脱毛症とは──
そのメカニズムと、体質から整えるアプローチ
薬は飲んでいる。なのに、また抜け始めた——そんな経験を繰り返している方は少なくないと思います。「いつまで続ければいいのか」「どこかで薬をやめられる日はくるのか」。その問いを持ったまま、体の側からできることを一緒に考えたいと思っています。
脱毛症には複数の種類があり、それぞれメカニズムが異なります。西洋医学の病態を正確に理解したうえで、中医学の視点から体質に合ったアプローチを加える——タナココはそのための場所です。
漢方・鍼灸に関する臨床研究は近年着実に積み上がっています。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、一人ひとりの状態に合わせてご提案します。
最終更新日:2026年5月29日
脱毛症の理解と体質へのアプローチ
- 脱毛症は一種類ではなく、AGA・円形脱毛症・女性型脱毛症など、それぞれ原因もメカニズムも異なります
- AGAは「DHT(ジヒドロテストステロン)」という物質が毛根を縮ませる仕組みで進行します。円形脱毛症は免疫細胞が毛根を誤って攻撃することで発症します
- 現在の標準的な治療薬(フィナステリド・ミノキシジル・JAK阻害薬)は飲み続けている間だけ効果が維持され、中止すると再発するケースが多いという共通の課題があります
- 2026年に発表された系統的レビューでは、梅花鍼と西洋医学の組み合わせが西洋医学単独より統計的に有意な改善率を示しましたが、エビデンスの質は「低(Low certainty)」と評価されています
- 漢方・鍼灸は「体質そのものを整える補完的アプローチ」として位置づけられ、現在受けている医療的治療と組み合わせることができます
脱毛症とは何か
脱毛症(だつもうしょう)とは、本来あるべき部位の毛髪が正常な毛周期(ヘアサイクル)を逸脱した形で失われていく状態の総称です。単に「抜け毛が多い」という自覚にとどまらず、毛包(もうほう:毛根を包む組織)の萎縮・破壊・機能停止という、生物学的な変化が背景にあります。
毛髪は通常、成長期(2〜6年)→ 退行期(2〜3週間)→ 休止期(3〜4か月)というサイクルを繰り返し、休止期の終わりに自然に脱落して次の成長期が始まります。1日に50〜100本程度の脱毛は生理的な範囲内とされています。脱毛症では、このサイクルが乱れ、成長期が著しく短縮するか(AGAなど)、毛包そのものが免疫攻撃を受けて機能を停止します(円形脱毛症など)。
脱毛症は一種類ではありません。原因・メカニズム・経過がそれぞれ異なる複数の病態があり、何かしらのアプローチを取るにしても、まず「どのタイプか」を把握することが出発点になります。
「抜け毛が増えた」という症状は同じでも、その背景にある仕組みはまったく異なります。同じ薬や治療法が全員に効くわけではないのは、このためです。まずは「どのタイプか」を知ることが、最初のステップです。
脱毛症の分類と診断基準
1)男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia〔アンドロジェネティック・アロペシア〕)
成人男性に多く見られる進行性の脱毛症です。前頭部の生え際後退と頭頂部の薄毛を特徴とし、遺伝的素因と男性ホルモン(アンドロゲン)の作用が組み合わさって発症します。
診断は問診・視診を基本とし、進行度の評価にはハミルトン・ノーウッド分類(タイプI〜VII)が用いられます。生え際・前頭部・頭頂部の状態を段階的に評価する分類で、タイプIが軽度(生え際のわずかな後退)、タイプVIIが高度(ほぼ完全な脱毛)に相当します。除外診断として、円形脱毛症の亜型や甲状腺疾患・貧血などが鑑別されます。
