骨盤内うっ血症候群と漢方・鍼灸

骨盤内うっ血症候群とは|漢方・鍼灸のアプローチ|相模原タナココ
骨盤内うっ血症候群 × 漢方・鍼灸 / 相模原 タナココ

骨盤内うっ血症候群とは──
慢性の下腹部痛の背景にあるもの、体質から整えるという選択肢

婦人科でも、消化器内科でも、整形外科でも「異常はありません」と言われる下腹部の痛みが、慢性的に続くことがあります。それは、検査の方法や範囲が、痛みの原因をとらえきれていないだけかもしれません。

骨盤の中を通る静脈という、通常の診察や画像検査では見過ごされやすい場所に、原因がある場合があります。

タナココでは、西洋医学の病態理解を踏まえながら、漢方・鍼灸を通じて瘀血・血のめぐりという体質の側から、一人ひとりに向き合います。

最終更新日:2026年7月2日

骨盤内うっ血症候群の理解と体質へのアプローチ

骨盤内うっ血症候群とは何か

骨盤内うっ血症候群(こつばんないうっけつしょうこうぐん、Pelvic Congestion Syndrome:PCS)とは、骨盤内の静脈が拡張し、血液の流れが滞ることで生じる、長期間続く下腹部の痛みや重だるさを主体とした状態です。婦人科・消化器内科・整形外科など、複数の科を受診しても原因が特定できない下腹部痛の背景に、この状態が隠れていることがあります。

長時間の立位や座位で痛みが悪化し、横になって休むと和らぐという特徴的なパターンを持つことが知られています。月経前に痛みが強まる、性交後に痛みが残る、といった訴えもよくみられます。

骨盤内うっ血症候群という名称は、日本国内での認知度がまだ高いとはいえません。海外の医学文献では、慢性骨盤痛(Chronic Pelvic Pain:CPP)の原因の中でも重要な位置を占める病態とされていますが、画像検査で明らかな異常が見つかりにくいことから、ストレスや心因性の問題として片づけられてしまうことも少なくありません。検査で異常が見つからないことは、痛みの原因がないことを意味するわけではありません。

診断基準と現状

1)定義と症状

骨盤内うっ血症候群には、国際的に統一された診断基準がまだ存在しません。この点は、この病態を理解するうえでの重要な出発点です。多くの疾患には明確な診断基準がありますが、骨盤内うっ血症候群については、研究や施設によって用いられる基準が異なっているのが現状です。

臨床的には、6か月以上続く骨盤部の痛みを慢性骨盤痛と呼び、その原因の一つとして骨盤内うっ血症候群が位置づけられています。

典型的な痛みの特徴

  • 鈍い痛みや重だるさが主体
  • 長時間の立位・座位で悪化し、横になると軽減する
  • 性交後に痛みが残る(性交後痛)
  • 月経前に症状が強まりやすい

伴うことのある症状

  • 外陰部・下肢の静脈瘤
  • 頻尿・排尿困難感
  • 月経量の増加
  • 腰の重さ・だるさ

「卵巣のあたりを押したときの痛み」と「性行為の後に痛みが残ったことがある」という2つの点を組み合わせて評価すると、骨盤内うっ血症候群である方を94%の確率で正しく見つけ出し、77%の確率で他の原因と正しく除外できると報告されています。

また、腟と下腹部の両方から触れて調べる内診で、卵巣や卵管のあたりに痛みがあるかについても、骨盤内うっ血症候群の方では約91%に、ない方では約19%にみられたとする報告があり、特別な機器を使わない通常の診察の中でも、診断の重要な手がかりを得られる場合があります。

2)診断の難しさ

骨盤内うっ血症候群の診断が難しい理由は、症状が子宮内膜症をはじめとする他の婦人科疾患と重なる部分が多いことにあります。子宮内膜症の患者の中にも骨盤内静脈の拡張を伴う方が一定数存在することが報告されており、痛みの原因が子宮内膜症によるものか、骨盤内うっ血症候群が重なっているのかを見極めることが、臨床上の課題となっています。

