こんにちは、相模原タナココ漢方薬局・鍼灸接骨院です。
抜毛症(トリコチロマニア)と呼ばれる疾患があります。
抜毛症(トリコチロマニア)とは
抜毛症(トリコチロマニア)では、体毛(髪の毛、まゆ毛、まつ毛、ヒゲ、手足の毛、陰毛etc. )を抜いてしまい、生活に支障が出てしまう症状がみられます。
思春期前後に発症するのが典型的で、発症率は1~2%、9 割が女性と言われていますが、最近では成人男性でもみられることが増えています。時に抜いた毛を無意識に飲み込んでしまい、食物の通過障害を起こすこともあります。
精神疾患を分類する「DSM-5」では「強迫症および関連症(Obsessive-Compulsive and Related Disorder : OCRD)に分類されています。
【強迫症 / 強迫性障害(きょうはくしょう / きょうはくせいしょうがい / Obsessive Compulsive Disorder:OCD)】
強迫症では、きわめて強い不安感や不快感(強迫観念)が生じるため、それを打ち消すための行為(強迫行為)を繰り返します。
「強迫観念」と「強迫行為」が存在すると「強迫症」と診断されます。
「強迫観念」は、きわめて強い「不安感」や「恐怖感」のことを言います。例えば「手が不潔に思えてしかたがない」「鍵をかけていないのではないかと気になる」「ガスコンロの火を消していなのではないかと気になる」などです
「強迫行為」は、上記の「強迫観念」を打ち消すために繰り返し行う「行為」のことを言います。
「手が不潔に思えてしかたがない」という思いを打ち消すために「日に何十回・何百回も手を洗う」、「外出しても何度も自宅に戻って鍵がかかっているかどうかを確認をする」などです。
「強迫観念」と「強迫行為」によって日常生活に支障が出てくるようになると「強迫症」になります。
例えば日常生活において「あれ、鍵かけたかな?」と思うことはありますが、「強迫症」の場合は、鍵がかかっているかどうかがどうしても気になり、家に戻って何十回、何百回とドアノブをガチャガチャして確認します。そしてしばらくするとついさっき確認したにも関わらず、鍵がかかっているか不安になり、再び家に戻り、また何十回、何百回と鍵がかかっているかどうか確認します。そしてその行為にどんどん時間が取られ「仕事に行けなかった」ということが起こります。
また「強迫症」の特徴として、これらの行動が「不合理」だという自覚があります。あれだけ確認したから鍵はかかっていて大丈夫なはずだと思う自分と、一方でどうしてもそれ自体が信じられていない自分もいます。その不合理さを感じているのにも関わらず、行為を止めることができません。
また「自分はおかしい」「周囲から変だと思われてしまう」という恐怖や不安などから、うつ状態になったり、外出できなくなったり、人付き合いが希薄になったりすることで、行動範囲が非常にせまくなったり、周囲を巻き込んでしまうこともあります。仕事や学校などの社会生活だけでなく、友人・知人や家族などの日常生活にも影響が出てしまうことがあります。
治療には、抗不安薬や抗うつ薬を用いた「薬物療法」や認知行動療法などの「心理療法」が有効とされています。
この「強迫症および関連症」のグループには以下のようなものが含まれます。
・強迫症/強迫性障害
・醜形恐怖症/身体醜形障害
・ためこみ症
・抜毛症
・皮膚むしり症 など
皮膚や毛髪・爪など身体を対象とした「反復行為」の総称を「身体集中反復行動(BFRBs)」といいます。
抜毛、爪・唇・頬を噛む、ささくれを過剰にめくるなどの行動です。
「抜毛行為」は「強迫観念」によって起こるものではないので「強迫性(強迫性障害)」とはその点で異なります。
「抜毛症」では「抜毛行為」をしたくなってその行為の繰り返しに「はまって抜け出せなくなる」ような感じです。「不安」や「倦怠感」が先行したり、伴うこともあります。
また「抜毛行為」の直前や、「抜毛行為」に抵抗しているときに「緊張感」があり、「抜毛行為」の最中や直後にいくらかの「満足感」や「快感」、ある種の「安心」を感じます。それはアルコールなどの依存症ほどではありませんが、その反復行為に「はまる」要因になります。また、行為が落ち着くと「後悔」することもあり、その点では「強迫性(強迫性障害)」に似ています。
抜毛症の診断基準
抜毛症は、まず「繰り返し髪など体毛を抜き、その結果、体毛が失われている」ことが認められ、そして「体毛を抜く or 減らすことをやめられずに続け」ます。その結果「苦痛を感じたり、社会生活への影響が見られる」ことが診断の基準になります。
抜毛症のタイプ
抜毛のタイプには「自覚型」と「無自覚型」の2種類あります。
「自覚型」の場合は、「緊張」や「不安」を解消するために「感覚」を求めて「抜毛行為」を行います。しかし次第にその効果が薄まると、「抜毛行為」がエスカレートしたり、無意識に行為を行うようになることもあります。
「無意識型」では、よくないとはわかっていても、気がつくと「無意識」にしてしまいます。
