脂漏性皮膚炎とは──
診断・仕組み・治療の限界と、体質から整えるアプローチ
洗っても、薬を塗っても、しばらくするとまた赤みやフケが戻ってくる。脂漏性皮膚炎は、そのような経過をたどる方が多い皮膚の病気です。
皮脂、皮膚にもともといる真菌(マラセチア)、皮膚のバリア機能、免疫反応、ストレスなどが重なって起こるもので、清潔にしていないことが原因ではありません。
皮膚科での診断と外用治療を土台にしながら、漢方・鍼灸で体質の面から整える方法を、国内外の研究も踏まえてご説明します。タナココは、繰り返す症状と向き合い、皮膚が落ち着いている期間を延ばすことを目標に、一人ひとりに合わせて取り組みます。
最終更新日:2026年10月31日
脂漏性皮膚炎の理解と体質へのアプローチ
脂漏性皮膚炎とは: 頭皮・顔・胸背部など皮脂の多い部位に、赤みとフケ状の皮のはがれが出て、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚炎です。世界の一般的な推計では約4.4%にみられます(2024年のメタアナリシス)。
診断: 病気に固有の検査値はなく、皮疹の見た目・出る場所・経過から皮膚科で診断します。乾癬、接触皮膚炎、白癬、酒皶など、見分けが必要な病気があります。
原因: マラセチア、皮脂の分解産物、皮膚バリア機能の低下、免疫反応(IL-23/Th17経路など)が関わる多因子の病気です。ストレスや飲酒、食事、季節なども経過に影響します。
治療と限界: 抗真菌薬、ステロイド外用薬などで症状は抑えられますが、再発しやすく、長期の維持方法は専門家の間でも意見が一致しにくいのが現状です(2026年の欧州専門家コンセンサス)。
中医学の見方: 湿熱・血熱風燥・血虚風燥などの体質のパターンに分けて、漢方・鍼灸で体質面を整えます。皮膚科治療と並行して取り入れることができます。
脂漏性皮膚炎とは何か
脂漏性皮膚炎(Seborrheic Dermatitis)は、頭皮・顔・胸・背中など、皮脂腺が多く皮脂の分泌が盛んな部位(脂漏部位)に、赤みと、細かいフケ状・脂っぽい皮のはがれ(鱗屑)が出る慢性の皮膚炎です。脂漏性湿疹と呼ばれることもあります。成人では40〜50歳代を中心にみられ、新生児・乳児期にも一時的にみられます(佐藤貴浩、日本医事新報「脂漏性皮膚炎[私の治療]」)。
原因は一つに決まっていません。皮膚にもともといる真菌(カビの仲間)であるマラセチア、皮脂の分解産物、皮膚バリア機能の低下、皮膚の免疫反応などが重なって炎症が起こると考えられています。マラセチアは健康な皮膚にも常在しており、「菌がいること」そのものが病気というわけではありません。
良くなったり悪くなったりを繰り返す経過が特徴で、見た目やかゆみのために、気持ちの面にも負担がかかります。「不潔だから」「洗い方が足りないから」と自分を責める必要はありません。洗いすぎや熱いお湯での洗浄が刺激になることもあるため、適切なケアを知ることが大切です(中国の専門家コンセンサスも、過度な洗浄や高い水温を避けるよう勧めています)。
一部の専門家は、赤みを伴わず細かい白いフケだけがみられる状態を、脂漏性皮膚炎の炎症が軽い型と位置づけています(Navarro Triviño ら、Biomedicines、2025年の総説)。赤みやかゆみを伴う場合は、皮膚科で相談してください。
診断の進め方と、見分けが必要な病気
脂漏性皮膚炎に固有の血液検査や画像検査はなく、皮疹の見た目、出ている場所、経過から皮膚科医が診断します(臨床診断)。国内の専門家解説では、診断は一般に容易とされる一方で、見分けが必要な病気が多いことも指摘されています。
1)診断のポイント(臨床診断の目安)
皮疹の特徴
- 境目がやや不明瞭な 紅斑(赤み)
- 細かい粃糠(ひこう)状〜黄白色・脂っぽい 鱗屑(フケ状の皮) が付着する
- かゆみはないか軽度のことが多いが、頭皮では強いかゆみを伴うことがある
- 良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の経過
診察で確認すること
- 皮疹が脂漏部位(頭皮・眉毛部・鼻の周り・耳まわり・胸背部・わきなど)に分布しているか
- 経過の長さと、季節・ストレス・生活の変化による増悪の有無
- 使用中の外用薬、染毛剤、ヘアケア製品、化粧品、内服薬
- 必要に応じて、真菌検査(皮膚の一部を顕微鏡で調べる検査)や皮膚生検