2)女性型脱毛症(FPHL:Female Pattern Hair Loss〔フィメール・パターン・ヘアロス〕)
女性に生じる、びまん性(全体的)の頭頂部の毛量減少を特徴とする脱毛症です。生え際が保たれたまま頭頂部全体が薄くなるパターンが典型的で、Ludwig分類(グレードI〜III)で重症度が評価されます。閉経後に増加しますが、20〜30代での発症例もあります。
産後の急激な脱毛(産後脱毛症)や過度なダイエット・鉄欠乏・甲状腺機能異常によるびまん性脱毛は、FPHLとは分けて考える必要があります。これらは原因が解消されれば回復しやすいのに対し、FPHLは遺伝的・内分泌的背景を持つ進行性の病態です。
3)円形脱毛症(AA:Alopecia Areata〔アロペシア・アレアータ〕)
頭髪に境界明瞭な円形〜楕円形の脱毛斑が突然生じる自己免疫性の非瘢痕性脱毛症(ひはんこんせいだつもうしょう:毛根の跡が残らないタイプ)です。日本皮膚科学会の「円形脱毛症診療ガイドライン2024年版」に基づく主な分類を以下に示します。
単発型・多発型(通常型)
円形〜楕円形の脱毛斑が1か所(単発型)または複数か所(多発型)に生じるもの。軽症から中等症の範囲で、発症後1年以内に毛髪が回復することも多い。
全頭型(AT:Alopecia Totalis〔アロペシア・トタリス〕)
脱毛が頭部全体に広がった状態。多発型から進行するケースがあり、回復には時間を要することが多い。
汎発型(AU:Alopecia Universalis〔アロペシア・ユニバーサリス〕)
頭髪だけでなく眉毛・まつ毛・体毛を含む全身の毛髪が失われた最重症型。難治性であり、JAK阻害薬(後述)の適応対象となる。
蛇行型(Ophiasis〔オフィアシス〕)
頭部の生え際が帯状に脱毛する型。側頭部から後頭部にかけて帯状に広がる。寛解率が低く、経過が長引きやすい。
診断には視診・皮膚鏡検査(トリコスコピー:専用の拡大鏡で頭皮を観察する検査)が用いられます。円形脱毛症に特徴的な所見として、黄色点(yellow dots:毛穴に残った毛の残骸)、感嘆符毛(exclamation mark hairs:根本が細くなった「!」状の毛)、断裂毛(broken hairs)などがあります。重症度はSALTスコア(Severity of Alopecia Tool:脱毛面積を0〜100で数値化する指標)によって評価され、SALT S2(脱毛面積25%以上)以上を重症と分類するのが2024年ガイドラインの基準です。
脱毛症が生活に及ぼす影響
脱毛症は「命に関わる病気ではない」と位置づけられることがありますが、患者のQOL(Quality of Life:生活の質)への影響は決して小さくありません。外見の変化が自己評価・対人関係・社会活動に直接影響するため、抑うつ・不安・社会的孤立感が生じやすいことが国際的な研究でも繰り返し報告されています。
心理的影響
自己評価の低下、社会不安、うつ状態。とくに若年者・女性・全頭型・汎発型では心理的負担が重くなりやすい。
社会的影響
外見の変化による職場・学校での人間関係への影響。就職面接や宿泊を伴う活動への参加が困難に感じられるケースも。
経済的・継続的負担
薬剤を中止すると再発するため、長期・継続的な治療費の負担が生じる。重症例のJAK阻害薬は高額療養費制度を使っても費用がかかる。
「気にしなければいい」という言葉は当事者にとって助けにならないことがほとんどです。脱毛症を身体的な問題と心理的な問題の両面から見て、どちらも丁寧に扱う。それが長期的な回復につながります。
発症のメカニズム
1)AGAのメカニズム:DHTと毛包の萎縮