検査方法 特徴 侵襲度・注意点
経腟超音波検査(TVUS) 診断の第一選択。卵巣静脈の拡張・血流速度・子宮筋層内静脈の拡張などを評価 非侵襲的。日常診療で行いやすい
CT検査 他の疾患の除外や血管の状態の把握に有用 放射線被曝を伴う
MRI/MR静脈造影 軟部組織の評価に優れ、他の原因の除外にも有用 放射線被曝なし。閉経前の女性で優先されることがある
腹腔鏡検査 他の骨盤痛の原因を除外する目的で行われることが多い 体位や気腹の影響で、本症候群自体への感度は約40%にとどまるとされる
静脈造影検査 逆流や側副血行路を直接評価できる、診断の基準となる検査 侵襲的。主に非侵襲的検査で判断がつかない場合に選択される
「異常なし」が意味すること: 経腟超音波検査には、卵巣静脈径6〜8mm程度、血流速度3cm/秒未満、子宮筋層内静脈の拡張5mm以上といった目安がありますが、報告によって採用される数値には幅があります。腹腔鏡検査で「異常なし」と言われても、骨盤内うっ血症候群そのものが否定されたことにはならない、という点は知っておく必要があります。

骨盤内うっ血症候群が日常生活に与える影響

骨盤内うっ血症候群は、体の問題にとどまらず、日々の生活や人との関わり方にも広く影響します。

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身体面への影響

デスクワークなど長時間座る仕事、あるいは立ち仕事において、夕方にかけて悪化する痛みは、日々の集中力や作業効率に影響します。夜間や起床時の痛みが睡眠の質を低下させることもあります。性交後の痛みが続くことで、パートナーとの関係に影響が及ぶこともあります。

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心理・社会面への影響

婦人科、消化器内科、整形外科など複数の科を受診しても「異常なし」と言われ続け、心療内科や精神科の受診をすすめられるケースも報告されています。原因がわからないまま痛みと付き合う日々は、本人の自己肯定感や、周囲からの理解にも影響を及ぼします。

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見過ごされがちな問題

骨盤内うっ血症候群は慢性骨盤痛の原因として重要な位置を占めるとされる一方、婦人科診療の現場でもまだ十分に知られていない病態です。婦人科医の診療知識や診断ツールが十分でないことが、診断の遅れにつながっているとする海外の報告もあります。

診断までの時間について: 子宮内膜症の診断までにかかる期間は平均で10年前後ともいわれており、骨盤内うっ血症候群についても 婦人科診療の中で見過ごされやすく、診断にたどりつくまでに時間がかかりやすい病態であることが指摘されています。「検査で異常がない」ことは、「原因がない」ことと同じではありません。

有病率と見過ごされやすい理由

慢性骨盤痛は、世界的に見て女性の40%以上が経験するとされる、決して珍しくない状態です。婦人科を受診する理由の約10%が、この慢性骨盤痛に関連するともいわれています。

項目 目安となるデータ
慢性骨盤痛(CPP)の有病率 世界全体で40%以上
婦人科受診に占める慢性骨盤痛の割合 約10%
慢性骨盤痛の原因に占める骨盤内うっ血症候群の割合 最大で約30%
無症状の経産婦における静脈拡張所見 6割以上(未産婦では約1割)
発症の中心となる年代 20〜40代(閉経後は減少傾向)

骨盤内うっ血症候群は、こうした慢性骨盤痛の原因の中でも大きな部分を占めると推定されています。しかし、この病態は今なお十分に診断されていない状態にあります。婦人科領域の医学雑誌における骨盤内うっ血症候群に関する論文数は限られており、この分野の知識が臨床現場に十分に浸透しきっていないことを示唆する報告もあります。

出産経験がある女性においては、骨盤内の静脈拡張がより高い頻度で見られることが報告されています。ただし、静脈が拡張していることと、痛みなどの症状があることは必ずしも一致しません。この、静脈の太さと症状の強さが比例しないという点も、診断を難しくしている理由の一つです。

