メラトニンと回復力の意外な関係

夜の過ごし方ひとつで、翌日の体の動きや疲れの残り方が変わることがあります。

今回の研究が焦点を当てたのは、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニン。体内時計を整え、夜にしっかり休むために欠かせない存在です。十分な睡眠は、筋肉や心肺機能の回復を促し、翌日のパフォーマンスに直結します。

この研究は、そんな可能性を確かめたものです。

対象は、普段から鍛えている若い男性たち。眠る前にメラトニンを6mgだけ飲み、翌朝は全力で走るテストに挑みました。

興味深いのは、睡眠時間も質もほとんど変わらなかったのに、走る距離や疲れ方、さらに数日後までの「体の軽さ」に差が出たこと。

中医学の視点では、夜は「養陰」の時間。体の内側に滋養を蓄えることで、翌日の「陽」がのびやかに立ち上がるとされます。今回の結果は、その考え方に重なる部分があります。

では、その不思議な仕組みを詳しく見ていきましょう。


目次

🧪 どう調べた?

この研究に参加したのは、日ごろから鍛えている若い男性12人。週に3時間以上の運動を続けており、高強度の往復走にも慣れている人たちです。

試験は「ランダム化二重盲検クロスオーバー法」という信頼性の高い方法で行われました。参加者は、就寝30分前に「メラトニン6mg」か、見た目が同じ「プラセボ(偽薬)」を服用し、1週間後に条件を入れ替えて両方を体験しました。

睡眠は手首型の活動量計で記録。翌朝7時に全員同じ時間に起床し、そろって朝食をとったあと、午前9時から「5mシャトルランテスト」に挑戦しました。これは、5メートル間を全力で30秒間走り続け、35秒休憩を挟んで6本行うハードな運動です。

計測したのは、合計走行距離、疲労の進み方、心拍数、主観的なきつさ、回復感、筋肉痛、そして血液での筋損傷や炎症の指標です。


🏃‍♂️ パフォーマンスアップ?

結果は興味深いものでした。合計走行距離は、プラセボ服用時の約625mに対し、メラトニン時は約748m。これは30秒全力走を1本分ちょっと多く走れた計算です。

疲労によるペースの落ち込みも緩やかで、最大心拍数は平均で6拍ほど低くなっていました。つまり、本人が感じるきつさは同じでも、心臓への負担は軽く抑えられていた可能性があります。


😴 計測では見えない「質」の違い

活動量計での測定では、睡眠時間も眠っていた割合(睡眠効率)も、メラトニン摂取時とプラセボ時で大きな差はありませんでした。

ただし、この方法では脳波による詳細な睡眠構造(浅い眠り・深い眠り・レム睡眠など)は分かりません。深い眠りが少し増えていたり、眠りの切り替えがスムーズになっていた可能性は否定できないのです。

つまり、数字上は同じ眠りでも、その中身──「質の部分」──では違いがあった可能性があります。翌日の走りの粘りや距離の伸びは、「眠りの時間が増えたから」ではなく、メラトニンが別の経路で体に働きかけた可能性が考えられます。

眠りの見かけ上の変化がないのにパフォーマンスが向上したことは、研究者にとっても非常に興味深い結果でした。


🧠 これはすごい!──3日後まで続く「軽快感」

運動後の「回復感」は、メラトニン摂取時には運動5分後から72時間後まで、プラセボを摂取した時よりも高い状態が続きました。

これは、走った直後だけでなく、その後数日間にわたって「体が軽く感じられる」状態が保たれていたことを意味します。

また、「筋肉痛」の自己評価もメラトニン摂取時のほうが低く、動きやすさや日常生活での快適さが保たれていました。


🌿 中医学の視点

中医学では、夜は「養陰(よういん)」の時間とされ、体の内側に滋養やエネルギーを蓄える大切なときと考えます。十分に陰が養われると、翌日の「陽」がのびやかに立ち上がり、活動力や集中力が高まります。

この考え方は、陰陽論と子午流注(しごるちゅう)という二つの理論に基づいています。

陰陽論では、夜は「陰」が優位になる時間帯とされ、静かに休みながら、気血や津液(体を潤す水分)を養うことが重要とされます。

子午流注の理論では、夜の23時〜3時は「胆」と「肝」が活発になり、血を蓄え、筋肉や全身に栄養を補う時間とされます。この時間帯にしっかり休息を取ることで、翌日の「陽」の働きがスムーズに発揮されるのです。

今回の研究結果は、この中医学的な考え方と重なります。メラトニンによって夜の休息が深まり、体内のバランスが整うことで、翌日の走りや回復感、軽快感につながった可能性があります。

さらに、これまでの研究では、メラトニンには強い抗酸化作用や炎症を抑える力が報告されています。運動による筋肉のダメージや酸化ストレスを和らげ、回復や持久力の向上に寄与する可能性があります。

中医学と現代医学、両方の視点から見ても、「夜の過ごし方が翌日の動きに影響する」という共通の結論にたどり着きます。


🩺 試験の課題と今後の展望

今回の研究は非常に興味深い結果を示しましたが、いくつかの制約もあります。

まず、睡眠の測定には手首型の活動量計を使用しており、脳波による詳細な睡眠構造(浅い眠り、深い眠り、レム睡眠など)の分析は行っていません。

つまり、「睡眠時間や効率は変わらない」とされても、実際には深い眠りが増えていた可能性を完全には否定できません。

また、筋損傷や炎症の血液マーカーは、採血タイミングが限られていたため、変化のピークを捉えきれなかった可能性があります。

さらに、参加者はすべて健康で日常的に鍛えている若い男性であり、女性や高齢者、運動習慣のない人に同じ効果が出るかは不明です。

これらの点を踏まえると、「メラトニンが運動翌日のパフォーマンスや回復にプラスの影響を与える可能性がある」という今回の結果は、今後より多様な条件での検証が求められます。


🌙 夜を整えて、翌日を変える

今回の研究は、「夜の休息」が翌日のパフォーマンスや回復感に直結する可能性を、現代医学と中医学の両方から裏付けるものでした。

メラトニンは、単に眠りを誘うだけでなく、体内の回復プロセスやバランスに影響し、翌日の動きや疲れ方を変える力を持っている可能性があります。

中医学では、夜は「養陰」の時間とされ、翌日の「陽」を支える大切な準備期間と考えます。

現代の研究でも、その考え方と響き合う結果が示されました。

もちろん、今回の対象は限られており、誰にでも同じ効果があると断定することはできません。しかし、「夜をどう過ごすか」という日々の選択が、次の日の軽さや集中力を左右するというメッセージは、多くの人に共通するものです。

夜の照明や生活リズムを整え、十分な休息を取ること。

それは特別な薬やサプリに頼らなくてもできる、最もシンプルで効果的な養生法です。

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