菌と書いて「きのこ」と読む、その「力」

久山町研究が示した、脳と記憶を守る「エルゴチオネイン」の可能性

目次

㊙️ 記憶をめぐる小さな秘密

年齢を重ねると、ふとした物忘れにドキリとすることがあります。

そんな変化の背景には、実は日々の食卓や体に取り込む栄養素が深く関わっていることが、近年の研究で少しずつ明らかになってきました。

福岡県の久山町で長く続けられている住民調査でも、ある成分が注目を集めています。

それは自然界には存在するのに、人の体ではつくり出せない特別な物質。そして古くから「滋養の源」として重んじられてきた食材に多く含まれているのです。

研究者たちは、この成分が血液の中にどれほどあるのかを測り、十年以上にわたり、人々の暮らしと記憶の移り変わりを丁寧に追い続けました。

西洋医学の言葉で語れば「酸化や炎症から細胞を守る力」。一方、中医学の視点からは「腎精を養い、髄海を満たす」働きに重なります。古くから「気・血・精」の調和が脳を支えるとされてきたことを思うと、そこにはどこか神秘的な響きが漂います。

──この自然由来の成分と「心や記憶を支える力」のあいだに、どんな秘密が隠されているのでしょうか。

では、続きをみていきましょう。


🧩 なぜこの研究が必要だったの?

世界中で高齢化が進み、認知症は「誰もが向き合う課題」となりつつあります。これまでの研究から、運動不足や生活習慣病がリスク要因になることはわかってきましたが、それだけでは説明しきれない部分が残っていました。

そこで注目されたのが「食べ物の力」です。日々の食事に含まれる成分が、長い時間をかけて脳の健康に影響を与えるのではないか──そんな視点から研究が進められてきました。

とりわけ関心を集めてきたのが「エルゴチオネイン」という物質です。きのこに豊富に含まれ、自然界には存在する一方で人の体では作ることができません。抗酸化作用や炎症を抑える働きが注目されてきました。

過去の研究では、エルゴチオネインをよく摂っている人ほど物忘れが少ないことや、血液中の量が少ない人で記憶力の衰えが早い傾向が報告されていました。ただし、これらは横断的な調査や小規模な研究が中心であり、地域の住民を長期間にわたって追いかけた本格的な研究はほとんどありませんでした。

そこで久山町研究は、血液中のエルゴチオネイン濃度と認知症の発症リスクを長期的に追跡し、「本当に関係があるのか」を確かめる挑戦に踏み出したのです。


📊 どうやって調べたの?

今回の調査は、福岡県の久山町で長年続いている有名な住民健康調査「久山町研究」の一部として行われました。舞台は、のどかな町に暮らす65歳以上の人たち。2012~2013年の時点で認知症のない1344人が参加しました。

研究チームは、この人たちをなんと11年以上にわたり追跡。年に一度の健診に加え、必要に応じて詳しい認知機能検査や脳の画像検査、場合によっては解剖による確認まで行い、誰が認知症を発症するのかを丹念に調べました。

そして注目の「エルゴチオネイン」。参加者の血液を採取し、最新の分析機器で正確に濃度を測定しました。そのうえで、血中濃度の低い人から高い人までを4つのグループに分け、グループごとにどのくらい認知症を発症したのかを比較したのです。

つまり今回の研究は、「ある成分を多く持っている人と少ない人で、未来の記憶の運命がどう違うのか」を、町ぐるみで長い時間をかけて検証した大規模な挑戦だったのです。


📉 どんな違いが見えたの?

久山町で暮らす人々を11年以上にわたって見守った結果、1344人のうち273人が認知症を発症しました。アルツハイマー型が201人、その他のタイプが72人です。

この数字は地域の高齢者一人ひとりの人生を丁寧に積み重ねた先に得られた大切な記録です。

その中で浮かび上がったのが、「エルゴチオネイン」の存在でした。

血液中の濃度が最も低い人たちと比べて、最も高い人たちは認知症になるリスクが約4割も低いという結果が出たのです。

さらにこの傾向はアルツハイマー型に限らず、その他のタイプの認知症でも見られました。そして食事や運動習慣、血圧や糖尿病といった健康状態を考慮しても、結果は大きく変わりませんでした。

つまり、この研究が示したのは「血液中にエルゴチオネインが多い人は、少ない人に比べて認知症になりにくい」というわかりやすく前向きな結果だったのです。


🧪 なぜエルゴチオネイン?