閉経後に減少するという特徴: 骨盤内うっ血症候群は、下肢の静脈瘤など他の静脈疾患が加齢とともに増加していく傾向とは対照的に、閉経後は症状が目立たなくなる傾向があるとされています。エストロゲンをはじめとするホルモンが関与している可能性があります。

発症のメカニズム

骨盤内うっ血症候群がなぜ起こるのか、その全体像はまだ完全には解明されていません。現在のところ、解剖学的な要因・ホルモンの影響・妊娠や出産による変化が組み合わさって生じると考えられています。

1)静脈弁の機能不全と解剖学的な背景

骨盤内には、卵巣静脈や内腸骨静脈など、複雑に入り組んだ静脈のネットワークが存在します。通常、これらの静脈には血液の逆流を防ぐための弁が備わっていますが、先天的にこの弁が欠損していたり、何らかの理由で機能が低下したりすることがあります。解剖学的な研究では、卵巣静脈の弁が左側で13〜15%、右側で6%程度、生まれつき欠損しているとされ、弁の機能不全についても左側でより高い頻度が報告されています。

骨盤内うっ血症候群では、特に左側の卵巣静脈に拡張がみられることが多いとされています。これは、右の卵巣静脈が下大静脈に直接合流するのに対し、左の卵巣静脈は左の腎静脈にほぼ直角に合流するという解剖学的な違いによるものと考えられています。ただし、右側の静脈にも拡張がみられるケースは3割程度あるとされ、左側だけに限られた病態ではありません。

血管の弁だけが原因とは限らない: 骨盤内静脈が拡張する原因には、腎静脈やその他の血管が周囲の組織に圧迫されることで二次的に起こるタイプ(ナットクラッカー症候群、メイ・ターナー症候群など)も知られています。これらは静脈弁そのものの問題ではなく、血流の出口が狭くなることでうっ滞が起こるタイプであり、治療方針を考えるうえで区別が必要とされています。

2)ホルモンの影響

骨盤内うっ血症候群は、閉経前の女性に多くみられる病態です。この傾向から、エストロゲン(卵胞ホルモン)が発症に関与していると考えられています。エストロゲンには血管を拡張させる作用があり、プロゲステロン(黄体ホルモン)には静脈弁の働きを弱める作用があるとされています。

骨盤内うっ血症候群の患者では、多嚢胞性卵巣に似た所見がみられることもあり、卵巣そのものが通常より高い濃度のエストロゲンにさらされていることが、卵巣静脈が特に影響を受けやすい理由の一つとして考えられています。黄体ホルモン製剤の投与によって症状が緩和するという報告も、ホルモンの関与を示す根拠の一つとされています。

3)妊娠・出産による血管の変化

妊娠は、骨盤内うっ血症候群の重要な危険因子です。妊娠中は、子宮の増大による物理的な圧迫と、プロゲステロンの血管拡張作用により、骨盤内の静脈にかかる負荷が大きく増加します。多くの女性では、出産後にこの静脈の拡張は自然に元の状態へ戻りますが、骨盤内うっ血症候群を発症する方では、この変化が元に戻りきらないことがあります。

血管壁そのものの変化

拡張した静脈では、コラーゲンや平滑筋を分解する酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現が増加していることも報告されており、血管壁そのものの変化が、逆流やうっ滞をさらに進行させる一因になっていると考えられています。組織の状態としては、下肢の静脈瘤と似た変化がみられます。

現在の治療とその限界

骨盤内うっ血症候群の治療は、症状の程度や、妊娠・挙児希望の有無などによって選択肢が異なります。

保存的治療(薬物療法・生活面の対策)

消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、痛みの神経伝達に働きかける薬剤が、症状の緩和を目的として用いられます。着圧ショーツによる圧迫療法も選択肢の一つで、2週間の使用で約8割の患者に症状の軽減がみられたとする前向き研究もあります(同研究では、弾性ストッキング単独では明らかな改善が確認されていません)。

