「クレアチニンが上がってきた」
「eGFRがじわじわ下がっている」
慢性腎臓病と、漢方・鍼灸という選択肢
西洋医学の標準治療と並行して、中医学的なアプローチを加えることで、より多角的なケアができる可能性があります。 「このまま透析になるのでは」という不安を抱えながら通院を続けている方へ、 相模原市のタナココが中国中医薬大学附属病院・中医腎臓内科での臨床研修経験をもとに、 養腎降濁湯・煎じ薬・鍼灸による総合的なサポートをご提案します。
最終更新日:2026年5月19日
慢性腎臓病(CKD)の理解と中医学的アプローチ
慢性腎臓病(CKD)とは——定義と診断基準
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease) は、腎臓の機能低下または腎障害の所見が、3ヶ月以上継続する状態の総称です。糖尿病性腎症・慢性糸球体腎炎・腎硬化症など、さまざまな原疾患から起こる「腎機能の慢性的な低下」を一括して指します。
① 尿タンパク(≥0.15 g/gCr)・血尿など、腎障害を示す所見が持続する
② eGFR(推算糸球体濾過量)が 60 mL/分/1.73m² 未満 が持続する
出典:日本腎臓学会「CKD診療ガイドライン2023」
eGFRは「腎臓が1分間に血液を何mL濾過できるか」を示す指標で、血清クレアチニン値・年齢・性別から算出されます。重症度はeGFRと尿タンパク量の組み合わせによって G1〜G5の5段階 に分類されます。
| ステージ | eGFR(mL/分/1.73m²) | 腎機能の状態 | 主な目標 |
|---|---|---|---|
| G1 | ≥90 | 正常または高値 | 原因への対処・生活習慣改善 |
| G2 | 60〜89 | 軽度低下 | 血圧管理・生活改善 |
| G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下 | 腎臓専門医への紹介・進行抑制 |
| G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下 | 合併症管理・透析準備の検討開始 |
| G4 | 15〜29 | 高度低下 | 透析・移植の準備 |
| G5 | <15 | 高度低下〜末期腎不全 | 腎代替療法(透析・腎移植) |
(20歳以上の約7〜8人に1人)
(2023年末現在)
(2023年・年間)
CKDは「サイレントキラー」とも呼ばれます。初期段階では自覚症状がほぼなく、気づかないまま進行するケースが多いためです。新規透析導入患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症(約38%)、第2位は腎硬化症(約19%)、第3位は慢性糸球体腎炎(約14%)です。
CKDの症状と腎機能が低下するメカニズム
腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能が半分以下になっても自覚症状が出ないことがあります。ステージの進行とともに現れやすい症状の時間経過と、そのメカニズムをまとめています。
ステージ別の主な症状変化
自覚症状はほとんどなく、健康診断でのクレアチニン上昇・eGFR低下・尿タンパクの指摘で気づくことが多い。「たんぱく尿の泡立ち」に気づく方もいる。
むくみ(特に足首・まぶた)、軽度の倦怠感、夜間頻尿が現れ始める。貧血傾向が出始め、息切れや立ちくらみを感じる方も。
強い倦怠感・食欲不振・集中力の低下が顕著になる。高血圧のコントロールが困難になり、皮膚のかゆみが出る方も。透析準備の話し合いが始まる段階。
尿毒症症状(嘔気・嘔吐・意識障害)が現れる。腎代替療法(透析・腎移植)の開始が必要となる。
腎機能低下の6つの機序
糸球体の障害 → 尿タンパク・血尿
腎臓の糸球体は微小な毛細血管のフィルターです。炎症・高血圧・糖尿病でフィルターが傷むと、タンパク質が尿に漏れ出します。タンパク尿はCKD進行と心血管リスクの独立した予測因子です。
老廃物の蓄積 → 倦怠感・ブレインフォグ
クレアチニンや尿素窒素などの老廃物が血中に蓄積します。全身に悪影響を及ぼし、慢性的な倦怠感・食欲不振・頭重感・集中力の低下を引き起こします。重篤になると尿毒症へと進行します。
水分調節障害 → むくみ・高血圧
余分な水分・塩分を排出できなくなり、足首やまぶたのむくみ(浮腫)が起こります。腎機能低下は高血圧を招き、さらに腎機能を悪化させる悪循環を生みます。
造血ホルモン低下 → 腎性貧血
腎臓が産生するエリスロポエチン(EPO)が減り、赤血球数が低下する「腎性貧血」が起こります。息切れ・動悸・立ちくらみ・疲れやすさの原因となります。
電解質・骨代謝異常 → 高カリウム・骨粗鬆症
カリウム・リン・カルシウムのバランスが崩れます。高カリウム血症は不整脈のリスクを高め、活性型ビタミンD産生低下により骨粗鬆症リスクが上がります(腎性骨異栄養症)。
線維化・不可逆変化 → 腎機能の永続的な低下
損傷した糸球体・尿細管が線維組織に置き換わる「腎線維化」が起こります。一度線維化した組織は再生しません。これが西洋医学が「進行の抑制」を治療目標とする根拠です。
現在の標準治療と、その限界
CKDの治療は進歩しています。2023年改訂のCKD診療ガイドラインでは、以下の標準治療が推奨されています。
推奨される標準治療
RAAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)