現時点で、脂漏性皮膚炎に特異的な検査値(バイオマーカー)は確立していません。皮膚生検は日常診療では通常行わず、典型的でない場合や治療に反応しない場合に、乾癬・エリテマトーデスなどとの鑑別を目的に検討されます(Navarro Triviño ら、2025年)。
2)部位ごとの見え方
頭部
頭皮、生え際、耳の後ろに、赤みとフケ状の鱗屑がみられます。頭皮の脂漏性皮膚炎は、強いかゆみを伴うことが多い部位です。
顔・耳
眉毛部、眉間、鼻翼の周り、鼻唇溝、耳の穴の周りや耳介に、粉をふいたような鱗屑を伴う赤みがみられます。まぶたの縁に炎症(眼瞼炎)を伴うこともあります。
胸・背中・わき・足の付け根
縁に鱗屑を伴う、丸みのある赤みとして現れます。汗や衣類のこすれが加わりやすい部位にも出ることがあります。
3)見分けが必要な病気と受診の目安
赤みとフケのような皮のはがれは、他の皮膚の病気でも起こります。原因が違うと治療も異なるため、自己判断で市販薬を続けるより、一度皮膚科で診断を受けることをお勧めします。
| 病気 | 脂漏性皮膚炎との見分けのポイント |
|---|---|
| 接触皮膚炎 | 染毛剤・ヘアケア製品・化粧品などの使用との関連。使い始めてから急に出た、使用部位に一致して出るなどの経過があれば疑います。 |
| 尋常性乾癬 | 境界が明瞭で、厚い銀白色の鱗屑を伴う傾向。生え際を越えて広がる、肘・膝・爪にも病変があるなどが手がかりです。脂漏性皮膚炎と重なることもあります。 |
| アトピー性皮膚炎 | 強いかゆみと乾燥、屈曲部の皮疹、アトピーの既往や家族歴があるかを確認します。 |
| 頭部白癬・体部白癬(水虫菌) | 辺縁がはっきりした環状の皮疹、脱毛や毛の折れを伴うことがあります。顕微鏡による真菌検査で確認します。 |
| 酒皶・酒皶様皮膚炎 | 顔の赤みが続き、毛細血管の拡張や赤いブツブツ・膿をもったブツブツを伴います。フケ状の鱗屑は目立ちません。 |
| カンジダ性間擦疹・紅色陰癬など | わきの下・足の付け根など、皮膚が重なる部位の赤みでは、これらとの見分けが必要です。 |
市販薬を使っても改善しない、顔に強い赤みやただれ・膿がある、まぶたの症状を伴う、急に広い範囲に広がった、といった場合は皮膚科の受診をお勧めします。HIV感染症など免疫に影響する病気やパーキンソン病などの神経の病気をお持ちの方では、脂漏性皮膚炎が強く出やすいことが知られています。また、ステロイド外用薬を自己判断で顔に長く使い続けることは避けてください。
4)乳児の脂漏性皮膚炎
新生児・乳児では、頭皮・額・頬などに、鱗屑を伴う小さな丘疹や、厚く脂っぽい痂皮(かさぶた)を伴う赤みがみられます。皮脂の分泌が盛んな時期に目立ち、多くは1歳頃までに落ち着きます。アトピー性皮膚炎や新生児痤瘡などとの見分けが必要なため、気になるときは小児科または皮膚科にご相談ください。以降の説明は、主に成人の脂漏性皮膚炎を対象としています。
症状:皮膚の症状と、生活への影響
脂漏性皮膚炎の症状は、皮膚の赤みとフケに限られません。かゆみや皮膚の熱感、人目が気になることによる負担など、日常生活にも影響します。重さには個人差があり、「頭皮に少しフケが出る」程度から、「顔全体が赤くなり人前に出るのがつらい」という状態まで幅があります。
皮膚の症状
赤み(紅斑)。細かい白〜黄色のフケ状の鱗屑、または脂っぽく厚い鱗屑。皮膚の熱感・ひりつき。皮膚の乾燥やつっぱり。掻くと赤みが強まる。
かゆみ・不快感
頭皮のかゆみが最も多く、強い場合もあります。顔や耳ではひりつきや熱感として感じることもあります。掻き壊した部位から細菌が入り、二次的な感染を起こすことがあります。
生活・心理面への影響
肩に落ちるフケや顔の赤みが気になり、外出や人と会うことを避けたくなる方がいます。不安、気分の落ち込み、自己評価の低下のリスクが高まることが報告されています。
脂漏性皮膚炎は、強いストレスを感じた時期、飲酒が増えた時期、季節によって悪化する方がいます。秋冬に再発しやすいとする専門家コンセンサスもあります(脂溢性皮炎の中西医診療専家共識、2024年版)。マスクの長時間着用や、合わないスキンケア製品が悪化に関わる場合もあります。「この時期になると必ず悪化する」という自分なりの傾向を把握しておくと、早めの対応につながります。
患者数と国内外の現状
脂漏性皮膚炎は、皮膚科の診療でよくみられる病気です。国内の専門家解説でも「ごくありふれた疾患」とされています。
