👶 「抱っこ」と「ベッド」──その間にあるもの
泣いている赤ちゃんを抱き上げ、部屋の中を歩いていると、少しずつ泣き声が小さくなりスヤスヤ…ようやく眠ったと思って寝床へ下ろした途端、目を開けて泣き出す。
寝かしつけの場面では、よく起こります。
抱っこが足りなかったのか、寝かせ方が悪かったのか。それとも、眠ったように見えても、眠っていなかったのか。
赤ちゃんが抱かれているあいだの心拍や目の様子、泣き声の状態などを細かく記録し、何が泣き止ませるのか、どの瞬間に眠りが妨げられやすいのかを探った研究があります。
赤ちゃんの「寝かしつけ」に関わる動作を一つずつ分けて赤ちゃんの反応を調べたところに、この研究の面白さがあります。
中医学では、眠りを、活動に向かう「陽」から休息を担う「陰」へ移っていく時間だと考えます。赤ちゃんの体にも、興奮が静まり眠りへ切り替わるまでの、陰陽が切り替わる時間があります。
今回の研究が追いかけたのは、まさにその時間で起こる赤ちゃんの中での変化でした。
🧪 どんな研究?
この研究に参加したのは、生後まもない時期から7か月までの健康な赤ちゃん21人とその母親。
日本とイタリアの研究チームが共同で、あわせて32回、赤ちゃんの様子を記録しています。
研究チームが比べたのは、育児の中での4つの場面。
・赤ちゃんを抱いて歩く
・抱いたまま座る
・寝床に寝かせる
・ベビーカーや動かせるベッドで前後に揺らす
赤ちゃんには小型の心電計をつけ、心拍と心拍の間隔を記録しています。同時に動画も撮り、場面が切り替わる前後30秒で、泣き声や目の開き方がどう変わったかを一つずつ確認しました。泣き止んだかどうかだけでなく、体の内側の変化も一緒に見ています。
一つの動作は30秒、または5分ほど続けました。赤ちゃんが強く泣いたときや、母親がつらいと感じたときには、途中でやめてもよい方法が取られています。実験のために泣かせ続けるのではなく、普段の抱っこや寝かしつけに近い状況を調べた研究です。
今回の研究は、大きな集団で効果を確定した研究というより、寝かしつけの途中で赤ちゃんの体に何が起きているのかを、細かく捉えようとした探索的な研究です。
📊 どんな結果?
一番赤ちゃんが泣き止みやすかったのは、抱いて歩くなど、一定の動きが加わったときでした。
泣いている赤ちゃんを抱いて歩くと、泣き止み、心拍も落ちついていきました。このほかベッドやベビーカーで動かしている時も、同じような傾向が見られています。一方、抱いたまま座っているだけでは、泣き止ませる効果は見られませんでした。
「抱っこしながら歩く」を5分ほど続けると、泣いていた赤ちゃんの多くが泣き止んで、半数近くが眠りました。ただし、もともと泣いていなかった赤ちゃんでは、同じようにしても眠りませんでした。
もう一つわかったことがあります。それは赤ちゃんを下ろすタイミングです。眠りについた赤ちゃんを、すぐに下ろすとおよそ3人に1人は目を開けたり、泣き出し始めました。
起きた赤ちゃんと、そのまま眠り続けた赤ちゃんを比べたところ、明確な差が見られたのは、下ろし方ではなく、眠り始めてから下ろすまでの時間でした。入眠後5〜8分ほど待ってから下ろすと、そのまま眠り続けやすい傾向が見られました。
また、赤ちゃんの「心拍」が最も覚醒方向へ変わったのは、体が寝床に触れた瞬間よりも、母親の体から離れ始めたときでした。
5分ほど歩く。
眠ったら、5〜8分ほど座って待つ。
何をしても泣き止まないときに具体的な目安があるだけで、寝かしつけの負担は少し軽くなります。
うまくいかない日があっても、それは抱き方が悪いわけではなく、赤ちゃんの眠りが安定するまで、少し時間が必要だったのかもしれません。
🌱 中医学の視点では?
中医学では、眠りにつく時間を、活動を担う「陽」が静まり、休息を担う「陰」へ移っていく時間と考えます。
赤ちゃんは、この切り替えがまだ上手ではありません。泣いているときは、体も気持ちも高ぶっています。一定の速さで歩きながら抱くことは、その高ぶりが収まり、休む側へ切り替わるきっかけになると考えられます。
ただ、目を閉じても、すぐに眠りが安定するわけではありません。中医学の言葉でいえば、陽が静まり、陰へ落ち着いていく途中です。
眠ったら、さらに働きかけるのではなく、抱いたまま少し待つ。眠りへの移り変わりを急がせないことで「陰」がしっかりとして、眠りが安定するようになります。
🌙 寝かしつけの手がかり
赤ちゃんが泣き止まず眠らないと、「何が悪かったのか」と考えてしまいます。けれど、この研究は、赤ちゃんの眠りにはいくつかの段階があることを教えてくれました。
泣き止むこと、眠りに入ること、その眠りが安定すること──どれも同じように見えて、赤ちゃんにとっては少しずつ異なります。この違いがわかるだけでも、寝かしつけの見え方は変わります。
寝床へ下ろしたときに目を開けても、すべてが失敗したわけではありません。眠りが、まだ安定する途中だっただけかもしれません。
大人にできるのは、眠りを急がせることではなく、今どの段階にいるのかを見ながら、その時間に付き合うことです。
うまくいくときも、いかないときもあります。それでも、赤ちゃんの眠りには、落ち着いていくための順序があります。
眠らせようと頑張り続けるだけでなく、眠りが安定するまで少し待つ──そんな見方を知ると、それだけで次の寝かしつけは少し違って見えてきます。
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