AGAの中心的なメカニズムは、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT:Dihydrotestosterone〔ジヒドロテストステロン〕)の作用です。DHTは、頭皮の毛包に存在する5α還元酵素(ごあるふぁかんげんこうそ)によってテストステロン(男性ホルモンの一種)から変換されます。
テストステロン → DHT への変換
頭皮の毛乳頭細胞(もうにゅうとうさいぼう:毛根の成長をコントロールする細胞)に存在する5α還元酵素(Ⅱ型が主体。デュタステリドはⅠ型・Ⅱ型の両方を阻害する)がテストステロンをDHTに変換する。
アンドロゲン受容体との結合
DHTは毛乳頭細胞のアンドロゲン受容体(男性ホルモンを受け取る鍵穴のような構造)と強く結合する。AGAに遺伝的素因がある人は、この受容体がDHTに対して過剰に感受性を持つ傾向がある。
毛周期の成長期が短縮
DHTが毛乳頭細胞の遺伝子発現を変化させ、毛髪の成長を促す成長因子(IGF-1〔アイジーエフワン〕など)の分泌を抑制し、毛周期の成長期を次第に短くしていく。
毛包の萎縮(ミニチュア化)
成長期が繰り返し短縮されるうちに毛包自体が縮小(ミニチュア化)し、産生する毛が細く短くなる。最終的に毛包が産毛しか生やせなくなる。
頭皮の毛根が「DHT」という物質に対して過剰に反応しやすい体質(遺伝的なもの)があり、このDHTが毛根を徐々に萎縮させていきます。薬でDHTを一時的に抑えることはできますが、薬をやめると毛根への影響が再開します。体質そのものが変わるわけではないのが、AGAの根本的な難しさです。
AGAは遺伝的な毛包の感受性が根底にあるため、現在の治療薬(5α還元酵素阻害薬・ミノキシジル)は「進行を抑える」「現在の状態を維持する」ことが主たる目的であり、遺伝子レベルの感受性そのものを変えるわけではありません。
2)円形脱毛症のメカニズム:毛包免疫特権の崩壊
円形脱毛症の発症には、免疫システムが自己の毛包を攻撃するという「自己免疫」のメカニズムが中心的に関与しています。
通常、毛包の中の特定部位(毛球部・毛乳頭周辺)は「免疫特権部位(めんえきとっけんぶい)」として機能しており、免疫細胞が侵入しにくい環境が維持されています。この免疫特権が何らかの要因で崩れると、CD8+T細胞(体の番人役を果たす免疫細胞の一種)が毛包を外来異物とみなして集積・攻撃します。
T細胞から分泌されるインターフェロン-γ(IFN-γ:炎症を引き起こすタンパク質の一種)が毛包細胞のJAK(ヤヌスキナーゼ)/STAT経路(じゃく・すたっとけいろ:細胞内の炎症シグナルを伝達する経路)を活性化し、炎症が維持・増幅されます。このJAK/STAT経路こそが、現在最も注目されている治療標的であり、JAK阻害薬の作用点でもあります。
本来は守られているはずの毛根が、自分自身の免疫細胞から「敵」と間違えられて攻撃される状態です。感染症への反応ではなく、「自分を間違えて攻撃してしまう」という免疫の誤作動です。JAK阻害薬はこの誤った攻撃シグナルの伝達を途中でブロックすることで、炎症を抑えます。
3)女性型脱毛症・びまん性脱毛のメカニズム
女性型脱毛症(FPHL)は、AGAと同様にアンドロゲンと遺伝的感受性が関与しますが、女性ではエストロゲン(女性ホルモン)が毛包の成長期を延長する保護的な働きをしているため、閉経後にエストロゲンが低下するとともに脱毛が進行しやすくなります。
一方、産後脱毛・貧血による脱毛・甲状腺機能低下症に伴う脱毛・過度なダイエット後の脱毛は、「休止期脱毛症(テロゲン・エフルビウム〔Telogen Effluvium〕)」と呼ばれる病態で、毛包が一斉に休止期に入ることで大量の抜け毛が生じます。こちらは原因が改善されると多くの場合回復しますが、長期化すると毛包自体の萎縮が進むことがあります。
現在の治療とその限界
1)AGAの治療薬
