COVID-19(新型コロナ感染症)に対する漢方治療の考え方〜漢方薬局編〜

金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子医師がエキス剤でできる方法を日本感染症学会に特別寄稿されてから、さらに問い合わせが増えています。

病院の漢方でできることと、漢方薬局の漢方でできることには違いがあります。


病院では予防投与はできませんし、できたとしても自費になります。軽症のうちにエキス剤で対応するのも方法の一つですが、感染リスクの高い病院へ行くのもちょっと躊躇してしまいます。

漢方薬局では郵送対応ができますし、医療用の漢方製剤にはない処方もありますので幅広い対応が可能です。

特別寄稿を補足しつつ、解説したいと思います。

できるだけシンプルになるようにしていますが「いや、違う!」と思われた方は優しくお知らせいただければと思います。


感染症学会

COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(特別寄稿)

最終更新日:2020年3月19日

会員各位

 COVID-19感染症に対する生薬による治療(漢方治療)のまとめが中国の新型コロナウイルス診療ガイドラインに掲載されています。しかしながら、これらの処方は生薬の組み合わせから作成しなくてはならず、漢方専門の部門を持つ医療機関でなければ対応が困難です。このため、漢方医学の第一人者でいらっしゃいます小川恵子先生(金沢大学附属病院漢方医学科臨床教授)にお願いして、それらをわが国で用いられている医療用漢方製剤に置き換え、記載していただきました。
 標準治療の無いCOVID-19感染症に対する治療薬の候補として、漢方製剤は期待できる薬剤と考え、特別寄稿として公開致します。
 まだまだエビデンスが不十分な領域ではありますが、本稿が会員の皆様のCOVID-19感染症治療の一助となれば幸いに存じます。

2020年3月19日

金沢医科大学 臨床感染症学 飯沼由嗣

COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方 小川恵子(金沢大学附属病院漢方医学科)



予防について

補中益気湯:動物実験でインターフェロンの産生促進、IL-1α と IL-6 の産生を抑制。

十全大補湯:NK 細胞機能改善、抑制系活性の可能性があり、過剰な炎症の予防へ期待できる。

この2つの処方は、新型コロナに限らず「免疫力を上げる」ということで定期的に話題になりますが「免疫力を上げる」という謳い文句には注意が必要です。

人間の備わっている能力以上のことは漢方を使ってもできません。低下しているものを正常の状態に近づけることはできると思います。

補中益気湯は普段から胃腸が弱い方、十全大補湯はさらに虚弱の方に使われることが多いです。(迷ったら相談していただいた方がスムーズです。)

清肺排毒湯(軽症〜重症)
幅広い病態に用いることができます。麻杏甘石湯、射干麻黄湯、小柴胡湯、五苓散を組み合わせたものが基本とされています。

清肺排毒湯は日本にはもちろんありませんのでこれをどうやってエキスで作るかということになります。

麻杏甘石湯+胃苓湯+小柴胡湯加桔梗石膏

が提案されていますが、中国のガイドラインをみると「清熱」の調整に幅をもたせているので、

漢方薬局では

麻杏甘石湯+小柴胡湯(または柴苓湯)+桔梗石膏(清熱の調整)

でも良いかもしれません。

胃苓湯=平胃散+五苓散
柴苓湯=小柴胡湯+五苓散

清肺排毒湯は軽症〜重症まで用いることができるとされていますが、これはあくまでも中国の病院内でのこと(西洋医療ができる環境での場合)ですので、日本で自宅で経過観察を行う際は「軽症」のみに使用することが前提になると思います。

悪化傾向にあるのに自宅で様子を見るということはしないでください。急激に重症化するケースが報告されています。服用していても悪化傾向にある場合は医療機関に連絡し、速やかに受診してください。


さて、経過観察の時の対応ですが症状が軽く、画像では肺炎症状が出ていない場合が該当すると思います。倦怠感などが主訴となります。

(1)胃腸の不調を伴う場合
藿香正気散が推奨されます。病院で使用するエキス剤にはありませんが、漢方薬局では取り扱いがあります

使用できる処方の数が多い漢方薬局の強みです。

病院のエキス剤としては香蘇散+平胃散で代用としています

(2)発熱を伴う場合
金花清感、連花清瘟、疏風解毒は中国の処方で日本にはありません。連花清瘟は

金羚感冒散+麻杏甘石湯

で処方の内容を近づけることができます。

連花清瘟は、新型コロナウイルスへの抗ウイルス作用、抗炎症作用が報告されていますので、使用するならこの処方がシンプルですし、軽症例に使いやすいと思います。

黄連解毒湯、清上防風湯、荊芥連翹湯も近い効果は得られると思いますが、金羚感冒散が医療用にはないのが医療用では運用に苦慮するところです。金銀花、連翹がポイントとなる生薬だと思いますが清上防風湯、荊芥連翹湯も量が少ないです。

