不眠対策の新しい視点──太極拳と認知行動療法

目次

🌙  眠りが乱れ始めたときに

年齢を重ねると、眠りのリズムが以前と少しずつ変わり、寝つきにくくなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることがあります。

続けて眠れない日が増えると、日中の集中力や体の軽さにも影響が出てきて、生活の過ごしやすさが左右されることもあります。

今回紹介する研究は、こうした中高年の不眠に対して「太極拳」と「認知行動療法(CBT-I)」という2つの方法を比べてその効果を調べたものです。太極拳は、ゆっくりした動きと呼吸を合わせ、体の巡りを整えていく中医学の養生として親しまれてきた方法です。

一方CBT-Iは、眠りを妨げる習慣や考え方を調え、睡眠のリズムを立て直すための実践的な手法です。

体を丁寧に動かす練習と、生活や思考の組み立て直し──この2つが不眠にどのように働くのかを丁寧に追った研究で、少し興味深い変化が見えてきます。

では、続きを見ていきましょう。


🛏️ 中高年の不眠とは

中高年では、不眠が続く人の割合が比較的高く、生活の質に影響しやすいことが報告されています。

世界的に不眠が増えているとされる中、今回の研究が行われた香港でも、中高年〜高齢者の約30〜50%、つまり10人のうち3〜5人が睡眠の悩みを抱えていることが示されています。特別な状況ではなく、多くの人が経験しうる身近な問題といえます。

不眠は「眠れないこと自体のつらさ」だけでなく、翌日の集中力の低下や疲れやすさにもつながります。気力が出にくくなったり、いつもの生活がこなしにくくなることもあります。

さらに、こうした状態が長く続くと、心身の健康面への負担が大きくなるとされています。研究でも、不眠が続くことで生活の満足度が下がったり、慢性的なだるさが抜けにくくなる点が指摘されています。

このような背景から、中高年の不眠に対して、薬だけに頼らない「続けやすい対策」を検討することが重要とされています。


🧪 どんな研究?

この研究では、50歳以上で慢性的な不眠が続く人200名を、「太極拳」と「認知行動療法(CBT-I)」のグループに分けて、効果を比べてました。

どちらの方法も、3か月間で週2回、1回60分のクラスを24回行う同じ形式です。

太極拳は、呼吸を整えながらゆっくり体を動かす24式のプログラムが使われました。CBT-Iは、睡眠に影響する習慣や考え方を理解したり(睡眠教育)、眠れない原因となりやすい生活習慣の調整、考え方の整理などを組み合わせた、専門家によるプログラムで行われました。

研究では、プログラム終了時の3か月後と、その1年後(15か月後)に、不眠のつらさがどれくらい変化したかを丁寧に比較しました。


🧍‍♀️🧠 太極拳と CBT-I

この研究では、太極拳とCBT-Iのどちらも、3か月間で24回、週2回・1回60分のクラスとして実施されました。どちらの方法も同じ時間配分で行われており、比較しやすいようになっています。

太極拳のクラスでは、呼吸を整える時間、ゆっくりとした全身運動、最後のクールダウンが組み込まれた「24式」のプログラムが使われました。

動きがシンプルで無理が少なく、中高年でも続けやすい構成になっています。グループ形式で行われ、専門のインストラクターが姿勢や動きを丁寧に案内しながら進めます。

一方、CBT-Iのクラスでは、睡眠に関する正しい知識を得る「睡眠教育」、眠れない原因になりやすい行動を調整する「刺激制御」、眠る時間帯を整える「睡眠制限」、緊張を和らげるリラクゼーション、考え方のクセを整理する認知的アプローチが組み合わされています。

こちらも特別な道具は必要なく、普段の生活で実践しやすい内容が中心です。


⚖️ 結果はどうだった?

この研究では、不眠のつらさを「ISI」という0〜28点のスコアで測っています。点数が高いほど不眠が強いことを示します。

例えば、15〜21点は「中等度の不眠」とされ、朝から体が重く感じたり、集中しにくいなど、日中の活動に影響が出やすいレベルです。

研究では、太極拳やCBT-Iを始める前のスコアを基準にして、3か月後と15か月後にどれくらい改善したかを比較しました。また、2つの方法の差が「4点」を超えると効果に明確な違いがあるとみなす基準も設定されています。

3か月後の時点では、太極拳でもCBT-Iでもスコアは下がりましたが、CBT-Iの改善幅のほうが大きく、両者の差は「4点」を超えていました。このため、短期間ではCBT-Iのほうが改善が大きいと判断されています。

ところが、さらに1年後の15か月後になると、太極拳とCBT-Iの差は小さくなり、「4点」以内に収まりました。長期的には太極拳もCBT-Iと同じ程度の改善を保っていたことがわかります。

また、1年後の継続状況を見ると、太極拳を続けていた人は36.5%、CBT-Iを続けていた人は15.9%でした。

太極拳の継続率が高かった点は、長期的な改善が保たれた理由の一部として考えられる結果となっています。


🌱 中医学から見た不眠と太極拳の関係

中医学では、不眠は単に「眠れない」という状態ではなく、体全体のバランスが乱れた結果として起こるものと考えられています。

特に、心(しん)・肝(かん)・腎(じん)といった臓の働きと、気や血の巡りが関わるとされ、ストレスや生活リズムの乱れによって、これらの巡りが整わなくなると眠りにも影響が出やすくなるという考え方があります。

太極拳は、ゆっくりした全身の動きと呼吸を合わせることで、気・血の巡りを滑らかにし、体と心の緊張をやわらげる養生法として中医学の中で位置づけられています。

動きが穏やかで負担が少ないため、中高年にも取り入れやすく、継続しやすい点が特徴です。

今回の研究のように、太極拳が睡眠にどのような変化をもたらすかを科学的に検証することで、中医学で伝統的に使われてきた方法の働きを現代的な視点から理解する手がかりにもつながります。


😴 眠れない時の選択肢

今回の研究では、太極拳とCBT-Iという2つの方法が、不眠にどのような変化をもたらすのかが比較されました。

短期間ではCBT-Iのほうが大きな改善を示しましたが、15か月後には太極拳との差が小さくなり、どちらも不眠の改善に役立つ可能性が示されています。

太極拳は、ゆっくりとした動きと呼吸を合わせながら取り組める点が特徴で、日常に組み込みやすい方法です。研究では、太極拳を続けていた人の割合がCBT-Iより高かったことも示されています。続けやすい方法かどうかは、長期的な改善を支えるうえで大切な要素のひとつと考えられます。

太極拳とCBT-Iはアプローチが異なりますが、どちらも睡眠を整えるための選択肢として活用できます。

不眠の改善では、自分に合った方法を無理なく続けることが重要です。この研究は、そのための選択肢が複数あることを示しており、生活の中で取り入れやすい方法を検討する際の参考になります。

自分にとって続けやすい方法を選ぶことが、不眠の対策を続けるうえで役立つことが伝わる内容でした。

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