESの代表的な症状として、眼の疲れ、頭痛、かすみ、ドライアイ、首や肩の痛みが挙げられています(Sheppard & Wolffsohn、BMJ Open Ophthalmology 2018)。
目の症状
目の奥の痛み・重さ、かすみ、ピントが合いにくい、乾燥感、充血、まぶしさ、涙が出る。
全身の症状
頭痛・頭重感、首・肩・背中のこり、全身のだるさ、めまい、吐き気。
認知・生活への影響
集中力の低下、作業効率の低下、睡眠の質の低下、気分の落ち込みやいらだち。
眼精疲労では、一日の終わりに症状が強くなり、画面から離れる休日に軽くなる経過がよく見られます。これは、目や首肩への負荷が一日のうちに積み重なるためと考えられます。休んでも回復しない状態が続く場合は、原因の確認と体質面の見直しが必要です。
有病率と現状
眼精疲労(DES)は、画面を使う人の多くにみられる身近な不調です。
| 対象・調査 | 報告された割合 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 画面を使う人全般 | 約69% | 2023年のメタ解析(Anbesu & Lema、Scientific Reports) |
| コロナ禍の調査 | 74% | 18研究・10,337人・12か国の統合(León-Figueroaら、BMC Public Health 2024) |
| 報告の幅 | 最大97% | 定義・質問票の違いによる(TFOS Lifestyle 2023) |
| 小児 | 50〜65%との報告 | コロナ禍での報告(Jinら、Frontiers in Medicine 2025が引用) |
| 国内の労働衛生 | — | 厚生労働省は2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、休憩や照明の目安を示している |
割合に幅があるのは、診断基準が統一されていないためです。数字そのものよりも、「画面作業を続ける多くの人に起こりうる不調であり、原因を整理して対応する価値がある」という点が重要です。
発症のメカニズム
眼精疲労は複数の要因が重なって起こります。TFOS 2023報告は、主な要因として、瞬目の減少と不完全な瞬目、未矯正の屈折異常、両眼視の問題、作業の認知的負荷、画面の位置・大きさ・明るさ・グレアを挙げています。
1)ピント調節と両眼視への持続的な負荷
近くを見るとき、目は毛様体筋でピントを合わせ、同時に両目を内側へ寄せます。この状態が長く続くと、調節と寄り目の筋肉に負担がかかります。遠視・乱視・老視が矯正されていない場合や、斜位がある場合は、さらに負担が増えます。
2)瞬目の減少と涙液の不安定化
画面を注視している間は瞬きの回数と完全さが低下し、涙液の層が不安定になります。その結果、乾燥感・ゴロゴロ感・かすみといったドライアイ様の症状が現れ、目の疲れとして自覚されます。
3)画面環境と作業内容
画面の位置、文字の大きさ、明るさ、反射、集中を要する作業内容も影響します。紙の作業とは位置・大きさ・明るさ・反射などの条件が異なり、これが目の負担の差につながると報告されています(TFOS 2023)。
4)首肩の緊張と全身状態
画面作業では前かがみの姿勢が続き、首や肩の緊張が強まります。DESでは首・肩の痛みが代表的な随伴症状です。睡眠不足やストレスも、疲労の回復や症状の感じ方に影響すると考えられています。眼精疲労で全身症状が目立つのは、こうした要因が重なるためです。
① 近距離作業の継続:調節と寄り目の筋肉が緊張し続ける。
② 瞬目の減少:涙液が不安定になり、目の表面が乾く。
③ 首肩の緊張:姿勢が固定され、血流が滞りやすくなる。
④ 睡眠・ストレスの影響:回復が十分に行われにくくなる。
⑤ 休んでも回復しにくい状態:眼精疲労として慢性化する。
現在の治療とその課題
眼精疲労の治療は、原因に応じた対応が基本です。TFOS 2023報告は、DESへの介入は確立が十分でないとしたうえで、作業距離に合わせた完全な屈折矯正を行うこと、瞬目を意識すること、作業環境を整えること、定期的に休憩をとることが有用な可能性があるとしています。
原因への対応
- 屈折・老視の矯正:眼鏡やコンタクトの度数、手元用の眼鏡を見直します。
- 斜位への対応:プリズム眼鏡を用いる場合があり、斜視では手術が検討されることもあります。
- ドライアイの治療:点眼などで涙液の状態を整えます。
作業環境と休憩
- 厚生労働省のガイドライン(2019年):1日4時間以上などの情報機器作業を主な対象に、一連続作業は1時間を超えない、途中に1〜2回の小休止、次の連続作業までに10〜15分の休止、机上の照度は300ルクス以上が目安とされています。
- 20-20-20ルール:20分ごとに20秒間、遠くを見る方法です。症状のある29人で2週間行った試験では眼精疲労とドライアイ症状が軽くなりましたが、中止1週間後には効果が維持されませんでした(Talens-Estarellesら、Contact Lens and Anterior Eye 2023)。20秒の休憩単独では症状に有意な効果がなかったとする報告もあります(Johnson & Rosenfield、Optometry and Vision Science 2023)。
