不育症について
繰り返す流産・死産に悩む方へ。原因から治療、漢方・鍼灸によるサポートまで
1不育症とは
妊娠はするものの、流産や死産を繰り返して、結果的に生児を得ることができない状態を「不育症(ふいくしょう)」と言います。
2回以上の流死産の既往がある場合を「不育症」と定義します。すでに生児がいる場合でも、2回以上の流死産の既往があれば不育症に含めます。また、流死産は連続していることは条件とされていません。
関連する用語の整理
反復流産(はんぷくりゅうざん):流産を2回以上繰り返した状態。
習慣流産(しゅうかんりゅうざん):流産を3回以上繰り返した状態。
これらはほぼ同義語として使われますが、「不育症」はより広い概念です。死産(妊娠22週以降)については各学会の定義に含まれていますが、早期新生児死亡(生後1週間以内)については、一部の定義(厚生労働省研究班等)では含まれる一方、日本産婦人科医会の定義では明示されていないなど、資料によって扱いが異なります。詳細は担当医にご確認ください。
❗ 生化学的妊娠(化学流産)について:妊娠反応は陽性でも、超音波で胎嚢(赤ちゃんの袋)が確認される前に自然に終わった場合(生化学的妊娠・化学流産)は、現在の日本基準では不育症の流産回数には含めません。ただし、生化学的妊娠を3回以上反復する場合は「反復生化学的妊娠」として不育症に準じた原因検索が推奨されています。
異所性妊娠(子宮外妊娠)や絨毛性疾患(全胞状奇胎・部分胞状奇胎)は、流産回数には含めません。
2不育症の頻度
流産は、妊娠した方の誰にでも起こりえる珍しくない出来事です。しかし、それが繰り返される「不育症」には、身体的なリスク因子が関わっている可能性があります。
流産が起こる確率
提言2025
(3回以上)の頻度
5年以内の生児獲得率(推計)
流産組織の染色体異数性は流産検体の約60%に認められ(提言2025)、流産の最大の原因とされています。これは母体側の問題ではなく、偶発的に起こるものです。原因不明の不育症(リスク因子が特定できない場合)では、平均的な年齢の方で3回流産の既往がある場合、次の妊娠での出産率は約70%とされています(日本不育症学会)。
一方、繰り返す流産のなかには身体的なリスク因子が関係していることがあり、それを把握することで対策が取れる場合があります。
3リスク因子の種類
不育症に関連する身体的な異常は、「原因」ではなく「リスク因子」と呼ばれます。これはリスク因子があっても必ずしも流産するわけではなく、「流産しやすい状態」を表すものだからです。
❗ 系統的な検査を行っても原因(リスク因子)が特定できない「リスク因子不明」が約65%と最も多いことが分かっています(AMED研究班データ、提言2025)。ただしこの数字は、流産絨毛染色体検査が普及する前のデータに基づいており、同検査の活用により「原因不明」とされていた症例の一部が胎児染色体異数性による流産と判明するケースが増えています。原因が不明でも、次の妊娠で出産できるケースは多くあります。
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免免疫学的異常(抗リン脂質抗体症候群など) 血液が固まりやすくなる自己免疫の異常。抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、抗β₂GPI抗体、ループスアンチコアグラントなど)が陽性の場合、胎盤に血栓ができやすくなり、流産・死産のリスクが高まります。不育症のリスク因子の中で治療効果が最も期待できるものの一つです。
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凝凝固因子異常(血栓性素因) プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症・第XII因子欠乏症などが不育症との関連を示唆する研究があります。ただし、これらは「不育症管理に関する提言2025」(こども家庭庁)においても、エビデンスが十分にある「推奨検査」ではなく「選択的検査(エビデンスは限定的)」に位置づけられています。欧州・米国の主要学会(ESHRE・ASRM・ACOG・ACPいずれも)は「妊娠合併症を理由とした血栓性素因検査を推奨しない」としており、日本産科婦人科学会診療ガイドラインでも2014年版以降は削除されています。検査の必要性については担当医と十分にご相談ください。
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内内分泌異常(ホルモンの異常) 甲状腺機能低下症(顕性・潜在性)、糖代謝異常(糖尿病・インスリン抵抗性)などがあると流産のリスクが高まることがあります。なお、甲状腺機能亢進症と不育症の明らかな関連を示すエビデンスは現時点では限られており(提言2025)、プロラクチン値などについても不育症との関連は確立していません。
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子子宮形態異常 中隔子宮・双角子宮などの先天的な子宮の形の問題によって、受精卵の着床や胎児の発育が妨げられることがあります。子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)との関連も一部で指摘されていますが、不育症との因果関係については現時点でエビデンスが限られており、個々の症例に応じた判断が必要です。
