手のひら・足の裏に膿疱を繰り返す──
その理由と、体質から変えるアプローチ
「薬を塗っても、しばらくしたらまた出てくる」
「扁桃を取ったのに、あまり変わらなかった」
「長く薬を使い続けることへの不安がある」
掌蹠膿疱症(PPP)は、日本人に多い慢性の皮膚疾患です。推定14万人が罹患しており、「治りにくい」「繰り返す」という特徴から、長年悩み続けている方が多くいます。 なかでも中年以降の女性・喫煙者に多く見られます。
ステロイドを使っても再発が続く、病巣感染の治療をしたが改善しない、長期間薬を使い続けることへの不安がある――そのような方に向けて、掌蹠膿疱症の病態と、漢方・鍼灸によるアプローチをお伝えします。
タナココは、薬剤師・鍼灸師の国家資格を持つ専門家が、西洋医学と中医学の両面から一人ひとりの状態に向き合います。
最終更新日:2026年5月27日
掌蹠膿疱症と漢方・鍼灸のアプローチ
掌蹠膿疱症とは――どんな病気か
掌蹠膿疱症(Palmoplantar Pustulosis:PPP)は、手のひら(掌)・足の裏(蹠)に、無菌性の膿疱が慢性的に繰り返し出現する疾患です。「無菌性」というのは、細菌による化膿ではなく、免疫系の異常な反応によって膿疱が作られるということです。
症状は「小さな水ぶくれ → 膿疱 → 乾いてかさぶた → 剥がれる」という経過をたどり、これが何度も繰り返されます。その過程で皮膚が厚くなったり、ひび割れて痛みが出たりすることもあります。
「手や足は毎日使う場所なので、痛みやひび割れがあると仕事・家事が本当につらい」「見た目を人に見られるのが嫌で、夏でも手袋をしている」「何年も薬を使い続けているけれど、根本的には変わっていない気がする」という声をよく聞きます。
日本では有病率が約0.12%(推定患者数 約14万人)とされており、欧米の掌蹠膿疱症と呼ばれるものとは病態・治療法が異なります。患者さんの喫煙率は70〜90%と非常に高く、中年以降の女性に多いという特徴があります。
診断基準――どうなると「掌蹠膿疱症」と診断されるか
『掌蹠膿疱症診療の手引き2022』(日本皮膚科学会誌 132巻9号)が診断の基準となっています。主なポイントは以下の4つです。
① どこに、どんな病変が出るか
- 手のひら・足の裏(またはどちらか)
- 膿疱・小水疱が多数出現する
- 細菌・真菌感染による化膿ではない(無菌性)
② 経過の特徴
- 慢性的で繰り返す
- 良くなる時期(寛解)と悪化する時期(増悪)を繰り返す
- 数年単位で続くことがある
③ 確定診断の方法
- 適切な時期・部位からの 皮膚生検 が推奨される(推奨度2)
- 顕微鏡検査で、好中球(免疫細胞)が皮膚内に集まっていることを確認する
④ 似た病気との見分け
- 細菌・真菌による感染症ではないか
- 汗疱(かんぽう)・接触性皮膚炎との区別
- 膿疱性乾癬(汎発型)との区別
症状――皮膚・爪・関節への影響
皮膚症状の経過
手のひら(母指球・小指球など)・足の裏(土踏まず・かかと・足のふち)に、直径1〜5mmの小水疱が多発します。その後、膿疱化・乾燥・かさぶた・剥離というサイクルを繰り返すうちに、皮膚が厚くなってひび割れ、痛みを伴うようになることがあります。
皮膚に出る症状
- 小水疱・膿疱が繰り返し出る
- 皮膚の赤み・皮むけ(紅斑・鱗屑)
- 皮膚の肥厚・角化(皮膚が固くなる)
- ひび割れ・出血・痛み
- 炎症後の色素沈着(黒ずみ)
爪に出る症状
- 爪の変色・変形
- 爪が浮いてはがれる(爪甲剥離)
- 爪が厚くなる・へこむ
関節への合併症(掌蹠膿疱症性骨関節炎:PAO)