| 薬剤名 | 作用機序(どのように働くか) | 有効性と限界 |
|---|---|---|
| フィナステリド (商品名:プロペシアなど) |
5α還元酵素Ⅱ型を阻害し、テストステロンからDHTへの変換を抑制する | 複数の臨床試験で、2年間の継続服用により約80〜83%の男性に脱毛進行の抑制が確認され、うち約60〜65%に毛量増加が認められています。ただし中止後12週間以内にDHT濃度が元の水準に戻り、脱毛が再開するケースが多い。性機能(勃起障害・性欲低下など)への影響が副作用として報告されている。 |
| デュタステリド (商品名:ザガーロなど) |
5α還元酵素Ⅰ型・Ⅱ型の両方を阻害し、より強力にDHTを抑制する | フィナステリドより強力なDHT抑制効果が期待でき、前頭部(生え際)への効果も報告されています。半減期(体内で半分に減るまでの時間)が約5週間と長く、中止後も副作用や薬効が消えるまで数週間〜数か月かかることがある。 |
| ミノキシジル(外用) (商品名:リアップなど) |
頭皮の血管を広げて血流を増加させ、毛包の成長期を延長・促進する | 発毛効果あり。中止後は発毛効果が失われ、毛が再び細くなる傾向がある。頭皮刺激・かぶれが生じることがある。 |
| ミノキシジル(内服) ※保険適用外処方が中心 |
経口投与により全身から毛包への血流促進作用を発揮する | 外用より効果が高いとする報告がある一方、血圧低下・動悸・体毛増加(多毛)・水分貯留(むくみ)などの全身副作用リスクがある。 |
2)円形脱毛症の治療
円形脱毛症の治療は2024年ガイドライン(日本皮膚科学会)に基づき、重症度・年齢・病型によって選択されます。
| 治療法 | 対象・特徴 | 課題 |
|---|---|---|
| ステロイド外用 | 軽症〜中等症に広く使用。局所への炎症抑制。 | 長期使用による皮膚萎縮・毛包炎のリスク。効果が部分的・一時的なことがある。 |
| ステロイド局所注射 | 2024年ガイドラインで成人の単発型・多発型(限局した脱毛斑)に推奨度1・エビデンスレベルB。ステロイドを脱毛部位に直接注射する。 | 注射の痛みを伴う。広範囲の脱毛への対応は困難。 |
| 局所免疫療法(DPCP法) | 頭皮に人工的に接触皮膚炎(かぶれ)を起こし、免疫変調効果で自己免疫応答を制御する。慢性・難治例に。 | 実施できる施設が限られる。自由診療。かぶれを故意に起こすため、日常生活への影響がある。 |
| JAK阻害薬 (バリシチニブ・リトレシチニブ) |
脱毛面積が広範囲で難治の重症例に2022〜2023年から保険適用。IFN-γ経由のJAK/STAT経路(炎症シグナルの伝達経路)を遮断し、免疫による毛包への攻撃を抑える。 | 感染リスク上昇・血栓症・脂質異常など複数の副作用リスクがあり、定期的な血液検査と医師管理が必須。中止後の再発率が高く、継続が必要。高額(3割負担でも月数万円台)。 |
JAK阻害薬は重症の円形脱毛症に対する画期的な治療薬ですが、中止後に再発するケースが多く報告されており、長期的な服薬継続が前提となります。高額療養費制度の活用が可能であっても、継続的な経済負担と副作用管理の必要性は残ります。
中医学からの脱毛症の病態分析
中医学では古来より、毛髪と臓腑(ぞうふ:体の機能系統を指す中医学的概念)の深いつながりが記述されてきました。その中心となるのが次の2つの概念です。
「髪は腎の華」(かみはじんのはな):毛髪の生育・艶・強さは、腎(じん)が蓄える「精」(せい:生命エネルギーの根源)の充足度に依存する。腎精が不足すると、毛髪は細く・乾燥し・脱落しやすくなる。老化とともに腎精が減少することが、加齢による薄毛の基本的な背景と考えられている。