薬剤・サプリメント・眼鏡
- 点眼・内服:ビタミンB12の点眼薬や漢方の内服薬などが、症状に応じて検討されます。
- オメガ3脂肪酸:コンピュータビジョン症候群に伴うドライアイ症状への効果は、確実性の低い証拠にとどまります(Ophthalmology 2022のシステマティックレビューとメタ解析)。
- ブルーライトカット眼鏡:Cochraneレビュー(Singhら 2023、17試験・619人)では、眼精疲労を軽くする短期的な効果は「おそらく差がない」とされています。
現在の治療だけではカバーしきれない部分
- 原因が複数重なっているため、一つの対応だけでは症状が残りやすい。
- 休憩や点眼で一時的に軽くなっても、条件が戻ると症状が再び現れやすい。
- 肩こり・頭痛・全身のだるさ・睡眠の質といった全身面は、眼科的な治療の対象になりにくい。
- 確立した介入が少なく、「原因が見つからない」と言われて経過観察になる方がいる。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
両者は対立するものではなく、役割が異なります。眼科での診断と治療を土台に、中医学で体質面を支える形で組み合わせます。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | 屈折・調節・眼位・涙液など、目の機能と環境の要因を検査で評価する | 目と全身のつながりを重視し、肝・脾・腎・心の働きと、気・血・津液の状態から体質の偏りを把握する |
| 治療の目標 | 原因の矯正・治療、症状の軽減 | 目の使いすぎによる消耗を補い、回復力を高め、目・首肩・睡眠をまとめて整える |
| 主な手段 | 眼鏡・コンタクトの調整、点眼、環境調整、休憩の指導 | 弁証に基づく漢方処方、鍼灸(眼周囲・首肩・手足のツボ)、養生指導 |
| 長所 | 原因疾患の発見と治療、診断基準と検査の明確さ | 全身症状を含めて対応できる、日常の養生と組み合わせやすい、個人に合わせて調整できる |
| 限界・課題 | 全身症状への働きかけが限られ、原因不明で経過観察になることがある | 眼精疲労を対象とした大規模試験が限られ、個人差が大きい |
中医学からの眼精疲労の病態分析
中医学では、「肝は目に開竅する(肝開竅於目)」「肝が血を受けて、目はものを見ることができる(肝受血而能視)」と考えます。さらに『素問』には「久視傷血(長く見つめると血を傷める)」という記載があり、目の酷使を、肝血や気血の消耗として捉えてきました。この見方は、近距離作業が続くと目の調節と瞬目に負担がかかるという現代医学の理解とも重なります。
2024年の中国の眼科・視光学関連学会による専門家コンセンサス(Chinese Journal of Ophthalmology 60:322-329)では、眼精疲労を肝腎不足・脾気虚・心血不足・肝気鬱結の4つの証型に分けて扱うと紹介されています(Jinら、Frontiers in Medicine 2025による)。脈診・舌診・腹診・問診を合わせた弁証で、体質の偏りを把握します。以下の処方名は証に応じて検討される例で、実際の選択は弁証の結果によります。
目の乾燥・かすみ・疲れ、顔色の薄さ、爪が割れやすい、睡眠不足や月経量の少なさを伴う。当帰芍薬散・四物湯系などが検討される。
目の乾燥・かすみ、ほてり、腰のだるさ、耳鳴りを伴う。杞菊地黄丸などが検討される。
精神的緊張、いらだち、目の張り・頭痛・肩こりが目立つ。加味逍遙散・逍遙散系などが検討される。神経過敏が強い場合は抑肝散も選択肢になる。
疲れやすい、食欲不振、夕方に目やまぶたが重い、だるさが強い。補中益気湯などが検討される。
不安感、寝つきの悪さ、動悸、集中しにくさを伴う。帰脾湯などが検討される(中国では天王補心丹も用いられる)。
首肩の強いこり、目の奥の圧迫感、頭痛が目立つ。葛根湯・釣藤散など、症状に応じた処方が検討される。
『黄帝内経』には「人臥則血帰於肝(人が横になると血は肝に帰る)」とあります。休息時に肝が血を蓄え、目が養われるという見方から、中医学では睡眠の質を眼精疲労の養生の中心に置きます。画面時間を減らす、夜遅い画面作業を控える、決まった時間に眠るといった生活の整え方と、漢方・鍼灸を組み合わせます。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
眼精疲労(デジタルアイストレイン)を対象とした漢方・鍼灸の大規模で質の高い比較試験は、現時点では限られています。一方で、研究は着実に増えています。
参加者数の少なさ、盲検化の難しさ(鍼を本物か偽物か分からなくする設計)、評価方法の違い、研究が中国に集中していることなどの課題があります。「確実に改善する」という決定的な証拠はなく、補完的な選択肢として可能性が検討されている段階です。
研究の動向
Jinら(Frontiers in Medicine 2025)は、2024年末までの中医学による眼精疲労の研究412件(英語146件・中国語266件)を分析しました。年間の論文数は2005年の1件から2024年には45件へと増え、新型コロナの流行以降は海外の研究も増えています。研究の焦点は、作用機序の解明、ツボ刺激方法の最適化、証に基づく漢方処方の体系化、エビデンスに基づく臨床プログラムの確立に置かれています。ただし、文献を整理した分析であり、治療効果そのものを示すものではありません。