研究チームが注目したのは、エルゴチオネインの持つ「抗酸化作用」と「抗炎症作用」でした。

私たちの体は年齢を重ねるにつれて少しずつ「酸化」し、細胞がサビつくように傷ついていきます。また、慢性的な炎症も神経細胞に負担をかけ、記憶や思考の衰えにつながることが知られています。

エルゴチオネインは、この酸化や炎症から細胞を守る「盾」のような役割を果たします。動物実験では、アルツハイマー病の原因とされる「アミロイドβ」という物質の蓄積を抑えたり、脳の血管を守ったりする効果が報告されています。つまり、脳の老化をゆるやかにし、神経細胞の健康を支えている可能性があるのです。

さらに今回の解析では、軽度認知障害(MCI)を持つ人でも、血液中のエルゴチオネインが多い人ほど認知症に進みにくい傾向が示されました。

これは「発症を防ぐだけでなく、進行を遅らせる可能性」まで示唆しており、予防と早期対応の両方に役立つ手がかりになります。


🌿 「腎」と「精」を養う食材としての「きのこ」

中医学では、脳は「髄海(ずいかい)」と呼ばれています。

ここには「腎」に蓄えられたエネルギーの源である「腎精(じんせい)」から生まれた「髄(ずい)」が満ちていると考えられています。「腎精」がしっかりしていれば「髄」が豊かになり、その「髄」が集まる場所である「髄海」、つまり「脳」も健やかに保たれるのです。

年を重ねると「腎精」が少しずつ減っていき、それに伴って「髄」も不足し、「脳」の働きに影響が出る──こうして記憶力や考える力が衰えると中医学では説明されてきました。

そんな中医学の文脈で見ると、「きのこ」は「益気養精(えっきようせい)」、つまり「気」を補い「精」を養う食材とされています。

今回の研究で注目された「エルゴチオネイン」は、まさにその「きのこ」に多く含まれる成分。

西洋医学が「酸化や炎症から細胞を守る力」と説明する一方で、中医学の言葉に置き換えると「腎精を養い、髄海を満たす」働きを助ける可能性があるとも考えられます。

現代科学と伝統医学が、異なる言葉で同じ真実を語っている──そんな重なりを感じさせるのも、この研究の面白さといえるでしょう。


🔍 研究の限界と今後の展望

今回の研究は、町ぐるみで10年以上にわたり人々を追跡した、世界的にも貴重な取り組みです。

もちろん改善の余地はあります。血液中のエルゴチオネインは一度だけの測定で、その後の変化までは追えていませんし、対象も久山町に限られていました。

けれども、これらはむしろ次の研究へとつながる「出発点」です。今後、他の地域での追跡研究や、実際に食事やサプリメントを取り入れて効果を検証する介入試験が行われれば、エルゴチオネインの可能性をさらに確かめることができ、日常の暮らしに役立つ具体的な方法が見えてくるはずです。

久山町研究が示したのは、栄養が脳の健康を支える可能性を実証する「第一歩」。

これからの研究が積み重なれば、「食を通じて脳の健康を守る」という未来像が、より現実味を帯びてくるでしょう。


✨ 未来の記憶を守るヒント

久山町研究が示したのは、「エルゴチオネイン」という「きのこ」に含まれる成分が私たちの脳の健康を支える大切な鍵になるかもしれないという新しい可能性でした。

もちろん、認知症はひとつの要因だけで決まるわけではありません。それでも、日々の食卓に少し工夫を加えるだけで、脳を守る力を高められるかもしれない──そんな希望を与えてくれる結果でした。

西洋医学が示すデータと、中医学が語る「腎精を養い、髄海を満たす」という知恵が響き合うことで、私たちは「科学」と「伝統」の両面からヒントを得ることができます。

未来の健康は、今日の一皿から。

食べることが記憶を守り、心を支える力になる。そのことを、久山町からの発見が教えてくれました。

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