「髪は血の余り」(かみはちのあまり):毛髪を栄養するのは血(けつ)であり、血が十分に頭皮の毛根へ届いていることが健康な毛髪の条件となる。血が不足する(血虚〔けっきょ〕)と、毛根が栄養を受けられずに脱毛が生じる。
これらの概念に基づき、脱毛症は「腎・肝・脾・心」という4つの臓腑の機能異常の組み合わせとして「証(しょう)」に分類されます。証とは、その人の体質の偏りを中医学的に分析したパターンのことです。以下に脱毛症でよく見られる証を示します。
腎が蓄える「精」が消耗した状態。加齢・過労・慢性疾患後などに多い。毛髪は乾燥・脆弱で、白髪が早まる。腰のだるさ・耳鳴り・物忘れを伴うことが多い。AGAの進行例・産後の脱毛・加齢性薄毛でよく見られる証。
血(栄養・潤いを運ぶ機能)が不足した状態。慢性的な疲労・偏食・月経過多などで生じる。顔色が悪い・動悸・集中力の低下・爪が割れやすい・月経量が少ないなどを伴う。女性の脱毛症・びまん性脱毛でよく見られる。
肝と腎の「陰」(潤い・冷やす働き)が不足した状態。のぼせ・ほてり・寝汗・口の渇き・不眠を伴う。頭皮が乾燥し、脱毛が進みやすい。加齢・更年期・慢性的なストレスで生じやすい。
ストレス・感情の抑圧・環境の変化などで「肝」の気の流れが滞った状態。情緒不安定・胸やわき腹の張り・溜め息が多い・月経不順を伴う。急激な脱毛や円形脱毛症の経過中に、こうした所見が見られる方で考慮される証(「ストレスが原因」という意味ではなく、体質の傾向を見る中医学の視点です)。
気(機能エネルギー)と血の両方が不足した状態。慢性疾患・産後・長期にわたる過労などで生じる。強い倦怠感・食欲不振・便の緩み・毛髪が全体的に薄くまばらになるのが特徴。
血の流れが滞った状態(血行不良)。頭皮の血流低下により毛根への栄養供給が妨げられる。舌の色が暗紫色・唇が紫がかる・肩こり・頭皮が固い・圧痛を伴うことがある。長期化したAGA・外傷後の脱毛でも考慮される。
実際には上記の証が単独で現れることは少なく、「腎精不足+血虚」「肝気鬱結+気血両虚」など複数が重なることが多くあります。弁証(べんしょう:脈診・舌診・腹診・問診を組み合わせた体質の総合分析)によって個々の証のパターンを確認し、処方を選択します。
漢方・鍼灸に関する研究報告の現状
脱毛症に対する漢方・鍼灸の研究は、特に中国・韓国を中心にランダム化比較試験(RCT:研究参加者を無作為に治療群と対照群に分けて効果を比較する試験)が積み重なってきており、メタ分析(複数の研究を統合的に評価する手法)による評価が行われるようになっています。
鍼灸(梅花鍼)に関する系統的レビュー(Medicine誌, 2026年)エビデンスの質:低
2026年3月に医学誌Medicineに掲載された系統的レビュー&メタ分析では、13のデータベースを対象に2024年12月までの研究を網羅的に検索し、円形脱毛症を対象としたRCT 11件(参加者計1,144人)が分析されました。そのうち7件が「梅花鍼(うめはなしん:皮膚に複数の細い針が付いた専用器具で頭皮を軽く叩く手法)+西洋医学」対「西洋医学単独」を比較したものでした(7件の参加者は計756人)Jun et al., 2026。
結果として、梅花鍼と西洋医学の組み合わせ群は、西洋医学単独群と比べて症状改善率が統計的に有意に高いことが示されました(リスク比:RR 1.09、95%信頼区間:1.03〜1.16)。これは「梅花鍼を加えた群の改善率が、西洋医学単独群に比べて相対的に約9%高い」ことを意味します。たとえば西洋医学単独で改善した人が10人中6人(60%)なら、梅花鍼を加えると約6.5人(65%)になるイメージです。絶対的な改善人数の差は、この比率よりも小さい点にご注意ください。
漢方(東アジア伝統医学)をステロイド療法に加えたメタ分析(2024年)