| 対象・区分 | 数値の目安 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 全世界(一般的な推計) | 約4.4%(4.38%) | 121研究・約126万人を対象としたメタアナリシス(Polaskey ら、JAMA Dermatology、2024年)。研究間のばらつきが大きい |
| 年齢別 | 成人 5.64%/小児 3.70%/新生児 0.23% | 同上。成人で高く、乳児期と成人期に二つの山があるとされる |
| 日本 | 成人では40〜50歳代を中心に発症 | 新生児・乳児期にも一時的にみられる(国内の専門家解説) |
| 男女差 | 男性に多い | 男性に多い理由は確定していないが、皮脂腺の活動はアンドロゲン(男性ホルモン)などの影響を受ける |
| 基礎疾患との関連 | HIV感染者で20〜83%、パーキンソン病で半数以上との報告 | 免疫や神経の状態が経過に影響する。強く出る場合は基礎疾患の確認も重要 |
推計は、調査の対象や診断の方法によって幅があります。中国の2024年版コンセンサスは一般人口で1〜3%としており、地域による差もあります(南アフリカ 8.82%、インド 2.62%)。いずれにしても、およそ20〜100人に一人の方にみられる、身近な病気です。
脂漏性皮膚炎は命に関わる病気ではありませんが、慢性的に繰り返し、見える部位に出ることから、生活の質に影響することが調査で示されています(Szepietowski ら、Mycoses、2009年/Xuan ら、Health Qual Life Outcomes、2020年)。「たかがフケ」と軽く扱われやすい病気ですが、継続して対応する意味のある症状です。
発症のメカニズム
脂漏性皮膚炎は、複数の要因が重なって起こる多因子の病気です。2025年の総説は、①皮膚の微生物環境(マラセチアなど)の変化、②皮脂の分泌や成分の変化、③自分の体の免疫反応、の三つを中心にまとめています。遺伝的な素因の関与も考えられていますが、一貫した遺伝子は特定されておらず、位置づけはまだ確定していません(Navarro Triviño ら、2025年)。
1)マラセチアと皮脂の分解産物
マラセチアは、脂質を好む酵母様の真菌です。皮脂に含まれる中性脂肪をリパーゼという酵素で分解し、遊離脂肪酸をつくります。マラセチアは主に飽和脂肪酸を取り込み、残った不飽和脂肪酸(オレイン酸など)が角層に入り込んで、炎症や皮膚のはがれを促すとされています。脂漏性皮膚炎との関連では、Malassezia globosaとM. restrictaが多く報告されており、頭皮や額ではM. restrictaが優位とされています。
一方で、マラセチアの量と重症度の相関については議論があります。2025年の総説(Piacentini ら)は、マラセチアそのものが直接の原因というより、それに対する免疫反応の種類や程度が症状と結びついているとしています。皮脂の量が多いかどうかだけでは説明できない病気です。
2)皮膚バリア機能の低下
病変部では、皮膚の水分の蒸散が増える、角層のセラミドなどの脂質の組成が変わる、皮膚表面のpHがアルカリ側に傾くといった、バリア機能の低下が報告されています。Rousel ら(Experimental Dermatology、2024年)は、病変部の皮膚でバリア機能の低下とセラミド組成の変化が相関していることを示しました。バリア機能の低下と、マラセチアの代謝産物による炎症が互いに影響し合い、炎症が続きやすくなると考えられています。
3)免疫反応と炎症
皮膚の細胞はマラセチアの成分や脂肪酸を感知し、炎症を起こす物質(サイトカイン)を放出します。2025年の総説は、病変部ではTh17・Th22・Th1など複数の免疫経路が活性化し、IL-23やIL-17が中心的な役割をもつと整理しています。
2025年には、皮膚表面を粘着テープで採取して遺伝子の発現を調べる方法(テープストリッピング)を用いた研究(Ungar ら、Journal of the American Academy of Dermatology)が報告されました。病変部ではIL-23/Th17・Th22経路に関わる遺伝子の発現が高く、皮膚バリアに関わる遺伝子の発現が低いことが示されています。また、マラセチアによる皮膚炎に、ケラチノサイト(表皮の細胞)のIL-36受容体/MyD88シグナルが関与することを示す基礎研究も報告されています(Miyachi ら、Journal of Infectious Diseases、2021年)。
