骨盤内うっ血症候群

こんにちは、相模原タナココ漢方薬局・鍼灸接骨院です。

 

下腹部が痛い。受診しても原因がわからない、検査では異常が出ないといわれた。

 

だけど痛い。

 

Bさんは37歳女性で、左側の下腹部に痛みがあり、西洋医学的に検査しても異常がなく、痛み止めは多少効果はあるものの、根本的な解決には繋がらず、どこ行っても原因がわからないと言われました。

受診した科は消化器内科、婦人科、皮膚科、整形外科で、身体診察、血液検査では異常がなく、腰部MRI、骨盤MRIを含む画像診断を行いましたが、原因を特定できる疾患は見つかりませんでした。

Bさんは、日々鈍い左側の下腹部痛に悩まされていました。

デスクワーク中心の仕事でしたが、座りっぱなしや、立ちっぱなしでいると痛み、また仕事が終わる頃は決まって痛みは悪化し、帰宅後ゆっくり横になって休むことでその痛みは和らぎます。

「座ってばかりの仕事だから血流が悪くなっているんだ」

と思い、仕事中も長時間座ったまま、立ちっぱなしにならないように気をつけ、運動もよくするようにしました。

それでも痛みがあるので、病院から処方された痛み止めを飲んでいましたが、痛み止めが効くこともあれば効かないこともありました。

 

西洋医学的に原因がわからないならば「漢方」ということで、近くの漢方薬局で相談したところ

「瘀血」

が原因と言われ

「桂枝茯苓丸」

をすすめられて飲むことになりました。

 

服用して1〜2週間ほどするとなんとなく痛みが軽くなる感じがしたので、服用を続けましたが、やはり痛みがなくなることはありませんでした。

それどころか、寝ている間に痛みが起こるようになり、また朝起きた時に痛むことも増えました。

 

ならばこんどは「鍼灸」だ、と考えて当院に相談に来られました。

 

話を聞くと、痛みが気になるようになったのは仕事が忙しくなった頃からで、精神的なストレスも身体的なストレスも強かったようです。

物流関係の仕事をしており、新型コロナの影響で仕事が忙しく、いまもストレスフルな環境とのことでした。

 

中医学的な身体所見としては、舌は暗紫色で瘀斑あり、舌下静脈怒張(+)、脈は渋、左下腹部に圧痛(+)で、確かに瘀血を示す所見でした。

 

しかし痛みで困ってから、もうすぐ1年経ちます。効いたり効かなかったりする痛み止めもやめられず、桂枝茯苓丸の服用も継続しています。

 

痛む場所が決まって「左」、夕方以降に痛む、座りっぱなし、立ちっぱなしで痛む、卵巣付近に圧痛がある、就寝時痛や起床時痛も見られるようになった・・・漢方や鍼灸でのみ治療ができる範囲を超えていると考えられる状況でしたので、もう一度病院を受診することをすすめました。

 

何度も受診し、「気のせい」「心療内科・精神科を紹介します」「異常はありません」「何度受診しても結果は同じです」と言われ続けたこともあり、困って受診をしても何も解決しないし、散々検査をしたのに・・・と、しぶしぶでしたが、なんとか了承が得られました。

 

そこから、新たに病院を探し、経緯を説明して、今までとは違う検査にたどり着くまでさらに時間がかかりましたが、造影CT検査で両側卵巣静脈が 右 7 mm、左 10 mm と左卵巣静脈の拡張が認められたため治療することになりました。

治療後は両側卵巣静脈が 左右 5 mm となり、痛みはなくなりました。

その後は再発が心配とのことでしたので、漢方相談を行って、今まで服用していた桂枝茯苓丸からストレスやメンタルコントロール、体の水分代謝を改善するような、からだ全体のことを考えた処方へ変更しました。

その後再発は見られていません。

 

診断は、「骨盤内うっ血症候群(Pelvic congestion syndrome: PCS)」でした。

 

骨盤内うっ血症候群は長期間続く(慢性の)体幹の最下部(骨盤部)の痛みで、骨盤部の静脈が太くなって(拡張して)蛇行し、その部分に血液がたまることで引き起こされます。

 

骨盤内うっ血症候群

<https://mivascular.com/pelvic-congestion-syndrome/>より引用

症状としては、生理痛の痛みに似ていることもありますが、生理時ではない時にもみられ、生理時の出血が増えたり、おりものの量が増えることもあります。頭痛やメンタルの不調、天気痛を伴うことも多いようです。また静脈瘤が尿道・肛門周囲におこると、膀胱過敏症、頻尿・尿意切迫感、痔などの症状も見られます。

 

骨盤内うっ血症候群の発症機序は未だ不明なところが多いのですが、精神的、身体的ストレスがきっかけで起こるとも言われています。また出産を期に発症することもあるようです。

 

骨盤内うっ血症候群は慢性骨盤痛の原因として重要ですが、認知度が低い病態のため原因不明といわれることも多く、「不定愁訴」として片付けられることもあります。

 

「検査で異常がない=正常」ではありません。

 

痛みは我慢するものではなく、体からの危険信号です。原因不明と言われても「仕方がない」とあきらめずに、定期的なチェックや相談を継続することで、解決の糸口がきっと見つかります。

 

 

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