限界と注意点: 骨盤内うっ血症候群そのものを対象とした統一的な診療ガイドラインは、現時点で確立されていません。これらの保存的治療についても、明確なエビデンスに基づく推奨があるわけではなく、あくまで、より根本的な治療を検討するまでの一時的な対策として位置づけられています。

ホルモン療法

黄体ホルモン製剤やGnRHアゴニスト(性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬)による治療で、一定期間の症状改善が報告されています。ある研究では、黄体ホルモン製剤を6か月投与したところ、疼痛スコアの中央値が75%低下したとされています。

限界と注意点: GnRHアゴニストはほてりや気分の変動といった更年期様の副作用を伴い、骨密度低下のリスクから長期間の使用はできません。黄体ホルモン製剤についても、投与を中止すると症状が再燃することが複数の研究で示されており、根本的な解決というよりは、症状を一時的に抑える対症療法としての位置づけになります。

経カテーテル的塞栓術

逆流している卵巣静脈や骨盤内静脈に対して、カテーテルを用いてコイルや硬化剤を挿入し、血管を閉塞させる治療法です。現在、骨盤内うっ血症候群に対する治療の中心的な選択肢とされており、技術的な成功率は99%程度、治療から1〜5年の時点での症状改善は88%程度と報告されています。ホルモンレベルや月経周期、その後の妊娠にも大きな影響を与えないとされている点も、この治療が選ばれる理由の一つです。

限界と注意点: 治療を受けた方の7〜13%程度では、十分な改善が得られないとする報告があります。再発率は5%程度、コイルの位置がずれる合併症は数%程度で、治療後に腹痛や微熱、吐き気などを伴う「塞栓後症候群」が約2割の方にみられますが、多くは自然に軽快するとされています。また、慢性骨盤痛の原因が複数重なっている場合、塞栓術だけでは症状が十分に解消しないこともあります。

標準治療が抱える限界は、根本的な原因である血管そのものへの介入(塞栓術)を行わない限り、多くの治療が対症療法にとどまるという点にあります。また、この病態自体が婦人科診療の現場で十分に認知されておらず、診断にたどり着くまでに時間がかかること自体が、大きな限界として指摘されています。血管への直接的な処置に加えて、血のめぐりが滞りやすい体質そのものへ働きかけることが、治療の次の選択肢として意味を持つ場面があります。

比較

西洋医学と中医学(漢方・鍼灸)のアプローチ比較

西洋医学と中医学はどちらが優れているというものではなく、それぞれ得意とする場面が異なります。タナココでは両者の組み合わせを、一人ひとりの状態に合わせて提案します。

比較項目 西洋医学(標準治療) 中医学(漢方・鍼灸)
主なアプローチ 血管への直接的な介入(対症療法・器質的治療) 体質改善(瘀血の解消・気血のめぐりの調整)
代表的な治療 経カテーテル的塞栓術、ホルモン療法、鎮痛薬 桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤、血海・三陰交などへの鍼灸
メリット 血管の状態そのものに直接働きかけられる。塞栓術は高い症状改善率が報告されている 副作用が比較的少なく継続しやすい。全身の体質面から働きかけられる
デメリット・注意点 侵襲的な処置を伴う場合がある。診断そのものに時間がかかることがある 骨盤内うっ血症候群そのものを対象とした大規模研究は多くない。効果の実感には個人差がある
タナココでの位置づけ 確定診断・血管への根本的な処置に有用 診断前後の症状緩和、塞栓術後の体質管理、軽症例での選択肢として

中医学からの病態分析

中医学において、骨盤内うっ血症候群という西洋医学の病名に直接対応する古典的な概念があるわけではありません。しかし、その症状の現れ方——痛みの場所が一定していること、長時間の同一姿勢で悪化すること、月経前に強まることなど——は、中医学が瘀血と呼んできた病態の特徴と重なる部分が多くみられます。

おけつ
1)瘀血(主証)

