長く胚を凍結しておくと妊娠率が低下する?

タナココ

胚凍結は「時間を止める」技術ですが、どの程度止めていられるかは結論は出ていません。

長く卵を凍結しておくと、妊娠率が低下するかどうかを調べた研究があります。

The effect of storage time after vitrification on pregnancy and neonatal outcomes among 24 698 patients following the first embryo transfer cycles

2011年1月〜2017年12月までの間、24,698人の患者を対象にした後ろ向きの研究です。

その結果が以下になります。

凍結期間3ヶ月未満12-24ヶ月未満
着床率39.84%25.88%
臨床妊娠率55.60%28.80%

着床率、hCG陽性率、臨床妊娠率、多胎妊娠率、出生率、多胎生児出生率のいずれも、保存期間が長いグループほど低下しました。流産率と子宮外妊娠率は保存期間が長くなるにつれて増加しましたが、流産率にのみ優位差が出ました。また、生まれた児に関する調査において有意差は見られませんでした。

生殖医療が始まった頃より、卵巣刺激や胚培養の技術は格段に向上しています。移植では凍結融解胚移植が増えていますが、近年、胚凍結後の長期保存の安全性についての報告が見られます。

マウスによる動物実験では、凍結期間が長くなるほどマウスの胚の生存率が低下し、染色体異常が増加するという報告がある一方で、他の動物実験では、凍結胚の保存期間は、胚の生存率、妊娠率、出生率に影響はなかったという報告があります。

ヒトと他の動物には解剖学的、生理学的な大きな違いを考慮すると、動物実験で得られた結果をヒトにそのまま適応することはできませんが、凍結は胚へのダメージは少なからずあるのは事実で、その要因は主に細胞内外の氷晶形成によるものと凍結保護剤による細胞毒性が考えられています。

これまでの報告では、凍結保存期間が長くなると胚の生存率と妊娠率が低下するとする報告、生存率、妊娠率などには影響しないする報告、さまざまあり現時点では結論は出ていません。

理論上は胚凍結期間に限度はなく、移植を受ける女性の側が「生殖可能年齢」にあるかどうかで判断されます。

これまでどのくらい長期保存した胚から生まれた例があるかといいますと、2022年に 30年前 の1992年に凍結保存された胚から双子の赤ちゃんが誕生という報告があります

それまでは27年間凍結保存されていた胚、その前のは24年間凍結保存されていた胚により生まれています。

今回の報告は数ヶ月から1、2年の間に治療成績が変わるというもので、非常に驚いた報告ですが、胚の凍結保存期間が長いほど移植成績(移植してから生まれるまで)が低下する可能性を示しています。

この報告には注意点があります

① 1つの施設で行われた研究であること
複数の施設で行われた研究ではありませんので、この施設特有の「手技」の問題や「環境」の問題が隠れている可能性があります。複数の施設で手技や環境が変わっても同じかどうかはこの研究だけでは分かりません。

② 後ろ向き研究であること
「後ろ向き研究」とは現在から過去にさかのぼっておこなう研究のことをいいます。すでにあるデータを解析するため、自分に都合の良いデータを選択することができるため、「思い込み」が発生しやすく、また事前に問題を調整することもできません。そのため事前に条件を設定し、これから発生する出来事を観測していく「前向き研究」と呼ばれる方法に比べて「精度」が低くなる傾向にあります。

治療成績の悪化が本当に「凍結期間」によるものなのかどうか、今後は複数施設による、前向き研究などで解明していく必要があります。

生殖補助医療による治療を受けられている方から「どのくらい凍結していられるのですか?」「凍結しても卵は大丈夫なのですか?」と聞かれることがありす。

実際に数十年凍結保存されていた胚から生まれている事実があるので、長期間の凍結保存で致命的な問題が生じている可能性は低いと思いますが、今後の研究報告を待つ必要があると思います。

胚凍結によるダメージは避けられませんが、最小限にするための工夫や改良、技術の向上は日々行われています。大切なのは、そのダメージに耐えうる卵をどのように育てるかです

卵へのダメージを極力少なくして育てるためには漢方によるサポートが役立ちます。漢方を併用することで、胚盤胞到達率、凍結融解胚移植の成功率を高めるお手伝いをすることができます。

ぜひご相談ください。

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