🥚 大切な1個を、いつ戻すか
「1個、受精しています」
採卵を終えて聞いたその言葉に、ひとまずほっとする。けれど、その1個をいつ子宮に戻すかという、次の選択があります。
初期胚の段階で戻すか。
もう数日育てて、胚盤胞になってから戻すか。
育っていく姿を確認したい気持ちと、その間に発育が止まってしまうことへの不安。大切な1個だからこそ、どちらを選ぶにも迷いが生まれます。
今回紹介するのは、受精卵が1個だった人を対象に、初期胚移植と胚盤胞移植で出産に至る可能性を比べた研究です。
中医学でも、その人の状態に合わせて治療を考えることを大切にします。受精卵の数に目を向けたこの研究にも、自分の状況に合う選択を考える手がかりがあります。
研究者たちが注目したのは、移植できたあとの成績に加えて、移植にたどり着くまでの経過でした。
🧪 どんな研究?
研究に使われたのは、オーストラリアとニュージーランドで、2009〜2022年に行われた不妊治療の記録です。
対象は、初めての体外受精・顕微授精の採卵周期で、受精卵が1個得られた約1万1千人。
いずれも出産経験のない人たちです。採卵できた卵子の数は人によって異なり、受精を確認できた卵が1個だった、という条件で調べています。
比較したのは、以下の2つの方法です。
・初期胚の段階で移植する
・胚盤胞まで育ててから移植する
一般に、初期胚移植は受精から2〜3日ほど、胚盤胞移植は5〜6日ほどの段階で行います。
この研究の工夫は、移植に進めなかった人も含めて、出産に至る可能性を考えたことです。
実際、対象者のおよそ5人に1人は、移植できる胚が得られませんでした。受精卵が1個だけの場合、その胚の発育が止まると、その周期の移植は見送ることになります。
そこで研究者たちは、移植できなかった人も含めて、
・全員が初期胚で戻す方針を選んだら?
・全員が胚盤胞まで育てる方針を選んだら?
と、二つの場合を考えました。年齢や不妊の原因などを踏まえ、それぞれどれくらいの人が出産に至るかを、過去のデータから予測して比べたのです。
移植に進めなかった人については、当初どちらの方法を予定していたか記録がないため、その部分も推定で補っています。
📊 どんな結果?
移植に進めなかった場合も含めて比べると、初期胚で戻す方針のほうが、赤ちゃんが生まれる割合は高いことが推定で示されました。
出生率は、
初期胚移植を予定する方針 12.5%
胚盤胞移植を予定する方針 10.1%
100人あたりで考えると、およそ2〜3人分の差です。
ここで興味深いのは、実際に移植できた人だけを比べると、胚盤胞移植のほうが出生率は高かったことです。
胚盤胞まで育った胚には、移植後の妊娠・出産につながりやすいという利点があります。
その一方で、育つのを待つ間に、移植できる胚がなくなる人もいます。受精卵が1個なら、胚を戻すことはできません。
研究で示されたのは、胚盤胞を移植できた場合の成績の高さだけでは、移植に進めなくなる分を補いきれなかったということです。
また、初期胚移植を予定する方針の相対的な利点は、35歳以降で大きくなる傾向がありました。
モデル上、年齢が上がるにつれて胚盤胞まで育つ割合が下がることが、この傾向に関わっていました。
受精卵が1個のときには、初期胚で戻す方法も、出産を目指すうえで検討する意味があります。
今回の研究では、胚の「質」の情報がなかったということに注意が必要ですが、それでも、移植のタイミングを相談するときに、「移植したあとの成功率」に加えて「移植まで進める見通し」にも目を向けるための、具体的な判断材料になります。
🌱 中医学の視点では?
中医学には「因人制宜(いんじんせいぎ)」という考え方があります。年齢や体質、その人の状態に合わせて、治療や養生の方法を考えるという原則です。
「受精卵が1個」という条件が同じでも、体調や生活環境は一人ひとり違います。何に困っているのか、どこに負担がかかっているのか。ふだんの暮らしまで見て、その人に合った対応を考えます。
今回の移植時期の研究とは別に、体外受精を受ける人の睡眠の質や食生活と、妊娠・出産の成績との関連を示した研究もあります。こうした報告からも、妊活では日々の眠りや食事などの養生にも目を向ける意味があります。
中医学の養生は、生活を整える方法を、自分の体調や暮らしに合わせて取り入れるためにも役立ちます。
たとえば、通院や仕事で十分に休めていないなら、睡眠を妨げていることを確かめ、休める時間をつくる。食生活が偏っていたり、胃腸の不調があったりするなら、食事の内容や量、食べ方を見直す。季節の変化に合わせて、衣服や過ごし方を調整することも養生です。
移植のタイミングを医師と相談しながら、日々の養生も自分に合う形で続けていく。睡眠や食事を整え、自分の体をいたわることも、妊活の大切な一部です。
👶 大切な1個を、出産につなげるために
胚盤胞を移植できた人の成績がよいと聞けば、そこまで育てることに期待が高まります。
ただ、受精卵が1個のときには、育つのを待つ間に移植に進めなくなる可能性も、選択に関わってきます。
今回の研究は、その途中の経過まで含めて、出産に至る可能性を比べました。そこで示されたのが、初期胚で戻す方針のほうが出生率は高いという推定結果です。
移植できた人の成功率だけでは、どちらの方法がよいかは判断できません。移植に進めなかった人も含めて、どれくらいの人が出産に至るかを比べることが大切です。
「成功率」という数字を見るとき、その数字にどのような人が含まれているのかまで目を向けると、治療の選び方も変わります。
受精卵が1個だった今回の対象者のように、条件を絞って初めて見えてくることもあるからです。
大切な1個だから、少しでもよい方法を選びたい。
初期胚で戻す方法にも、出産を目指すうえで検討する理由があります。年齢や胚の状態を踏まえ、移植まで進める見通しも医師と確認しながら、自分に合ったタイミングを考える。
今回の研究は、その相談をするための具体的な材料になります。
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サムネイル画像出典:Guler C, et al. Life. 2021;11(9):933, Figure 1.
https://doi.org/10.3390/life11090933
ライセンス:CC BY 4.0
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
