Lancetで「差なし」報告…でも?「自然周期移植」と「ホルモン補充周期移植」に関する研究の読み方

決着は着くのか──
Lancetで「差なし」報告…でも?
「自然周期移植」と「ホルモン補充周期移植」に関する研究の読み方


目次

📝 大きな研究ほど「安心材料」になる──でも、読み方が大事

「凍結胚移植」は世界中で増えており、不妊治療の現場では「子宮内膜をどう整えるか」が、治療法の選択だけでなく通院計画や生活設計にも直結する重要なテーマです。

自然な排卵のタイミングに合わせる「自然周期」と、ホルモンを用いて内膜を整える「ホルモン補充周期」──どちらがよいのかは、長く議論されてきました。

近年は、妊娠成績だけでなく妊娠合併症の観点からも、「自然周期のほうが有利なのではないか」という考え方が注目され、臨床の空気感も少しずつその方向に傾きつつありました。

そうした中で、世界的に影響力の大きい The Lancet に掲載された大規模ランダム化比較試験(RCT)が、「自然周期でもホルモン補充周期でも、全体として大きな差は見られなかった」と報告しました。

不妊治療は、研究と臨床が同時進行で進む分野です。

明確な「正解」が見えにくいまま治療が行われることも少なくありません。だからこそ、このような「大規模RCT」の結果は、現場にとって非常に重みのある「安心材料」になります。


🧐 「否定」ではなく「丁寧に読む」

一方で、RBMO(Reproductive BioMedicine Online)という専門誌に掲載された専門家による解説は、このLancet論文の価値を認めたうえで、この結果をどう受け止めたら良いか、解説を発表しました。

RBMOは、生殖医療、とくにART(体外受精など)や胚・着床、妊娠に関わる研究を幅広く扱う国際的な査読付き専門誌です。一般向けニュースというより、研究者や臨床医が新しい知見を共有し、議論を深めるための「専門家の場」に近い存在です。

こうした専門誌の重要な役割のひとつが、影響力の大きい研究が出たときに、結論だけが独り歩きしないよう、読み方のポイントを整理することです。

RBMOに掲載された今回の専門家による解説も、まさにその役割を担っています。著者らは

  • RCTは強力なエビデンスになり得る
  • しかし、一流誌に掲載されたからといって結論を盲目的に受け取るべきではない
  • 研究デザインや解析の前提によって、「差が見えにくくなる構造」が入り込むことがある

と指摘します。

今回のRBMOの立場は、「結論を否定する」のではなく、「どう読むかを丁寧に考えよう」というものです。


📊 「数字の見え方」で印象が変わる──RBMOが注目した「構造の違い」

このLancetの研究では、子宮内膜の整え方として次の3つが比較されました。

  • 完全自然周期
  • 修正自然周期
  • ホルモン補充周期

各群476人、合計1428人がランダムに割り付けられ、「生児出生率(出産に至った割合)が評価されています。

ここで重要なのは、この「生児出生率」に2つの異なる見方があることです。


① 初回の「準備ベース」での出生率

(「準備ベース」とは「移植準備を始めた人すべて」を分母にした数字)

まず示されるのが、次の数字です。

  • 完全自然周期:27%(127/476)
  • 修正自然周期:25%(117/476)
  • ホルモン補充周期:34%(162/476)

一見すると、「自然周期はホルモン補充周期より成績が低い」と感じるかもしれません。しかし、この数字には重要な注意点があります。

自然周期では、排卵のタイミングが合わないなどの理由で、約21%の人が胚移植に至らずキャンセルになっています。

それでも、この「キャンセル例」も分母(476人)に含めたまま計算されているのです。

つまり、「実際に移植していない人も含めた『準備ベース(移植の準備を始めた人で移植がキャンセルになった人も含める)』の出生率」であり、そのため、自然周期の数字が低く見えやすい構造になっているのです。


② やり直しを含めた最終的な出生率

(=「最終的に出産に至った人の割合」)

一方、Lancet論文で「主要評価項目」として用いられたのが、次の数字です。

  • 完全自然周期:37%(174/476)
  • 修正自然周期:33%(159/476)
  • ホルモン補充周期:34%(162/476)

これは、「自然周期」でキャンセルになった人が、次の周期に「ホルモン補充周期」で再挑戦し、出産に至った場合も含めた成績です。

再び自然周期で行うのではなく、ホルモン補充周期に変更した結果が組み込まれた結果の数字です。

結果的にホルモン補充周期で出産しても、スタートが「自然周期」であったため「自然周期」に組み込まれています。

その結果、上記数字だけを見ると、3つの方法のいずれにおいても、ほとんど差がないように見える結果になっています。

これが、Lancetの「自然周期とホルモン補充周期で大きな差はなかった」という結論につながっています。


👀 RBMOが注目したのは「構造そのもの」

RBMOの専門家による解説が問題にしているのは、数字そのものではなく、その数字がどう作られているかです。

  • ①では、移植していない人まで分母に含まれている
  • ②では、自然周期でうまくいかなかった人が、ホルモン補充周期で成功した結果も「自然周期」の成績として加えられている

