小柴胡湯と少陽病

こんにちは、相模原タナココ漢方薬局・鍼灸接骨院です。

 

傷寒論》という3世紀の初めに、張仲景(ちょうちゅうけい)が記したとされている書物があります。傷寒の病態を三陰三陽(六病位)と呼ばれる6つのステージに分け、それぞれの病期の病態と、適応処方を記したものになります。

この時代の方剤が今現在でも使われています。日頃お世話になることの多い「葛根湯」もその1つです。

《傷寒論》は 《神農本草経》、《黄帝内経》とともに中国医学における三大古典の1つに数えられていますが、現代に残っているものは王叔和(おうしゅくか)が整理・再配列し、さらに北宋の林億(りんおく)が再編したものであり、原本については謎に包まれたままになっています。

 

そのため《傷寒論》を勉強していると時々よくわからないことに遭遇します。

 

つまづきやすいポイントになりますが、その1つに「小柴胡湯」と「少陽病」があります。

 

小柴胡湯は少陽病の治療に用いられる方剤です。

少陽病の典型的症候は「往来寒熱、胸脇苦満、嘿嘿不欲飲食、心煩喜嘔、口苦、咽乾、目眩」とされていますが、傷寒論の小柴胡湯記述には

「傷寒五六日中風.往来寒熱.胸脇苦満.嘿嘿不欲飲食.心煩喜嘔.或胸中煩而不嘔.或渇.或腹中痛.或脇下痞鞕.或心下悸.小便不利.或不渇.身有微熱.或欬者.小柴胡湯主之」

とあり、「少陽病」の項目をみてみると

「少陽之病、口苦、咽乾、目眩也」

とあり、小柴胡湯=少陽病の治療薬なのに、内容が一致しません。


これはなぜなのでしょうか。

 

「少陽」は《素問・陰陽離合論》によれば、「少陽は枢を為す」とあり、つまり体の中心にあって、中枢的役割を果たすものと考えていました。

大雑把には消化器系&その付属器官を指していると考えられます。


少陽系は体の中心にあって、少陽病は小陽経を中心に体の関連部位へ病変が及んだ時の病態です。

影響が胸部に影響が及べば「胸脇苦満」
皮膚粘膜に及べば「往来寒熱」
胃腸に及べば「嘿嘿不欲飲食.心煩喜嘔」
頭頸部に及べば「口苦、咽乾、目眩」

としてあらわれます。

小柴胡湯は方剤全体としては、寒熱を同時に治療し、攻補しながら、薬物の上昇下降を調整し、表証が残っていながら裏証も存在している状態に使える方剤です。

「少陽病」のみを治療するものではないため、「小柴胡湯証≠少陽病」ではなく、太陽病、陽明病、厥陰病など多くの病証を治療できる方剤でもあります。


「少陽病」の条文をもう一度見てみます。

「少陽之病、口苦、咽乾、目眩也」


厄介なのは、清朝初期の医学者である柯韵伯が「六経には各々大綱となるものがある」と言い出したからで、その後、この条文が「少陽病」の大綱とされています。

一方で、この条文は「少陽病の初期に見られる症状」を単に述べただけとする考え方もあります。

病変が少陽に入ると、見られるのは「往来寒熱、胸脇苦満、心煩喜嘔」で、「口苦、咽乾、目眩」は必ず現れるものではありません。その理由としては、太陽病篇の苓桂朮甘湯証にも「めまい」があり、陽明病篇の陽明中風病にも「口苦、咽乾」があるためです。これらのことから「口苦、咽乾、目眩」は「大綱」になるような独特の症候ではなく、少陽病の初期には「口苦、咽乾、目眩」が見られることがある、ということを示したに過ぎない、と考えられなくもありません。

 

何れにしても、原文が散逸しているため、本当のところ何を言いたかったのかはわかりませんが、小柴胡湯と少陽病については、上記のような理由で、初学者にはつまづきやすいところになっているようです。

 

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