🌳 都市の緑が、人の命に関わるとしたら
朝、窓を開けても見えるのは隣のビルの壁。
通勤中に目にするのは、アスファルトの道路と電線ばかり。都市で暮らしていると、自然の存在を意識する場面はあまり多くありません。けれど、ふと立ち寄った公園や、街角の木陰に安らぎを感じることがあります。
中医学では、「人は自然の気を受けて生きている」と考えられています。特に「木」は、成長や流れ、感情の調和といった働きと深く結びついています。日常で感じる自然の安心感は、こうした身体のバランスと関係があるのかもしれません。
研究が導き出したのは、自然の中で感じる「心地よさ」を、数字として捉えた結果でした。
その内容を順を追って、わかりやすく読み解いていきます。
では、続きを見ていきましょう🌲🌲🌲
🔍 どんな方法で調べたの?
研究チームは、過去に発表された数多くの疫学研究の中から、「家の周囲の緑の多さ」と「死亡率」との関係を調べたものを集めました。
使われたのは「コホート研究」と呼ばれるタイプの調査で、これは何年にもわたって人々の健康状態を追い続ける方法です。
分析に含まれたのは、オーストラリア、カナダ、イタリアなど、7か国で行われた9つの研究。参加者は合わせて800万人以上にのぼり、追跡期間も数年から20年以上と長期間にわたっています。
「緑の多さ」は、衛星画像をもとに計算された「NDVI(正規化植生指数)」という指標で表されました。
これは、数値が高いほど緑が多い場所を意味します。研究ごとに地域や環境の違いはありますが、いずれも共通して「家の近くに緑がある人」と「そうでない人」との健康状態を比べる形で分析が行われました。
🪴 緑の多さと、健康のつながり
研究の結果、住まいの近くに緑が多い地域では、そうでない地域に比べて、死亡率が低い傾向にあることがわかりました。これは単なる偶然ではなく、多くの研究で同じようなパターンが繰り返し見られた点が重要です。
分析の中心になったのは、家から半径500メートル以内にある緑の量。
この範囲に緑が多い人たちは、そうでない人たちに比べて、健康状態に差があるという傾向が確認されました。
大きな差ではありませんが、地域ごとにさまざまな条件を加味しても、この関連は一貫して見られました。
もちろん、「緑があるから長生きできる」とまではいえませんが、生活環境の中にある自然が、健康のあり方と関係している可能性を示す結果といえます。
🧠 緑が体にいい「理由」、科学はどう見ている?
家のまわりに緑があると、心や体が安らぐ──そう感じている人も多いと思います。
実際、医学や環境保健の分野では、緑地が健康にもたらす作用について、さまざまな仮説が示されています。
ひとつは、緑の多い環境では、運動がしやすくなること。公園や歩道のある通りがあれば、自然と体を動かす機会が増えます。また、木々や草花のある風景は、視覚的にもリラックス効果があることが知られており、ストレスの軽減や睡眠の質の向上にもつながるとされています。
さらに、緑地には大気中の汚染物質や騒音を和らげる作用もあるため、呼吸器系の負担が減る可能性があります。気温の上昇を抑える効果もあり、都市の「ヒートアイランド現象」を緩和する働きも注目されています。
こうした複数の要素が組み合わさることで、緑の多い生活環境が、少しずつ健康に良い方向へ働く可能性があると考えられているのです。
🌱 中医学では「木」は「肝」
中医学の理論では、自然界に存在するすべてのものは「五行(ごぎょう)」という5つの要素に分類されます。その中で「緑」は「木(もく)」にあたり、成長や巡り、調和といった動きの象徴とされています。
この「木」は、体の中では「肝(かん)」と深くつながっています。ここでいう「肝」は、単に肝臓という臓器を指すのではなく、気や血の流れを調整し、感情のバランスを整える働きを持つとされる、もっと広い意味を持つ概念です。今の言葉で言えば、自律神経やホルモンのバランス、あるいはメンタルケアに関わるしくみに近いものと考えられます。
中医学では、こうした「肝」のはたらきがスムーズであることが、健康の土台になるとされています。都市の暮らしでは、ストレスや忙しさでこの流れが滞りやすくなりますが、自然の中に身を置くことは、そのバランスを整える助けになる──そんな見方があるのです。
この考え方は、前段で触れた「運動」「ストレス軽減」「環境の快適さ」といった西洋医学的な効果とも、重なる部分があります。
💡 緑を増やすことは、未来への小さな投資
日々の暮らしの中で、私たちは便利さと引き換えに自然との距離を少しずつ広げてきたのかもしれません。
でも、今回の研究は、「緑」が、健康に良い変化をもたらす可能性を教えてくれました。
街にある木々、歩道の花壇、公園の草地──そうした身近な緑が、私たちの体と心にとって、ただの「風景」ではなく、「環境」として私たちの心と体を整えてるを持っているのかもしれません。
しかも、緑を増やすことは、誰にとっても実現可能なアクションです。都市計画の一部としても、個人の暮らしの中でも、少し意識を変えるだけで取り入れられます。
科学と中医学、東西の知が示す共通のメッセージは、「自然とともにあることの大切さ」。それは決して大げさな話ではなく、これからの健康や暮らしを考えるうえで、誰もが取り入れられるヒントかもしれません。
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