この構造では、自然周期という方法そのものの「純粋な効果」が見えにくくなります。

RBMOはこの点を踏まえ、「結論をそのまま受け取る前に、こうした構造を理解しておこう」と言っているのです。


また、RBMOはこのほかにもいくつかの懸念を挙げています。

例えば

  • 自然周期で黄体補充を行っていないこと
  • 排卵タイミングの見きわめ(LHサージの扱い)が十分に明確でない可能性があること
  • 修正自然周期でホルモンの確認が十分でない可能性があること
  • ホルモン補充周期で移植前のプロゲステロンを測っておらず、救済が必要な人(10–30%)を見逃す可能性があること
  • 自然周期群でキャンセル率が21%と高く、ホルモン補充周期群はキャンセルが0%というのは「既報と比べて逆に不自然では?」という疑問
  • 自然周期からホルモン補充周期に切り替えた人の生児出生率が、最初からホルモン補充周期だった群より高いこと

といった点です。

つまり「自然周期 vs ホルモン補充周期」というアプローチだけで判断するのではなく、その施設で、どう運用している自然周期なのか/ホルモン補充周期なのかも含めて考えよう、というメッセージです。

ここで言いたいのは、「この研究はダメだ」という話ではなく、参加者の性質や運用の細部によって、現場にそのまま当てはまるかが変わるという点です。


🤰 LancetのRCTでの「合併症」は?

このRCTでは、主な評価項目は生児出生率でしたが「母体および新生児の転帰(合併症)」も評価されています。

これまでの研究では

  • ホルモン補充周期で、妊娠高血圧症候群や巨大児、分娩時出血などのリスクが高い可能性
  • 自然周期では、それらが相対的に少ない可能性

が指摘されてきました。

ただし、これらの多くは観察研究であり、

  • ランダム化されていない
  • 結果が一貫しない
  • 研究対象や方法が研究ごとに異なる

といった限界がありました。


📌 合併症について、Lancetはどう結論づけたか

LancetのRCTでは、主な評価項目は「生児出生率」ですが、あわせて「母体・新生児の合併症(妊娠中や出産後の出来事)」も確認されています。

論文のまとめとしては、妊娠高血圧症候群、低出生体重児、先天異常などを含めて、グループ間で統計的に大きな差は認められなかった、という結論です。

ただRBMOの専門家による解説はここに踏み込み、「差はない」で片づける前に、表をもう一度よく見よう」と指摘します。

というのも、表を見ると「十分に説明されていない差」が残っているように見える項目があるからです。

RBMOが具体例として挙げているのが

  • 12週未満の流産
  • NICU入室

などです。いずれも、「ホルモン補充周期」が「修正自然周期」より不利に見える数字になり得るのに、本文で十分に議論されていない、という問題提起です。

(*ここは誤解しないための注意点もあります。これらはそもそも二次評価項目で、件数も多くないため、結果がブレやすいタイプの指標です。また「実際に移植できた人」に限る解析(per-protocol)では、もともとのランダム化の良さが弱まり、グループの中身に偏り(選択バイアス)が入りやすい点にも注意が必要です。RBMOの指摘は「ホルモン補充周期は危険」と断言するものではなく、「差がない」と言い切る前に、表に残っている差をきちんと説明しようという趣旨です。)

またRBMOは、妊娠高血圧症候群のように頻度が高くない合併症では、「イベント数の関係で、差があっても統計的に出にくい可能性」にも触れています。

そしてLancet論文自身にも、次のように明記されています。

“Maternal and neonatal outcomes did not differ significantly between groups, as the power to detect small differences was low.”
「母体および新生児の転帰において、グループ間で有意差は見られなかった。ただし、小さな差を検出する統計的な力(power)は低かった。」

つまり、「大きな違いは見えなかった」とは言える一方で、細かな安全性の差まで「完全に同じ」と断言できるほどではない、ということです。

妊娠合併症はそもそも頻度が低いものも多いため、出生率を主目的に設計された試験では、そうした差は見えにくいことがあります。


📌 「誤解」しないために

  • 「差がない」=「完全に同じ・完全に安全」ではない
  • 今回のRCTから言えるのは、「大きな安全性の問題は確認されなかった」という点まで
  • 合併症の違いを厳密に判断するには、さらに大規模で安全性を主目的とした研究が必要

RBMOの専門家による解説が強調するのが、まさにこの点です。

✨ 大規模RCTだからこそ、何が見えていて、何がまだ見えていないのかを意識して読むことが大切です

この視点を持つことで、Lancetの研究は過信されることなく、最大限に活かされます


📝 大事なのは、この結果を「どう使うか」

Lancetの大規模RCTは、胚移植では「自然周期でもホルモン補充周期でも、全体として大きな差はない」と示したことで、治療を選択する医療従事者にとっても患者さんにとって大きな安心材料になりました。

ただRBMOの専門家による解説が伝えたいのは、「差がない」=「同じ」とすぐに結論を出さないということです

自然周期ではキャンセルが起こり得ることや、ホルモン補充周期での移植やり直しの結果が自然周期側に含まれる設計だったことなど、数字の「作られ方」によって見え方は変わります。

現時点で、実際の治療で大事なのは、「どっちが良い」ではなく、

  • 予定の立てやすさ(通院回数・日程の確実さ)
  • キャンセルの起こりやすさ
  • 薬の負担や体質との相性
  • 施設の運用の丁寧さ(モニタリング等)

を含めて、自分に合う方法を選ぶこと。

Lancetの結果を重要な「根拠」として踏まえつつ、RBMOの視点で過信を防ぐ──このバランスを持てれば、研究結果は「結論」ではなく、より良い選択のための道具として最大限に活かせます。

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