卵巣機能低下時の「リセット」

採卵周期の前周期に「リセット（カウフマン療法）」することがあります。その際にピル（エストロゲン製剤＋プロゲステロン製剤）を使用しますが、そのことで妊活・不妊治療が進まない原因になることがあります。

「リセット」する場合は特にAMHが１以下で卵巣機能が低下していることが疑われる場合は、服薬期間を最小限にしたり、卵巣の反応性を回復させるために漢方を服用しておくなどの対策が必要となります。

これまでの報告で、月経周期に大きな乱れがない人では、採卵周期の前にピルでリセット（カウフマン療法）を行うことで、出産率が低下するという報告もあります。

採卵の前周期にピルを内服するのは、「ロング法」が治療の中心だった時代の「なごり」があると言われています。「ロング法」では前周期の高温期中期より採卵前までGnRHアゴニスト点鼻薬を連日使用することで、採卵までの間に排卵してしまうことを防ぐ方法ですが、前周期でもし妊娠が成立していた場合には問題が生じてしまいます。

そこで、その問題を回避するために、前周期にはピルを服用することで妊娠の可能性を除外する必要が出てきました。ピルを服用して妊娠の可能性を回避することで、ロング法で安全に治療をすることができるようになるため、ピルの服用とロング法を組み合わせで治療が行われていました。また、ピルを服用することで、卵胞の発育をそろえるというメリットもありました。

しかし、近年、必ずしも前周期にピルを服用しなくてもよい卵巣刺激法が考案されると、前周期にリセットを行うメリットは少なくなり、逆にピルの服用期間によってはかえってFSHが高くなったり、卵巣機能が過度に抑制されて、その後卵胞が育たなくなるという問題点も出てくるよういにもなりました。

不妊治療ではかつてよく行われていた方法ですが、現在では、状況次第ではデメリットになることもあります。

なかなか卵が育たない時やFSHが高すぎる時に「今周期はリセットしましょう」と言われることがあると思います。しかし、リセットを重ねるにつれて、さらに卵が育ちにくくなったり、FSHがさらに上がったりしてしまったことはないでしょうか。

「リセット」で解決できない問題もあります。

前周期に薬剤を使うかどうかは、一人ひとりに合わせて考えていく必要がありますが、前周期をどうするのかについての基本方針がクリニックごとに決まっていて、それに従い治療が行われることが多いです。

この場合、卵巣機能や月経周期に問題がない場合は前周期にピルやカウフマン療法を行っても成績に決定的な違いを生じないため、治療が間違っているということはありませんが、卵巣機能が低下している場合は、やはり、一人ひとりに合わせて工夫や準備をしていく必要があります。

ホルモン値が安定しない場合、何度もリセットを行うことでホルモン値は整うこともありますが、必ず改善するわけではありませんし、リセットにより卵胞数が減少してしまうこともある可能性を考えると、何ヶ月もリセットし続けることでデメリットがメリットを上回ってしまう可能性もあります。

そのような場合、体の負担を減らして妊活・不妊治療を継続できるようにするために、漢方・鍼灸を組み合わせるという選択があります。海外、主に中国からですが、不妊治療で漢方・鍼灸を用いて治療するメリットを報告する研究が増えています。

卵が育たない、FSHが下がらないというトラブルが、漢方や鍼灸の併用により改善することもありますので、なかなか思うような結果が得られない場合は選択肢の一つとして取り入れてほしいと思います。