掌蹠膿疱症の患者さんの 10〜30% に、骨関節炎の合併が報告されています(日本脊椎関節炎学会『掌蹠膿疱症性骨関節炎診療の手引き2022』)。最も多いのは 胸骨と鎖骨をつなぐ胸肋鎖関節 (胸の前側・首の付け根あたり)で、頸椎・腰部・手足の関節にも炎症が起きることがあります。
「胸の前あたりや肩が痛む」「腰が重い」という症状が、皮膚症状と同じ時期または前後して出てきた場合は、PAOの可能性があります。皮膚科の治療と並行して、整形外科またはリウマチ科の受診をお勧めします。
なぜ繰り返すのか――発症のメカニズム
病巣感染(扁桃・歯性病巣)と免疫の関係
「病巣感染」とは、体のどこかに慢性的な炎症の源(病巣)があり、そこから放出される物質が血液を通じて全身に影響を与える状態です。掌蹠膿疱症では、 扁桃(慢性扁桃炎)・歯性病巣(根尖病巣・歯周病)・副鼻腔(慢性副鼻腔炎) が主な発生部位として知られています。
自覚症状がない場合も多く、歯科受診で初めて歯性病巣が見つかることもあります。扁桃摘出術や歯科治療が皮膚症状の改善につながる症例が報告されており、診療の手引き2022でも「最初に行うべき対処」(推奨度1)として位置づけられています。
喫煙・IL-17・IL-36の役割
患者さんの喫煙率が70〜90%と非常に高いことからも分かるように、喫煙は病態の中心的な要因の一つです。タバコの成分が扁桃の上皮細胞を刺激し、 IL-17A(免疫を活性化するサイトカインのひとつ) の産生を増やし、そこからさらに IL-36γ・IL-8 が誘導されて膿疱が形成されると考えられています(Kobayashi K et al., J Invest Dermatol, 2021)。
この「喫煙や病巣感染 → IL-17A → IL-36γ → 膿疱形成」という流れが現在考えられている主な発症経路です。現在使われている生物学的製剤は、この経路のどこかに介入することで効果を発揮します。そのほか、腸内細菌のバランスの乱れ・金属アレルギー・ストレスも悪化因子として挙げられており、複数の要因が絡み合っています。
現在の治療とその限界
外用・光線・内服療法
| 治療の種類 | 主な内容 | 特徴・留意点 |
|---|---|---|
| 外用療法 (基本) | ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3製剤(マキサカルシトール・タカルシトール) | 治療の土台となる。炎症・角化を抑えるが、根本からの改善には限界がある |
| 光線療法 | ナローバンドUVB、エキシプレックス308nm | 局所照射で炎症を抑制。週1回程度の通院が必要 |
| エトレチナート (チガソン) 副作用注意 | ビタミンA誘導体の内服薬 | 角化・炎症を抑制。 催奇形性 があり、妊娠可能な年齢の女性への投与には厳格な制限がある |
| アプレミラスト (オテズラ) 2025年3月 保険適応 | PDE4阻害薬(炎症を細胞の内側から調整) | 2025年3月に掌蹠膿疱症への保険適応が追加。比較的新しい選択肢 |
| シクロスポリン (ネオーラル) 副作用注意 | 免疫抑制薬の内服薬 | 掌蹠膿疱症への保険適用はないが、手引き2022で推奨。 腎障害・高血圧 のリスクがあり、定期的な検査が必要 |
生物学的製剤と新薬
既存の治療で効果が不十分な中等症以上の方に対して、生物学的製剤が選択されます。現在、掌蹠膿疱症に保険適用がある生物学的製剤は3剤です。いずれも認定施設での投与に限られます。
IL-23阻害薬
- グセルクマブ(トレムフィア)― 2018年承認
- リサンキズマブ(スキリージ)― 2023年5月承認
IL-17受容体A阻害薬