抜毛症の原因
抜毛症の原因ははっきりとわかっていませんが、多くはストレスと関係があると考えられ、きっかけや状況、環境は一人ひとり異なります。
学校生活、社会生活、人間関係などで「不安」や「ストレス」が長く続く場合などにみられやすい傾向がありますが、一方でそのようなことがない人にも起こることもあります。
「自傷行為」とは異なり「不安」や「ストレス」をコントロールするための無意識的な行動とではないかと考えられています。
子どもの場合はストレスがあっても「言語化」や「概念化」ができずに「抜毛行為」につながっている場合があります。まず周囲の環境を理解することが重要で「やめて!」と強く指摘や注意をすることでさらにストレスを高めて悪化することもあるため対応には注意が必要です。
また「抜毛行為」はやめられないことに罪悪感を感じたり、脱毛部を隠すことも多いため、治療にたどりつくまでに何年もかかることがあります。その場合、長期的なケアが必要になります。
「抜毛症」が「抜毛行為」に注意が向きがちですが、その背景に何らかの問題やストレスを抱えていて解決できないでいたり、何らかの特性で苦手部分があったり、生きづらさを感じていたり、あるいは精神疾患を持っていたりしますので、全体の把握が重要です。
抜毛症の治療
抜毛症の治療はそれ自体の研究が十分ではないため、確立された治療法はありません。
現在行われているのは「薬物治療」と「認知行動療法」です。
「認知行動療法」では自分では気づきにくい、気づいていない物事の捉え方=「認知」を知ることで、問題となっている行動の方向修正を軽減する「心理療法」です。
特に「抜毛症」の治療の場合、「認知」よりも「行動」に働きかける「行動療法」が中心となります。
以下のようなものがあります。
「気づき」の訓練
まずは「抜毛」という「行為」をしていることに気づけるようします。そのためには「抜毛行為」の記録をとるようにします。手帳かメモ帳などを身近に置き、「抜毛行為」をしようとした時に「日時」「状況」「その時の感情」などを記録します。
この「気づき」の訓練では、最初の動作にすばやく「気づく」ことです。「抜毛行為」が長く続いていると、無意識に行なってしまっていることも多いため、「記録」して気づくことが重要です。「記録」するだけでも回数が減ることがあります。
また記録することで「成果」が見えるので継続のモチベーション維持にも役立ちます。また他の訓練をする上でも必要になる訓練です。
「抜毛行為」をコントロールする「拮抗反応」の訓練
「拮抗反応」とは「抜毛行為」をしたいという気持ちが強くなり行為をしそうになったときに、行為を妨げる行動をとるようにすることです。例えば、物を両手で持つ、ももを掴む、服や体・手をぎゅっと握るなど「抜毛行為」を不可能にさせる行動をとります。約2分継続することが望ましいとされています。
「拮抗反応」が正しく行えるようになれば、体が「抜毛行為」へのクセ(無意識に体が動いてしまうこと)を忘れて、行為が減っていきます。
「リラックス」状態を作る
「抜毛行為」は「ストレス」を感じてイライラしているとき起きやすく、行為をコントロールするためにも「リラックス」することは大切です。一人ひとりリラックス法は異なると思いますが、その中でも
・筋弛緩法
・腹式呼吸
が効果的とされています。
<漸進的筋弛緩法>
エドモンド・ジェイコブソンが開発した方法で、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより身体のリラックスを導く方法で、「漸進的筋弛緩法」と呼ばれる。筋肉の完全な弛緩を誘導するために、各部位の筋肉を数秒間緊張させた後に弛緩することを繰り返していく。ここでは、その簡便法を紹介する。
○ 基本動作
各部位の筋肉に対し、10秒間力を入れ緊張させ、15~20秒間脱力・弛緩する。
○ 身体の主要な筋肉に対し、この基本動作を順番に繰り返し行っていく。各部位の筋肉が弛緩してくるので、弛緩した状態を体感・体得していく。
1.両手/ 両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込む。10秒間力を入れ緊張させる。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩する。筋肉が弛緩した状態を感じるよう教示する。
2.上腕/ 握った握り拳を肩に近づけ、曲った上腕全体に力を入れ10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩する。
※ 以下、緊張させる部位について記述する。10秒間緊張後、15~20秒間脱力・弛緩する要領は同様である。
3.背中/ 2と同じ要領で曲げた上腕を外に広げ、肩甲骨を引き付ける。
4.肩/ 両肩を上げ、首をすぼめるように肩に力を入れる。
5.首/ 右側に首をひねる。左側も同様に行う。
6.顔/ 口をすぼめ、顔全体を顔の中心に集めるように力を入れる。