4)皮膚の細菌叢の変化
真菌だけでなく、皮膚の細菌の構成も変化します。日本の研究グループが脂漏性皮膚炎の患者さんの皮膚で細菌叢を解析した研究(Tanaka ら、Microbiology and Immunology、2016年)では、病変部でブドウ球菌・連鎖球菌・アシネトバクターの割合が高いと報告されました。総説では、ブドウ球菌が増え、Cutibacterium acnes(アクネ菌)が減る傾向が整理されています。
5)悪化に関わる要因
ストレス・飲酒
- フランスの皮膚科外来での研究(Lancar ら、Acta Dermato-Venereologica、2020年)では、直近1か月のストレスが強いことが、脂漏性皮膚炎の悪化と関連していました。同じ人の悪化期と軽快期を比べる解析でも同様の結果です
- 日常的な飲酒も、悪化と関連する要因として報告されています
食事
- オランダの住民研究(Sanders ら、Journal of Investigative Dermatology、2019年、4,379人)では、果物の摂取が多い食事パターンで脂漏性皮膚炎が少なく、欧米型の食事パターンは女性で多い傾向がありました
- 調査時点の関連をみた研究のため、食事が原因と断定はできません
季節・気候・皮膚への刺激
- 秋冬の乾燥した時期に再発しやすいとされています
- 汗をかく時期や、マスクの長時間着用で悪化する方もいます
- 強い洗浄、熱いお湯、合わない整髪料やスキンケア製品が刺激になることがあります
薬剤・基礎疾患
- リチウム、免疫抑制薬、ドパミン拮抗薬などの薬剤が関わる場合があります
- HIV感染症やパーキンソン病、アルツハイマー病など、免疫や神経の病気で頻度が高くなります
① 皮脂と常在菌: 皮脂の多い部位に、マラセチアなどの常在菌が定着している。
② 皮脂の分解: マラセチアのリパーゼが皮脂を分解し、遊離脂肪酸(オレイン酸など)が生じる。
③ 皮膚の細胞の反応: ケラチノサイトや樹状細胞がマラセチアの成分や脂肪酸を感知し、IL-23・IL-17などの炎症性サイトカインが放出される。
④ バリア機能の低下: 炎症により皮膚バリアが低下し、刺激物や微生物が角層に入りやすくなる。
⑤ 症状の発現と持続: 赤み・フケ・かゆみが生じ、掻くことや刺激でさらにバリアが傷んで、炎症が続きやすくなる。ストレスや飲酒、季節などが重なると悪化する。
現在の治療とその限界
脂漏性皮膚炎の治療は、「炎症を抑える」「マラセチアを減らす」「皮膚バリア機能を整える」の三つを目標に、部位・重症度・再発の頻度に合わせて組み立てます。慢性で再発しやすい病気のため、症状が強い時期の治療と、落ち着いた後の維持が分けて考えられています。
スキンケアと生活面の工夫
- 洗い方: 皮脂や汚れを適度に落とし、熱いお湯や強くこする洗い方を避けます。
- 保湿: セラミドやナイアシンアミドなどを含む保湿剤で、皮膚バリアを補います。
- 刺激を減らす: 合わない染毛剤・整髪料・スキンケア製品や、マスクの長時間着用による刺激を見直します。
- 生活習慣: 睡眠、飲酒、食事の内容、ストレスへの対処を見直します(2024年版の中西医診療専家共識も、規則正しい生活と睡眠を勧めています)。
薬物療法
国内外の診療で用いられる主な治療は次のとおりです。
| 治療 | 作用 | 主な対象・注意点 |
|---|---|---|
| 抗真菌薬(ケトコナゾールなど)の外用・シャンプー | マラセチアの増殖を抑える | 国内では、ケトコナゾール外用薬が脂漏性皮膚炎に適応をもつ代表的な薬です。頭皮には抗真菌成分を含むシャンプーも用いられます。刺激感、かぶれ、赤みが出ることがあります |
| ステロイド外用薬 | 炎症を速やかに抑える | 炎症が強い時期に短期間用います。赤み・フケ・かゆみは早く軽快しますが、顔では長期の連用で皮膚が薄くなるなどの副作用に注意が必要で、中止後に再燃することがあります |
| カルシニューリン阻害薬(タクロリムス・ピメクロリムス) | 免疫細胞(T細胞)の働きを抑え、炎症を抑える(ステロイドではない) | 欧米では顔の脂漏性皮膚炎や維持療法の選択肢とされています。国内では脂漏性皮膚炎を対象とした薬ではなく、医師の判断で用いられます |
