「脳」の声は「耳」から聞こえる?

目次

🌟 「耳」から聞こえるのは「脳」の未来

年齢とともに、少しずつ変わってくる「聞こえ方」。

会話が聞き取りづらくなったり、テレビの音を大きくしたり──そんな日常のちょっとした変化が、実は脳の奥で起きていることと深くつながっているかもしれない、そんな研究が注目を集めています。

今回紹介するのは、アメリカで75年以上続く「フラミンガム心臓研究」から生まれたもの。心臓だけでなく、脳や認知機能、そして聴力まで、幅広い視点で人の健康を追い続けてきた研究です。

この研究では、「聞こえの変化」が脳の構造や働きとどう関係しているのかを、MRIの画像や記憶力テスト、認知症の発症データなどを使って、じっくり調べています。

中医学では、「耳」の働きは「腎」と密接につながっていると考えられています。そして「腎」は「精(せい)」を蓄え、その精から「髄(ずい)」が生まれます。

「髄」は「脳」を満たすもとになるため、「腎」の力が弱ると「脳」をしっかり養えなくなり、記憶力が落ちたり、物忘れが増えたりする──こうした流れが古くから伝えられてきました。

だからこそ、聞こえの衰えは耳だけの問題ではなく、体の内側で起きている深い変化のサインとして受け止める視点があるのです。

この研究が明らかにした「耳」と「脳」のつながり。

とても興味深い内容です。

では、続きを見ていきましょう 👂🧠


👂 「聴力」と「脳」の関係

この研究では、聴力に違いがある人たちの脳の画像を詳しく比べています。

すると、聞こえにくさがみられる人では、脳の大きさにわずかな差が見つかりました。とくに、脳全体のボリュームが少し小さくなっている傾向があったのです。

また、脳の中を走る神経の通り道──「白質」と呼ばれる部分には、小さな影のような変化も見られました。これは、血流の変化や加齢によって現れやすいもので、MRIでは白く映ることから「白質高信号」と呼ばれています。

こうした変化は、まだ物忘れがひどくなったり、認知症を発症する前の段階でも現れ始めていました。

つまり、聞こえの変化と一緒に、脳の構造にも静かな変化が進んでいる可能性があることがわかりました。


🧠 「聴力」と「考える力」の関係

脳の変化は、MRIの画像だけではありませんでした。実際に「考える力」にも、違いが見えてきました。

たとえば、難しい作業を段取りよくこなす力や、同時に複数のことを処理する力──これらは「実行機能」と呼ばれる認知の中でも特に重要な能力ですが、聞こえにくさがある人では、この力が少し弱まっている傾向がありました。

さらに、話の内容を覚えておく力や、少し時間がたってから思い出す力も、やや下がっていることが確認されています。これらは一時的な記憶力や、情報を取り出す力に関わるものです。

つまり、耳で受け取る情報が少なくなると、頭の中で処理する材料も減ってしまい、その分だけ脳の働き全体にも影響が及んでいる可能性がある、ということです。


❓ 「聴力」と「認知症」の関係

聞こえにくさと脳の構造や認知機能の変化が関係していることがわかってきた中で、研究チームはさらに、将来の「認知症の発症」とのつながりも追いかけました。

調査対象となった人たちを約15年間追跡した結果、軽度でも聞こえにくさがある人たちは、そうでない人に比べて、認知症を発症する割合が少し高くなる傾向が見られました。なかでも、遺伝的にリスクが高いとされる「アポリポタンパクE(APOE) ε4」という体質を持つ人では、その傾向がよりはっきりしていました。

これらの結果は、「聞こえ」の変化が、脳の老化や認知症のリスクと静かに関係しているかもしれないことを示唆しています。


🦻 「聴力」を支える「補聴器」の効果

この研究では、もうひとつ興味深い傾向が示されていました。

それは、聞こえにくさがある人のなかでも、「補聴器を使っていない人」は「使っている人」に比べて、認知症を発症する割合がやや高かったということです。

特に、もともと認知症のなりやすさを持つ体質(APOE ε4を保有している人)では、この差がより大きく見られました。つまり、聴力を補うことで、将来の脳の健康を支える可能性があることがわかりました。

もちろん、補聴器の有無だけでリスクが決まるわけではありません。生活習慣や体の状態など、ほかの要因も影響します。

それでも、音の刺激をしっかり取り入れることが、脳の活性を保つための大きな要素となる可能性が示されました。

日々の暮らしの中で「聞こえ」を支える工夫には、思った以上に大きな意味があるのかもしれません。


🎧 「聴力」が手掛かりになる?

今回の研究では、「聴力の状態」を加えることで、将来の認知症リスクをより正確に予測できる可能性があることもわかってきました。

つまり、健診などで行う簡単な聴力チェックが、脳の変化や認知機能の低下を早めに捉えるための手がかりになるかもしれない、ということです。

これまで健康診断では、血圧や血糖値などが重視されてきましたが、「聞こえ方」も、脳の健康を見守るうえで注目すべき新たな指標として位置づけられていく可能性があります。


🌱 「聴力」の変化を中医学の視点で考える

中医学では、耳は単なる「音の器官」ではなく、「腎」の状態を映し出す場所とされています。腎は生命エネルギーである「精(せい)」を蓄える臓であり、この「精」から「髄(ずい)」が生まれ、「髄」は「脳」に満ちてその働きを支えると考えられています。

つまり、腎の力が弱くなると精も不足し、髄が脳を十分に養えなくなります。すると、記憶力の低下や思考の鈍り、耳鳴りや聴力の衰えといった症状として表れやすくなる──これが中医学での視点です。

聴力の低下は、決して耳だけの問題ではなく、「腎の弱り」や「髄の不足」といった全身のバランスの乱れの表現でもある、という見方なのです。

そして今回の研究が示した「聴こえの変化」と「脳機能の低下」の関係は、古くから中医学が伝えてきたこのつながりを、現代科学が別の角度から裏づけたとも考えられます。


💡 「聴力」から始まる、新しい健康の見方

年齢を重ねると、少しずつ聞こえ方が変わってきます。

その変化は、耳だけの問題ではなく、脳の働きや記憶力、体全体の調子とも関係している可能性があります。今回の研究は、そうした関係を丁寧に調べたものです。

研究では、聴力の低下とともに、脳の体積がわずかに小さくなっていたり、考える力に変化が見られたりする傾向が報告されました。

こうした結果は、中医学が古くから伝えてきた「耳と腎と脳のつながり」という考え方と重なるところがあります。

聞こえ方に変化を感じたとき、それを単なる年齢のせいと決めつけず、脳や体の状態を見直すひとつの手がかりとして受け取ることが大切です。

耳の変化に気づいたら、少しだけ生活を整えてみる──その積み重ねが、将来の健康を守ることにつながるかもしれません。

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