- ブロダルマブ(ルミセフ)― 2023年8月承認
- IL-17受容体Aを阻害し、IL-17Aのシグナルを遮断することでIL-36γの産生を上流で抑制する。PPPの病態に理論的に合致するとされている
患者さんが直面する課題
掌蹠膿疱症は「根治が難しい疾患」として知られています。治療を続けながら寛解と再燃を繰り返す慢性疾患であることが、患者さんに多くの負担をもたらします。
一時的に改善しても、喫煙・ストレス・疲労・治療の中断などで再燃することが多い。完全な寛解を維持することが難しい。
扁桃摘出・歯科治療を行っても改善しない方が一定数いる。原因が病巣感染だけではない場合が多い。
エトレチナートは催奇形性、シクロスポリンは腎障害リスクがあり長期使用に制限がある。生物学的製剤は高額で通院施設が限られる。
痛み・見た目・繰り返す症状によるストレスが仕事・生活・精神的健康に影響する。長年の経過で治療への疲弊感を抱える方も多い。
「病院の治療を続けながら、体の内側からも整えたい」「副作用が心配で長期の内服に不安がある」「病巣感染治療をしたのに改善しない」――そのような方に、中医学の視点からの選択肢をお伝えしています。標準治療を補完するアプローチとしてご提案します。
中医学から見た体質の分析
中医学では掌蹠膿疱症を 「本虚標実(ほんきょひょうじつ)」 として捉えます。「標実」は目に見えている膿疱・炎症・熱感のこと。「本虚」はその背景にある体質のことです。西洋医学が炎症という「表面の結果」に介入するのに対し、中医学は「なぜその人の体がこの状態になっているか」という体質を見極めます。
問診・舌診・脈診などによる体質分析(弁証)をもとに、以下のようなタイプに分けてアプローチを検討します。
新しい膿疱が活発に出ている時期に多く見られます。局所が赤く腫れ、熱感・かゆみが強い。口が苦い・尿が黄色い・便秘傾向などを伴うことがあります。体の中に余分な熱と湿(炎症・浸出液のイメージ)が溜まっている状態です。
慢性化して皮膚が乾燥・肥厚し、かゆみが続く状態。顔色が冴えない・手足がほてる・月経が乱れやすい・疲れやすいなどを伴います。血(けつ)の不足により皮膚が潤いを失い、炎症が慢性化している状態です。
食欲不振・食後の眠気・胃腸の張り・むくみ・疲れやすさなどを伴います。消化系統(脾)の機能低下により気(エネルギー)が十分に作られず、免疫機能のバランスが乱れやすい状態です。腸内環境の乱れとも関連します。
炎症後に色素沈着(黒ずみ)が残りやすく、皮膚が黒ずみやすい。肩こり・頭痛・冷えのぼせなどを伴います。血行不良により老廃物が排出されにくく、炎症が長引きやすい状態です。
のぼせ・寝汗・口や皮膚の乾燥・腰のだるさ・耳鳴り・手足のほてりなどを伴います。肝と腎の陰液が不足し、虚熱(体の潤いが足りないために生じる熱感)が皮膚にあらわれやすい状態です。中年以降・慢性疲労がある方に多い体質です。
漢方・鍼灸によるアプローチ
「症状を抑える」だけでなく、
「この体質がなぜこの症状を生み出しているのか」に向き合うのが、中医学のアプローチです。
漢方のアプローチ――体質から炎症の土台を整える
雨宮修二医師が「漢方研究」(2009年10月号)で報告した観察研究では、掌蹠膿疱症患者への漢方治療において 83.6%に改善効果 が診られたとしています。 また、難治例においても複数の漢方専門施設から改善の報告が積み重なっています。 個人差があること、また対照比較研究ではないことには注意が必要ですが、標準治療だけでは行き詰まりを感じている方にとって、試みる価値のある選択肢といえます。 症例報告・観察研究レベル