(3)悪寒を伴う場合
日本人は確かに「風寒」であれば葛根湯、麻黄湯が合うケースが多いように思います。中国では高齢者の場合は麻黄附子細辛湯で良くなることが多いのですが、交感神経興奮作用による「動悸」には注意が必要です。
葛根湯は、インターロイキン 1a の産生を抑えたり、 インターロイキン12を産生することにより過剰な肺炎を防ぐ可能性が期待されています。

手元に一つ何かをということでしたら、麻黄湯や肺熱が取れる麻杏甘石湯がよいかと思います。肺の症状が中心なので、多くの処方に麻黄・杏仁・石膏が入っています。

 

軽症

(1)寒湿鬱肺
推奨処方
麻黄 石膏 杏仁 羌活 葶藶子 貫衆 地龍 徐長卿 藿香 佩藍 蒼朮 雲苓 白朮 焦三仙 厚朴 檳榔 草菓 生姜

病院のエキスでは

麻杏甘石湯+参蘇飲+平胃散
越婢加朮湯+麻黄湯(消化器症状が無いか軽度)

麻杏甘石湯=麻黄+杏仁+甘草+石膏
越婢加朮湯=麻黄 石膏 蒼朮 甘草 生姜 大棗
参蘇飲=半夏 茯苓 葛根 桔梗 陳皮 人参 枳実 蘇葉 前胡 甘草 生姜 大棗
平胃散=蒼朮 厚朴 陳皮 甘草 生姜 大棗

推奨処方を見ると麻杏甘石湯がベースなのでこれはそのままで、あとは湿への対処をどのような。湿をさばき消化器系への配慮をする必要があります。漢方薬局では

麻杏甘石湯+加味平胃散

加味平胃散=平胃散+神麴 麦芽 山楂子

でいけると思います。加味平胃散は医療用の漢方にはない処方です

(2)湿熱蘊肺
檳榔 草菓 厚朴 知母  黄芩 柴胡 赤芍 連翹 青蒿 蒼朮 大青葉 生甘草

荊芥連翹湯+半夏厚朴湯
柴苓湯+平胃散(消化器症状が強い場合)

漢方薬局では柴胡・黄芩の組み合わせがあるので小柴胡湯は使いたくなります。

小柴胡湯もしくは柴苓湯+銀翹散
小柴胡湯もしくは柴苓湯+加味平胃散

 

通常型
(1)湿毒鬱肺
推奨処方 生麻黄 杏仁 石膏 薏苡仁 蒼朮 藿香 青蒿 虎杖 馬鞭草 芦根 葶藶子 橘紅 生甘草

麻杏甘石湯+竹筎温胆湯+ヨクイニン
麻杏甘石湯+竹筎温胆湯+ヨクイニン+大黄甘草湯(便秘がある場合)

竹茹温胆湯=麦門冬 桔梗 半夏 陳皮 生姜 竹筎 黄連 柴胡 香附子 枳実 人参 茯苓 甘草

漢方薬局では

麻杏甘石湯+藿香正気散+薏苡仁

藿香正気散=白朮 茯苓 陳皮 白芷 藿香 大棗 甘草 半夏 厚朴 桔梗 蘇葉 大腹皮 生姜


(2)寒湿阻肺症
蒼朮 陳皮 厚朴 藿香 草果 麻黄 羌活 生姜 檳榔

五積散(倍量)

五積散=茯苓 蒼朮 陳皮 半夏 当帰 芍薬 川芎 厚朴 白芷 枳実 桔梗 乾姜 生姜 桂皮 麻黄 大棗 甘草 香附子


五積散は麻黄湯、桂枝湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、平胃散、二陳湯、半夏厚朴湯、当帰芍薬散の組み合わせとも考えられます。

五積散は使用する生薬の種類が多く、一つひとつの量が少ないため、使い方が難しい処方ですが、五積散だけでは倍量でも効くかどうか・・・という印象です。

何かと合わせて使う場合が多いので、あとは他の症状がどのように出ているかで、それに合わせて処方を追加する必要があると思います。

追加する処方は今までに出てきたものの中から選択すると良いと思います。

漢方薬局で対応できるのはこのくらいまでだと思います。

ガイドラインにある処方は「陽性」で症状がでている方への処方ですので、間違えないように運用していきたいと思います。

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