| ロフルミラスト(PDE4阻害薬)フォーム0.3% | 炎症に関わるシグナルを抑える非ステロイド薬 | 米国で2023年12月に9歳以上の脂漏性皮膚炎に承認。第3相試験(STRATUM、457人)で、8週時の有効率は79.5%(基剤のみ58.0%)でした(Blauvelt ら、JAAD、2024年)。国内では2024年に国内企業が開発・商業化の権利を取得し、導入に向けた動きがある段階です |
| 難治例への全身療法 | 抗真菌薬の内服、低用量イソトレチノインなど | 範囲が広い場合や外用薬で効果が不十分な場合に、海外で検討されています(2026年の欧州専門家コンセンサス)。国内での使用は医師の判断によります |
2015年のコクランレビュー(Okokon ら、51試験・9,052人)では、ケトコナゾール2%はプラセボに比べ、4週時点で症状が残る割合が約31%低く(エビデンスの質は低い)、ステロイドと同程度の寛解率で副作用は44%少ないという結果でした。
標準治療だけではカバーしきれない部分
再発しやすい経過: 慢性で再発を繰り返す病気です。再発が、マラセチアの定着、残った免疫反応、バリア機能の回復不足のどれによるのかは、まだ解明されていません(2025年の総説)。
試験の期間が短い: コクランレビューでは、結果が評価された試験の多くが5週以内で、生活の質への効果を調べた試験はありませんでした。長期の再発予防については、わかっていないことが多い分野です。
長期維持の方針が定まりにくい: 2026年の欧州皮膚科学会(EADV)の専門家コンセンサス(Naldi ら、JEADV、33名の専門家による修正デルファイ法)では、急性期の第一選択薬については強い合意が得られた一方、全身療法や長期維持の方針では合意が弱くなりました。
外用を続ける負担: 髪のある部位への塗布の難しさ、顔のステロイドを長く使えないことなど、外用薬を継続すること自体の難しさがあります。
生活要因・体質への対応: ストレス、飲酒、食事、季節といった、経過に関わる要因は、外用薬では直接調整できません。
西洋医学 vs 中医学 アプローチ比較
脂漏性皮膚炎に対する西洋医学と中医学のアプローチの違いを整理します。両者は対立するものではなく、皮膚科での診断と外用治療を土台に、中医学で体質面を支える、という併用の形が考えられます。
| 観点 | 西洋医学的アプローチ | 中医学的アプローチ |
|---|---|---|
| 病態の捉え方 | マラセチア・皮脂の分解産物・皮膚バリア機能・免疫反応(IL-23/Th17経路など)という、生理学的な指標で評価 | 風・湿・熱・燥と、脾胃・血・肝の偏りとして、体質全体から把握する。2024年版の中西医診療専家共識は「風・湿・熱が結びついて発症する」とし、先天的な体質に加え、風邪(ふうじゃ)の侵入、飲食の乱れ、情志(精神面)の影響を背景に挙げている |
| 治療の目標 | 炎症の抑制、マラセチアの抑制、バリア機能の補強。再発時の早期対応 | 赤み・脂っぽさ・乾燥の背景にある脾胃・血・肝の偏りを整え、皮膚が落ち着いている期間を延ばす |
| 主な治療手段 | 抗真菌薬・ステロイド外用薬・カルシニューリン阻害薬・保湿・ロフルミラスト(海外) | 弁証に基づく漢方(茵蔯蒿湯・消風散・温清飲・荊芥連翹湯・十味敗毒湯など)・鍼灸・飲食と生活の養生指導 |
| 長所 | 急性の炎症に素早く対応できる・臨床試験のデータが蓄積している | 体質・生活全体への働きかけ・皮膚科の外用治療と並行しやすい・ストレスや胃腸の状態など皮膚以外の不調も合わせて見られる |
| 限界・課題 | 再発が多い・長期維持の方針が定まりにくい・生活要因は薬だけでは調整しにくい | 即効性は限られる場合がある・個人差が大きい・大規模な比較試験が少ない・強い炎症の急性期は皮膚科の治療が優先される |
中医学からの脂漏性皮膚炎の病態分析
中医学では、脂漏性皮膚炎を古くから「白屑風(はくせつふう)」「面游風(めんゆうふう)」などと呼んできました。中華中医薬学会皮膚科分会の専門家コンセンサス(2020年)は、背景として、肺と胃にこもった熱、飲食の乱れによる脾胃の損傷と湿熱の発生、風熱の邪が長引いたことによる血虚風燥(血が不足して皮膚が乾き、かゆみが生じる状態)を挙げています。
同コンセンサスは、急性期は「疏風清熱利湿」(風を散らし、熱を冷まし、余分な湿をさばく)、症状が落ち着いた時期は「潤燥祛風止痒」(潤いを補い、風を除いてかゆみを鎮める)を中心にするという、段階的な考え方も示しています。