体に溜まった余分な熱と湿を排出し、活動期の赤み・かゆみ・膿疱を抑えることを目指します。苦み成分を持つ生薬(黄連・黄柏・黄芩など)が中心で、炎症を内側から落ち着かせます。
慢性化して皮膚が乾燥・肥厚した状態、かゆみが長引く状態に対応します。血(けつ)を補いながら炎症を和らげ、皮膚に潤いを与えることを目指します。
炎症が長引いて色素沈着が残りやすい体質、血行不良が背景にある状態に対応します。特に舌の裏の静脈が太く浮き出ている(瘀血の指標)方に用います。薏苡仁(ヨクイニン)は皮膚の代謝改善に使う生薬です。
胃腸の弱さが免疫バランスの乱れにつながっている体質に対応します。消化器系を整えながら気を補い、体の内側から皮膚への栄養供給を改善することを目指します。
慢性化した状態では、腎の陰液(体の潤いの源)を補いながら虚熱(潤い不足による熱感)を鎮め、肺が皮膚を潤す機能を回復させる処方が選ばれます。
鍼灸のアプローチ――免疫調整・炎症鎮静・体質への働きかけ
鍼灸には、自律神経・免疫・ホルモンバランスへの調整作用があることが研究で示されています。こうした働きを通じて、皮膚の炎症や免疫の乱れを伴う疾患にも応用されており、掌蹠膿疱症への効果についても臨床報告が積み重なっています。鍼灸は自律神経・免疫・内分泌への調整作用が研究されており、皮膚の炎症・免疫異常を伴う疾患への応用が報告されています。掌蹠膿疱症への鍼灸治療については症例報告があり、免疫機能の調整・炎症の鎮静・腸内環境や自律神経の整備という観点でアプローチが検討されています。現時点では大規模な比較試験のデータは少なく、効果には個人差がありますが、副作用が少なく進められる点は、長期にわたる治療が必要なこの疾患との相性がよいといえます。標準治療と組み合わせながら、選択肢のひとつとして検討してみてください。 症例報告・観察研究レベル
体の「余分な熱」を排出し、皮膚の炎症反応を和らげることを目指します。活動期の皮膚症状の緩和を図ります。
自律神経の調整を通じて免疫系のバランスを整え、腸内環境の改善にも関与するアプローチです。腸と皮膚は免疫系を通じて密接に関連しており(腸皮膚相関)、消化器系への刺激が皮膚症状に好影響を与える可能性があります。
中医学では「肺は皮毛を主る(肺が皮膚を管理する)」とされ、腎と肺の機能を高めることで皮膚の修復力と潤いを回復させることを目指します。慢性化した状態・乾燥が強い体質に対応します。
扁桃炎・上咽頭炎が背景にある場合、局所の慢性炎症を軽減する補助的なアプローチを行います。耳鼻科・歯科での治療と並行して、体の炎症全体を下げる方向性でサポートします。
よくある質問(FAQ)
掌蹠膿疱症の診断はどのように行われますか?
漢方・鍼灸は効果がありますか?
病院での治療を続けながら、漢方・鍼灸を並行できますか?
扁桃摘出・歯科治療をしたのに改善しませんでした。漢方・鍼灸を試す意味はありますか?
どのくらいの期間、続ける必要がありますか?
関節も痛む(掌蹠膿疱症性骨関節炎)場合も相談できますか?
繰り返す症状に、体質からアプローチする
掌蹠膿疱症は「薬」だけで完全に解決できるほど単純な疾患ではありません。免疫系・病巣感染・喫煙・体質・腸内環境・ストレスが複雑に絡み合っており、一つの治療だけで制御することが難しいのが現実です。
だからこそ、標準医療と並行しながら、中医学の視点で「体の内側から整える」アプローチを加えることに意味があります。現在の治療・服薬内容を丁寧に確認した上で、漢方・鍼灸でできることを考えていきます。
薬剤師・鍼灸師の国家資格を持つ専門家が、西洋医学と中医学の両面からお一人おひとりと向き合います。「何から始めたらいいかわからない」という方も、まずはご相談ください。
