📖 小さな変化が起こす奇跡
ブラジル北部の、貧困世帯の多い地域にある公的な保育園で、ある年の春から小さな変化が起こりました。
教室の隅に小さな本棚が置かれ、子どもたちはそこから選んだ絵本を家に持ち帰るようになりました。
保護者は月に一度、保育園に集まり、読み聞かせのコツや、子どもとの関わり方について、スタッフやほかの親と話し合う時間を持つようになりました。
もともとこの保育園では、ことばや社会性の発達を意識した教育的な保育が行われていましたが、さらに「家庭での読み聞かせ」をサポートする仕組みが加わり、保育園と家庭に絵本が行き来するようになりました。
研究者たちは、この小さな変化を、「良い取り組み」としてだけでは終わらせませんでした。
保育園ごとにグループを分け、どちらには読み聞かせプログラムを導入し、どちらには従来の保育だけを続けるかを無作為に決めて、子どもたちと親の変化を追いかけたのです。
中医学の視点から見ると、幼い子どもの時期は「心」を落ち着かせ、「脾」が担う思考や学びの土台を育てていく大切な時間とされます。親の声で物語を聞く体験は、その両方にやさしく働きかける営みです。
このブラジルの保育園で生まれた読み聞かせの時間が、子どもの発達にどのような形で影響していったのか──研究の輪郭をたどっていくと、日々の「一冊の本」が、この子どもたちにもたらしていた変化が浮かび上がってきます。
🏫 どんな研究?
この研究が行われたのは、ブラジル北部の都市「ボア・ヴィスタ」です。
人口は約28万人で、貧困世帯が多い地域とされています。対象になったのは、「カザス・マエ」という無料の教育的チャイルドケア施設に通う2〜4歳の子どもたちです。
ここは低所得家庭の子どもを対象とした保育施設で、もともと言葉や初期の読み書き、社会性の発達を意識したカリキュラムが組まれていました。
研究では、22施設が参加し、学年の始まりに566組の親子が評価を受け、約9か月後の学年末には、そのうち464組がもう一度評価を受けました。
そして保育園ごとに「読み聞かせプログラムを行うグループ」と「いつもの保育だけを続けるグループ」に無作為に分けられてました。
読み聞かせプログラムを行った保育園では、次の二つが追加されました。
- 保育園に小さな本のコーナーをつくり、子どもが絵本を家に持ち帰れるようにしたこと
- 月に1回、保護者が集まって、読み聞かせのコツや子どもとの関わり方を学ぶ会を開いたこと
保護者はその会で、家でやってみた感想を話したり、子どもの反応で困ったことを相談したり、子どもと読み聞かせをしている様子をスタッフに見てもらったりしました。
ひとつの市の公立保育園ネットワークが丸ごと参加した研究のためか、途中離脱も多くはありませんでした。
ちょっと興味深い研究になっています。
📊 どんな結果?
このような形で1学年間を過ごしてもらったあとで、二つのグループを比べると、親の「子どもへの関わり方」と、子どもの「ことば・考える力」に違いが見られました。
まず親のほうでは、家で子どもに話しかけたり、本を読んだり、一緒に遊ぶ時間が増えていました。質問票や観察で見たとき、「学びにつながる関わり」が、いつもの保育だけのグループよりも多いと評価されています。
読み聞かせの場面を実際に見た評価では、子どもの表情や反応をよく見てページを進めたり、子どものひと言に返事をしたりと、やりとりの質が全体として一段階深まっている様子が確認されています。
読み聞かせが「一方的に本を読み聞かせる時間」から、「一緒に本で遊ぶ時間」に近づいているイメージです。
子どもの側では、
・絵と言葉を結びつける「ことばの理解」
・パズルなどを通して測る「考える力」
・短いあいだ情報を覚えておく「ワーキングメモリ」
といったテストで、読み聞かせプログラムのグループのほうが、平均すると少し高い結果になっていました。
IQでも、読み聞かせプログラムを受けた子どもたちの平均は、そうでないグループより少し高い結果でした。これは一人ひとりが大きく変わったというよりは、「クラス全体の平均が上がった」ような感じです。
大事な点は、このような違いが、「本を持ち帰れること」と「月1回の親向けの集まり」という、比較的取り入れやすい工夫と一緒に生まれていたことです。特別な環境でなくても、こうした取り組みが子どもの力を支える一つの形になりうる、という可能性が示されています。
一方で、気持ちの安定さや落ち着き、攻撃的な行動などについては、この研究の時点では大きな違いは見られていません。
ただ、ことばや考える力の変化が、もう少し長い時間をかけて、行動や感情にも影響していく可能性は残されています。
🌿 中医学の視点でみる「読み聞かせ」
中医学では、成長期の子どもは「心」「脾」「腎」のバランスが育っていく途中にあると考えます。
「心」は、安心感や落ち着き。
「脾」は、考える力や集中力など、学びの土台。
「腎」は、成長そのものや体力のベース。
読み聞かせの時間は、まず「心」を落ち着かせる働きがあると考えられます。親の声を聞きながら、同じ本を一緒に読むことで、「ここは安心していられる」という感覚が育ちます。この安心感があると、子どもは外から入ってくる情報を受け取りやすくなります。
その上で、物語の流れを追ったり、絵の意味を考えたりする経験は、「脾」の働きとも重なります。話の流れを追うことや、登場人物の行動を理解しようとすることは、考える力を養う練習になっていきます。今回の研究で、ことばの理解や考える力、ワーキングメモリに違いが見られたのは、こうした積み重ねと関係している可能性があります。
生活にストレスが多いと、「心」が落ち着きにくくなり、「脾」も働きにくくなります。読み聞かせのような関わりがあると、親子で過ごす時間に一定のリズムが生まれます。中医学の言葉でいえば、気の流れが整いやすい状態をつくる一つのきっかけになると考えられます。
もちろん、読み聞かせだけですべてが解決するわけではありません。
ただ、「本を一緒に読む」という関わりを続けることは、中医学の考えから見ても、成長期の子どもを支える養生の一つとして意味がある行動ととらえることができます。
今回の研究は、そのような養生的な関わりが、ことばや考える力の違いとして確認された例の一つと見ることができます。
📕 一冊の本からはじまる子どもの物語
この研究では保育園と家庭をつなぐ小さな工夫によって、子どもの発達に違いが生まれていた点が印象的です。
読み聞かせは、特別な道具や長時間のトレーニングを必要としない方法です。家に本がない家庭でも、「園から本を持ち帰れる」「親が読み方のヒントをもらえる」といった少しの後押しがあれば、親子の時間の質を整えていくことができます。
中医学の視点で見ても、「本を一緒に読む時間」は、子どもの心を落ち着かせ、考える土台を育てる養生の一つとして意味を持つ関わりです。今回の研究は、そうした関わりが、ことばや考える力といった具体的な指標の差としても確認された例の一つと言えます。
読み聞かせは、特別な資格や高価な教材がなくても始められます。忙しい日々の中で、毎日でなくても、週に何度か、本を一冊いっしょに読む時間を持つこと。それだけでも、子どもの成長を支える「一歩」として十分意味がある、とこの研究は伝えています。完璧を目指す必要はなく、「できる範囲で続けること」が、親と子どもの両方にとって、じわじわと力になっていきます。
読み聞かせは、日々の暮らしの中で親子が選びやすく、続けやすい「未来への投資」として位置づけられる方法と言えそうです。
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