採卵後、何度も同じところで止まる受精卵──日本人女性50人の調査でわかった「3日目の壁」の原因

目次

🧬 胚が途中で止まる、その理由を探す

採卵をして、卵子も採れている。
それでも成熟しなかったり、受精しなかったり、受精しても胚の成長が途中で止まってしまうことがあります。

治療法を変えても、採卵を重ねても、同じようなことが繰り返される。そんなとき、これまでは「卵子の質」という言葉で説明されることも少なくありませんでした。

けれど、その背景には、生まれ持った遺伝子の違いが関わっている場合があります。

今回取り上げるのは、こうした卵子の成熟や受精、初期胚の発育停止を繰り返す日本人女性を対象に、原因となり得る遺伝子を詳しく調べた多施設研究です。

中医学では、不妊治療を考えるとき、卵巣や子宮だけを見るのではなく、体全体の状態を整えていくことを大切にします。ただ、今回の研究が示しているのは、それとは別の層にある「遺伝子」という要因です。

体を整えることと、原因を正しく知ること。どちらか一方ではなく、それぞれの役割を分けて考えることが大切です。

では、実際にどんな人たちを調べた研究だったのでしょうか。


🧪 どんな研究?

この研究に参加したのは、日本の34施設で不妊治療を受けていた50人の女性です。

共通していたのは、採卵を一度しただけではなく、何度か治療を繰り返しても、

・卵子がうまく成熟しない
・受精しない
・受精しても胚盤胞までなかなか育たない

といった状態が続いていたことです。

研究では、それまでの治療成績をまとめて振り返り、卵子の成熟率、受精率、胚盤胞まで育つ割合のいずれかが30%未満だった人を対象にしました。

重い男性不妊や子宮の異常、内分泌疾患など、別の大きな原因がわかっているケースは除かれています。

そのうえで血液や唾液からDNAを調べ、卵子の成熟や受精、初期胚の発育に関係すると知られている24種類の遺伝子を解析しました。

つまり、「なぜ何度治療しても、いつも同じような段階で止まってしまうのか」というところを、これまでの培養結果と遺伝子の両方から探った研究です。

ここから、かなり特徴的な結果が見えてきました。


📊 どんな結果?

50人を遺伝子検査したところ、10人に、卵子の成熟や受精、初期胚の発育に関わる病的な遺伝子変異が見つかりました。

つまり、この研究のように「何度治療しても卵子の成熟や受精、胚の発育がうまく進まない」という状態を繰り返している人では、5人に1人ほどに遺伝的な要因が見つかったことになります。
ただし、これは不妊治療を受けている女性全体の5人に1人、という意味ではありません。今回の研究は、特に発育不良を繰り返している人だけを対象にしています。

では、遺伝子変異が見つかった人には、どんな特徴があったのでしょうか。

意外なことに、採卵できた卵子の数には大きな違いがありませんでした。

違いが表れたのは、その先です。

遺伝子変異が見つかった10人では、成熟する卵子や受精する卵子が少なく、10人全員が、これまでの治療で一度も「採卵後3日目の胚」まで到達していませんでした。

一方、遺伝子変異が見つからなかった40人では、33人が3日目胚まで育った経験がありました。

つまり研究から見えてきたのは、

「胚盤胞まで育たない」ことよりも、そのもっと前、3日目に届く前から繰り返し発育が止まってしまうことのほうが、遺伝的な原因を考える手がかりになりそうだ

ということです。

もちろん、3日目胚まで育たなければ遺伝子が原因、と決まるわけではありません。

実際、3日目胚を一度も得られなかった人のうち、半数を超える人には遺伝子の変化が見つかりましたが、今回調べた範囲では、見つからなかった人も一定数いました。

それでも、何度採卵しても同じように早い段階で発育が止まる場合には、刺激法や培養法を変えて繰り返すだけでなく、「卵子や胚が育ちにくい理由を遺伝子から調べる」という選択肢も考えられるようになります。

原因が見つかれば、これまでと同じ治療を続けるのか、方針を変えるのか。その判断をするための材料になります。


🌱 中医学の視点では?

今回の研究で大切なのは、卵子や胚の発育がうまく進まない原因の一部に、遺伝子が関わっている可能性が示されたことです。

遺伝子変異そのものを、漢方や鍼灸で変えられるわけではありません。原因がそこにある場合「体を整えれば必ず卵子や胚が育つ」と考えるのも適切ではありません。

その一方で、中医学が大切にしてきたのは、治療を受ける人の体全体を整えるという視点です。

不妊治療では、採卵やホルモン治療を重ねるなかで、睡眠が乱れたり、食欲が落ちたり、疲れが抜けにくくなったりします。結果が出ない時間が続けば、気持ちの負担も大きくなります。

中医学では、生殖に関わる働きを「腎」と深く結びつけて考えますが、それだけを見るわけではありません。食べたものから体を養う「脾胃」、気持ちや体の巡りに関わる「肝」、そして全身を支える「気血」も含めて、その人の状態を見ていきます。

つまり、中医学の役割は「遺伝子の問題を治すこと」ではなく、治療を続ける体が必要以上に消耗しないよう支えることにあります。

今回の研究は、原因を詳しく知ることの大切さを改めて感じさせるものでした。

原因を調べる医療と、今の体を整える養生。

役割は違いますが、どちらも「同じ治療をただ繰り返す」のではなく、その人に合った次の一歩を考えるためのものです。


🌤️ 原因がわかることも、治療の一歩になる

不妊治療では「もう少し続ければ次はうまくいくかもしれない」と思いながら、採卵や受精を繰り返すことがあります。

もちろん、それで結果につながる人もいます。ただ、何度治療しても卵子の成熟や受精、胚の発育が同じような段階で止まる場合は、少し違う見方が必要になることがあります。

今回の研究では、そうした人の一部に、生まれ持った遺伝子の違いが関わっていた可能性が示されました。

遺伝子検査を受ければ、必ず原因がわかるわけではありませんが「うまくいかないのかわからないまま、同じ治療を続ける」という状態から抜け出す手がかりになることがあります。

治療を続けることだけが、前に進むことではありません。

原因を探すことも、治療方針を見直すことも、少し休むことも、別の選択肢を考えることも、その人にとっては同じくらい大切な一歩です。

不妊治療は、頑張った量だけで結果が決まるものではありません。だからこそ、うまくいかないときほど「もっと頑張る」ことだけでなく「何が起きているのかを知ること」も同じくらい大切な視点なのだと思います。

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