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染夫婦の染色体構造異常 ご夫婦のいずれかに染色体の均衡型転座などの構造異常がある場合、卵子や精子が作られる際に染色体に過不足が生じ、流産の原因になることがあります。なお流産を交えて不連続に起こることもあります。
⚠️ 同種免疫異常(免疫の拒絶反応)については、かつてリンパ球免疫療法などが行われていましたが、現在は有効性と安全性が確立されていないとして推奨されていません(産婦人科診療ガイドライン)。十分な根拠のない治療については、担当医と十分にご相談ください。
4検査について
不育症の検査は、専門の産婦人科(不育症外来)で行います。リスク因子を特定するために、以下のような検査が行われます。
「不育症管理に関する提言2025」(こども家庭庁)では、検査はエビデンスの水準に応じて「推奨検査」「選択的検査」「研究的検査」に分類されています。それぞれの位置づけを理解したうえで担当医と相談することが大切です。
主な検査項目(例)
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血抗リン脂質抗体検査 【推奨検査】 抗カルジオリピン抗体(IgG/IgM)、抗β₂GPI抗体(IgG/IgM)、ループスアンチコアグラントなど
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凝凝固系検査(血栓性素因) 【選択的検査・エビデンス限定的】 プロテインS抗原・活性、プロテインC抗原・活性、第XII因子活性、血小板など。これらは提言2025においても「推奨検査」ではなく「選択的検査」に分類されており、国際的なガイドラインでは不育症を理由とした実施は推奨されていません。担当医の判断のもとで行われます。
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ホ内分泌(ホルモン)検査 甲状腺機能(TSH・FT4)は「推奨検査」に含まれます。抗TPO抗体は「選択的検査」(潜在性甲状腺機能低下症が確認された場合などに追加)です。なお、プロラクチン・黄体ホルモン(プロゲステロン)・LHなどは、提言2025では不育症の検査としては推奨されない「非推奨検査」に分類されています。血糖・HbA1cは糖代謝異常を確認する場合に施設の判断で行われます。
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子子宮形態検査 【推奨検査】 経腟3D超音波検査が最も推奨されます。ソノヒステログラフィー(2D超音波検査)・子宮卵管造影(HSG)も推奨検査に含まれます。MRI・子宮鏡検査は、推奨検査で異常が疑われた場合の「選択的検査」です。
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染夫婦染色体検査 【推奨検査】 ご夫婦双方の同意と遺伝カウンセリングのもとで、血液による染色体分析(G分染法)を行います
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絨流産絨毛染色体検査 【推奨検査】 流産となった場合、絨毛(胎盤組織)の染色体を調べ、染色体異数性による流産かどうかを判断します。G分染法(保険適用)のほか、次世代シーケンサー(NGS)を用いた検査(先進医療)も行われます
検査の組み合わせや実施タイミング(月経周期のいつに行うかなど)は施設によって異なります。検査費用の一部は保険適用のものと自費のものがあり、お住まいの自治体で不育症検査の助成制度を設けているところも増えています。詳しくは担当医や自治体の窓口にご確認ください。
5西洋医学的な治療
検査で判明したリスク因子に対して、それぞれの原因に合わせた治療が行われます。
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抗リン脂質抗体症候群 → 抗血栓療法 低用量アスピリン内服(バファリン等)やヘパリン注射による抗血栓療法が行われます。妊娠が確認された後も継続することが多く、専門医の管理のもとで行われます。
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甲状腺機能異常 → 甲状腺治療 顕性甲状腺機能低下症には甲状腺ホルモン補充(レボチロキシン等)が行われます。妊娠前から良好なコントロールが重要です。なお潜在性甲状腺機能低下症では、抗TPO抗体の状況などに応じて経過観察または治療が検討されます。甲状腺機能亢進症と不育症の直接的な因果関係については、現時点でエビデンスが限られています(提言2025)。
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糖代謝異常 → 血糖管理・インスリン抵抗性への対処 生活習慣の改善や薬物療法により血糖値を適切にコントロールします。