2024年に発表された系統的レビュー&メタ分析では、円形脱毛症に対してステロイド療法に東アジア伝統医学の漢方薬を追加した群と、ステロイド療法単独群を比較した複数のRCTが統合分析されました。その結果、漢方薬を加えた群では治癒率(RR 1.50、95%CI 1.31〜1.71)と総有効率(RR 1.09〜1.10)が高く、再発率が低い(RR 0.28、95%CI 0.16〜0.48)ことが示され、重篤な有害事象は認められなかったと報告されていますPark et al., 2024。再発の相対リスクが約7割低かったという意味です。ただし対象は東アジア伝統医学の処方であり、日本で使用できる処方・剤形とは異なる場合があること、個々の試験の規模や方法論上の限界(上記)には注意が必要です。漢方薬の成分は、Wnt経路・MAPK経路(いずれも細胞の増殖や生存に関わるシグナル伝達経路)を通じて毛包細胞の増殖を促進し、アポトーシス(細胞死)を抑制する可能性が示されています。また、動物モデルでは一部の漢方薬が骨髄間葉系幹細胞を介した免疫調整作用を持つことも報告されています。
七宝美髯丹(しちほうびぜんたん):腎精を補い、毛髪の黒みと艶を回復させることを目的とした代表的な補腎薬。何首烏(かしゅう)を主薬とし、加齢・腎精不足による白髪・薄毛・脱毛に用いられてきた。
六味地黄丸(ろくみじおうがん):腎陰(腎の潤す働き)を補う補腎薬。ほてり・口渇・乾燥傾向を伴う腎陰虚の体質に。女性の更年期脱毛・加齢性薄毛にも適用される。
八味地黄丸(はちみじおうがん):腎陰に加えて腎陽(腎の温める働き)も補う。冷え・頻尿・倦怠感を伴う腎陽虚に。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):気と血の両方を補う補剤。慢性的な疲労・貧血・産後・長期疾患後の体力低下に伴う脱毛に。「気血双補」の代表処方。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう):脾気を補い、体力・食欲・消化機能を回復させる。疲れやすさ・胃腸の弱さ(脾気虚)の所見がある円形脱毛症に。
逍遙散(しょうようさん):肝気鬱結(ストレスによる気の滞り)を解消し、脾を補う。情緒不安定・月経不順・気の滞りの所見(ストレスの影響を受けやすい体質傾向)がある脱毛症に。女性の円形脱毛症・びまん性脱毛でよく用いられる。
これらは弁証に基づいて選択・組み合わせます。処方の選択・用量は体質・年齢・現在の症状・飲んでいる薬に応じて個別に判断します。
タナココにおける漢方・鍼灸のサポート
タナココの漢方では、「腎・肝・脾という体の土台を整えることで、毛根が本来持っている再生力を発揮しやすくする」ことを目的とします。
弁証(脈診・舌診・腹診・問診の総合分析)によって体質の傾向を確認したうえで処方を選択します。腎精不足が主体の加齢性薄毛・AGA進行例には七宝美髯丹・六味地黄丸・八味地黄丸系の補腎処方を、慢性疲労・産後・貧血傾向を伴う脱毛には十全大補湯・当帰飲子による補血・気血双補を、ストレスを受けやすく、気の巡りの滞り(肝気鬱結)や胃腸の弱りの所見が見られる円形脱毛症には逍遙散・補中益気湯による疏肝・健脾を検討します。これらを一人ひとりの証に合わせて単独または組み合わせて用います。
多くの漢方薬は適切に選択・使用された場合に比較的副作用が少なく、長期継続しやすいという特徴があります。ただし処方によって注意すべき点は異なります(上記の七宝美髯丹の例など)。フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジル・ステロイド外用薬・JAK阻害薬などと並行して使用できるケースが多くありますが、薬剤師資格を持つ担当者が服用中の薬・アレルギー・体質を確認したうえで個別に判断・提案します。
