こんにちは、相模原タナココ漢方薬局・鍼灸接骨院です。
漢方で「女神」の名前をもつ処方があります。
その名も「女神散」です。
でも、「めがみさん」ではなく「にょしんさん」と呼びます。
新型コロナの影響で世の中は大混乱ですが、一方で、もうすぐ受験シーズンに突入しこちらも大変な状況になります。
受験シーズンには普段とはちょっと通常とは違う相談が増えます。
そのうちの1つに「あがり症」をなんとかしたいという内容の相談があります。
今日は「あがり症」で悩んでいる受験生の役に立つかもしれない「女神散(にょしんさん)」という処方についてのお話です。
受験生のお子さまの中には、普段の成績は良いのに、試験になると緊張してその実力が発揮できなかったり、面接試験では緊張してうまく声がでなかったり、手が震えてしまったりしてしまう子がいます。
相談者は中学3年のKさん。お母さんと一緒に来局しました。本人曰く
「緊張しやすく、あがり症で困っている」
とのこと。
話をしてみるととても明るく、そんなことはなさそうに見えます。授業の理解も問題ないと本人も言っているのですが、試験になると緊張でお腹が痛くなってしまうことが多く、途中退室したり、トイレに行ったりするため、試験時間が足らなくなることが多々あるそうです。
また、知らない人の前で何かを話そうとすると、緊張で手が震えて上手く言葉が出てこなくなることがあり、面接試験にも不安があり、とても心配そうです。
ここに来る前に、病院を受診して相談したようですが、「社会不安障害」と言われ、薬物療法とカウンセリングを勧められたそうです。あまり安定剤などは飲ませたくない、飲みたくないとのことで、一度漢方を試してみようということになり来局されました。
体はやはり少し緊張気味の症状が見られたので、「女神散」と緊張でお腹の症状がでなくなるような処方で様子を見ていただきました。
しばらく服用すると、「試験でトイレに行くことが減った!」と嬉しそうに報告してくれました。症状が落ち着いてきているので、量も減らしてもうしばらく続けてもらうことにしました。
今の所、安定剤などやカウンセリングをせずに済んでいます。
さて、この「女神散」ですが、もともとは「安栄湯(あんえいとう)」という処方で、この処方は「軍中七気」を治療するものでした。
「軍中七気」とは、戦場での感情(七情の気、怒喜思憂悲驚恐)のことで、もともとは戦場での心身の障害に用いられていたものです。
戦場ではいつ襲われるかわからない極度の緊張感の中で、戦わなくてはいけません。常に死と隣り合わせの状況の中、人の正常な「七気」が侵されないように使われていたようです。
この処方が使われたのは、室町時代末。
多くの金創医(金属の武器で受けた傷を治療する者)は、すぐにこの処方を使えるように「振出し」にして用いていました。
漢方の煎じ薬の場合、生薬に一定量の水を加えて加熱し一定時間後に漉して、一定量を分服するのに対して、「振出し」の場合は、生薬を細かく刻みで布袋に入れ、沸湯を注ぎ浸出するため、煎じ薬よりすぐに使うことができます。
急を要する戦場ではより適した服用方法ですが、現代の「ディーバッグ」の元祖とも言われています。
その後、幕末・明治期の漢方医・浅田宗伯が、女性特有の症状(血の道症)に対して効果があることから、「女性に神効ある散剤」 ということで名前を変えちゃったようです。
「元、安栄湯と名づけて戦場で武士の刀傷、神経症に用いた薬方であるが婦人の血症に用いて特験あるをもって今の名とす。血症、上衡、眩暈するを治す、及び産前、産後、通経の剤なり」
『勿誤薬室方函口訣』
今では「安栄湯」より「女神散」の方が有名になってしまいました。
元々は、男性の戦場での処方だったものが、現在は「女性に神効ある散剤」として名前まで変えて使われているのはちょっと不思議です。
「女神散」は、「あがり症」だけでなく、現代もある意味「七気」が乱される社会ですので、その応用範囲は広く、「女」の文字が使われていますが、男性にも効果がある処方です。
男性にお出ししようとして、説明の際には「?」という表情をされることが多いのですが、もともとの処方の背景をお伝えすると「それなら効きそうだね!」と言ってもらえますし、実際喜ばれる処方の1つです。
こんな背景のある「女神散」。
これからの受験シーズンに、まさに「女神」のくすりになり得るかもかしれません。
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