瘀血とは、血のめぐりの滞りを指す中医学の概念です。中医学の古典には「通ぜざれば則ち痛む」という言葉があり、めぐりが妨げられた場所に痛みが生じるという考え方があります。骨盤内うっ血症候群における、静脈の拡張により血液が滞っている状態は、瘀血の概念と重なる部分があります。舌の色が暗く紫がかっていること、舌の裏側の静脈が太く浮き出て見えること、脈がなめらかでなくざらついた感触であることなどが、瘀血を示す所見として確認されます。

かんきうっけつ
2)肝気鬱結(副証)

「肝」には、全身の気のめぐりをスムーズに保つ働き(疏泄)があるとされています。強いストレスや緊張が続くと、この疏泄の働きが滞ります。これを肝気鬱結といいます。気には血を巡らせる働きがあるため、気の滞りは血の滞りを生み出します。仕事や環境の変化をきっかけに症状が悪化した場合には、この視点が特に重要になります。

ひききょ
3)脾気虚(副証)

「脾」は、飲食物から気血を作り出す働きを担う臓腑です。脾の働きが低下した状態を脾気虚といいます。気には血をめぐらせる働きがあるため、脾気虚によって気の力そのものが不足すると、血のめぐりが低下し、滞りやすくなります。出産後や、慢性的な疲労を抱えている方に見られやすい体質です。

かんぎょう
4)寒凝(副証)

冷えは、血のめぐりを滞らせる性質を持つと中医学では考えます。これを寒凝といいます。血管が収縮し、めぐりが悪くなることで、瘀血の状態を生み出します。冷えやすい体質の方や、季節の変わり目、冷房の効いた環境で症状が悪化しやすい方には、この視点を踏まえたアプローチが必要になります。

実際の臨床では、「瘀血+肝気鬱結」「瘀血+脾気虚」のように、複数の証が重なっていることがほとんどです。証は固定したものではなく、生活環境やライフステージの変化によっても変わります。弁証を行いながら処方・施術を調整することが、体質に向き合うアプローチの基本です。

漢方・鍼灸に関する報告の現状

骨盤内うっ血症候群そのものを対象とした大規模な臨床試験は、西洋医学の領域においてもまだ数多いとはいえません。海外の医学文献においても、この病態に関する研究の蓄積は、他の婦人科疾患と比べてまだ始まったばかりの段階にあるとされています。漢方・鍼灸についても同様で、骨盤内うっ血症候群そのものを対象とした大規模なランダム化比較試験は、現時点では見当たりません。

一方で、いくつかの手がかりとなる報告は存在します。

桂枝茯苓丸と瘀血に関する研究

桂枝茯苓丸は、瘀血に対して用いられる代表的な漢方薬です。瘀血モデル動物を用いた薬理学的な研究では、血液の凝固しやすさや血液粘度、過酸化脂質の上昇を抑える作用、赤血球の変形しやすさを改善する作用、血液循環を促進し血栓を防ぐ作用などが確認されています。人を対象とした研究でも、重度の瘀血所見を持つ患者において桂枝茯苓丸の服用後に赤血球の凝集しやすさが改善したとする報告や、更年期のほてりを持つ女性を対象にホルモン補充療法と比較した試験で、末梢の血流量が有意に増加したとする報告があります。これらは骨盤内うっ血症候群を直接の対象とした研究ではありませんが、桂枝茯苓丸が持つ血流改善の機序を示すものとして参考になります。

骨盤内うっ血症候群に対する症例報告・臨床経験

2016年 — 日本東洋医学雑誌 67巻3号

骨盤内うっ血症候群と診断された患者に桂枝茯苓丸を用いて症状が改善した症例が報告されています。CT検査で卵巣静脈の拡張が確認された患者に桂枝茯苓丸を投与したところ、痛みのスコアと瘀血の程度を示すスコアがいずれも改善したという内容です。1例の症例報告であり効果を確定づけるものではありませんが、瘀血への薬理学的なアプローチが実際の臨床像の改善と結びついた例として意義があります。