鍼灸の臨床研究
2023年に中国で行われた無作為化試験(Chinese Acupuncture & Moxibustion 43(10))では、ドライアイを伴うコンピュータビジョン症候群の152例を、鍼灸群・漢方群・鍼灸と漢方の併用群・西洋薬群に分け、14日間治療しました。鍼灸群と併用群で涙液の安定性(涙液層破壊時間)が西洋薬群より長く、併用群では症状の点数も最も低くなりました。短期間の中国国内の試験であり、効果を確立するものではありません。
ドライアイに対する鍼灸の評価は分かれています。2015年のメタ解析(Yangら、Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine)は、人工涙液より一部で優れると報告しました。一方、2026年の系統的レビュー(Bautista-Hernándezら、Frontiers in Medicine)は、ドライアイ・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・緑内障といった炎症に関連する眼疾患に対する鍼灸について、証拠の確実性が非常に低く、有効性の結論は出せないとしています。
漢方の臨床応用
国内でも、眼精疲労に対して漢方の内服が選択肢の一つとされています。中国では、肝腎不足に杞菊地黄丸、肝気鬱結に逍遙散、脾気虚に補中益気湯といった、証に応じた処方選択が報告されています。これらは小規模な臨床観察が中心で、今後の質の高い研究が待たれる分野です。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、目の使いすぎで消耗した気・血・陰液を補い、肝・脾・腎の働きを整えて、目と全身の回復力を高めることを目的とします。脈診・舌診・腹診・問診で証を見極め、症状の強さ、睡眠、胃腸、月経、ストレスの状況まで確認して処方を決めます。
杞菊地黄丸:目の乾燥・かすみ・ほてりを伴う肝腎陰虚の傾向に。
補中益気湯:疲れやすく、夕方に目が重くなる脾気虚の傾向に。
加味逍遙散:ストレスや緊張が強く、目の張りや肩こりを伴う傾向に。
当帰芍薬散・帰脾湯:血の不足や、不安・不眠を伴う傾向に。
処方は弁証に基づく組み合わせで、年齢・体質・服薬状況に応じて個別に判断します。眼科の点眼薬・内服薬との相互作用や、甘草を含む処方の重複は、薬剤師が確認します。
眼周囲のツボと、首肩・手足のツボを組み合わせて、目の緊張、血流、睡眠の質を整えます。
睛明・攅竹・太陽:目の周囲にあり、目の疲れ・重さ・乾燥感に用いられる。太陽と睛明の組み合わせは、データマイニング研究で画面作業に伴う眼精疲労に有効な組み合わせの一つとされた(Jinら 2025が紹介)。
風池・肩井:首肩のこりと頭痛に。後頭部から首肩の緊張をゆるめる。
合谷・太衝:手足から気の巡りを整え、ストレスによる緊張に。
足三里・三陰交:疲れやすさ、胃腸、冷え、睡眠など、体質面を補う。
刺激は個人の体質・症状・反応に合わせて調整します。初回は反応を確認しながら丁寧に進めますので、「鍼灸ははじめて」という方もご相談ください。眼球そのものには施術を行いません。
タナココでは、眼科での診断・点眼・内服の内容をお聞きしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸の方針を考えます。「眼科で異常なしと言われたが、つらさが続いている」「眼科の治療をしても繰り返す」「肩こりや頭痛、睡眠も含めて見直したい」という段階でも、ご相談ください。
薬剤師・鍼灸師・認定心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
眼精疲労と「疲れ目」はどう違いますか?
休んでも目の疲れが取れない原因は何ですか?
漢方や鍼灸は眼精疲労に有効ですか?
ブルーライトカットメガネは効果がありますか?
眼科の治療や点眼薬と併用できますか?
どのくらいの期間で変化を感じますか?
眼精疲労──「目の使いすぎだから仕方がない」で終わらせない選択肢があります
目の疲れは、休めば戻るものと思われがちです。しかし、休んでも戻らない状態には、理由があることが多くあります。ピント調節、涙液、首肩、睡眠、体質。どこに負担が残っているかを確認することが、改善の出発点です。
タナココは、気・血・陰液の土台を整えること、目と首肩の緊張を和らげること、睡眠で回復できる体に近づけることに、漢方と鍼灸を通じて最後まで取り組みます。経過を確認しながら、変化に合わせて処方と施術を調整します。
「眼科で異常なしと言われたが、つらさが続いている」「点眼や休憩では繰り返してしまう」「仕事や学業に支障が出ている」「体質から見直したい」。どのような状況でも、現状をお聞きすることから始めます。
中医学には、目と全身をひとつながりで診る長い蓄積があります。その考え方を現在の医療情報と合わせて活用し、一人ひとりに合った方法を一緒に探していきます。まずは一度、ご相談ください。
