🍽️ 「こころ」が疲れやすい時代に「食事」にできること
年齢を重ねると、気分の浮き沈みが増えたように感じることがあります。
何となくやる気が出なかったり、気持ちの切り替えがうまくできなくなったりするのは、特に高齢期に多く見られる心の変化です。
そうした変化の中で、食事がどんな影響を持つのか。
今回紹介する研究では、昔ながらの日本の食事と、高齢期に起こりやすいうつとの関係を調べました。
たとえば、ごはんに味噌汁、焼き魚、煮物といった献立。
毎日食べていると気にも留めないようなこの食卓が、実は心の安定にもかかわっているかもしれないという結果が出ているのです。
中医学では、食事は「気」や「血」を養う源とされてきました。特に、感情の調節に関係する「心(しん)」や「肝(かん)」の働きを支える要素として、食事の役割は大きいと考えられています。
科学と中医学、出発点は違っていても、どちらも「食」と「こころ」の関係に注目している点は興味深いものです。
では、続きを見ていきましょう 🍽️
🍚 「日本食」は「こころ」にもいいのか?
日本の食事が体に良いことは、これまでにも多くの研究で示されてきました。
長生きに関係していたり、生活習慣病を防いだりといった効果が知られています。
でも、「こころ」の健康との関係については、まだはっきりとはわかっていませんでした。
これまでの研究は、ある時点の食事内容と気分の状態を比較する「横断的な調査」が多く、因果関係までは明らかにできませんでした。
つまり、「気分が落ち込んでいたから食生活が乱れたのか」「食生活の違いが気分に影響したのか」が分かりづらかったのです。
今回の研究はちょっと違います。
愛知県日進市の住民を対象に、65歳のときに食生活を詳しく調べ、その5年後、70歳になったときのうつの状態をチェックするという方法で行われました。
こうすることで食事が「その後のこころの変化」にどう関係していたのかを、時間の流れの中で追いかけて調べたのです。
🍽️ 「日本食」どのくらい食べていた?
この研究では、参加者がふだんどんな食事をしていたか、特に「日本食らしさ」をどれくらい実践していたかを数値で表すために、「改訂・日本食スコア」という指標が使われました。
このスコアには、全部で11の項目が含まれています。
具体的には、ごはん・魚・味噌・大豆製品・緑黄色野菜・漬物・果物・海藻・きのこ・コーヒーという10種類の食品に加えて、肉の摂取量も評価対象になります。
それぞれの食品を、性別ごとの基準よりも多く食べていれば1点。肉だけは少ないほど1点と評価されます。こうして、合計0〜11点のスコアがつけられました。このスコアが高いほど、「日本の伝統的な食事に近いスタイル」と判断される仕組みです。
調査の対象になったのは、愛知県日進市に住む65歳の男女。
1996年から2005年にかけて、住民を対象に研究への参加が呼びかけられ、食事の内容や生活習慣、そして心の状態(GDS-15という質問票で評価)について詳しく調べられました。
その後、5年後の70歳の時点で、同じ人たちが「うつ症状を持っているかどうか」を再度評価されました。
こうして、「65歳のときにどんな食事をしていた人が、5年後にうつになりやすかったか/なりにくかったか」を分析したのが、この研究の基本的な枠組みです。
📉 「日本食」はうつになりにくかった!?
5年後にうつ症状が出た人の割合を調べてみると、日本食スコアが高い人ほど、うつになっていた人が少なかったという結果が出ました。
研究では、日本食スコアの低い人から高い人を4つのグループに分けて比べました。すると、一番スコアが高いグループのうつ発症率は、一番低いグループのおよそ半分になっていました。
このことから、「日本食をよく食べている人は、こころの調子も安定している可能性がある」と考えられます。
さらに、個別の食品の影響も調べたところ、特に魚介類・緑黄色野菜・大豆製品を多くとっていた人で、うつのリスクが低い傾向が見られました。
これらの食品は、栄養学的にも脳の機能や神経伝達にかかわる栄養素が多く含まれているとされており、こころの健康にとってプラスに働いている可能性があります。
一方で、肉の摂取は少ないほうがスコア上は有利になるものの、実際にはスコアが高い人でも一定量をとっている傾向がありました。
つまり、「肉を極端に避ける」のではなく、日本の食事をベースにバランスよく食べている人たちが、より安定したこころの状態にあったと考えられます。
🧠 「こころ」を整える「心」と「肝」のつながり
中医学では、「心(しん)」はこころ全体の働きをつかさどる重要な存在とされます。
意識や思考、感情、眠りなど、現代でいう「精神的な健康」は、この「心」が中心となって支えていると考えられています。
また「肝(かん)」も感情との関わりが深く、気の流れを調整して、感情が滞らないようにする役割を持つとされています。「心」がこころの中枢を担い、「肝」がその流れやバランスを支えています。
今回の研究でうつの予防と関係していた魚や大豆製品、緑黄色野菜といった食材は、「心」と「肝」の両方を支える食品として中医学でも重視されてきました。
たとえば、大豆や魚は「血(けつ)」を補い、「心」に栄養を届けるとされ、緑黄色野菜は「気(き)」の巡りを良くして「肝」の働きを助けるものです。
こうした食材をバランスよく日常的にとることで、「心」を補い、「肝」を穏やかに保つ、つまり気分の安定に役立つというのが中医学の考え方です。
現代の栄養学と中医学はアプローチが違いますが、こころの健康に役立つ食べ方には、共通する部分があることが見えてきます。
🍽️ 「こころ」の調子をととのえる「食事」
研究の結果、日本の伝統的な食事を日常的に取り入れている人ほど、高齢期にうつ症状が出にくい傾向があることがわかりました。
なかでも、魚や大豆製品、緑黄色野菜といった昔ながらの食材は、「こころ」の安定と深く関わっている可能性があると示されています。
日々の暮らしのなかで、私たちのこころはさまざまな出来事に影響を受けながら動いています。
そんな「こころ」の揺れに、「食事」が寄り添い、支えててくれるとしたら、見直してみる価値があります。
すべてを急に、大きく変える必要はありません。まずはできることから。
たとえば、朝食がパンだけやシリアルだけになりがちなとき、ごはんと味噌汁を用意してみる。おかずはいつも通りでも、冷蔵庫にある野菜を少し足してみるだけでも十分です。そんなちょっとした工夫が、こころを落ち着かせる助けになるかもしれません。
年齢を重ねた今だからこそ、自分のこころを大切にする時間を、毎日の食事の中に取り入れてみる──それは、これからの自分を守る、やさしい習慣になるはずです。
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