起立性調節障害とは
起立性調節障害(以下「OD」)は
たちくらみやめまい
起立時に気分がすぐれない・失神
動悸・息切れ
朝起きるのが難しく午前中調子が悪い
食欲がない
頭痛・腹痛
倦怠感
・
・
・
などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。
以前は成長過程における一過性のものであり、予後が良好と言われていた時期もありますが、重症のケースでは循環障害が強く起こり、学校生活だけでなく、その後の社会生活にも大きな影響を与えることがあります。またうつ病や精神障害に発展してしまう可能性もあるため早期の対応が重要になります。
からだの無意識の調整機構の1つとして「循環調整」があります。これは「自律神経」の働きによって調整されています。
自律神経には、「交感神経」、「副交感神経」の2種類があり、
交感神経は「活動」
副交感神経は「休息」
に働きます。
ヒトは二足歩行をするため、寝ていたり、座った状態から立ち上がると重力の影響でからだの上と下では血液の分布に大きな偏りが生じます。放って置くとからだの上部では血液が行き渡らず、からだの下部では血液が溜まるという困った状態になります。
この時にからだの中では無意識のうちに血液の不均衡が生じないように、自律神経である「交感神経」「副交感神経」がバランス良く働き、不都合が起こらないように調節します。
ODではこれらの機能がうまく働かず、立ち上がった時に血圧が下がってふらついたり、血液を行き渡らせようとして過剰に心拍数が上がりすぎたり、循環機能の調整に時間が非常にかかるようになります。自律神経は無意識に調整を行っているため、このようなトラブルが起こったときには、自分自身ではどうしようもありません。
また自律神経は、季節や気候の変化、学校でのストレス、家庭でのストレス、生活リズムの乱れなどの影響を受けやすく、疾患の発症や悪化の要因になることがあります。
加えて、ODは小学校の高学年~中学生に多く見られますが、この時期はからだの第二次性徴が見られ体内環境が大きく変化する時期でもあり、このことも自律神経に影響を与えると考えられています。
ODの有病率は、軽症例を含めると、小学生では約5%、中学生では約10%いるといわれています。また不登校の約30~40%にはODの症状が見られるといわれています。
ODの原因・症状・診断等について
OD児はもともと自律神経が関与する循環調節の制御機構が弱いことがあげられます。
これに成長による体内環境の変化や社会心理的要因(学校、家庭でのストレスなど)が加わると、さらに自律神経のバランスが崩れやすくなり、正常な血液循環が維持できず、立ちくらみやふらつきが起こり、それを補うために心臓が頑張るので、脈が速くなり、息切れや動悸がみられるようになります。
症状が現れたときに、からだを横にすることで、全身への血流が回復するので、1日の中で体を横にする時間が増えます。そうすると体を動かす時間が減り、運動不足となり、さらに症状は悪化傾向になります。
この状態は一見すると「怠け者」に見えることがあり、否定的な見方をされ、このことがからだの不調の原因がわからず不安な心を深く傷つけ、症状を更に悪化させることがあります。
ODの診断基準によると
次に掲げるODの11症状のうち3つ以上当てはまり、かつ、ODのサブタイプのいずれかに合致することとなっています。
1 立ちくらみやめまい
2 起立時の気分不良や失神
3 入浴時や嫌なことで気分不良
4 動悸や息切れ
5 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6 顔色が青白い
7 食欲不振
8 腹痛
9 倦怠感
10 頭痛
11 乗り物酔い
ODにはいくつかのタイプ(サブタイプ)があります。
1 起立直後性低血圧(INOH)
ODの中で一番多いサブタイプです。
立ち上がった直後に強い血圧低下が起こり、眼の前が暗くなって立ちくらみが起こります。頻脈も伴うことがも多く、回復に時間がかかります(25秒以上)。
末梢の血管への交感神経の働きかけが弱く、血管の収縮不全が原因と考えられています。
2 体位性頻脈症候群(POTS)
ODの中で二番目に多いサブタイプです。
立ち上がった直後の血圧低下は見られませんが、頻脈(1分間に115回以上、または心拍増加が35以上)がみられます。
立ち上がったときに腹部や下肢に血液が溜まることをきっかけに交感神経の興奮がおこり頻脈となり、この状態が持続します。