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子宮形態異常 → 手術(症例によって判断) 中隔子宮などの場合、子宮鏡での手術が選択されることがあります。ただし手術の有効性については症例ごとの慎重な判断が必要です。
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夫婦染色体異常 → 遺伝カウンセリング・着床前遺伝学的検査(PGT-SR) 染色体構造異常がある場合、遺伝専門医によるカウンセリングを受けたうえで、体外受精と組み合わせた着床前遺伝学的検査(PGT-SR)を検討することがあります(適応は学会の審査が必要です)。なおPGT-SRにより流産率は低下しますが、最終的な生児獲得率が必ずしも改善するわけではないとの報告もあります(提言2025)。
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原因不明 → 経過観察・カウンセリング 検査でリスク因子が見つからなかった場合は、積極的な薬物治療を行わず経過を見ることも選択肢のひとつです。精神的なサポート・カウンセリングが、次の妊娠への意欲を支えます。
❗ 不育症の治療の多くは妊娠期間を通じて継続が必要です。また、確立されたエビデンスがない治療(免疫療法など)については、効果と副作用を担当医とよく相談したうえで判断することが大切です。
中医学・漢方・鍼灸によるサポート
中医学では、流産を繰り返す状態を「滑胎(かつたい)」または「数堕胎(すうだたい)」と言い、古くからその原因と対処法が考察されてきました。なお、中医学の「滑胎」は伝統的に3回以上連続する流産(習慣流産に相当)を指す概念ですが、現代の不育症(2回以上)全体への中医学的アプローチとして幅広く活用されています。
西洋医学的なリスク因子の治療と並行して、または原因が不明な場合に、漢方・鍼灸で体全体のバランスを整え、赤ちゃんを受け入れやすい体づくりを目指してサポートします。
「腎」は生命の根源であり、生殖機能の土台。腎気を補い、妊娠を維持する力を養います。
気と血が不足すると、胎児を養う力が弱まります。気血を補い、子宮の環境を整えます。
消化吸収の要「脾」の機能を高め、気血の生成を助け、妊娠を安定させます。
血の滞りや熱が流産に関わることがあります。体質に合わせて血流を整え、炎症を鎮めます。
※ 漢方・鍼灸は、西洋医学的な治療の代替ではなく、補完的なサポートとして取り入れるものです。不育症の検査・診断・治療は必ず産婦人科専門医のもとで行ってください。
タナココでは、西洋医学的な検査・治療を行っている方を前提に、体質診断(中医学的弁証)をもとに一人ひとりに合わせた漢方処方と鍼灸施術を組み合わせてサポートしています。
漢方・鍼灸でできること
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漢体質改善・全身バランスの調整 中医学的な体質診断(弁証論治)に基づき、流産しにくい体の土台づくりを目指します。中医学では、免疫機能と関連するとされる体質の偏りに対しても、体全体のバランスを整えるという観点から漢方でアプローチします。ただし、現代医学的な免疫機能への直接的な効果については確立されたエビデンスは限られており、あくまで補完的な取り組みとしてご理解ください。
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血子宮・卵巣への血流サポート 鍼灸・骨盤ケア・よもぎ蒸しなどを組み合わせ、子宮・卵巣周囲の血流を促すことを目指します。これにより着床環境や妊娠継続環境の改善をサポートできる可能性があると考えていますが、不育症に対する鍼灸の効果についての大規模な臨床研究はまだ限られており、補完的な取り組みとして位置づけています。
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心こころのケア・ストレスサポート 流産を繰り返すことへの不安やストレスは、心身に大きな影響を与えます。心理士・不妊カウンセラーが心理的なサポートも担います。
タナココにできること
不育症でお悩みの方が「また挑戦しよう」と思えるよう、心と体の両面からサポートします。漢方・鍼灸・カウンセリングを組み合わせ、病院での治療と並走します。
※ 漢方のオンライン相談も対応しています。
📋 本ページのファクトチェックについて
本ページの不育症の定義・頻度・リスク因子・治療の記載は、以下の資料に基づいています。
- 「不育症管理に関する提言 2025」こども家庭庁(令和6年度研究事業成果・最新版)
- 不育症相談対応マニュアル(令和3年3月)
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023(日本産科婦人科学会)
- 国立成育医療研究センター 不育診療科・妊娠免疫科(診療情報)
- こども家庭庁・厚生労働省研究班 Fuiku-Labo(fuiku.jp)
- 日本不育症学会(jpn-rpl.jp)
- 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査 JECS)
本ページは一般向け情報提供を目的としており、診断・治療の指示ではありません。詳細は専門医にご相談ください。