鍼灸では、腎・肝・脾・心に対応するツボ(経穴〔けいけつ〕:鍼灸で刺激する体表上の特定のポイント)への刺激と、頭皮への直接的なアプローチを組み合わせます。
全身のツボとして、中医学でいう「腎」を補う背中のツボである腎兪(じんゆ)、気と血の双方を補う足三里(あしさんり)、腎・脾・肝の3つを補う三陰交(さんいんこう)、血の栄養を促す血海(けっかい)、頭頂部に位置し頭皮への血流促進と自律神経調整に用いる百会(ひゃくえ)、肝気の流れを整える太衝(たいしょう)などを組み合わせます。
頭皮への局所的なアプローチとして梅花鍼(うめはなしん)を用います。先端に複数の細い針が付いた専用器具で頭皮を軽くたたく手技であり、頭皮の血行を促進し、毛乳頭への栄養供給を助けることが目的です。2026年の系統的レビューでも、梅花鍼と西洋医学の組み合わせが統計的に有意な改善効果を示した手技として報告されています(ただしエビデンスの質は低い)。
「鍼は怖い・痛そう」という方でも、針の細さ・刺激量を丁寧に調整しながら施術しますのでご安心ください。
タナココでは、現在受けている医療的なサポート(皮膚科・AGAクリニックでの治療内容、処方薬)をお聞きしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸のアプローチを考えます。「まず病院に行くべきか迷っている」という段階でも、情報収集のご相談から歓迎します。漢方・鍼灸の持ち味は、脱毛そのものだけでなく、睡眠・冷え・疲れやすさ・月経の乱れ・ストレスの感じ方といった全身の状態を、弁証にもとづいてあわせて確認できる点にあります。
「薬を続けているが再発を繰り返している」という方、「副作用が気になって長期継続に不安を感じている」という方、「体質そのものを整えたい」という方——どのような状況でも、まず現状をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ相談員が、西洋医学と中医学、心理的な面から一人ひとりに合った提案をします。
よくある質問(FAQ)
脱毛症に漢方や鍼灸を試す意味はありますか?
フィナステリドをやめると脱毛が再発します。漢方で体質を変えることはできますか?
JAK阻害薬(バリシチニブ・リトレシチニブ)と漢方を併用できますか?
円形脱毛症は自然に治りますか?治療しないでいてもいいですか?
女性の薄毛・産後脱毛にも対応できますか?
まだ病院で診断されていないが、抜け毛が気になる。相談できますか?
脱毛症──体質の側から、できることがあります
「薬を続けているのに再発する」「副作用が心配で長く飲み続けることに不安がある」「体質そのものを変えたい」——そう感じているなら、体の側からのアプローチを加えることを、一度考えてみてください。
現在の西洋医学的な治療の限界は、薬を中止すると効果が失われるという点にあります。タナココでは、薬が作用している間に体の土台を整え、毛根が本来持っている再生力を引き出せる状態をつくることを目標として漢方・鍼灸でのアプローチを行っています。それがどこまでできるかは一人ひとり違いますが、できることを一緒に考えていくスタンスは変わりません。
「まず相談だけ」「今の治療に何かを加えたい」「どこから始めたらいいかわからない」——どの段階でも、現在の状況をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師・心理士の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学、心理面から一人ひとりに合ったご提案をします。