脈診・舌診・腹診・問診の総合分析(弁証〔べんしょう〕)によって、その人の体質のパターンを把握し、処方と鍼灸の方針を決めます。西洋医学の「皮脂・マラセチア・炎症」と中医学の「湿熱・血虚風燥」は一対一で対応するものではありませんが、「脂っぽく赤みが強い人」と「乾燥して粉をふく人」を分けて考える見方は、季節や体調によって皮疹の出方が変わる経過を説明しやすい考え方です。
頭・顔・胸背部に鮮やかな赤〜黄赤色の斑があり、脂っぽい痂屑を伴い、ときにじくじくします。皮膚や髪が脂っぽく、かゆみが強い。多汗、口臭や口の粘り、胃のつかえ、尿の濃さ、便の臭いが目立つ傾向があります。舌は赤く黄色い厚い苔がつきます。脂っこいもの・甘いもの・辛いもの・飲酒で悪化しやすい。茵蔯蒿湯、胃苓湯、黄連解毒湯などが検討されます。
頭皮・顔・胸背部に、赤みまたは淡い赤みがあり、少数の丘疹と、乾燥した糠(ぬか)状の鱗屑を伴います。かゆみや熱感があり、口の渇きや便秘がみられます。舌は赤く、苔は薄い黄色です。消風散、温清飲、荊芥連翹湯、清上防風湯などが検討されます。
淡い赤みの斑があり、皮膚が乾燥して、糠状の細かいフケが舞います。かゆみがあり、長引くと髪が細く柔らかくなり、折れたり抜けたりしやすくなります。口の渇き、顔色の冴えなさ、動悸、不眠、便秘を伴うことがあります。当帰飲子、温清飲など、血を補う処方が中心になります。
上の三つのパターンに重なって見られることが多く、ストレスや緊張、睡眠の乱れで赤みやかゆみが強まる方に当てはまります。いらいら、胸や脇の張りを伴います。この型は、中医学の一般的な見方による補足で、上記の専門家コンセンサスの三つの証には含まれていません。柴胡桂枝湯、抑肝散加陳皮半夏などが検討されます。
十味敗毒湯は、華岡青洲の『瘍科方筌』に由来する処方で、皮膚の化膿性の病変や急性の皮膚疾患の初期などに用いられてきました。脂漏性皮膚炎は、毛包を中心とした小さな丘疹(化膿を伴わない毛包周囲炎)から始まると推測されることから、証によらず病名に基づいて十味敗毒湯を用い、改善した症例が報告されています(桜井ら、日本東洋医学雑誌、2009年)。荊芥連翹湯は、血を補いながら熱を冷ます温清飲(四物湯と黄連解毒湯の合方)に、柴胡・薄荷・荊芥・連翹・防風・白芷・桔梗・枳実・甘草を加えた処方です。同じ報告では、頭皮のフケが目立つ症例に、荊芥連翹湯と麻杏薏甘湯を用い、体質面の治療(本治)として抑肝散加陳皮半夏を合わせた例が示されています。
研究報告の現状(西洋医学・漢方・鍼灸)
脂漏性皮膚炎は、ここ数年で仕組みの理解が進み、新しい治療も登場しつつある分野です。一方で、再発予防や長期の維持では、まだ整理の途中にあります。漢方・鍼灸については、国際的に評価される水準の大規模な比較試験は、現時点で確認できていません。
西洋医学の最新の動き(2023〜2026年)
- 治療: 2023年12月、ロフルミラストフォーム0.3%が米国で脂漏性皮膚炎に承認されました。米国の発表では、脂漏性皮膚炎で約20年ぶりの、新しい作用の仕組みをもつ承認薬とされています(STRATUM試験、Blauvelt ら、JAAD、2024年)。
- 病態の解明: テープストリッピングによる遺伝子解析で、IL-23/Th17・Th22経路の活性化とバリア関連遺伝子の低下が示されました(Ungar ら、JAAD、2025年)。病変部の皮膚バリアとセラミド組成の変化も報告されています(Rousel ら、2024年)。
- 疫学: 世界の患者数の推計が、121研究のメタアナリシスで示されました(Polaskey ら、JAMA Dermatology、2024年)。
- 診療方針: 2026年に欧州皮膚科学会の専門家33名による修正デルファイ法のコンセンサスが発表され、急性期と維持療法の両方で、抗真菌薬と抗炎症薬の併用が重視されています(Naldi ら、JEADV、2026年)。一方で、長期維持の方針は合意が得にくいことも示されました。
中医学・漢方に関する報告