3 神経調節性失神(NMS)
次に多いのがこのタイプです。
立っている最中に突然血圧が低下する発作が起こります。立っていられなくなり、失神することもあります。蒼白や冷汗などの前駆症状が見られることもあります。
血管迷走神経発作が原因とされ、起立中の頻脈が過剰となり、心臓が空打ちし反射的に起こります。
4 遷延性起立性低血圧 (Delayed-OH)
起立後の血圧は正常ですが、数分で血圧が低下(15%以上、または20mmHg以上低下)します。静脈系の収縮不全による還流低下により心拍出量が減少したのにも関わらず、末梢血管への交感神経の働きかけが弱いことで起こるとされています。
ODの治療について
ODの治療は、
◎ 疾病教育
◎ 非薬物療法(日常生活での注意・工夫)
◎ 薬物療法
◎ 環境整備
◎ 心理療法
などを行います。
【疾病教育】では、ODは日内変動や季節による変動があり、身体的な疾患で、精神的な疾患ではないことを理解することが重要です。
しかしOD児は症状への不安感や周囲の環境への不信感があるため社会心理学的背景を考慮した接し方が必要になります。
ODではその症状から日中横になっている時間が長く周囲からは「怠けている」と見られがちで、このことが心理的なストレスを増大させて、ODを悪化させる事がありますので注意が必要です。
「根性」「気持ちの持ちよう」では治りません。
【非薬物療法】のポイントは「姿勢」「運動」「生活」「食事」「装具」「心のケア」です。
「姿勢」
・立ち上がるときは頭を急に上げるのではなく、頭を下げたままゆっくり立ち上がります。
・立ったままの状態は1~2分以上続けないようにし、血圧低下を予防するために、足踏みをしたり足を交叉させるなどします(この時屈伸運動は急激な血圧変動を起こしやすいのでしないようにします。)
「運動」
・筋力低下を防ぐために、心拍数が120を超えない程度の軽い運動を行う。
「生活」
・暑い場所は汗をかいて脱水になりやすくなったり、血管が拡張して血圧が下がりやすくなりますので気温の高い場所にいることを避けます。
・入浴は血管が拡張して血圧が下がりやすくなるので、短時間ですませます。
・規則正しい生活リズムを心がけます。症状に起床困難があるので無理はさせないようにします。
「食事」
・循環血漿量を増やすために、水分(1.5L~2L)・塩分摂取(10~12g程度)します。
*担当医の指示に従って行って下さい。
「装具」
・下半身に血液が溜まるのを防ぐために弾性ストッキングなどの血圧低下装具を必要に応じて使用します。
【薬物療法】は非薬物療法でも改善しない場合に行います。
西洋薬ではミトドリン、ジヒドロエルゴタミン、アメジニウム、プロプラノロールなどを使用します。
これらの薬物治療に合わせて、漢方・はり灸を併用することで症状が改善しやすくなる場合もあります。
使用する漢方薬には
◎ 補中益気湯
◎ 柴胡桂枝湯
◎ 半夏白朮天麻湯
◎ 小建中湯
◎ 苓桂朮甘湯
などの処方を使用します。
はり灸では、中脘、関元、足三里、太渓、三陰交、陰陵泉、陽陵泉、太衝、胃兪、脾兪、三焦兪、肝兪、腎兪などを体質、症状に合わせて使い分けます。
【環境整備】ではOD児のストレスを軽減できるように環境を整備します。
関係者がODへの理解を深め、家庭環境、学校環境、家庭-学校との連携、医療機関ー学校との連携などを整備し、OD児を見守ることができる体制づくりを整えることが大切です。
【心理療法】は上記の治療を行いある程度改善はあるものの、身体症状、精神症状が改善しない場合や、本人・保護者がカウンセリングを希望している場合、担当医が効果的だと判断した場合などに心理士などの専門職によるカウンセリングを行います。
ODは軽症例では数ヶ月で症状が改善するとされていますが、重症例では社会復帰に数年かかるケースもあります。症状が疑われた場合は、医療機関を受診し、きちんとした環境で治療を受けることが大切です。
起立性調節障害には漢方・鍼灸治療を併用
西洋医学的な治療でも漢方・鍼灸が使われることがありますが、中医学的・東洋医学的な視点でアプローチすることが重要ですので、漢方・鍼灸については専門的な技術・知識を持つ相談員にご相談ください。起立性調節障害の漢方・鍼灸治療は少しずつ調子の良い時間が増えるようにサポートします。お悩みの際はぜひご相談下さい。
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