筋肉が弛緩した状態イコール口がぽかんとした状態
7.腹部/ 腹部に手をあて、その手を押し返すように力を入れる。
8.足/ a:爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉を緊張させる。
b:足を伸ばし、爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉を緊張させる。
9.全身/ 1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させる。
力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩する。
<呼吸法>
ストレス・緊張状態では、呼吸は浅くて速い呼吸になる。その反対に、リラックス状態では、深くてゆったりとした呼吸になる。緊張しているときに、深くてゆったりした呼吸をすると、気持ちが落ち着く。このように、体の状態と呼吸には密接な関係がある。普段、私達は、無意識に呼吸を行っているが、意識して呼吸をコントロールすることもできる。東洋では、古来から、ヨガや気功、各種武道で、この呼吸法が心身の活動を高める効果があるものとして重要視されてきた。特に腹式呼吸は、副交感神経系の活動を賦活させる効果があることが医学的にも確認されている。
腹式呼吸法は、下腹部が膨らんだり、へこんだりするように呼吸する方法である。(臍の下に手をあて)体の力を抜いたまま、口からゆっくりと息を長く吐いていく。このとき下腹部をへこます感じで息を吐いていき、苦しくならないところで、下腹部を膨らませる気持ちで、鼻から息を自然に吸っていく。これを繰り返していくのが腹式呼吸である。
吐く息に気持ちを落ち着ける効果があるので、吐く息に注意を向けて、ゆっくりと息を吐いていく。この時に、体の緊張も息とともに吐き出すようにイメージしながら脱力すると、リラックス効果が高まる。5~10分程度行う。
(文部科学省のHPより引用)
リラックス状態を作る場合、「拮抗反応」と両立できるものである必要があります。行為を我慢して他の行動でコントロールしようとすることはそれ自体がストレスになるため、我慢をしつつ行えるようにします、例えば、「服をギュッと握る」という「拮抗反応」を行いながら、「腹式呼吸」でリラックスできるようにします。
このほか「周囲のサポート」も重要となります。
特に、子どもの場合、治療を進める過程において否定的な態度は取らずに、気づきの訓練、拮抗反応、リラックスしようとしていることに気づいたら、励ましたり応援することは重要です。
これらを数週間続けて「抜毛行為」が別の行動に置き換わることを目指していきます。
上記の方法以外には「薬物療法」が行われることもあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を行動療法に併用したり、抗精神病薬のオランザピン、グルタミン酸モジュレーターN-アセチルシステイン(NAC)などが研究されています。
抜毛症の漢方治療
漢方では、ストレスをコントロールする臓腑である「肝(かん)」の調整を中心に行います。肝は五臓のひとつで、自律神経系や情緒の安定と深い関係があります。
ストレスが続くと「肝(かん)」の働きが低下し「気」の流れに影響を及ぼします。さらにその影響は「血」の流れにも及びます。「血」に影響があると、抜けた毛の回復も遅れます。
また中医学では「肝」と「腎」は密接につながっており、「肝腎同源(かんじんどうげん)」といい、「肝」の機能の低下が、「腎」の機能低下につながることもあるため「腎」への配慮も行います。
特に子どもの場合、成長・発育を主る「腎」の働きを支えることは重要になります。
このように「抜毛症」は中医学的には「肝」の働きの低下が関係していると考えますが、ストレスが原因であればどのようなストレスを抱えているのかを考えることが重要です。
単に漢方を飲めば解決するものではなく、ストレスがどのような影響を与えているのかを「心理学」的なアプローチにより解きほぐしていくことが必要となります。
子どもではストレスの「言語化」や感情がうまく表現できないことにより、その表現として「抜毛行為」になる可能性も指摘されています。
ストレスによる身体の不調などは漢方で「肝」をケアし機能を回復させ、抜毛後の発毛を促すために「血」や「腎」を補いながら、あわせて心理学的アプローチを行うことで「抜毛症」の治療は効果的になると考えます。
有効な治療法がない「抜毛症」ですが、漢方治療と心理学的サポートを合わせることで回復の道筋を作っていくことができます。今まで色々試したがうまくいかなかったという方は「漢方+心理学的サポート」を合わせた方法を試してみてください。
回復まで時間がかかることも多いですが、しっかりとお手伝いいたします。
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