タンパク尿を伴うCKD患者においては、タンパク尿の軽減・腎機能低下の抑制に関するエビデンスが確立しています。ただしタンパク尿のない非糖尿病性CKD患者への優位性については「CKD診療ガイドライン2023」にて整理されています。
SGLT2阻害薬
もともと糖尿病治療薬として開発されましたが、CKDの進行抑制・心血管リスク低減効果が確認され、「CKD診療ガイドライン2023」でも推奨されています。糖尿病の有無にかかわらず適応が広がっています。
食事療法
塩分制限(1日6g未満)・タンパク質制限(ステージにより異なる)は、腎臓への負担を軽減するうえで不可欠です。カリウム・リンの制限も進行ステージに応じて求められます。
血圧管理
高血圧はCKD進行の最大の促進因子のひとつです。目標血圧(タンパク尿ありの場合は収縮期130 mmHg未満)の達成に向けた継続的な血圧管理が求められます。
患者さんが感じる「足りなさ」
・標準治療は「進行を遅らせる」ことが目標であり、失われた腎機能を回復させることは現時点では困難です。
・むくみ・倦怠感・夜間頻尿・かゆみ・食欲不振など、QOLに関わる症状への薬物療法は限られています。 「CKD診療ガイドラインの解説」でも「漢方薬で改善効果が得られることが多い」と言及されています。 (日本医事新報社 2024年)
・高齢CKD患者に合併しやすいサルコペニア・フレイルに対して、現時点では確立した西洋医学的治療が少ない状況です。
・長期にわたる多剤服用(ポリファーマシー)が患者の負担となるケースがあります。
だからこそ、西洋医学の標準治療を続けながら、それを 補う形で中医学的なアプローチを加える ことに意味があります。漢方や鍼灸が「治す」のではなく、からだ全体の状態を底上げし、腎機能を維持・サポートする可能性があるからです。
中医学では、慢性腎臓病をどう捉えるか
中医学(Traditional Chinese Medicine)はからだを「気・血・水が流れるひとつのシステム」として捉えます。慢性腎臓病は、中医学では主に以下の3つの病態が絡み合った状態として理解されます。
腎虚・瘀血・湿濁の3病態
中医学の「腎」は生命の根本エネルギー(精)を蓄える臓です。腎気・腎陽・腎陰の不足が起こると、倦怠感・腰のだるさ・夜間頻尿・免疫力の低下が生じます。 「補腎(ほじん)」 の処方でエネルギーを補います。
血流の滞りを指します。腎臓の糸球体は毛細血管の塊であり、微小な血流障害の影響を受けやすい組織です。動脈硬化・糖尿病性腎症と概念的に重なります。 「活血化瘀(かっけつかお)」 の処方で血のめぐりを整えます。
水分代謝の乱れにより老廃物・余分な水分が体内に滞った状態です。尿毒素の蓄積に対応する概念です。 「利水化湿(りすいかしつ)」 の処方で水のめぐりを整えます。
CKDを「腎虚・瘀血・湿濁」という多層的な病態として捉えることで、腎を補う・血流を整える・水のめぐりを促すという 3方向からの同時アプローチ が可能になります。一人ひとりの「証(しょう)」——体質・病態のパターン——に合わせた処方が、中医学的アプローチの核心です。
漢方・鍼灸のアプローチと最近の研究
CKDに対する漢方・鍼灸の研究は、近年着実に積み重なっています。いずれも「これで治る」という根拠ではなく、補完的なケアとしての可能性を示すものです。
養腎降濁湯(ようじんこうだくとう) 症例報告複数あり
故・江部洋一郎先生(京都・江部医院院長)が 「傷寒雑病論」に基づく経方理論 から考案した漢方処方です。慢性腎不全の病態を「血中の濁の過剰」と捉え、腎を養いながら老廃物(濁)を降ろして体外に排出させる「降濁機能」の回復を目指します。
2004年に中医臨床誌(Vol.25 No.4)に初めて症例報告が発表されて以降、慢性腎炎・痛風腎・糖尿病性腎症・多発性腎嚢胞など多くの原疾患を対象とした症例シリーズが発表されてきました。
基本的な生薬構成(患者ごとに加減)
その他の漢方処方・鍼灸エビデンス
平均ベースラインeGFR 38.7 mL/分/1.73m²のCKD患者を対象に七物降下湯を1年間継続投与し検討しました。結果として eGFR低下速度の抑制が示唆 され、重篤な有害事象の報告もありませんでした。
24件のランダム化比較試験・計1,494名のCKD患者を対象にした体系的レビューです。対照群と比較して鍼灸治療群では、 血清クレアチニン値の有意な低下(SMD: −0.57、95%CI: −1.05〜−0.09) が認められました。また透析患者に多い 皮膚のかゆみ(尿毒症性掻痒症)の有意な軽減(SMD: −2.20) も確認されています。
腎臓専門医向けの解説として、CKDの標準治療で対応しにくい症状・訴えに対し、 漢方薬で改善効果が得られることが多い と整理されています。牛車腎気丸・六君子湯などはサルコペニア・フレイルへの効果が期待されており、七物降下湯はRAS阻害薬での降圧が不十分な場合の併用例が報告されています。複数の症状に1処方で対処できるため、 ポリファーマシー(多剤服用)の軽減効果 も期待されています。
タナココにおける中医学的アプローチ
タナココでは、中国の中医薬大学附属病院・中医腎臓内科での実践的な臨床研修経験を処方に活かしています。eGFR・クレアチニン・尿タンパクなどの推移を確認しながら、煎じ薬・鍼灸・食養生のアドバイスを組み合わせた総合的なケアをご提案します。西洋医学の主治医との連携を大切にした「補完的なサポート」として位置づけています。