2002年 — 日本心療内科学会シンポジウムでの報告

下腹部に痛みを訴えて来院したものの、器質的な異常や炎症所見が見つからない女性74名を対象に、漢方治療を中心とした診療を行った報告があります。この報告では、9割の患者で漢方薬の服用開始1〜2週間ほどで症状の軽快がみられ、なかでも桂枝茯苓丸が最も多くの患者(7割弱)に有効だったとされています。痛みが強く便秘傾向のある方には桃核承気湯、痛みは比較的弱いものの貧血傾向やむくみを伴う方には当帰芍薬散が効果的だったと報告されており、残る1割の患者では、漢方薬に加えて抗うつ薬・抗不安薬の併用が必要だったとされています。比較対照を伴う試験ではないという前提のうえで、体質に応じた漢方薬の使い分けが臨床の現場で積み重ねられてきたことを示す報告として参考になります。

鍼灸によるアプローチ

鍼灸においては、血海・三陰交など、婦人科領域の血のめぐりを整える目的で伝統的に用いられてきたツボがあります。これらのツボへの刺鍼が骨盤内の血流に与える影響を直接検証した大規模な研究は、現時点では非常に限られていますが、瘀血や婦人科系の症状全般に対する伝統的な使用実績と、気血のめぐりを整えるという中医学の理論に基づいたアプローチを行います。

研究の現状について: 骨盤内うっ血症候群という病名そのものが、婦人科診療の現場でも十分に浸透していない状況にあります。研究の蓄積がこれから進んでいく分野であることを前提に、現時点でわかっていること・わかっていないことを区別しながらお伝えすることを大切にしています。

タナココにおける漢方・鍼灸のサポート

漢方薬による体質へのアプローチ

タナココの漢方相談では、瘀血をはじめとする体質の偏りを、脈診・舌診・腹診・問診による弁証を通じて見極めたうえで、処方を組み立てます。下腹部の圧痛や瘀血の所見が明確な場合には 桂枝茯苓丸 を中心に、痛みが強く便秘傾向を伴う場合には 桃核承気湯通導散 を、冷えやむくみ、貧血傾向を伴う場合には 当帰芍薬散 を、ストレスや情緒面の影響が大きい場合には 加味逍遥散 を、状態に応じて組み合わせます。妊娠中・授乳中の場合は使用できる処方が異なりますので、必ず状況をお伺いしたうえでご提案します。

鍼灸施術による血流・自律神経へのアプローチ

鍼灸では、血のめぐりを整えることを目的に、 血海(けっかい)三陰交(さんいんこう)関元(かんげん)中極(ちゅうきょく)太衝(たいしょう) といったツボを中心に施術を行います。骨盤周囲の血流を促すとともに、ストレスや緊張によって乱れがちな自律神経のバランスを整えることを目指します。仕事や生活環境によるストレスが症状の悪化に関わっているケースでは、この自律神経への働きかけが特に重要になります。

タナココでは、現在受けている婦人科・血管外科などでの検査や治療の内容をお伺いしながら、それと組み合わせる形で漢方・鍼灸によるアプローチをご提案します。造影検査や塞栓術など、医療機関でしか行えない診断・治療が必要な状態かどうかの見極めも、体質面からのサポートと同じくらい大切にしています。実際に、漢方や鍼灸施術を続けるなかで医療機関での検査・治療が必要と判断し、あらためての受診をおすすめしたケースもあります。

何年も原因がわからないと言われ続けてきた方も、これから検査を受けようとしている方も、まずは今の状態をお聞かせください。西洋医学の検査データと、中医学的な体質の見立てをあわせて考えることで、次にできることが見えてくることがあります。

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よくある質問(FAQ)

