📱 2007年に世界で起きていたこと
2007年という年を、皆さんはどのように記憶しているでしょうか。
この年は初代iPhoneが発売され、私たちの生活が劇的に変わり始める前夜とも言える年でした。
実はこの頃から、世界の統計データを注意深く観察すると、若者たちの間で「ある不思議な現象」が同時に起こり始めていました。
それは、国の医療制度も、法律も、経済的な豊かさも、宗教的な背景もまったく異なる128の国々で、ほぼ一斉に「10代の妊娠・出生率が急激に下がる」という現象でした。
避妊教育の普及?
景気の悪化?
しかし、世界中で同時に、これほど急激に数字が落ち込む理由としては、どれも納得に欠けていました。
では、国や文化の壁を越えて、世界中の若者の行動をほぼ同時に塗り替えた「共通の引き金」は何だったのか──その謎に迫ったのが、なんと「経済学」の研究チームです。
彼らが目をつけたのが、まさに2007年以降に爆発的に普及し世界を変えた「スマホ」。
近年、「スマホの使いすぎで心が疲弊する」という話はよく見聞きします。しかし、この研究が迫ろうとしたのは、別の視点です。
スマホの画面を見る時間が増えた結果、「何が削られてしまったのか」。
中医学には、古くから感情や意識の中枢であり、人と人とのつながりを支える臓腑として位置づけられてきた「心(シン)」という概念があります。
スマホが削った時間が、「心」に何を引き起こしたのか──数字とデータで構成された「経済学」の研究が、その問いに意外な角度から答えを出しました。
🧪 どんな研究?
世界中で起きた「10代の出生率の急減」に「スマホ」が関係しているのか。
それを科学的に検証するため、アメリカのシンシナティ大学の経済学者が、驚くほど緻密な分析を行いました。単に「スマホが流行った時期に出生率が下がった」というだけでは、たまたま同時期に起きた別の出来事が原因かもしれません。
そこで研究チームは、「スマホ(通信環境)の普及スピードだけが異なる地域」を比較するという、ユニークな方法を考え出しました。
そのために利用したのが、各地域の「地形」です。山や谷が多くて険しい土地は、アンテナを建てたり、通信ケーブルを敷いたりするのに莫大なコストがかかるため、平坦な土地に比べてスマホが使えるようになる時期が自然と遅れます。
この地理的な条件の差を活用しながら、経済格差をはじめとするさまざまな要因を統計的に丁寧に取り除くことで、「スマホ環境が整ったことによる影響」をできるだけ純粋に取り出す工夫をしました。
さらに研究チームは、若者たちが毎日「何に時間を使っているか」を分単位で記録した時間調査のデータや、アメリカとは医療制度が全く異なるイギリスのデータも合わせて分析。
「スマホ」が、若者たちの「日常の過ごし方」をどう変えたのかを徹底的に調べ上げました。
📊 どんな結果?
調査の結果、興味深い発見がありました。「減ったこと」と「減らなかったこと」が、はっきり分かれていたのです。
例えば、部活やスポーツへの参加率は、スマホが普及する前後でほとんど変化がありませんでした。これは「減らなかったこと」です。
一方で、大きく減ったのが「友達と特に理由もなくぶらぶらする時間」など、「なんとなく誰かと一緒にいる時間」でした。具体的に見ると、2003年には1日平均約68分あった「誰かと過ごす時間」が、2019年には約38分まで減少しています。その一方で、スマホやパソコンに触れている時間は、4倍以上に増えていました。
つまり、スマホが置き換えたのは、「社会とのつながり」ではなく、「誰かと一緒にいる時間」だったのです。
さらに、同じデータと手法で10代の自殺率を調べたところ、出生率とは真逆の動きをしていることが明らかになりました。
通信環境が整った地域ほど、妊娠率は下がる一方で、自殺率は上がっていたのです。
この数字が示唆するのは、スマホによるつながりがいくら増えても、「誰かとそばにいる時間」が失われることで、孤立しやすい状況が生まれていた可能性です。
この研究が伝えたいのは、「スマホの使い過ぎが悪い」という話ではありません。
人の心身を支えていたのは、「誰かと一緒にいる時間」だったということ──その時間を意識的に取り戻すことが、スマホ時代に自分の心を守るための、大切な選択なのかもしれません。
🌱 中医学の視点では?
中医学では古くから、「心(シン)」という臓腑が、感情や意識の中枢を担うとしてきました。
喜怒哀楽を感じること、誰かとのつながりを実感すること──そうした精神活動の土台に「心」があると考えられています。
「心」には「神(シン)」を宿す働きがありますが、この「神」とは、意識や精神の根幹のようなもの。
心が満たされているとき、人は感情を整え、自分の中心を保つことができます。そんな心神を養うために、中医学の養生法では、「誰かと同じ空間でただ時間を過ごす」ということも、心神の土台を支える大切な行為として重視されてきました。
この研究が明らかにした「誰かと過ごす時間の喪失」は、まさにその土台が次第に失われていく状況を示しています。
中医学では、心神が満たされない状態を「心神不寧」と呼びますが、スマホの普及後に10代の自殺率が上がったという発見は、この「心神不寧」が引き起こした状況として理解することができます。
何百年も前から受け継がれてきた知恵が、現代のデータと同じ方向を向いている──その事実に、改めて驚かされます。
失われたものを取り戻す手がかりは、意外と身近なところにあったのかもしれません。
🕊️ ただ、一緒にいた時間のこと
「スマホ」が登場する前、若者たちは特に理由もなく集まり、特に何をするでもなく誰かと時間を過ごしていました。
誰かの家でゴロゴロした午後、あてもなく誰かと歩いた放課後──そういった時間です。
しかし誰もそこに意味を見出そうとはしませんでした。
大切だとも思っていませんでした。
でも、その何気ない時間が、人の心神をずっと支えていたのです。
データが示したのも、中医学の知恵が語ってきたのも、結局は同じことでした。
「誰かと一緒にいる」という、それだけの時間に、私たちが思っていた以上のものが宿っていたのです。
デジタルの時代に生きる私たちは、かつてないほど「つながって」います。
それでも、画面を通じたやりとりでは届かない何かが、誰かと一緒に過ごす時間にはある──データも、中医学の知恵も、同じことを指していました。
それを知っているだけで、誰かと過ごすなんでもない時間の見え方が、少し変わるかもしれません。
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