中華中医薬学会皮膚科分会の「脂溢性皮炎中医治療専家共識」(2020年)は、弁証論治(血熱風燥・脾胃湿熱・血虚風燥の三つの証)、中成薬、外治法(薬の塗布・薬浴・湿布)、鍼や耳のツボへの刺激を整理し、飲食・洗い方・精神面・睡眠への注意事項も示しています。さらに、2025年には「脂溢性皮炎の中西医診療専家共識(2024年版)」が公表され、中医学と西洋医学を合わせた診療方針が示されました。顔面の脂溢性皮炎に、丹参酮(たんじんどう)カプセルを西洋薬に併用した試験のメタアナリシス(Tang ら、Frontiers in Pharmacology、2022年)も報告され、併用で有効である可能性が示されています。ただし、個々の試験の規模や設計を踏まえた慎重な解釈が必要です。
日本では、桜井らが日本東洋医学雑誌(2009年)に「漢方薬が奏効した脂漏性皮膚炎の5症例」を報告しています。5例のうち3例は1〜2年前から顔面に皮疹があり、ステロイド外用薬やケトコナゾール外用薬での治療を受けていた方でした。使用した処方は、十味敗毒湯、荊芥連翹湯、麻杏薏甘湯、抑肝散加陳皮半夏などで、5例とも最終的な処方にしてから1〜2か月後に皮疹の著しい改善がみられたとされています。症例報告であり、効果を確立するものではありませんが、臨床的な知見の蓄積として参考になります。
鍼灸に関する報告
前述の中国のコンセンサス(2020年)には、各型の脂溢性皮炎に対する鍼(風池・風府・百会・合谷・血海・三陰交・脾兪・胃兪・肝兪・胆兪・神門など)や、耳のツボへの刺激が、治療法として記載されています。脂漏性皮膚炎を対象にした鍼灸の質の高い比較試験は、現時点で確認できていません。
他の皮膚の病気では、偽の鍼を対照にした比較試験が行われています。たとえば、韓国で行われた軽症〜中等症のアトピー性皮膚炎30名の予備的な試験(2018年)では、4週間の鍼治療を受けた群で、重症度の指標、かゆみ、睡眠の評価が有意に改善しました。ただし、対象は別の病気で、人数も少ないため、脂漏性皮膚炎で同様の効果が得られることを示すものではありません。かゆみや睡眠への影響を含め、研究の蓄積が待たれる分野です。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、赤み・脂っぽさ・乾燥・かゆみといった表に出ている症状(標)に対応しながら、その背景にある脾胃・血・肝の偏り(本)を整えることで、皮膚が落ち着いた状態を保ちやすくすることを目的とします。弁証に基づき、特に以下のような方向性で処方を選びます。
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう): 脂っぽい赤みと強いかゆみがあり、口の粘り・口臭・便秘傾向を伴う湿熱のタイプに。熱と湿をさばく処方です。大黄を含むため、便通の状態に合わせて調整します。
胃苓湯(いれいとう): 胃腸が弱く、水分をため込みやすい体質で、皮膚が脂っぽい・じくじくしやすいタイプに。脾胃の湿をさばく処方です。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう): 赤みや熱感、のぼせが強いタイプに。体にこもった熱を冷ます処方で、症例報告でも用いられています。
消風散(しょうふうさん): 赤みとかゆみが強く、じくじくしやすい、暑い時期や汗で悪化するタイプに。風と熱を散らし、湿をさばく処方です。
温清飲(うんせいいん): 赤みと乾燥が同時にあり、慢性化しているタイプに。血を補う四物湯と、熱を冷ます黄連解毒湯を合わせた処方です。
荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)・清上防風湯(せいじょうぼうふうとう): 頭部・顔面に熱がこもり、赤みや吹き出物を伴うタイプに。荊芥連翹湯は頭皮のフケが目立つ症例での使用報告があります。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう): 毛穴に一致した小さな赤いブツブツが目立つタイプに。脂漏性皮膚炎に病名投与で用いて改善した症例が報告されています。
当帰飲子(とうきいんし): 乾燥が強く、粉をふくように皮が落ち、かゆみがある慢性のタイプに。血を補い、乾燥とかゆみに対応する処方です。
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ): ストレスや緊張で赤みやかゆみが強まるタイプに。気の巡りを整え、体質面から支える目的で、症例報告でも用いられています。
胃腸が弱い場合は、脾の働きを支える処方(六君子湯・補中益気湯など)を組み合わせます。これらは単独ではなく、弁証に基づいて組み合わせます。処方の選択・用量は、年齢・体格・体質・現在の症状・使用中の外用薬や内服薬に応じて個別に判断します。甘草を含む処方が重なる場合の血圧・電解質への影響や、現在使用中の薬との相互作用は、薬剤師が確認します。