骨盤内うっ血症候群は何科を受診すればいいですか?どのように診断されますか?
婦人科が基本的な窓口になりますが、確定診断や治療には血管外科・放射線科(が関わることもあります。診断の第一歩は、経腟超音波検査で卵巣静脈の拡張や血流の状態を確認することです。より詳しい評価が必要な場合は、CTやMRI、場合によっては静脈造影検査が行われます。子宮内膜症など似た症状を示す疾患との鑑別も重要なため、婦人科での問診と画像検査を組み合わせて進めていくことになります。
骨盤内うっ血症候群に漢方は効果がありますか?
骨盤内うっ血症候群そのものを対象とした大規模な臨床試験は、現時点では確認できていません。一方で、瘀血に用いられる桂枝茯苓丸には血液循環を改善する作用が薬理学的な研究で確認されており、骨盤内うっ血症候群と診断された患者への症例報告や、器質的異常のない下腹部痛の患者を対象とした臨床経験の報告もあります。体質面からのアプローチとして、考慮する価値のある選択肢の一つと言えます。
骨盤内うっ血症候群に鍼灸は効果がありますか?
鍼灸そのものを骨盤内うっ血症候群に用いた大規模な研究は、現時点では非常に限られています。血海・三陰交など、婦人科領域の血のめぐりを整える目的で伝統的に用いられてきたツボへのアプローチを行い、骨盤周囲の血流や自律神経のバランスを整えることを目指します。ストレスによる症状の悪化がみられる場合には、特に検討する価値があります。
塞栓術と漢方・鍼灸は、どちらを選べばいいですか?併用はできますか?
対立する選択肢ではありません。経カテーテル的塞栓術は、拡張した静脈そのものに直接働きかける治療で、現在の医療における中心的な選択肢です。漢方・鍼灸は、血管そのものへの処置ではなく、瘀血が生じやすい体質そのものを整えるアプローチです。塞栓術の前後の体調管理や、症状が比較的軽く経過をみている段階での選択肢として、多くの場合並行して取り入れていただけます。現在の治療内容をお伺いしたうえで、医療機関と連携しながら進めます。
妊娠中や産後でも相談できますか?
骨盤内うっ血症候群は、妊娠・出産をきっかけに症状が現れる、あるいは悪化することが少なくない病態です。妊娠中・授乳中は使用できる漢方薬や鍼灸のツボが通常とは異なりますので、必ず状況をお伺いしたうえで、安全性を考慮したご提案をいたします。妊活・不妊治療をサポートする中で、骨盤内の血流を整えるご相談をいただくことも多くあります。
何年も「異常なし」と言われ続けています。今から相談する意味はありますか?
あります。骨盤内うっ血症候群は、婦人科診療の現場でもまだ十分に知られていない病態であり、診断にたどりつくまでに長い時間がかかること自体が、この病態の大きな課題として指摘されています。専門的な視点での画像評価によって、これまで見過ごされてきた原因が明らかになることもあります。また、中医学の弁証は、病名が確定する前の段階からでも、体質の傾向をとらえてアプローチを始めることができます。何年もの間、原因がわからないまま過ごしてきた時間は、決して無駄ではありません。今の状態から、一緒に考えていきます。

骨盤内うっ血症候群──「異常なし」の先に、まだできることがあります

婦人科でも、消化器内科でも、整形外科でも「異常はありません」と言われ続けてきた下腹部の痛みは、検査の方法や範囲が、その原因をとらえきれていなかっただけかもしれません。骨盤内うっ血症候群は、まだ多くの医療現場で十分に知られていない病態です。だからこそ、原因不明とされたまま、何年も痛みと付き合ってきた方が少なくないのだと考えています。

タナココでは、西洋医学的な検査で何がわかっていて何がわかっていないのかを整理したうえで、瘀血という体質の側から、できることを最後まで考え抜きたいと考えています。桂枝茯苓丸をはじめとする漢方薬、血海・三陰交への鍼灸を通じて血のめぐりそのものを整えること、そしてストレスによって乱れがちな自律神経を支えること——これらを組み合わせながら、一人ひとりの体質に向き合います。

「病院では異常なしと言われたが、痛みは続いている」「塞栓術を受けたが、体質からも整えたい」「妊娠・出産をきっかけに痛みが出てきた」——どのような段階でも、今の状態をお聞きすることから始めます。薬剤師・鍼灸師の資格を持つ担当者が、西洋医学と中医学の両方の視点から、一人ひとりに合った提案をいたします。

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