鍼灸では、気・血・水の巡りと、脾胃・肝の働きに対応する経穴(けいけつ:ツボ)への刺激を通じて、皮膚が荒れにくい体の状態を目指します。中国の専門家コンセンサス(2020年)に挙げられている経穴を含め、脂漏性皮膚炎でよく用いられる経穴の例は次のとおりです。
百会(ひゃくえ)・風池(ふうち)・風府(ふうふ): 頭頂部から後頭部にあるツボ。頭部の巡りを整え、頭皮・顔の症状やかゆみ(中医学でいう「風」)に対応する目的で用いられます。
合谷(ごうこく): 手の甲にあるツボ。顔面・頭部の症状に広く用いられます。
血海(けっかい)・三陰交(さんいんこう): 血の巡りと、脾・肝・腎を整えるツボ。乾燥や慢性化したかゆみ、冷えや月経の乱れを伴う場合に。
脾兪(ひゆ)・胃兪(いゆ): 背中にあるツボ。消化機能を整え、湿熱や脾の弱りを背景とするタイプに。
肝兪(かんゆ)・胆兪(たんゆ): 背中にあるツボ。ストレスや緊張による悪化が目立つ場合に。
神門(しんもん)・耳のツボ: 気持ちの緊張や寝つきの悪さが皮膚の状態に影響しているタイプに用いられます。
施術は、個人の体質・証・現在の症状に合わせて経穴を選択します。赤みやただれが強い皮膚には直接施術せず、手足・背中・耳などのツボを中心に行い、皮膚の状態を見ながら刺激の量を調整します。初回はお体の反応を確認しながら丁寧に進めますので、「鍼灸ははじめて」という場合も、まずご相談ください。
タナココでは、現在受けている医療的なサポート(皮膚科での診断・外用薬・内服薬の内容)をお聞きしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸のアプローチを考えます。皮膚科でまだ診断を受けていない段階でも、情報収集のご相談から歓迎します。外用薬を自己判断で中止・変更することはお勧めしません。漢方・鍼灸を併用していることは、主治医にもお伝えください。
「外用薬をやめるとすぐ戻ってしまう」「顔の赤みが人目について、つらい」「頭皮のかゆみが強い」「体質から見直したい」——どのような状況でも、現状と経過をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理的な側面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
よくある質問(FAQ)
脂漏性皮膚炎は完全に治りますか?
フケ症と脂漏性皮膚炎は同じものですか?
病院の薬(ケトコナゾール・ステロイド)を使っても、やめると再発します。どうすればよいですか?
漢方・鍼灸は脂漏性皮膚炎に有効ですか?
食事・飲酒・ストレスは脂漏性皮膚炎と関係がありますか?
漢方薬は、皮膚科でもらった薬と併用できますか?
顔や頭皮の皮膚が荒れていても、鍼灸は受けられますか?
赤ちゃんの脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性湿疹)にも、漢方・鍼灸は必要ですか?
改善までどれくらいかかりますか?
脂漏性皮膚炎──「体質だから」「洗い方が悪いから」で終わらせず、できることを一緒に探します
「洗っているのに、また赤くなる」「薬を塗ると落ち着くが、やめると戻る」。脂漏性皮膚炎は、皮脂・常在菌・皮膚バリア・免疫反応・ストレスなどが重なって起こる病気で、清潔にしていないことが原因ではありません。皮膚科での診断と外用治療が土台になります。そのうえで、体質や生活の面から取り組めることが残されています。
脾胃や血の状態を整えること。ストレスや生活リズムによる悪化を減らすこと。皮膚が落ち着いている期間を、少しずつ延ばすこと。そのために、漢方と鍼灸を通じてできることを、最後まで丁寧に続けていきます。変化が乏しい場合は、処方や施術を見直します。
「外用薬をやめるとすぐ戻ってしまう」「顔の赤みが人目について、つらい」「頭皮のかゆみが強い」「体質から見直したい」——どのような状況でも、現状と経過をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両面から、一人ひとりに合った提案をいたします。
一度の相談で結論を急ぐ必要はありません。お使いの外用薬やこれまでの経過を見せていただきながら、一緒に方針を考えます。
